十八 清水


見られてた!

動揺するが、別に悪いことをしてたわけではない。ヒメコは勇気を出して声をかけた。


「あ、あの。コシロ、でした、よね?先日は有難う御座いました!」

深く頭を下げる。

「怪我はなかった?あの時は私のせいで危ない目に遭わせてしまって本当にごめんなさい。でもコシロのおかげで助かりました。本当に有難う!」

顔を上げる。少年は怪訝なような不思議なような顔でヒメコを見下ろしていた。

怒ってる、のかしら。そうよね。巻き込んでおいて逃げたきりだったんだもの。

「あの!私で出来ることでしたら償いをしますので」

言いながら少年を見上げるが、少年はヒメコを見下ろしたまま、却ってその目を険しくしてだんまりを決め込んでいる。


な、何なのよ。あやまってるのに。

何か言ってくれないと間が持たない。

その時、少年が口を開いた。

「べろ」

は?

よく分からないけど、言われた通りにベーと舌を出してみる。

何も盗み食いなんかしてないわよ!

フン!とそっぽを向いた途端に今度は怒鳴られた。

「何してる!早く川から出ろ!」

え、出ろ?ベロじゃなかったんだ。でも出ろって何で?

などと考えている間はなかった。

「姫姉ちゃん、こっち!」

五郎の呼ぶ声に振り返れば、五郎が一段高い館の方から懸命に手を振っていた。

え、何?

「下見て、下!」

そこで初めて足下を見る。先程までの清流が嘘のように水が濁っていた。おまけに川幅も広がっている。

ど、どうしよう。とにかく川から上がらなきゃ。でも流れに足を掬われて上手く歩けない。

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