第1話

 私立王蘭学園。

日本中からエリートたちがそろう中高一貫校。

この学園にはそんな生徒たちのカリスマ性を伸ばすためにあるゲームを行っている。

その名も『リンクランクゲーム』。

三人以上、七人以下のチームを作り、己の力を駆使してチームメンバーと共に

相手チームと闘っていく。

このゲームに勝ち進んでいったものは、必ずや将来大きなことを成功させるといわれているのだった……。




春、出会いと別れの季節。

今年の春は私にとって出会いの季節、だと思いたい。

そんなことを考えながら一人廊下で立っていると、窓から風が吹いて桜が舞うのが見えた。

「兎田さーん入ってきてちょうだい」

教室から先生の声が聞こえてくる。

すぅーっと一回深呼吸。髪と制服のネクタイを整えて教室のドアを開ける。

ざわつく教室、先生が黒板に私の名前を書いている。

「はい!じゃあ兎田さん。自己紹介してもらえるかしら」

「はい」

クラス中の視線が私に向けられている。

「兎田有栖です。皆さんと残りの高校生活を楽しく過ごせたら嬉しいです。よろしくお願いします」

そう言って浅くお辞儀をする。少々早口になってしまった。

一瞬の沈黙。

「はい、みんな拍手~」

それを破る先生の声。

ぱちぱちと拍手の音がきこえてくる。

よし、当たり障りのないごく普通のあいさつ。

高校二年からの転入だが、うまくこのクラスになじめるだろう。

「それじゃ兎田さんの席はあの窓際の一番後ろの席ね。」

そういわれてゆっくりと歩いて自分の指定された席に向かい、着席する。

まだチラホラと私のことを見てくる生徒が数人いるが、なんだか小っ恥ずかしい。

それを紛らわそうとチラッと前の席の人を見てみると、すごくきれいな黒髪の女子生徒だった。後ろ姿からして大和撫子感が伝わってくる。

しばらく先生の話が続いてる間に、クラスメイトの様子をそーっと見回してみた。

さすが名門校。みんな身なりが整っていて、明らかな金持ちのボンボン集団。

みんなどこかしらの有名企業の娘か息子なんだろう。

キーンコーンカーンコーン

あっチャイムがなった。

「はい、今日は特別日課なのでこれで終わりです。みんな気を付けて帰ってね~。

明日からは普通日課だから、忘れ物なんかはしないように!」

『はーい』

とけだるそうな生徒たちからの返事が返っていく。

足早に去って行く者、友達同士でおしゃべりをしている女子グループなどさまざまだ。

そういえば、学園長室に用があったんだった。気が進まない。なんてたってアレだもんな、、、ついつい下を向いてしまう。

「あの!兎田さん!」

「へ?」

上から声がした。

見上げてみると、あの黒髪少女が話しかけてきた。

さっきは顔が良く見えなかったが、クリっとした大きな黒い目で薄くて形のいい唇。

後ろ姿だけではなく、全体的に見てもザ・大和撫子だった。

気付いたら周りに人はおらず二人っきり。

「な、なにか?」

相手はものすごいキラキラした目でこっちを見てくる。

困惑していたら、バサッと私の両手を掴んで握ってきた。

そりゃもう両手でがっちりと。

「兎田さん!いいえ、有栖さん!あなたは私の理想そのものです!そのきれいなブロンド、サファイアのような瞳!人形のように白い肌……。まさに私の理想であり憧れの英国少女そのままなんです!」

な、なんちゅうマシンガントーク、いきなり何の告白だよ。

え?英国少女……?た、確かにイギリス人の父に似ているがそこまで褒め倒された事はない。しかも美人がこんなに興奮しているところなんて初めて見た。

突然のことでつい引き気味になってしまう私の顔。

それを見兼ねた大和撫子が咳ばらいをしてこう言った。

「はっ!いけない、私ったら!実は有栖さんにおねがいがあって…。」

おねがい?

「私の名前は百ノ月 輝夜といいます!百の月と書いてもものづきです。

兎田有栖さん、どうぞよろしくお願いします!」

にこっときれいな笑顔を向けてきた彼女。

ちなみに手はまだ握ったままだ。

「えっと、百ノ月さん?」

「輝夜でかまいません。というより、そう呼んでください!」

すごい勢いに圧倒されてしまう。

「あ、あの輝夜さん。それでお願いというのは?」

「はい!有栖さん、是非とも!私とお友達になってください!」

「へ?」

自分の目が点になっているような気がする。

まさか高2にもなってオトモダチになりましょう!宣言されるとは思わなかった。

「な、なんで私となんですか?」

「私小さい頃から有栖さんのような金髪のザ・英国少女に憧れていたんです!

でも、それがいきすぎちゃってなかなかお友達ができなくて…。でも!有栖さんとならいいお友達になれます!この出会いは運命です!多分!!」

おいおい、前半に考えてることなんか親近感あるぞ。

ていうか!惹かれたの容姿だけかよ!!なんだよ運命って!多分かよ‼

どんだけ変わった大和撫子だよ、百ノ月輝夜。

チラッと輝夜さんの顔を見るとニパーと断れてしまうなんて考えていない表情。

これは絶対に断れない。

まぁ、転校早々友達ができるのは良いこと、だよな?

「じゃ、じゃあよろしくお願いします……」

こんなニュアンスで合ってるのか?

でも、輝夜さんは今日一番の笑顔だ。

「はい!こちらこそよろしくおねがいします!」

そういいながら握っている両手をブンブンと上下に振ってくる。

よほど嬉しいんだろうが、力が強い、強いぞ大和撫子!

「それじゃあ有栖さん!また明日です!」

「ま、また明日」

一応微笑みかけてみる。

輝夜さんはぱっと手を放してさっていった。

本当に変な子。悪い子じゃないんだろうけど。

友達かぁ最後に出来たの何年前だっけ。

あっ学園長室。






「遅かったじゃないか、有栖。」

大きなガラス張りの窓をバックに長い足を組んで椅子に腰かけている男。

仕立てのよさそうなワインレッドのスーツを着てこっちを見てくる。

「友達と話してて…。」

たまに見るこのダンディーな険しい顔。

この人の表情は意外と好きだったりする。本人には絶対言わないけど。

「友達?有栖、それはどういうことだ?」

いかにもな男らしい低くダンディーな声で尋ねてきた。。

「放課後話しかけてもらえてちょっと、ね。」

かなり変わった子だけど。

「なるほど。それは、それは…。」

急に俯いて声が震えだした。

「なにか問題でも?おじさま」

「いや、転校初日に友達か。有栖、それは、本当によかったーーーー!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ばっ!と椅子から立ち上がってこっちに駆け寄ってきやがった。

しかも私の腰に抱き着いてきている。

「有栖ぅ!おじさまは!おじさまはうれしいぞ!」

「ちょ、や、やめて!おじさま!」

そう、たった今半泣きで私に抱き着いているこの顔が整った中年こそ、十年前ひとりぼっちだった私を引き取ってくれた恩人的存在の人物。

おじさまこと兎田 修一。

実はこの王蘭学園の学園長でもある。

でも今の状況を誰かが見たら十人中十一人がそんなこと思えないだろう。

「うぅ~有栖、おじさまはうれしいぞぉ!!まさか人付き合いがそこまで得意じゃないお前が、転校初日で友達ができるなんてなぁ」

グズグズといいながら喚く中年、その男から逃げようとする女子高校生。

一言でいえば「地獄絵図」

さっきまでの学園長としての威厳はどこにやった。威厳は。

「そんなことでいちいち驚かないでよ!ほらいい加減はなして!」

私のほっぺにじょりじょりと自分の髭をこすってくるおじさまを無理やりにでも引っぺがす。うざい。

「ちぇっ十年前の可愛げはどこにやったんだか。昔はもっとかわいくって、おじさま~なんて言って駆け寄てくれたのに」

「人間、昔の話私ばかりするようになったら終わりよ。おじさま」

「ふっお前は本当に口が良く回る。ま、そんな有栖も可愛いがね」

そういって頭を撫でてくる。この人には昔っからか勝てない。

「それで、話ってのは何?」

「まぁ、座りなさい」

そう手でジェスチャーされて、来客用のソファーに向かい合って座る。

「お前のお父さんとお母さんは昔からこの学校にお前を入れさせたがっていた。ここは私たち三人のお思い出の場所だからね」

「えぇ、もう何回も聞かされましたよ。その話は」

一万回はこえてるはずだ。いい加減飽きたっちゅーの。

「お前、正直この話聞き飽きたって思ってるだろ」

ぎくっ!

「な、なぜそれが……」

「おじさまにはお見通しだからな~」

ニマニマとした顔で見てくる。ナチュラルに心を読むな。

「で、本題は?」

「あぁそうだったそうだった。説明しそびれてたものがあってね。

えーっとどこにやったけな……」

ガサゴソしながら自分のポッケを探るおじさま。しばらくすると、あったあったと言いながら一つの赤い宝石を出してきた。

「リンクランクゲームのことはまだ説明してなかったよな」

「リンクランクゲーム?」

「そう、この学園に昔から伝わるゲーム。生徒たちは三人以上七人以下のチームを作り、チームメンバーとともに相手チームと闘っていくというルールだ。自分の武器を使ってね。」

武器って、物騒すぎやしないか。

「そりゃまたなんでそんなゲームの導入を?」

「理由としてはこのゲームを通して、生徒たちのカリスマ性を伸ばすためにっていうのがある。本当のこと言うと初代学園長、つまり私の祖父の趣味だったらしい」

「趣味かい!!」

思わず突っ込んでしまった。なんだよ趣味って。

「まぁ、自由参加型だし特殊なゲーム方法だからケガもしない。それにこれに勝ち抜いた者は将来必ず成功する、なんていう変な噂ができてしまったから無理やり子供に参加させる親御さんもいるくらいだ。年に四回大規模な試合があって、そこで生徒は闘っている。もう大盛り上がりだよ」

さ、すが王蘭学園、初代の趣味にそこまでするのか。

思わず右の頬がひくひくしてしまっている。

「それと、リンクラゲームに使用するのは自分の中にあるエネルギーを具現化した武器、マンスロットだ。マンスロットはこの石を使って起動させる。」

そう言っておじさまはさっきの宝石を見せてきた。

「マンスロット?」

「あぁ、見ていなさい。」

おじさまは咳ばらいをして宝石を左手に乗せ、前に突き出して言った。

「マンスロット起動」

その瞬間、宝石が眩く光だした。

「うっ」

私は眩しくって腕で目をしぼめて腕で覆う。

すぐに光は消えた。が、おじさまの手に宝石はなく、代わりに一丁の銃が握られている。

「これが、私のマンスロットだ」

「それが、おじさまの…」

「そう、ゲーム参加希望者にはこの石を渡している」

あっけにとられてしまった。あれがマンスロット。

てか、どんな仕組みだよ。

「よし。あっ安心しくれ、これはゲーム中にしか使えないから。

それじゃあ有栖、大変だと思うけど楽しい学校生活を」

十年前と変わらない笑顔でそう言われた。

「うん。ありがとう、おじさま」

「今日から寮生活か~おじさまは少しばかり寂しいぞ有栖!」

「はいはい」

ここは再度おひげじょりじょり攻撃が始まる前に去ってしまおう。

「じゃあね、おじさま。」

「気を付けろよ~」

ソファーに座ったまま小さく手を振ってくるおじさま。

「おじさまこそ、お体にお気を付けて。」

そう言って私は学園長室の重い扉を閉めた。






有栖が出て行った後の学園長室。

一人残った修一がぽつりと呟く。

「あの子は本当にいい子に育った。キング。」

その目線にあるのは金髪の赤ん坊を抱いた女とその両端に中のよさそうな男が二人映った写真だった。






麗らかな春の日差しと青春の通学路。

「有栖さーん!!」

その雰囲気を壊す大和撫子の元気な声。

振り向くと輝夜さんがブンブンと手を振ってこっちに向かってきた。

二人で並んで歩く。

「お、おはよう、輝夜さん。」

「おはようございます、有栖さん!今日もいい天気ですね」

「そ、そうですね。」

ぎこちない、この五文字が頭に浮かぶ。

あぁ、敬語で話すのがもどかしい。ついつい相手に合わせてしまい、タメ口で話すタイミングを逃してしまったではないか。今更聞くのどうかと思うし…。

隣の輝夜さんをチラッと見る。

歩く姿は百合の花という言葉が似あう凛とした姿勢で歩く彼女。やっぱり育ちが良いんだろう。だから同い年にも敬語。しかし、言ってしまえば黙っていれば美人なタイプ。

「そういえば、有栖さんは寮生なんですか?」

「あっうん、家が微妙に遠くて。輝夜さんはお家からですか?」

「えぇ。うちは毎日車で運転手に送り迎えしてもらっているので。今日は有栖さんを見かけたので、途中で降ろしてもらいました」

で、でたー!典型的な金持ち発言。

毎日運転手を雇えるほどのお金持ちとは……。恐ろしや百ノ月家。

「ん?ていうか私を見かけたからって?」

「あ、はい!私、ずっとお友達と登下校するのが夢だったんです。今日はその夢が叶いました!有栖さん、ありがとうございます!」

「え?!そ、それは良かったけど、私別になにもしてないし、そんなお礼なんて……」

満面の笑みで言われた。いやいや、と両手を左右に振る。

「私が言いたいだけです!気にしないでください!」

また笑顔。ここまで言われると少しばかり恥ずかしい気持ちと、嬉しいような気持ちで、キャパオーバー寸前だ。

今私、どんな顔してるんだろう。

しばらく輝夜さんと会話しながら歩いていた。なんだかんだいって彼女との会話は意外と面白い。もしかしたら気が合うのかも。

そうこうしてたら二人で校門をくぐっていた。





勉強は普通。

とびきり出来ない訳でもないし、とびきり出来るわけでもない。

あくまでも普通。

気付いたら四限目も終盤、そろそろお腹が空いてきた。

ダラダラと続く古典の授業、早く終わんないかな。

頬杖しながら時計をだるそうに見る。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴った。

「はい、今日はここまで。」

「気を付け、礼。」

『ありがとうございました~』

日直の号令の後にみんなが一斉に挨拶をする。

力が抜けたように深呼吸をすると、前の席の輝夜さんが振り返ってきた。

「有栖さん、一緒にお昼食べませんか?」

「あぁ、もちろん良いですよ」

「じゃあ、私ちょっとお手洗いにいってきますので待っててください」

輝夜さんがトイレに行っている間、カバンからお弁当を取り出して待っていた。

輝夜さんの机に置いてある、彼女のお弁当。真四角でお弁当箱でさえもお金持ち臭がしてくる。中身が、気になってしまうわ。

ていうか、なんだかさっきから三人の女子が私のことを見てくる。

あっ、こっち向かってきた。

「兎田さん、だよね」

真ん中の女子が話しかけてくる。

「そう、だけど…」

「私は天野姫子、姫子で良いわ。よろしくね!」

「私も、有栖で良いよ。よろしく」

後ろの二人も自己紹介してくる

なるほど、真ん中の天野っていう茶髪ハーフアップがリーダー格だろう。

「それで、有栖ちゃん。一緒におひるたべない?」

「えっ」

まさか誘われるとは、でも私には先約がある。

そうだ、この際五人で食べたらいいじゃないか。よし、それが良い!

「誘ってくれて嬉しんだけどさ、私先に輝夜さんと約束してるんだよね。だから五人で一緒に食べない?」

一瞬三人は固まった。かと思うと急に女子特有の甲高い笑い声をあげ始めた。

「あっはははは!!あの変わり者の百ノ月さんと?絶対無理~」

「有栖さん、百ノ月と友達になるのやめておいた方がいいよ。」

「一年の頃からなんかよくわかんない趣味の話ばっかりしてたしね~」

「やばいよね!ヲタクじゃん!」

「あはは!だから友達出来ないんだよ‼」

え?

天野につづいて悪口を言い始める三人。

確かに彼女は変わってるけど、そこまで言わなくったて…。

唖然としてしまい、うまく反応できない。否定しないと、だよな。

あっ

私は見てしまった。

教室のドアの前で悲しそうな顔で立ってる輝夜さん。

聞いてしまったんだろう。

さっきまでの綺麗な笑顔はまったく感じられない。

まだ輝夜さんの悪口を言う三人。これはやばい。

そう思った瞬間、私は二つのお弁当をもって三人のことは気にせずに駆け出した。ドアの前にいた彼女の手を引いて。

「輝夜さん!こっち!」

三人は鳩が豆鉄砲をくらったような顔。

私は彼女の手を引いて取り合えず人気のなさそうな屋上に向かう。

弁当を持った片手で急いで屋上に繋がったドアを開ける。

外の空気を感じた時、彼女の手を離した。

二人そろって息をはぁはぁと整えようとしている。

「はぁ、ごめん輝夜さん。大丈夫?」

振り向くと綺麗な黒髪が乱れていた。

「と、りあえず、ご飯食べようか。」

あっ私今たタメ口で話してる。





「私、前からうっすら彼女たちにあんな風に思われていることは知ってました。でも実際に聞いてしまうと、かなりショックですね……」

しばらく沈黙がつづいていたが、輝夜さんが俯きながら一言そうつぶやく。

屋上のベンチに二人並んで座ってご飯を食べ始めていた。

といっても輝夜さんはあまり手を付けられていないようだけど。

「私も、びっくりして反論できなかった。ごめんなさい」

人の慰め方なんてよくわからない。だから取り合えず自分の思っていることを話す。

「そんな!有栖さんが謝ることはありません!私にも少しは非があるのですから!」

ガバッと顔を上げて必死になって言ってきた。

出会ってまだ二日ほどしかたっていない彼女。

お互いのことなんてちょっとしか知らない。

でも本当に優しいいい子なんだろう。

「彼女たちのだからお友達が出来ない言葉、悔しいですけど否定できません。

私、いつも空回りしてしまうので。有栖さんも私のわががままに付き合わせてしまったようなものです。だからもう……」

「じゃあ、もっと私と仲良くしようよ」

気付いたらこの言葉が出ていた。

「もっと、お互いのこと知って、もっといっぱい話そうよ。

私は結構輝夜のことは好きだよ」

彼女のことを見て微笑む。今度は綺麗に笑えた。

すこし涙目でこっちを私を見つめてくる。

「それ、本当、ですか?」

「うん。あっ!ていうか私今タメ口、しかも呼び捨てにしちゃってる!ごめんなさい!大丈夫?」

すると初めて出会った時のように手を両手でガシっと握ってきた。

「そんなの全然かまいません!というか、そっちの方が断然うれしいです!」

ものすごい力説。彼女らしい気がして微笑ましい。

「そっか、じゃあ輝夜。これからもよろしく」

「はい!有栖さん!」

いつもの明るく上品な笑顔に輝夜は戻っていた。






放課後、輝夜と一緒に帰ることになった。

私が忘れ物をしてしまったので、二人で教室に取りに戻ることに。

しかし、またもやあの三人の陰口大会に出くわしてしまうことになった。

今度は私のことも悪く言われてるようなことが聞こえてくる。

まったく、一度ガツンと言ってやろうと思い彼女たちに近づこうとしたら、後ろから優しく肩を掴まれた。

「有栖さん、ここは私が」

にこっと任せてくれと言わんばかりの小さな笑みを向けてくる。

ピンとした姿勢で彼女たちに近づいていく輝夜。

「あの、」

「ひぃっ!!」

え、?

相手がものすごくおびえている。それにさっきまでとは想像できないような低くて唸るような輝夜の声。

「私のことだけならまだしも、有栖さんのことを悪く言うようなことは、到底見過ごせませんね……」

さらに怯える三人組。いったいどんな顔してるんだ、、

「またこのようなことがあったら、どうなるか……わかりますよね?」

首を無言で上下に動かし続ける彼女たち。今にも泣きだしそうだ。

それを見た輝夜はいつもの声&いつもの笑顔で振り向いてきた。

「有栖さん、用は済みましたし、そろそろ帰りましょう!」

「う、うん」

私の忘れ物も回収できたし、早くこの場から去ろう。

今もなお怯え続ける三人。

さっきまでの態度とは打て変わってまるで生まれたての小鹿のように震えている。

覚えておこう。

輝夜は怒ると怖いって。

意外とやるじゃん、大和撫子。




つづく


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