On the sly
「動物が荒らします、供えた食べ物は持ち帰ってください」の注意書きに従い、俺は慰霊碑に供えた菓子パンとジュースを袋に戻し、駐車場へ足を向ける。
ふいに木陰から飛び出した黒い翼が俺の行く手を遮った。
「やっほー」
ルースは悪戯っぽい笑みを浮かべながら俺のもとに駆け寄ってきた。
「なんだよ、ここにいたなら連絡してくれてもいいじゃないか」
慰霊碑に寄ってから療養所に行くという俺のメッセージには既読だけがついて返信なしだった。
「だって、お兄さんめちゃくちゃ真剣な表情で慰霊碑の前に立ってたから声かけづらくて」
「だいたい、何で上の連中は完全にナノマシンに侵食されると死ぬなんて噂を流したんだ」
「心臓も脳も置換されちゃうと脳波も心拍も止まるからそりゃもう医学の定義じゃ『死んでる』としか表現できないでしょ……」
「あーやめやめ、俺がバカみたいだからそれ以上言うな」
あのフライトの後、医務室で目を覚ましたルースは「オバケだぞ~」と開口一番言い放って俺をひっくり返らせた。
「でもね、私のためにあんなに泣いてくれて嬉しかったよ」
「泣いてない」
ちょっと視界が滲んでいた気もするが。
「お昼まだでしょ? 城辺のほうに美味しいそば屋さん見つけたんだけど」
当然のように俺の車の助手席のドアを開ける。
「ナビに載ってるのか? その店」
「私がナビになるよ」
もう二度と機械の翼で空を飛ぶことのなくなった彼女は助手席のシートを最大まで倒して俺に笑いかけた。
「お前がいつもそうするから後部座席に人を乗せられないんだ」
不死身の烏は夕陽とともに CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze
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