幼馴染みに彼女ができた話

あげもち

2人目の恋人

「てかさ…」


「ん?」


 いつもの帰り道。いつもの喫茶店。いつもの席。


 私とテーブルを挟んだ雄一ゆういちが、口にパスタを入れてこちらに目を向ける。


 程よく短い黒髪。茶色の瞳。男らしい骨格をしていて、どちらかと言うと、顔全体的な印象はカッコイイの部類に入ると思う。


 そんな彼に私は、スマホの画面を見せつけた。


「雄一、また彼女できたでしょ」


 その画面に映っているのは、隣のクラスの姫乃ひめのちゃん。


 少し茶色がかったロングヘアに、幼い顔立ちの彼女。


 雄一くんの、次の彼女はあの子らしいよ。


 そう、友達から聞いた時は、「あぁ、なんか雄一好きそう」って思った。


 …。


 本当はその話もちょっとだけ嘘であって欲しかったんだけど…。


 スマホ越しに彼の顔を見る。


 視線を窓の外に逸らして、コーヒをちびちびと飲んでいる彼を見て、私は確信した。


 雄一の2人目の彼女は、姫乃ちゃんなんだって。


「ふふっ…でも、雄一に姫乃ちゃんは、勿体無いかなー」


 そう笑いながら、スマホを元に戻して、Google検索を開く。


「はぁ? それどーゆー意味だよ」


「ん? そのまんま」


 私がにひひーと笑うと、彼は頬を赤く染めて、パスタを口に入れる。


 あれほどフォークで巻いてと言ったのに、もう忘れてるし。


 でも雄一らしいね。


 …。


「それで? 姫乃ちゃんのどこが良かったの? その前に、どっちから?」


「あ? …っち。 告白は俺からで…なんていうか…趣味が同じで…」


「へぇ〜…それで?」


 …。


 たぶん、私の方が雄一のことを知っている。彼の趣味とか、好きなものとか、嫌いなものとかも。


「それだけじゃないでしょ?」


「なんだよ…あーもー! 俺が体育でコケた時に絆創膏くれたんだよ…それがきっかけで…」


 必死になって、恥ずかしさを誤魔化すために吐き出す言葉は、甘くて酸っぱくて、初々しくて。


 きっと、色にしたら薄い桜色みたいな、青春ぽい色をしているんだと思う。


 ふふふっと笑って、そんな雄一を見つめていると、少しだけ胸が締め付けられた。


「へぇ〜、雄一ってさ、胸が大きい方が好きなんだねぇ」


「うるせぇ…」


「なんか男の子って感じでいいと思うよ〜、あ、でもいきなりそんな下心出していったらまたフラれるからね?」


「大きなお世話だ!」


 もちろん、胸が大きい方が好きって言うのも、髪が長い方が好きっていうのも、全部知っている。


 でも…。


「ふふふっ。でもまぁ、末長くお幸せに♪」


 きっと彼は、私が1人目の彼女に似せて、髪を伸ばし始めたことなんて、気づいてないんだろうな…。


「な、なんだよ…」


 顔を赤く染めた彼に、


「ううん、なーんでも♪」


 と、にこりと笑う。


 ミートソースの酸っぱい香りと、ブラックコーヒーの苦い香り。


 いつも座るこの席。君とのテーブル越しの距離は、私にとってまだ遠いみたいだ。


 『仲の良い男子 恋愛』


 そんな検索をした後の画面が、パッと暗く暗転した。


 

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幼馴染みに彼女ができた話 あげもち @saku24919

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