最終話 新たな旅立ち

 心地よさを覚える青空の下、石竜子は二匹の仲間と共に緑が生い茂る森の中をゆっくりと進んでいた。

「あとどれくらいでつくの?」


「ここの周辺は見覚えがあるからあと少しだね」


 石竜子は自身の目的を果たすために生命力に満ち溢れた木々の合間を縫っていく。黒虎との壮絶な激闘から一週間が経った。


 内心、浮き立つような気持ちでいっぱいである。上を見上げる果てしなく広がる青天井があり、鳥達がいつもに増して活発に鳴いている気がした。


 おそらく黒虎に怯えていた者達がいなくなったという報告を耳にして有頂天になっているのだろう。


 あの怪物が齎した災厄も時が経てば、消えていくことのだ。生き物とはとてもたくましい存在だと石竜子は深々と思った。


 すると石竜子は見覚えのある光景に思わず、足を止めた。目的地に到着したのだ。


 石竜子の親友である金蛇や他の黒虎の犠牲者が眠る墓地である。


 時間が経過していたせいか、あちらこちらに雑草が生えている。


「ここは?」

 

「僕の親友のお墓だよ。どうしても黒虎を倒したことを報告したくてさ」


 石竜子は目を瞑り、親友に黙祷を捧げた。仇討ちできた事とこれから前を向いて生きることを金蛇に誓った。


 脳裏に友と過ごした楽しかった日々が蘇る。二度と戻らない日々が恋しくなり、涙が込み上がりそうになったがグッと堪えた。


「僕達もしよう」

 亀と蛙も石竜子に続いて、静かに目を瞑った。






「さて、これからどうしますか」

 石竜子は亀と蛙に尋ねた。慕ってくれたとはいえ、死んでしまうかもしれない危険な旅に同行させていたのだ。何かお礼をしようかと思考を巡らせる。


「なら、いろんな所に行こうよ」

 蛙が星空のように目を輝かせた。石竜子は彼女の提案に心から同意した。友の敵討ちばかりに気を取られていたので忘れていたのだ。


 自分たちはまだこの世界について何も知らない。黒虎を打ち倒した今、自分を縛るものは何もないのだ。


「私は貴方達と出会えて、あの石壁から外の世界に出ることが出来た。ならもっと広い世界が見たい!」


「そうだね。行こう」


「また。危険な旅か! まあでも石竜子くんには恩があるし、それに君達となら問題ない!」


「大丈夫だよ。これまでも乗り越えて来ただろう。立ち向かうも良し! 逃げるもよしだよ」


 世界には夢があり、希望がある。心が折れそうなほどの絶望にも当たるかもしれない。それでも仲間や自分を想ってくれる存在、何よりここまで強く生きた自分がいる。


「行こう!」

 石竜子は亀と蛙という頼もしい仲間と共に新たな一歩を踏み出した。


 







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「The Little Dragon Ⅱ」 蛙鮫 @Imori1998

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