第7話 トリオ、ケンカする
カンタはエミの背中を見てゾッとした。
カンタ「お前、背中・・・」
エミ「!」
エミは素早くカンタの方を向き背中を隠した。
エミ「そろそろ服乾いたかな」
エミは干してあったシャツを取ってあわてて着ている。アザの事に触れられるのをエミが嫌がっている事はカンタにも判ったが、どうしてあげれば良いのかは判らない。
カンタ「お前、何かあったらここ使って良いぜ。オレ達以外秘密の場所だから・・・」
この言葉がカンタの精一杯だった。
エミ「ホント?ありがとう。まだこの辺の事知らなくて、また家出したら使わせてもらうね」
エミは笑顔で答えたが、カンタには悲しげな表情にも見えた。
次の日、カンタはエミの事を考えてモンモンとしていた。
カンタ(あの背中、誰にやられたんだろう・・・、お母さんか、変態野郎か・・・。それにあのアザは物で殴られた跡だよなぁ・・・)
カンタはクラスのオサダと何回か殴り合いのケンカをしたのでアザを見れば大体想像が出来た。普通は誰かを殴る時、素手ならば自分のコブシも痛いから思いっきり殴れるのは数回だけだ、背中は蹴るにも大変だし、沢山のアザを作るには何か道具で叩くしかない。
カンタ(抵抗すれば手や体の前にアザが出来るけど、エミの顔や手にアザは無かった。前に階段から転げ落ちた時背中にアザが出来たけど、あんな背中一面には出来なかった。あれは誰かに叩かれたアザだ、抵抗しなんで背中で耐え続けたんだ・・・)
カンタは自分がどうすれば良いのか、どうしてあげれば良かったのか、あの時の自分はあれで良かったのか、ずっとエミの事を考えた、しかし答えは出て来ない。
カンタ(お母さんか変態野郎にやられたんだろうか・・・、お母さんの彼氏って言ってたけどお父さんは居ないのかな・・・)
モヤモヤと考えているのがカンタは苦手だ、自然と足は秘密基地へと向かう。基地の中を覗いたがエミは居らず川の流れる音だけが響いていた。帰り道、カンタは中学校前の電話ボックスを見て溜息が出た。
次の日もカンタは秘密基地で一人モンモンとしていた。エミはきっと悲しい思いをしている、誰の助けも無いからあの日電話ボックスの中に居たんだ、自分も何も出来ない、なのに相変わらず川は流れている。世間から酷く放って置かれているみたいで、自分がどんどん惨めに感じて来た。
基地からの帰り道、カンタは電話ボックスを蹴飛ばした。
あくる日、カンタは母親に怒られ夏休みの宿題を開いたが気力が沸かず、ダラダラと家で過ごしていた。夕方、電話が鳴ったので出ると相手はキンペイだった。
カンタ「よう、伊豆は楽しかったか?」
キン「まあな、その話はまた会った時にするよ、それよりさ、お前に聞きたい事があんだけど」
カンタ「なに?」
キン「さっき秘密基地に行ったら知らない女子が居たんだけどお前知ってる?」
カンタ(エミだ!)
キン「あの場所はオレ達以外秘密だって言ったよな、お前、オレ達に黙ってあの女子に教えたのか?」
キンペイの声は低く、普段のしゃべりとは違った
カンタ(やべ!キン怒ってる)「いや、知らねーけど・・・」
カンタは思わず嘘をついた。
キン「本当に知らねんだな?」
カンタ「・・・おう」
キン「その女子はお前から秘密基地を使って良いって言われたって言ってたんだけど」
キンペイの試すような言い方にカンタは苛立った。ここ数日のモンモンとした気分が簡単にそうさせたのだ。
カンタ「・・・」
キン「なあ、どうなんだよ」
カンタ「・・・」
キン「答えろよ!」
カンタ「うるせーなー」
キン「何だと!」
カンタ「どうでも良いんだよそんな事!」
キン「どうでも良いだあ?お前嘘ついといてどうでもって」
カンタ「うるせー‼オレな!色々考えてエミに基地を教えたんだよ!何も知らねーのに文句言うな‼」
キン「そうかよ・・・もう良い」
キンペイは強く受話器を置いた。本当は何故約束を破ったのかカンタに聞きたい気持ちもあった。しかし、謝るどころか嘘をついたあげく怒り出す態度を我慢できるほどキンペイも大人ではない、自分にも意地があるのだ。自分達に嘘をつく事をキンペイは『裏切り』と捉えた。
カンタはここ数日のうっぷんをキンペイに吐き出し受け止めて貰いたい思いがあった。キンペイに甘えてしまったのだ。しかし、その思いが伝わる前にキンペイは窓を閉じてしまった。カンタはテツオに電話しようとも思ったが何と言って良いが考えが纏まらず結局電話は出来なかった、ずれた歯車がきしむ様な思いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます