第8話  三本目

カンタは一晩考えて、キンペイに謝り、エミの事を相談しようと考えた。基地に居ればいつかキンペイも来るかも、そう思い次の日、朝からカンタは基地に向かった。基地に着くとキンペイが基地から荷物を出していた。

カンタ(いきなりキン居るじゃん!心の準備が・・・)「よ、よう」

キン「・・・」

カンタ「何してるんだ?荷物出して、掃除でもするんか?」

キン「もうオレ達は基地使わないから、後はお前が好きに使えよ」

カンタ「オレ達ってテツは?」

カンタとキンペイの声がしてテツオが基地から顔を出した。

カンタ「んだよテツも居るじゃん、ひさしぶ」

テツ「カンタさぁ、普通に話をする前に何か言う事ないの?」

カンタはあわよくばテツオにキンペイとの間に入って貰えたらと考えており、テツオの言葉に怒りがこもっている事をくみ取らずそのまま話した。

カンタ「違うんだよテツ、聞いてほしいんだけど、あの子、エミって言うんだけ」

テツ「言い訳⁉まず謝らないの?裏切り者!」

カンタ「え?裏切り・・・、オレが・・・」

カンタは自分が裏切り者と言われた事で、自分が考えていた以上に二人の怒りが強い事を悟った。歯車はさらにきしむ。

キン「テツ、もう良いよ、さっさと荷物持って帰ろうぜ」

テツ「うん」

カンタはもはや二人に掛ける言葉は無く、ただ立って二人の行動を目で追っているしかなかった。

そこにエミがやって来た。

エミ「こんにちは」

だが誰も返事をしない。

エミ「カンタ君どうしたの?」

カンタ「別に、何でもないよ」

エミ「そっか、キンペイ君、昨日はゴメンね、勝手に基地使って」

カンタ「違うよ、エミは悪くないよ、オレが良いって言ったんだもん」

キン「そうだよ、あんたは悪くないよ、悪いのは全部カンタだよ」

テツ「荷物全部リュックに入れたよ」

キン「よっしゃ、とっとと帰ろうぜ」

カンタ「・・・」

キンペイとテツはカンタの方を一切見ず、崖を登って帰って行った。

エミ「もしかしてケンカした?私のせいだよね、キンペイ君達、私が基地に居た事怒ってるんでしょ?」

カンタ「違うよ・・・オレがあいつらに嘘ついたから・・・」

カンタの目に涙が溜まって行く。

エミ「そっか、じゃあ私も一緒に謝ってあげるから仲直りしよ?二人の後追いかけよっか」

エミの優しい言葉がカンタの涙を後押しする。

カンタ「オレ・・・オレ・・・」

もはやカンタの目は涙を堪えきれなかった。一度決壊したダムは簡単に止められない、カンタの頬を伝う涙は流れるごとに量を増し、エミに見られない様に背中を向けた。


「なあ、誰か居るぞ」

知らない声がしてカンタとエミは声の方を見た。

「何だ?小坊か?」

「お前らオレらの場所で勝手に何やってんだ」

崖を降りて来たのは中学生の3人組だった。

「おい何だあれ?ビニールシートで何か覆ってるぞ」

「基地じゃね⁉ほら入り口あるもん!」

「ギャハハハ、こいつらここに基地つくってんぞ!」

「テメーらオレらの場所で勝手な事してんじゃねーよ!」

3人の中学生は、それぞれカンタ達をちゃかしたり威嚇している。言葉遣いからして明らかに素行が悪い。

「ん?お前、弟のクラスのヤツだろ?」

カンタは声の主を見た。オサダの兄だった。

エミ「カンタ君あの人達知ってるの?」

カンタ「クラスのオサダってヤツの兄貴・・・、この間カツアゲされた」

エミ「カツアゲ・・・」

仲間1「あっ、思い出した、この前オレらにお小遣いくれた小坊じゃん!」

兄「ここはなー、オレらがタバコ吸う為の場所なんだよ!勝手に使いやがってムカつくなぁ」

仲間1「夏休みだから使ってなかった間に勝手されたな」

仲間2「オサダの弟いじめたヤツだろ?」

仲間はニヤニヤしながら兄をけし掛ける。

カンタ「いじめてなんかないよ!」

兄「こいつ何かムカつくんだよな、何かと逆らおうとしてよー」

仲間1「何、オレら舐められてんの?」

仲間2「こりゃー教育が必要だな」

カンタとエミは動けなくなっていた。

テツオとキンペイが坂を下っていると、遠く後方から声がした。二人が振り向くと、手を振りながら駆け寄ってくるエミが見えた。

エミ「待って・・・、助けて・・・」

2人に追いついたエミは息をハアハア言わせ一言づつしゃべる。

エミ「助けて、ハアハア、カンタ君が、ハアハア」

テツ「カンタがどうかしたの⁉」

エミ「オサダ君の、ハアハア、お兄さん達に、ハアハア、捕まって」

テツ「オサダの兄貴⁉キン!ヤバいかも!」

キン「・・・」

キンペイは何も言わず動こうとしない。

エミ「キンペイ君!これ見て!」

エミは二人に背中を向けてシャツを捲くった。テツオとキンペイはエミの背中全体に広がるアザを見て鳥肌が立った。

テツ「何・・・それ・・・」

エミ「カンタ君、これを見て私を助けてくれたの!私がお母さんから暴力を受けてるから、秘密基地に隠れても良いよって!」

キンペイは言葉が出なかった。

エミ「私この町に来たばっかりで知ってる大人も居ないし、お願い!助けてあげて!」

テツ「キン!行くぞ‼」

キン「ちくしょー!アイツ迷惑ばっか掛けるぜ!」

三人は秘密基地に向かって走り出した。

 三人が基地手前の崖に来ると、カンタはエアガンや石投げの的になっていた。

キン「あんたはここに居ろ!」

キンペイはエミにそう言い、テツオはリュックから出した盾をキンペイに渡す。二人は崖を駆け下り盾を構えカンタの前に立った。

兄「お!仲間も揃った」

仲間1「こいつら、盾持ってるぞ、すげーな!」

仲間2「よし、的が増えた。誰が一番に倒すか賭けようぜ」

兄「よし、一番に誰かを倒したら他の2人がタバコ奢れよ」

仲間1「よっしゃー!一番乗りだぜ!」

そう言って中学生は川原の石を思いっきりトリオに投げつける。

カンタ「お、お前ら・・・」

カンタは体中に石を受けており、痛みでヨロヨロになってようやく立っていた。テツオとキンペイは飛んでくる石に盾を出して上手にはね返す。

キン「カンタ!僕らが石を受けるからカンタは石を投げ返せ!」

カンタは腕で涙をぬぐった。

カンタ「よっしゃ!反撃だ!」

カンタは二人の間から石を中学生に向かって投げた。防御する物を持っていない中学生は思わぬ反撃にビックリして無様に石を避ける。

仲間1「アブね!」

仲間2「マジかよ!」

兄「ふざけんなよ・・・」

さっきまでバカにしていた小学生に反撃を食らって無様な姿を晒した中学生達はもう年下に対する余裕はなかった。カンタが次の石を拾おうとした瞬間、中学生三人組はトリオに向かってダッシュし飛び掛かった。中学生はアッと言う間にトリオを捕まえると腹を蹴ったり顔面を殴ったり、体を持ち上げて地面に勢い良く投げ落とす。痛みでうずくまるトリオを中学生達は容赦なく攻撃する。

テツ「や!やめ」

キン「い!ちょ!」

カンタ「ぐ!」

時には顔面を、時には腹をサッカーボールの様に蹴り飛ばす中学生、トリオは抵抗どころか物も言えず震えながら丸くなるだけだった。崖の上から木の陰に隠れながら様子を見ていたエミは震えた。中学生が母親の姿に、無抵抗でうずくまるトリオの姿が自分と重なる。人が弱々しく惨めにうずくまる姿を初めて客観的に見た。

エミ(お母さんから叩かれている時の私と同じ・・・)

成す術が無い圧倒的な暴力にエミは悔しくて涙を流す。

エミ(三人を助けなきゃ・・・、こんなのって絶対無し!あり得ない!)

エミは休耕田を駆け抜け町に向かった。


兄「ざまあ見ろ」

仲間1「調子に乗るからだぜ」

仲間2「教育的指導ってやつよ」

三人組はハアハアと息を切らせ攻撃を止めた。

キン「や・・・止めて・・・」

テツ「グス・・・グス・・・」

兄「ギャハハ、泣いてんぜこいつら」

カンタ「て・・・てめえら・・・」

カンタはうずくまりながら顔を上げ中学生を睨んだ。

仲間1「あ?まだ指導が足りないヤツがいんな」

兄「こいつだけはホントムカつくな」

兄はカンタの手を引っ張り立ち上がらせると、腹に思いっきり蹴りを入れた。カンタは吹っ飛び基地に突っ込んだ。

仲間2「おい、オレらに逆らうとこうなるんだよ、判った?」

余裕を取り戻した中学生はニヤニヤと笑いテツオとキンペイに顔を近づけて問い掛けるが、二人はうずくまったまま泣いている。

仲間1「判ったか聞いてんだよ!返事!」

中学生達はテツオとキンペイをさらに蹴る。

キン「や、やめて」

仲間1「返事は?」

テツ「ご、ごめんなさい」

仲間2「ギャハハ、だせー」

兄「弟にも見せたかったぜ、兄の雄姿を」

仲間1「ダハハハハ」

カンタ「お前ら・・・いい加減にしろよ・・・」

カンタが飛び込んだ基地からヨタヨタと出てきた。

兄「まだ逆らう?根性あんねー、いい加減ぶち殺したくなったわ」

仲間1「お!なんか持ってんぞ」

カンタの手には100円ライターと手製の爆弾が握られていた。

キン「カンタ・・・それ、まずい」

テツ「やめろ・・・爆弾」

仲間2「爆弾⁉お前ら爆弾まで作ったの?すげーなー」

仲間1「そういやー導火線出てる、爆発するとこ見てー」

兄「ヨシ!火点けてみろ」

中学生はニヤニヤしながらカンタを煽る、小学生が作った爆弾など意にも介さない。

カンタ「お前らはオレの大事な仲間を・・・こいつらは良いヤツなんだ・・・嘘つきのオレの為に戻って来てくれたんだ・・・裏切者のオレの為に・・・それをお前らは・・・後悔しろ・・・」

カンタはボタボタと涙を流しながらライターを擦り火を導火線に近づける、導火線は勢いよく煙を出し火花が散った。

キン「やめろ・・・」

テツ「ダメ・・・」

2人は痛みで起き上がれず、カンタに向かって手を伸ばす。カンタは導火線の火花を見つめながら肩で息をする。

カンタ「フーーーハーーーフーーーハーーー」

キン「マジ止めろ!カンタ!」

テツ「おい!カンタ!」

2人は這いずりながら必至に地面を蹴りカンタに近づこうとするが全然進めない。

仲間1「ギャハハ、こいつらカエルかよ」

仲間2「おいおい、早くしないと爆発しちゃうよ?」

次第に導火線は短くなる。

カンタ「フーーハーーフーーハーー」

カンタの呼吸が早くなる。

テツ「誰か、誰かカンタを止めて!」

キン「川に投げろ!カンタ!」

テツ「本当に火薬が入ってるの!誰か止めて!」

テツオは中学生の方を向いて手を伸ばす。

仲間1「何だかホントに爆発しそうだな」

仲間2「そんなんでビビると思うなよ・・・」

兄「・・・」

テツオとキンペイの必死な姿を見て中学生達も流石に構える。

カンタ「フーハーフーハー」

カンタの呼吸は益々早まり、爆弾を持った左手を前に出した。

キン・テツ「カンターーー‼止めろーーー‼」

仲間1「お、おい、マジか?」

仲間2「や、やべー!」

導火線はいよいよ無い。仲間1・2は後退りしながらゆっくりカンタから離れようとしている。兄は冷や汗を流し、爆弾を投げつけられても避けられる様に構える。テツオとキンペイはうずくまり両耳を抑えながらカンタの名前を叫んだ。

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