四 遊ぶ
その時、声がかかった。
「ヒメコ様、ご気分はどう?」
観音さまだ。
ヒメコは起き上がると身を正した。
「もう平気です。取り乱してしまって申し訳ありませんでした」
礼をして顔を上げたら、観音さまと、それから沢山の姫君方が並んでいた。驚いて後ずさったヒメコの前にあどけない顔の子どもたちがひょこひょこと顔を覗かせる。
「あ、こら。まだご紹介もしてないのにはしたない。ほら、きちんと並びなさい」
初めて聴く声にそちらを見上げれば、観音さまより少し年下と見られる美しい姫君が子ども達を並べてきちんと座らせていた。
その後ろに観音さまが立たれる。
「ヒメコ様、ごめんなさいね。この子達が私の弟妹たちです。」
大人しく座らされた小さな子らを両腕に抱えるようにしてぺこりとお辞儀させると、観音さまはそっと微笑んだ。
「比企の尼君さまからお文をいただいてます。ヒメコ様の身近には同じ年頃の姫君がいらっしゃらなくてお寂しいとか。ここには沢山の女児がおりますからね。妹たちとどうかたっぷり遊んでいってくださいね」
観音さまがそう言い終えた途端、大人しく座らされていた姫君達がわぁっと歓声を上げて立ちあがった。同時にヒメコの手を取って隣の部屋へと引っ張って行く。
「ヒメコ様はひいな遊びはお好き?絵は?おはじきは得意?」
口々に問われて、ヒメコは戸惑いながらも姫たちの屈託のない笑顔に誘われて、いつかひいな片手にごっこ遊びなどを楽しんでいた。
お部屋の中は色とりどりの布や紐が散乱し、絵巻も乱れ転がって足の踏み場も無い程だった。その中をたくさん姫たちがぱたぱたと走り回り、ぺちゃくちゃとお喋りをして笑っている。ヒメコと同じ年か少し下の姫が三人。そして、もう少し上の姫が二人。あとはまだ男女の見分けもつかないくらいのあどけない子もいる。でもどの姫もみなとても明るくて可愛らしい。
清らかで邪気が無く、伸び伸びとしていて陽だまりでたわむれる仔猫のよう。
それまでヒメコは同じ年頃の女児とこうやって遊んだことがなかった。勿論、比企の館の近くにも女の子は沢山いたのだろうけれど、彼女たちと遊ぶことはヒミカには許されていなかった。だからこうやって自分と同じか、少し上か下の姫君たちと交わって貝殻遊びなどしていると、前に見せて貰った絵巻物の源氏物語の華やかな世界が目の前に広がっているようで心が華やいだ。ずっとここに居たい。ここで、観音さまの近くで沢山の姫君たちと遊んで過ごせたらどんなにいいか。
それから、はぁと小さく溜息をつく。
だって比企に戻ったら、ヒメコはまたヒミカとして祖母の元で修行を積まないといけないのだから。
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