第6話 エミの背中

 川は増水していたが川原がいつもより少し水に浸かっている程度で秘密基地に影響はなかった。カンタは少女を基地に案内した。

カンタ「入れよ、ここなら雨凌げるぜ」

少女「わぁすごい!ここ君が作ったの?」

少女は基地の中をグルっと見回しながら言う、カンタは吊るされた懐中電灯のスイッチを点けながら言う。

カンタ「友達と三人で作った。オレはカンタ、お前は?」

少女「私はエミ、6年だよ」

カンタ「ふ~ん、オレ4年」

カンタはそう言いながらカセットコンロを出して火を点けた。

カンタ「服濡れただろ、これで乾くぜ」

エミ「ありがとう、凄いね、コンロまで持ち込んでる」

本格的な秘密基地を見て微笑むエミにカンタはトクイになった。

エミはシャツを脱ぎキャミソールになり、シャツを竹の梁に掛けた。カンタはなぜか恥ずかしい気持ちになり、エミから目をそらした。

カンタ「そ、そう言えば雨の中傘も無しで何してたんだ?」

エミ「ちょっとね、慌てて家を出たから傘忘れちゃった」

カンタ「えー?そんな事ないでしょ、出た瞬間に傘無いの判るじゃん、だってずっと雨降ってたよ」

エミ「う~ん、そうなんだけどね・・・」

エミは苦笑いして何かをごまかそうとしているが、カンタはそれを察するにはまだ幼かった。

カンタ「あれか?親に家追い出されたんだろ?」

エミ「・・・」

エミは膝を抱え顔を伏せた。

カンタ「別に恥ずかしくないぜ、オレもしょっちゅう追い出されるし」

エミはカンタの声に応えず黙ったままで少し震えている様に見える。

カンタ「大丈夫か?お前何があったの?」

エミ「・・・」

雨がビニールシートの屋根に当たってパタパタと音を立てている。

カンタは疑問に思った事を素直に追及する、それが相手にとっては攻撃になっている事なんて考えもない。逆に、エミは年下のカンタに悪意が無い事を理解している。ましてやこの少年は雨の中自分の為に精一杯親切にしてくれているのだ、自分は本当の事を話すべきなのだろうと考えた。

エミ「ちょっとね、嫌な事あって、家飛び出しちゃった」

カンタ「嫌な事って何?家族とケンカでもしたか?」

エミ「・・・お母さんの、新しい彼氏が、私の体を触るの、それが嫌で・・・」

カンタ「はあ?なんだそれ、そいつ変態じゃん!」

エミ「プッ、そうだね、変態だね」

エミは思わず笑い、事を深刻に捉えていない様子のカンタに安心し、カンタは笑ったエミを見て安心した。

カンタ「そうだ、お前腹減ってる?カップラーメンあるぜ」

エミ「ホント?実は朝から何も食べてないの」

カンタ「よっしゃまかせろ!」

カンタはヤカンを出して水筒の水を入れコンロにかけた。暫くするとお湯が沸き、『カップスター』と割り箸を取り出しお湯を注ぐ。

カンタ「そっかー、最近引っ越して来たのかー」

エミ「うん、新学期からカンタ君達と同じ学校に通う様になるんだー」

カンタ「でもその変態野郎と一緒に住むんだろ?」

エミ「・・・うん・・・」

カンタ「何かやっつける方法考えないと」

エミ「大丈夫、本当にやばかったらおばあちゃん家に逃げ込むから」

カンタ「おばあちゃん家は何処なの?」

エミ「隣の市、電車で二駅だね」

カンタ「へー」

2人はカップラーメンを食べながらお互いの事を話した。カンタはキンペイとテツオの事、エミは前の学校の事、次第に雨音が小さくなって来た事にエミが気付いた。

エミ「あっ、雨止んだね、外が明るくなってきた」

エミはそう言うと基地の入り口から顔を出し外を覗いた。カンタも外に目をやるとエミの背中が見えた。キャミソールからのぞくエミの背中はおびただしい数の浅黒いアザが広がっていた。

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