ダンジョンに捨てられたけど、戦えないからのんびりしていたらダンジョンマスターにドナドナされた。

池中 織奈

ダンジョンに捨てられたけど、戦えないからのんびりしていたらダンジョンマスターにドナドナされた。




「ボビー。君は役立たずだ」

「はい?」



 僕の名前はボビー。

 僕は何処にでもいる栗色の髪と瞳を持つ、十七歳である。



 とあるスキルがあるため、冒険者になっていた僕は高位の冒険者であるもうすぐAランクに上がる冒険者パーティーに所属していた。

 一年以上、共に過ごしてきたのだけど……、Bランクダンジョンに挑戦していた中で突然の言葉をかけられたのだ。




「……えっと、急にどうしたんだい?」

「急にも何もない。君は戦う力がないだろう」

「えっと、それはそうだけど、それはもう最初から分かっていたことだろう?」




 そう、僕には戦闘能力がない。所持スキルも戦闘系のスキルは一つもない。

 それはパーティーに加入する時にも伝えてある。それを知った上で、僕をパーティーに入れたのは、他でもない、目の前にいるロスベールである。



 だというのに急に役立たずで戦う力がないと言い出すのは何故だろうか。しかもロスベールの後ろにいる他のパーティーメンバーも僕に冷たい目を向けていて、正直言って僕には何が何だか分からない。

 しかもそれってダンジョン内でいうこと? ダンジョン入る前に言おうよ。しかもこんなに奥まったエリア――中層の下の方で言う必要ないじゃん? というのが正直な僕の感想なのだけど、ロスベールは次に僕にとって信じられない言葉を口にした。




「ボビー。君は追放だ」

「はい?」

「だから追放だ。もう俺たちのパーティーメンバーではない。それはうちのパーティーの総意だ」

「え? いやいや、こんなダンジョン内でそんなこというのおかしくないか? 此処でそんなことを言っていたら、一緒に街に戻るのも――」

「一緒に戻れると思っているのか? おめでたい頭だ」

「え」



 そして意味の分からないことを言われた僕は、蹴飛ばされた。剣士であるロスベールに蹴飛ばされた僕は当然吹き飛んだ。それと同時に僕のバックまで奪われた。そして僕がダンジョンの地面に転がっている間にパーティーメンバーはいなくなっていた。






 体勢を立て直して立ち上がって、僕が思ったことはえーマジかという思いである。

 ……多分ロスベールたちは、街で僕を追放なんていって、周りから白い目で見られるのが嫌だったのかなぁ。そして僕が《マジックバック》を持っていると思っているため、それを奪いたかったのだろう。

 とりあえず……僕は《マジックバック》と自分の《空間魔法》のパスをきっておいた。そもそも僕以外には使えなくしているが、これで《マジックバック》はただのバックと化す。



 僕は一先ず《空間魔法》を行使して、そこから魔物が近寄ってこないようにする結界の魔法具などを取り出し、その場に陣取る。

 

 地面にはシートをひき、その場に座り込む。そして先ほど蹴飛ばされて怪我をしてしまったため、それを治療した。



 ……ちなみに僕はパーティーメンバーに希少な《マジックバック》を所持している雑用係と記憶されていたが、それは実際は違う。希少な《空間魔法》を所持しているため、それで《マジックバック》で偽装していただけである。

 《空間魔法》は珍しい魔法なので、使えると知られると色々とややこしいのだ。そういうわけで僕は《空間魔法》を使えることを隠していた。




 さて、僕の《空間魔法》には様々な道具や食べ物が内蔵されている。殺傷能力のある道具も当然あるが、あくまで僕は補助職であり、戦闘職ではない。

 このBランクダンジョンの中層から僕が一人で上に上がるのは難しい。この場所は大変危険な場所である。

 Bランクほどの高位のダンジョンだと、此処に挑戦するものも早々いない。




 どうしようか――そう考えた僕のした結論は、


「ご飯食べよう」


 ひとまずお腹がすいたのでご飯を食べることだった。




 暢気すぎると言われるかもしれないが、僕はこういう場合だからこそ焦ってはいけないと思っている。こういう時だからこそ、冷静に先を見据えた方がいい。

 僕は両親からそう習っているので、それを実行しているわけだ。



 僕はこの中層の下部で下手に先に進むも、戻るもすることなく、この場でのんびり過ごすことにした。



 幸いにも、こんなに魔物が沢山いる場所でも平然と生活出来るだけの道具は僕の《空間魔法》には入っている。

 何かあった時のために――と沢山のものを過剰に《空間魔法》で入れていて良かった。



 結界の向こう側で岩の形をした魔物がこちらを見ていたり――。

 スライムのような魔物が僕が食事をしている様子をうらやましそうに覗いていたり――。

 ゴブリンが棍棒で結界を壊そうとしたり――。



 その中で僕はのほほんと生活していた。結界の中に《空間魔法》の材料で小さな小屋も作った。何故かといえば、トイレ問題があるからである。流石に僕も手出しを出来ないとはいえ、結界の中で魔物に見られながらというのは無理だった。

 なので即急に作った小さな小屋の中で、僕はのんびりと過ごしていた。



 ただし結構外には出ている。

 もし上級の冒険者がやってきたら救出してもらうためである。その場合は、相手を見極めて話しかける必要があるけれど。



 ……だけど残念なことに二カ月たっても、冒険者はやってこなかった。

 ダンジョンでこんなに悠々と過ごしているの何て僕だけかもしれない。まぁ、それならそれでいいか、などと思いながら僕はこのまま過ごすことにした。





 その日も僕はダンジョンの中でのんびりしていた。

 小屋の外に仮設の料理の魔法具で、焼き肉をしていた。一人で焼き肉である。結界の向こうでゴブリンが涎をたらしていた。



「うん。美味しくできたね」



 僕が満足しながら焼き肉を食べていると、人の気配がした。

 驚いてそちらを見れば、角が生えた褐色の少女が僕のことを見ていた。美しい黒髪の少女は、僕のことをじっと見ている。


 ……明らかにダンジョンの中でも上位の存在に僕は驚いた。え、どうしようと思っていたら、その少女に問いかけられた。




「……お主、ダンジョンで何をしておる?」




 呆れた表情でそう問いかけた少女は、僕を害するようには見えなかったので、僕は結界の中へと招き入れて、今までの事情を語った。




「人間というものは、なんとも不思議なものだ。仲間であるものをこんなところに捨て置くとは。……うむ、これはうまいな」

「でしょ。美味しいでしょ!!」

「うむ。上手い。それにしても置いて行かれたからといえ、こんなところでこれだけ自由気ままに過ごしているとは面白い奴じゃ」




 というわけで、僕はその少女――ドゥムと隣り合って、焼き肉を食べている。ドゥムは、ダンジョンマスターという立場らしい。

 このダンジョンの主で、このダンジョンで一番偉いらしい。凄い。




「そうかな? でも僕って戦闘力ないから外にも出れないしさー」

「だからって怯えもせず豪胆な奴じゃ。そもそも我をこうして此処に招き入れるのもすさまじい度胸だ」

「んー、ドゥムは僕のこと、殺す気なかったでしょ? 僕もその位わかるよ」

「ふふ、やっぱり面白い奴じゃ」



 ドゥムは楽しそうに微笑む。


 うん、その表情だけ見ているとこのダンジョンで最も強い存在には見えない。

 それでもその角と、結界の外の魔物達がドゥムを崇めているのを見ると、本当にそうなんだなぁと実感する。




「ボビー。お主は面白い。我と来るのじゃ」

「え?」

「まぁ、最もお主に拒否権はないが」




 ――ドゥムに僕は片手で抱えられ、そのままその場からドナドナされるのだった。






「ドゥム、起きて。朝だよ」

「……おはよう。ボビー」

「おはよう。朝ごはん出来ているから食べて」



 そしてドゥムにドナドナされた僕は、ダンジョンマスター室なんて場所に連れてこられて、早一年経過した。

 ドゥムは僕を幸いにも気に入ってくれているらしく、僕を外に返す気はないらしい。僕も全然それで問題がなく、楽しんでいるので、喜んで此処で過ごしている。


 食事当番は僕である。

 ドゥムは人間の僕程食事をとらなくていいらしいが僕の料理を食べて気に入っているらしく、僕が作っている。材料がなくなればドゥムが補充してくれるといっていたので、問題もない。



 それにしてもダンジョンマスター室から、遠隔でダンジョンの様子を見れるって面白いよなーと思いながら画面を見ていたら……、見た事ある顔がいた。




「あ」

「ボビー、どうしたのじゃ?」

「いや、あれ、僕の事、捨てたパーティー。なんか前より装備とかぼろいけど」

「へぇ……あれが。よし、ちょっと魔物をけしかけるか」



 視界には僕を捨てたロスベールたちのパーティーがいた。

 一年前より装備とかがぼろくて一瞬気づかなかったけど、顔は変わらない。

 


 僕の言葉を聞いてドゥムは楽しそうに魔法をけしかける発言をしていた。

 僕はロスベールたちよりも、ドゥムの方がこの一年ですっかり気に入っているので、それを止めることもしないのだった。







 ――ダンジョンに捨てられたけど、戦えないからのんびりしていたらダンジョンマスターにドナドナされた。

(ダンジョンに捨てられた僕は、今ではダンジョンマスターの少女と楽しく過ごしている)



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