魔界ショートショート
のんちゃん
『天使薬』『金星の地獄』
ケルベロス。 三つの首を持つ、魔王の番犬である。
番犬ということは、何かを守っているということだ。
この番犬が守っているもの、それは魔王が密かに綴っている小説。
魔界ショートショートである。
今日はそんな魔王の黒歴史から、一部を紹介しよう。
『天使薬』
「やったぞ!ついに完成した!」
魔界研究所のD博士は声高らかに叫んだ。
「おみごとです、博士!」
「素晴らしい研究の成果です!」
研究員たちも口々にほめたたえる。
博士の研究とは、「天使薬」。
一度は悪魔に身を落とした天使たちが、
白い翼と、光の冠を取り戻すための薬だ。
事実、博士の頭上にはまばゆいばかりの光輪が浮かび、
黒かった翼は白い羽根へと生まれ変わっている。
しかし、この薬の優れた部分は他にある。
「博士、気分の方はいかがです?」
「うむ、なんだか晴れ晴れとした気分じゃ!
今までのひねくれた思いが消し飛ぶようじゃ!」
そう、天使薬の一番の効能とは
悪魔特有の、幸せを拒絶するひねくれた心を解消し、
素直に幸福を受け入れられるようになることなのだ。
「ああ、幸せとはこんな気持ちだったのか…」
長年の苦しみから解放されたような博士の表情を見て、
研究員たちは顔を見合わせ、にっこり笑ってうなずき合う。
次の瞬間。
「あっ、なにをするんじゃ!」
研究員たちは博士を抑え込み、研究所をたちどころに破壊し始めた。
試験管は割れ、実験装置も故障し煙を吹いている。
これまでの成果が台無しになってから、研究員たちは言った。
「博士のその、幸せそうな表情が気に食わないんです」
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『金星の地獄』
ある日のこと。
魔王城の庭に小型の隕石が落下し、大騒ぎになった。
「天界からの侵略行為だ!」
「第二次ハルマゲドンだ!」
悪魔たちは怒り、天界へと詰めかけた。
ところが、いざ悪魔の軍勢が押しかけると
天使たちは面食らった顔をしていて、
「そんなものは知らん」という。
「証拠は確かにある、知らんでは通らんぞ!」
と悪魔たちも食い下がる。
しかし天使たちの態度も一向に揺るがない。
結局、天界の外務大臣まで引っ張り出されて
「私共がそのような魔界攻撃を指示した事実はなく、やってないものはやってないと申し上げることしか出来ない。このような言いがかりは誠に遺憾である」
というコメントを残すにまで至った。
「では何か、人間の仕業だとでもいうのか」
「しかし人間界に隕石を操るような技術力があるのかね?」
「天界でも人間界でもないとすれば、魔界のクーデターだ!」
結論の出ない論争が続くさなか、大きな動きがあった。
隕石がぱっくりと割れ、中から得体のしれない生物が出てきたのだ。
放射状に広がるタコのような足が3つ。
人間のような腕を4つ生やしているが、指は3本。
その指も途中から2本に枝分かれしている。
頭部には鼻と口のようなものがついているが、
目は首のあたりに縦に5つならんでいる。
「まるで悪魔だ…」
誰かがそういった。
にゅるにゅると隕石から這い出してきたその生物は、
自分を取り囲む群衆をゆっくりと見渡してから、こう言った。
「ワレワレハ、ウチュウアクマダ」
「宇宙悪魔だって?」
「どの星から来たんだい?」
「ワタシハ、キンセイノジゴクヨリノ使者ダ。友好関係ヲムスビニキタ」
「すごいぞ、金星にも地獄があるのか!」
「一体、どんなところなんだい?」
「世紀の大発見だ!」
・・・
悪魔たちが未知との遭遇に浮かれている頃、
天界では暇な天使たちが地獄のほうを見下ろして話していた。
「やっぱり悪魔ってのは簡単に騙されるねえ、金星に地獄なんてあるもんか」
「いつ、嘘だって気がつくかな?」
「百年くらいは、気がつかないんじゃないか?」
「次の隕石も用意できましたよ、外務大臣」
「よーし、発射!」
「まるで悪魔だ…」
誰かがそういった。
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