十 声
少年は片手でヒメコの手首を掴んで引っ張り上げ、立たせてくれようとしていた。でもヒメコの足は震えて安定しない。すぐにしゃがみ込もうとするヒメコの腰が、パンと叩かれる。少年が空いた方の手で叩いたのだ。
その途端、ヒメコの足がピンと伸びる。足は変わらず震えているけれど何とか立ち上がることが出来た。
ハッハッと浅い息を繰り返すヒメコの手を放し、少年は腕を伸ばして林の先を指差した。
「行け。林の向こうだ」
向こうが、何?
混乱した頭で、でも言われた通り足を踏み出した時、
刀を手にした男が後ろから迫ってくるのが見えた。
「逃がすかよ!」
大きく振りかぶられる長い刀。刀は真っ直ぐ少年の頭の上へと落ちてくる。
今度こそ殺されてしまう。身を竦めたヒメコの身体がドンと突き飛ばされる。しりもちをついたヒメコの目の前に落ちてくる凶刃。だが少年はスッと足を横に出すと振り下ろされる刀の軌道の外へと身をかわし、男の背に回りこんだ。
ガシャン!
金属音がして刀が地に落ちた。少年が叩き落としたのだ。少年は刃の側面を踏み付けるとヒメコを振り返って声をあげた。
「早く行け!」
その声に弾かれたようにヒメコは立ち上がり駆け出した。夢中で薄暗い林道を駆け抜ける。
木漏れ日は厚い枝葉に遮られ、まだ夕方前の筈なのに暗い林道。でも駆けていく内に目線の先に明るい光が見えてくる。
やった。助かる。助かるんだ。
「あ!」
ヒメコは足を止めた。
そろそろと後ろを振り返る。
男達は三人いた。うちの一人は背に小刀が刺さっていたからきっともう動けない。もう一人は足をやられたと言ってたけどまだ生きてる。そして刀の男は無傷で小刀も持っていた。
大人の男二人にあの少年一人では、いくら少年が身軽でも逃げ切れるとは思えない。
戻らなきゃ!
踵を返そうとしたヒメコの耳に馬の蹄の音が届いた。林道の先の明るい道から数頭の馬が駆けてくるのが見える。ヒメコは両手を広げると馬の前に立ちはだかった。
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