『憑きもの』『メカデビル』
ケルベロス。 三つの首を持つ、魔王の番犬である。
番犬ということは、何かを守っているということだ。
この番犬が守っているもの、それは魔王が密かに綴っている小説。
魔界ショートショートである。
今日もそんな魔王の黒歴史から、一部を紹介しよう。
『憑きもの』
ネクロマンシー。
人間界で有名な、悪魔を呼び出す簡易魔術である。
一説には「死者を呼び出す魔術」と認識されているが、
実際には死者のふりをした悪魔がその正体である。
人間の心の隙間に入り込み、とり憑くのだ。
ある日、S悪魔が親友のN悪魔の家へ遊びにいくと、
どうにもぐったりとしている。
悪魔のくせしてなんだが、生気がない。
「おいおい、どうしたんだ?元気がないじゃないか」
「どうにもこうにも、参ったよ」
曰く、数日ほど前にN悪魔が人間界に呼び出されて行ってみると、
よぼよぼのお婆ちゃんが自分を待っていたのだという。
「じ、爺さん…!」
お婆ちゃんはそう言って自分に抱きついてきた。
どうやら死別したお爺さんを召喚したらしい。
N悪魔もそのお爺さんになりきる。
お婆ちゃんの体は小刻みに震えて、泣いているようだ。
無理もないだろう。
身寄りのない婆さんが、交霊術に手を出してまで
会おうとした爺さん。
一体どれほど孤独だったのだろう。
「高齢術だね」
S悪魔が茶化すのを制して、
「ところがね…」とN悪魔は続ける。
「うっかり喋ってしまったんだ」
「何を?」
「日本語」
というのも、その爺さんというのが厄介で、いわゆる日系のアメリカ人。
見た目は日本人だが、日本語は全く話せなかったのだそうだ。
ところがS悪魔は、そんなこととは知らずに日本語を話してしまったのだという。
「婆さんのほうはバイリンガルだった」
「それで、君はどうしたんだ?」
「仕方がないから、あらいざらい話したよ」
「洗いざらいって…正体を、悪魔だってことをばらしたのかい?
そいつは魔界法に触れる重罪だぜ!」
「そんなことは僕だって分かってるさ…!
でもごまかすにも手遅れだったんだ。ああ、グローバル社会が憎い」
「とにかく、この件は忘れることだな。
婆さんも、相手が悪魔だと分かったら
これ以上は関わっては来ないだろう?
明るみに出なければお咎めもないさ。」
「それがさ…」
N悪魔がそういったところで、黒電話が鳴った。
人間界からの呼出しである。
「気に入られちまったみたいなんだよ…」
N悪魔は力なく笑った。
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『メカデビル』
「やったぞ!ついに完成した!」
魔界研究所のD博士は声高らかに叫んだ。
「おみごとです、博士!」
「素晴らしい研究の成果です!」
研究員たちも口々にほめたたえる。
博士の研究とは、「メカデビル」。
人工知能、機械学習を搭載したことにより、
悪魔の考え方を身に着けた悪魔の分身。
鉄の悪魔である。
「さっそく動作チェックじゃ!」
博士がメカデビルの背中にあるスイッチをいれると、
メカデビルはその鋼鉄の腕を振り回して博士を
殴り飛ばしてしまった。
ガシャーン!という音が研究室に響き渡る。
「おお、これこそまさに悪魔!」
「実験は成功ですね、博士!」
研究所の機材に叩きつけられて倒れていた博士は、
ゆっくりと立ち上がって、
「ああ…これで天界に攻め込めるぞ」
満面の邪悪な笑みをたたえて呟いた。
かくして、博士たちはメカデビルの量産に乗り出した。
どんどん増えるメカデビル達。
時には仲間同士で喧嘩をすることもあるものの、
「天界制圧」という大義名分の前に鉄の悪魔たちは団結した。
やがて千を超える軍勢に膨れ上がったところで、
D博士はいよいよもって、天界への出陣命令をくだした。
あとはメカデビルたちが勝手に天界を滅ぼしてくれる。
自分たちは安全なところにいてくつろいでいれば良い。
ところが。
「博士、大変です!」
「なんじゃ、どうしたんじゃ!」
「メカデビルが全滅しました!」
「な、なんじゃと!?」
そう、天界ではD博士のライバル、E博士が
メカエンジェルを大量生産していたのだ。
メカエンジェル全滅の報告を受けたE博士は、
「おのれ、D博士め…」と悔しそうに呟いた。
博士たちの戦いは続く。
魔界ショートショート のんちゃん @mkbn0011
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