第5話 トリオ、爆弾を作る

 トリオは親達に「友達と花火をやる」とせがみ花火セットを調達した、それもドラゴンや打ち上げ花火がメインの袋セットだ。それを基地に持ち込みカッターナイフで分解し、新聞紙に火薬を出して集めてジャムの瓶に入れてみた。

キン「たったこれだけかよ」

それぞれが持ち寄った花火全部を集めても火薬は瓶一杯どころか半分程度しか集まらなかった。

テツ「もっと沢山あると思った」

カンタ「これじゃあ小さい爆弾一個作る程度だな」

テツ「まあ火薬を取り扱うには免許が必要みたいだから、誰でも買える程度の花火はそうとう火薬の量が少ないんだろうね」

キン「でもさ、ちょっとの量であれだけの火花が出るならこれだけでも結構威力ある爆弾になりそう」

キンペイの言葉に二人は納得し、予定通り作業を続けた。まず火薬の量に見合った筒を探す、これは基地の宝物置き場に置いていたビー玉を入れていた缶にした。大きさは子供の手の平ほどの筒型をしたブリキの缶だ、そこに火薬を入れ棒で突きギュウギュウに詰め、空いたスペースに粘土を詰める。缶の蓋と粘土にキリで小さな穴を開け、爆竹を繋いでいた導火線をほぐし穴に通す。蓋の穴から火薬が漏れないように紙テープで導火線と一緒に止め、蓋を閉じてガムテープで缶をグルグルに巻いて爆弾は完成した。爆弾は当初の予定より小さく一個しか作れなかったが、トリオは『特攻野郎Aチーム』の派手な爆破シーンを想像し、秘密基地がより一層強固になった事自体が嬉しかった。完成した爆弾は基地の棚の下に穴を掘り、お菓子の缶に除湿剤と一緒に入れて隠した。


次の日は朝から雨だった。キンペイはこの日から塾のイベントで2泊3日の伊豆旅行に出掛けている。テツオも弟達の面倒を見ず遊び惚けている事を親から叱られ暫く自宅軟禁になったとカンタに連絡が入った。カンタは二人から基地に置いている水筒の交換を頼まれており、川の増水も気になっていたので、昼過ぎ、基地の様子を見に出かけた。

カンタが傘をさしながら中学校の校門前を通り掛かった時、電話ボックスを叩くおじさんが目に入った。おじさんはボックスの扉を叩きながら大きな声で怒鳴っている。

おじさん「おい!いい加減にしろ!オレは電話を使うんだ早く出ろ!」

電話ボックスの中には一人の少女が入っており扉を抑えている。しかし大人の男性には敵わず強引に引かれた扉は開いてしまった。

おじさん「子供がこんな所でいたずらしてるんじゃない!」

おじさんは少女の襟首を掴むと強引にボックスから引き出し雨の中に容赦なく突き出し、自分がボックスに入ると財布を出して電話を使い始めた。少女は雨に打たれながらその場にたたずむ、服は次第に濡れて滴り出した。

カンタ「おい、傘に入れよ」

カンタは考えるより先に行動するタイプだ、目の前で成すすべもなく雨に打たれている少女の様子を見て咄嗟に駆け寄り自分の傘に入れてあげた。少女はカンタより少し背が高い、上の学年なのだろうか。少女は小さな声で「ありがとう」と言ったが雨音にかき消されカンタには聞こえておらずしばし沈黙が続いた。

カンタ「電話使うのか?」

少女は首を横に振る。

少女「雨宿りしてた・・・」

カンタ「そっか」

この辺りは店も無く、中学校の門も閉まっており雨宿り出来そうな場所は他に無い。そうこうしている内におじさんが受話器を置いたのでカンタは声を掛けた。

カンタ「おじさん、終わったなら場所をこの子に譲ってよ」

おじさん「ダメだ、オレは迎えが来るまでここに居るからお前らは帰れ」

カンタ「先に入ってたのはこいつじゃん!終わったら譲れよ!」

おじさん「何だと!生意気言うな!お前達子供は大人の言う事を聞け!」

理不尽な物言いにカンタは怒りを覚えたが相手は大人の男、腕力では絶対に敵わない。

少女「もう良いよ、家に帰るね、ありがとう」

少女はそう言うと傘を出て歩き出す。カンタは頭に来てボックスを蹴り「バーカ!」と叫ぶ、おじさんはボックスの中から「こらー!」と怒鳴るがカンタは無視して少女の後を追って再び傘に入れた。

カンタ「良い場所あるんだ、来いよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る