エピローグ
「……おしまい」
そう言って息を付いた男に、少女は眉をひそめた。
「――え?」
「だから、おしまい……って、何だよ、何か文句あるのか?」
「いや、別にないけど……そんだけ?」
「そんだけって?」
「だから、その後の話。その二人、どうなったのさ。それにアブダラってのは?」
「なぁに言ってんだよ、お前」
男は笑って海の向こう――自分たちが旅立ってきた国を指さす。
「その後のことなんて、オレが言う必要ないじゃないか。その後、二人は結婚し、国は復興した。アブダラは今も塔の中にいて二人のいい相談役やってる。お前だって見てきただろ?」
「……へ?」
思わず聞き返して、少女はハタと手を打った。
「もしかして、それってあの国のこと……だったのかい?」
「何だ、気づいてなかったのか?最初っから言ってるじゃないか、これはトラキーアとウィスタリアの話だって」
「だ、だ、だってあの国、今は違う名前じゃないか!統一される前の国の名前なんて知らないよ、あたいはあそこの出身じゃないんだから」
ぷうっと頬を膨らませ、スネたように後ろを向く少女に、男は苦笑する。
「そう言やあ、そうか。ここいらが荒れてたってのはもう三年も前の話だし……お前、海の向こうから渡って来たんだもんな」
「そうだよ。あたいがこの国に来た時はもう、ここはウィスタリアでもトラキーアでもなく、若い王様と綺麗な王妃様が居るガルディアって国だったんだか……え?」
そこで、少女は再び言葉を切った。
「ちょっと待って……てことは、てことはあんたのダチって、まさか……まさかガルディアの王様……?」
「ピンポンピンポン、大正解」
男は、お気楽極楽に微笑むと再び手に持ったダーツに目を落とした。
頑張れよ、トラッシュ。
お前の為なら、何だってしてやる。
お前とシャルが幸せでいられるなら……。
その時、一陣の風が船上を吹き抜け、男――ルーシィの長い髪を乱した。
「なんだ……よけいなお世話って事か?」
乱れた髪を掻き上げ、空を見上げたルーシィはふと微笑んだ。
「そうだよな、お前らなら大丈夫だよ、な」
眩しい陽射しに目を細め、ルーシィはダーツを懐に戻す。
「何たって一緒にいたいが為に国を救った英雄なんだから……」
ここは南へ向かう船の上。
友を思い起こさせる爽やかな風が気まぐれに悪戯に吹き抜けて行く。
ルーシィを新たな地へと導くように――
盗賊物語~月のしずくに接吻を 樹 星亜 @Rildear
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