十一 助け
馬に乗っていたのは簡易な鎧をつけた武士だった。
「何事ですか?」
馬上の男に問われて顔を上げたヒメコは、その男の顔に見覚えがあって驚く。比企の館の警護をしている男だった。ほとんど外に出ることのないヒメコだが、邸の中から御簾ごし、几帳ごしに庭を歩く人は見ていたので、警護の者の顔は何となく覚えていた。
ヒメコは男の跨る馬の鎧に取り縋った。
「ここはもう比企ね?比企の館の近くなのね?お願い、父を。比企朝宗をすぐに呼んできて!」
ヒメコの言葉に男が目を見開く。
「もしや姫さまですか?」
ヒメコは大きく頷いてから振り返った。あの少年のいる方を。
「お願い。私を馬に乗せて!彼のところに戻らなきゃ!」
言って、男の前に乗り込もうと足を上げるが鎧にすら届かない。
と、誰かが後ろに立ってヒメコの腰を持ち上げて別の馬へと乗せてくれた。そしてその後ろに跨る。
「早く!あっちよ。彼を助けなきゃ。彼が死んでしまう」
ヒメコが腕を伸ばすのは少年のいる方。ヒメコが駆けてきた方。だが、何故か男は手綱を引いて馬の鼻先を回して逆へ進もうとする。
「違うわ。林道を抜けたあっち側なのよ」
だが男はヒメコの言葉を無視して反対側へ向かう。
「ねえ、聞いてるの?逆なのよ。こっちではないわ」
男の鎧をバンバン叩きながら戻そうとする。すると男は首を頷かせて口を開いた。
「ええ。鏑矢の音がしました。だから我々が様子を見に出たのです」
「そうよ、彼が助けを呼ぶ為に矢を射たのよ。なのにどうして助けに行ってくれないの?」
「行きます。でもまずは姫を館にお戻ししてからです」
「それじゃあ間に合わない!間に合わないわ!今すぐに行ってよ!」
叫ぶが、馬は止まることなく進み、林道を抜けて見覚えのある風景が広がった。
比企の館だ。
安心すると同時に泣き崩れる。
彼は?
彼はどうなるの?
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