第1話③

 その日の放課後。日直の仕事を終わらせて帰る途中…一冊のノートが、廊下の真ん中に落ちていた。ゾッとしたのは、


「え…私の、名前…?」


 不思議な事に、名前の欄に「1年G組 雨宮透花」と記載されていた。当然こんな名前の生徒はクラスに二人もいない。誰かのイタズラも考えられるが、自分の名前が書いてあるノートを放置していても後々面倒な気がする。


「───それで、拾ったんだ。姉さん」


「仕方ないでしょ…あんな廊下のど真ん中に置いてあって、後で注意されても嫌だし…」


 受験生の弟・千夏ちなつは私よりしっかりしている。頭がいい。顔がいい。性格も我が弟ながら完成していて、しかし重度の───


「姉さんに何かあったらマジで泣いちゃうから自衛だけはちゃんとしてね」


「あはは、ありがとう」


 重度の…その…アレだった。しかし千夏なりに私の事を考えてくれて、こういう態度で接してくれているのだ。なので悪くは言うまい。


「しっかし、姉さん。コレ姉さんの字だよ」


「一瞬で姉の筆跡鑑定するのはちょっとコワいな…けど、うん。私もそう思う」


 昔、たくさん「書いていた時期」があったのでわかる。千夏の言う通りこれは正真正銘、私の字だ。

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うたかたの夏で。 あいせ @5-aise-8

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