二 死んではいけない人
「皆が待ってる。行くぞ」
歩き出した佐殿について外に出てみれば、子ども達が列をつくっていた。その先には裸馬が待っていて、子ども達は交替交替でその背に乗せて貰っている。
「あれ?」
馬の脇、子どもを抱え上げて馬に跨がせ、手綱を引いて庭を一巡りする少年の姿にヒメコは驚く。あれは先に盗っ人として縛られそうになっていた少年ではないだろうか。
盗人が混じっている、と声を上げようとしたヒメコを佐殿が首を横に振って静かに口を開く。
「ここでは生まれ育ちに関わりなく、各々得意なことを他の子に教えることで自らの知と技を深くし、世の為人の為に役立ち、独り立ち出来る子を育てたいと思っている。だから、この中には家や親兄弟も無く、盗っ人として生きてきた子もいる。だがそういう子も、知や技を身に付ければ職人として立派に働くことが出来るようになる。そうすれば二度と盗みなど働かずとも一人で生きていける」
静かな声。
死ぬ、死んでやる。殺せ、返せと喚いていたのが嘘のような穏やかな佇まい。
何が佐殿をそう変えたのか。それともこの人は元々こういう人だったのか。
わからないけれど、ヒメコはふと祖母が命を張って佐殿を助けようとする理由が少しだけ視えたような気がした。この人は何かをやる為に生まれてきた人。だから死んではいけない人なのだ。
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