第9話 最終話 勝負の行方
『ダーーーーーン』
崖に乾いた大きな音がコダマし鳥達が一斉に飛び立った。
キンペイとテツオはゆっくりと目を開けると、崖を駆け上って逃げる二人の中学生と、へたり込んでズボンの股間が濡れているオサダの兄が目に入った。
テツ・キン「カンタ⁉」
カンタは左手を突き出したまま立っていた。
テツ「よかった!生きてる!」
キン「カンタ!」
2人が起き上がり足を引きずりながら近寄ろうとすると、カンタの左手から出た血が腕を伝って肘からボタボタと垂れているのが判った、上半身は血まみれだ。
テツ・キン「カンタ‼」
カンタ「何か痛くないんだよ・・・手がジンジンするだけ・・・オレ、ヤバいの?」
カンタは泣き出しそうに言う。テツオもキンペイも真っ青になり、どうして良いか判らない、そこにエミが走って来た。
エミ「さっき警察呼んで来た!カンタ君は横になって動かないで!」
そう言うとエミはカンタを川原に寝かせ、血まみれになった腕を持ち上げる。
エミ「血が出てるのは手の平ね!」
エミはカンタの手の平をハンカチでグルグル巻き止血し、腕を上に上げさせたままテツオに持たせ手首を強く握る様に言った。キンペイには休耕田の入り口で警官を案内する様に行かせ、カンタに痛みの具合を聞いている。オサダの兄はいつの間にか居なくなっていた。
カンタは嬉しかった。さっきまでの中学生(恐怖)は去り、テツオとキンペイ、エミが自分を心配してくれている。身体は鼓動のたびにジンジンするだけで、さっきまでの殴られたり蹴られた痛みすら無い。
カンタ(オレ、アイツらに勝ったんかなぁ)
カンタはボーっと考えているとキンペイが警官を連れて走って来た。カンタはパトカーで病院に運ばれた。
カンタは手の平を7針縫った。他に裂傷は無かったが一応様子を見る為1日入院したが特に異常は無く、次の日無事に退院出来た。その間に両親から、警察官から、連絡が入った学校の先生からガンガンに怒られ、ケガもあるので残りの夏休みは自宅で謹慎する羽目になった。
新学期、カンタが登校するとオサダが声を掛けて来た。兄達は警察に補導されたとの事、守って貰える兄が居なくなり、カンタにすり寄って来たのだが、カンタにはオサダをどうにかするつもりは無くどうでも良かった。テツオとキンペイにも会えたが、二人とも爆弾作りの共犯であり、やはり、親や警察、先生からかなり怒られ自宅で謹慎していたそうだ。カンタはエミが気掛かりだった。
始業式が終わり放校になると担任の先生がカンタを呼び止めた。
担任「おい竹内、6年の太田先生からこれを預かったよ」
担任は封筒をカンタに差し出した。
担任「お前らが起こしたあの騒ぎを警察に通報してくれた女の子な、本当は今日からここの学校に通う予定だったそうだ、だから太田先生が窓口になってたんだが事情があって違う所に引っ越したそうだ、その子から預かった手紙だそうだよ」
カンタ「え!」
カンタは手紙を受け取ると慌てて封を開け手紙を読む。
カンタ君へ
カンタ君の家や連絡先が判らないので手紙を書きました。ケガの具合はどうですか?太田先生に手を縫ったと聞きました。テツオ君とキンペイ君も大丈夫かな?かなりやられちゃったもんね、心配しています。
あの日、私はお別れを言うために秘密基地に行ったんだけど、あんな事になってしまって、その後も秘密基地に行ってみたんですがカンタ君達に会えず、結局お別れが言えませんでした。なので太田先生にこの手紙をお願いしました。
初めて会った日、カンタ君はおじさんにガンガン文句を言ってたよね、私より小さい子が大人に向かって言い返している姿を見て、自分はなんて弱虫なんだろうと思いました。お母さんに叩かれても逆らえず、変態に体を触られても逃げるだけで何も出来ない自分がとても嫌になり、私もカンタ君みたいになりたいって思ってお母さんに逆らいました。お母さんは初めて抵抗する私を見てヒートアップしちゃって、大声で怒鳴り散らしたり物を投げて来ました、その音を隣の部屋の人が心配して警察を呼んで騒ぎになり、児童相談所の人とかも来て、最終的におばあちゃんに引き取られる事が決まりました。私のアザを見てカンタ君には心配させてしまったけど、おばあちゃんはとても優しいから安心してね。そして、大人になってお母さんと対等になったらもう一度一緒に暮らしたいと思えるくらい私は強くなりました。これもカンタ君のお陰です。カンタ君は私に勇気をくれた恩人です、本当にありがとう。何もお返し出来なくてゴメンなさい。
PS ケンカはホドホドにね、もしどこかでまた会えたなら、また一緒にカップラーメンを食べたいです。
カンタが手紙を読み終えると同時に廊下の向こうから声がした。
キン「カンター!早く帰ろうぜ!」
テツ「トンボ行こー!」
カンタは腕で目を拭くと
カンタ「おう!」
と言い、振り向きもせず走って行き、それを先生が微笑ましく見つめていた。
昭和から平成へと移り行く時代の狭間、少年達は自分達の世界で一歩一歩大人への階段を踏みしめていた。
カテキン3本勝負 ノリヲ @rk21yu
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