大三郎佛性

安良巻祐介

 記録によれば、佛性山の大三郎だいざぶろう人形は、頭部伽藍内に半木乃伊なかばみいら和尚の手で一面陀羅尼を書き込まれたうえで、これも同じ和尚の手になる水晶製の釣鐘心臓を、大きな胸腔の真ん中に吊り下げられていた。

 これらの工夫によって、他の村で案山子代わりに造られた大三郎共とは異なり、法力に由来する簡単な自立思考が可能だったばかりでなく、短時間の起臥・歩行、専用の似木魚にせもくぎょを叩いて、経立経文ふったちきょうもんを唱えることまでもできたという。

 和尚が細心工夫の詳しいところを書き残さずに入滅したため、同じ大三郎を再現することは最早かなわぬが、山の周りの村々に伝え遺された、七丈もの大男の姿をした木偶の、霊験あらたかな所作・振る舞いの数々と、最後には天を仰ぎ何事か咆哮したのち、自ら巨大な即身仏となる事を望み、しかし不朽不滅の木偶の身ゆえにかなわず百日百晩の啼泣の果て崩彦くえひこと化した顛末を読むにつけ、胸の内に悲嘆とも感動ともつかぬ、大きな感情が込み上げてくるのであった。


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大三郎佛性 安良巻祐介 @aramaki88

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