七 目覚める

カーン、カーン


聞き慣れない音に違和感を覚えて眼を覚ます。

見覚えのない模様の几帳。その向こうに誰かいる。

そっと覗いたら女の子たちが沢山、それぞれ縮こまって眠っていた。

スースーと安らかに続く寝息に、やっと記憶が戻る。

そうだ、ここほ箱根を越えた伊豆の北条館。祖母の婿にあたる藤九郎伯父が仕える佐殿が、この北条の姫の元に通っているというので、その人となりを見定める役目を得たのだった。

ヒメコは観音さまのお顔を思い出して、あーあとため息をついた。

そうでないといいなぁと思ったのに、やっぱり佐殿の相手は観音さまだった。

佐殿は好きだ。たまにしか会えないが、遊び相手のいないヒミカを何かと気遣ってくれて書や絵などを教えてくれる。観音さまも好きだ。よくわからないけど惹かれる人だ。好きな人同士が結ばれたのだから申し分ない筈なのだが、どちらも取られてしまったようで寂しく思うのは我儘なのだろうか。


カーン、カーン。


何かを打ちつけるような音はまだ続いている。

目が冴えてしまったヒメコは外へと抜け出した。冷たい空気が身体の芯をシャンと伸ばしてくれる。


「あ、姫姉ちゃん」


幼い声に振り返れば五郎が晴れやかな笑顔で駆け寄った。

「五郎君でしたよね。おはようございます」

挨拶をしたら、少年はぱあっと顔を輝かせて挨拶を返してくれた。

やっぱり目の眩むような可愛らしさ。さすがは観音さまの弟君だと、うっとり眺めていたら、はい、と棒きれを渡された。

「姫姉ちゃんも朝の修行するんだね」


勢いに呑まれ、うんと頷く。

よくわからないまま木の棒をとりあえず両手で捧げ上げる。


カーン!


音と共に捧げていた木の棒が弾き飛ばされる。

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