第11話 暴走の果て #1

シーズン2 第11話 暴走の果て #1


[1]ー《緑の国》 城 ミレーネ姫の部屋の前 廊下


〈近衛に声を掛けたミレーネ姫。そこへ走ってくるミリアム付きの侍女と護衛。〉


ミリアム付きの侍女「姫様、ミリアム王子様の姿が見えません!」


護衛「お手洗いにお連れしたのですが、待っている間に姿が消えてしまわれたのです」


ミレーネ「どうして、そのようなことが?ヨハン君は?」


ミリアム付きの侍女「それがヨハン君も見当たらないのです」


〈部屋の中でドア越しに話を聞いていたが、思わず廊下に出て来てしまう女官に扮したクレア。〉


クレア「何ですって!ヨハンも?」


護衛「こちらは……?」


ミレーネ「〈咳払いして〉私の新しい女官です。ミリアム王子やヨハン君をよく可愛がってくれているものですから」


ミリアム付きの侍女「どこかで見たような……?」


〈急いで顔をそむけるクレア。〉


ミレーネ「とにかく二人を無事に早く見つけましょう!何より、それが先決です!他の近衛隊にもすぐ伝えて、急ぎ探し出して頂戴」


侍女と護衛「「かしこまりました」」


〈走っていく。〉


ミレーネ「刺客が潜んでいるかも知れない、こんな夜に困ったことになったわ」


クレア「〈小声で〉姫様、実は今日、王子様とヨハンが『大人には内緒』と二人でコソコソ話をしている姿を見ております。『森』とか『湖』とか、『夜』になどと断片的にしか聞きとれなかったのですが、まさか、二人で何か計画をしていたのかも知れません。非常事態でも、何をしでかすか分からないのが子どもというものです」


ミレーネ「あり得ますわね。〈少し離れて待機していた近衛に〉これから森に探しに行きます。お供を願いますわ」


クレア「私もお連れ下さい。一緒に探させて下さい」



******白の国


[2]ー《白の国》石造りの城 グレラント王の部屋


〈窓から城の外を見下ろすグレラント。〉


魔王グレラント「外はすっかり静かになったのう。皆、捨て駒になって死に、まともに戦えぬ奴ばかりじゃった……」


〈緑の国の旗を持つ近衛隊と、王子の私兵部隊に囲まれている石造りの城。〉


魔王グレラント「緑の国の援軍に皆、やられたか。しかし、こんなところでウロウロと、他人の心配をするとは愚かな緑の国の者達め……。自分の国に、これから、どれほど恐ろしい災難が訪れることも気付かずに。それにしても城内もやけに静かじゃな」



[3]ー〈石造りの城の中の光景〉


〈城の廊下を次々と魔王の手下を倒しては進んでいく一人の人影。女性の服のような長い丈の衣装とフード。手にしている剣には白の国の王家の紋章。グレラント王の部屋に近付いていく。〉



[4]ー石造りの城 グレラント王の部屋


魔王グレラント「誰か、誰か、おらぬか?」


〈うつむき加減に入ってくる女の姿。〉


女「お呼びでございますか?」


〈一瞬で腰に差した剣の紋章に目をやり、身構えるグレラント。〉


魔王グレラント「ここに、女人はもはや誰もおらぬはず。白の国の王家の紋章がある剣と見た。お前は何者じゃ。顔をあげろ!」


女「顔を上げては、目を合わすことになりの思う壺。それは出来ぬ相談でございます」


〈フードとかつらをおもむろに取ると、女に化けていたレウォンの姿が現れる。〉


魔王グレラント「ああっ、お前は!?」


レウォン「やあああああ!」


〈目を合わさないように注意して、グレラントに斬りつけていくレウォン。グレラントは剣を避けようとしてフラッと床に転びかけるが、その手から防御の魔力である爆風がレウォンに向けて放つ。思い切り壁に飛ばされるレウォン。その隙にしっかり立ち上がり、レウォンと離れ、態勢を整えるグレラント。〉


魔王グレラント「……どうやって、ここに入った?門は閉められていたはずだ」


 

[5]ー【レウォンの回想:1時間ほど前 隠し通路がある井戸のところ】


【〔サイモン王子とレウォンが馬を降りて井戸の中を見ている。〕


レウォン『ここがおっしゃっていた隠し通路ですね』


サイモン王子『本当に一人で行くのですか?』


レウォン『グレラントの手下はかなり数が減ってきているようです。どうか王子様は少し離れた場所で見守っていて下さい。そして、もし、私がグレラントに敗れた、その時には、後を……宜しくお願いします』


サイモン王子『〈頷き〉その時は多勢で攻め込むこととする』


〔用意してきた新しいしっかりとした綱をかけ秘密の通路の入り口がある井戸の底の方へ下りていくレウォン。〕


レウォン(心の声)『多勢で攻めれば勝算も出るが、それだけ多くの命が危険にさらされる。犠牲者をこれ以上増やさぬためにも、ここは自分が一人で食い止めねば!』】



[6]ー石造りの城 グレラント王の部屋 続き


〈ぶつかった壁から黙って立ちあがるレウォン。〉


魔王グレラント「言わぬつもりか。裏切り者の大馬鹿野郎め!このわしの魔術に、お前ごときが勝てると思っておるのか?」


〈魔王の顔を直視することを避けながら、剣を構えるレウォン。あらためて、左手で剣を持つレウォンに気付く魔王グレラント。〉


魔王グレラント「左手しか使えぬか。ますます勝ち目がないな。よく、それで乗り込んできたものだ。何年、わしと共におった?それとも、姫の首飾りを持ってきたのか?その力に頼る気なら分からぬでもないが……」


レウォン「首飾りはお前にだけは絶対に渡さない。あの石の力はの持ち主には使ことに、まだ気付かぬのか!」


魔王グレラント「お前ほど邪悪な人間がどこにいる?これまで何人、人をあやめて来た!昔は、刺客の仕事に喜びを感じていただろう?この城の中でも、この部屋に来るまで大勢、殺してきたのではないか?命を奪うことに何の違いがあると言うのだ!」


【レウォンのフラッシュバック:さきほど 城の廊下 自分が倒した魔王の手下の死体の数々。】


レウォン(心の声)「だめだ。グレラントの話を聞いてしまっては信念が揺れてしまう。〈剣を握っている手に力を込め〉頼む。レックス、僕に力を貸してくれ」


魔王グレラント「〈その姿を見て〉、まだ遅くはない。お前も葛藤しながら、ここまで来たのだ。さあ、戻って来い。私と共に、生きるのだ。もう、知っているのだろう?お前の母親を自害させたのが誰なのか?緑の国を恨みこそすれ、なぜ命まで捨てて助けようとする?さあ、首飾りを渡すのだ〈手をのばす〉」


レウォン「さっきも言ったはずだ。ここにお前の望む首飾りなどない。正当な持ち主のもとにある!」


魔王グレラント「ここまで待ってやって、その答えか!もう容赦せぬ!首飾りを持たぬお前に何の用もない!くらえ!」


〈魔王が両手をいったん大きくぐるっと回すようにしてから、一気にその手をレウォンに向けて突き出す。轟音がして、部屋の中の物が一斉にレウォンに向かって飛んで来る。襲ってくる物を次々と、レウォンは剣で叩き斬っていく。〉


魔王グレラント「〈悔しがり〉うううう、おのれ!」



[7]ー白の国 石造りの城を見上げる広場


〈サイモン王子の一行が外から様子を見守っている。そこへ足を引きずりながら弓矢を抱えてやって来る近衛副隊長ウォーレス。〉


サイモン王子「ウォーレス殿!傷は大丈夫なのですか?」


近衛副隊長ウォーレス「じっとしていることなど出来ません。アイラを騙して連れ去った、あいつら一味を絶対に許せない!何としてでも、この手でアイラの仇を取ります!」


〈固い決意を滲ませた表情で城の窓の方を見るウォーレス。〉



[8]ー石造りの城の中 グレラント王の部屋 続き


〈再び向き合っているグレラントとレウォン。〉


魔王グレラント「そろそろ死ぬ覚悟は出来たか?五蛇いじゃ剣法も、たかが剣術の技。わしの魔術はお前の手には負えぬ。もう、ここらでいさぎよく諦めるのじゃ」


レウォン「わが身を嘆き、この人生を諦めようと思ったことが、今までにどれだけあったことか。それでも手放せなかった我が命そして我が愛する者……」


レウォン(心の声)「ポリー……」


〈服の下から、首に掛けていた首飾りを、引っ張り出してグレラントの目に触れるようにする。その首飾りは、ジュリアスやポリーの母ナタリーが実家で婚姻前にもらった、あの首飾りである。〉



[9]ー【レウォンの回想:白の国に来る前 《緑の国》城 鍛錬場】


【〔ポリーとレウォンが一緒に母ナタリーの首飾りを作り直してている。レウォン、ポリー、アンそれぞれのピアスの石と、ナタリー、ジュリアスの石で合計八個の石がついた、元通りの首飾りとなる。〕


ポリー『〔ナタリーの石を見せながら〕母様の石は寝ているうちに、そっと首飾りを外して持ってきちゃった……』


レウォン『これで全て八個の石が揃った訳だね』


〔ポリーが最後の石を新しいネックレスのチェーンに通すと、石の色が白から青に変わり、そして最後に八個の石全体が虹色に輝く光を放ち出す。〕


レウォン『これは……!』


ポリー『綺麗……私も初めて見るわ。まあ、今までは全部揃わなかったものね。〔笑いながら〕どう?ミレーネが持っているロザリー伯母様の首飾りも神秘的だけれど、母様の首飾りも不思議な力を感じるでしょう?』


レウォン『〈頷き〉この首飾りの石が僕を皆のもとに連れ戻してくれたのか……』


ポリー『紛れもなく、こののお導きがあったのよ。母様がずっと一心に祈り続けていたから叶ったんだわ。〔レウォンの首に首飾りをかけながら〕だから、今度も必ず私達のところへ帰ってくることが出来るって信じてる』


〔レウォンの手を取って立ち上がらせるポリー。〕


ポリー『さあ、これで剣術を試すの。とてつもなく大きな力を左手と身体に感じるはずよ!』 】



[10]ー石造りの城 グレラント王の部屋 続き


〈剣を持った手で首飾りの石をぐっと握るレウォン。〉


レウォン「さあ、その目で見るがいい。お前たち闇の世界がどんなに断ち切ろうとしても断ち切れない絆がここにはある!!」


〈レウォンの首飾りの石が、虹色の光を放ちだし、そのあまりにまばゆい美しい光にグレラントは気圧けおされる。〉


魔王グレラント 「何だ!それは……」


レウォン「お前がたとえ、どれだけ生き延びようと、強大な権力を手に入れようと、決して知り得ることのない光だ!」


魔王グレラント「姫の首飾りとは違うようじゃな……」

 

レウォン「さっきから何度も言っている。姫の首飾りはここに持っていない!」


魔王グレラント「ううむ……」


〈虹色の光を放つ首飾りがまるで盾のようになり、そのまま、じりじりとグレラントに近づくレウォン。グレラントは光を避けるようにバルコニーに逃げ込む。光から目をそむけ、ついにバルコニーの端まで追い詰められていくグレラント。もう、その先に逃げ場はない。〉


レウォン「覚悟!」


〈かなり接近した場所からレウォンが五蛇いじゃ剣法で切りつけようとするが、それまで目をそむけていたグレラントが突然、顔をこちらに向け目をかっと見開き、首飾りを掴み、凄い力で石を引きちぎる。バルコニーの床に散らばる首飾りの八個の石。〉


レウォン「あ!〈散らばる石を見て手が一瞬止まってしまう〉」


魔王グレラント「まだ甘いわ!死ね!」


〈グレラントが、その尖った刃先のような爪をレウォンの胸に突き立て心臓を掴み取ろうとした、その刹那、くうを突っ切り飛んできた矢が正確にグレラントの首に刺さる。ぐえっという声を出し倒れかけるグレラント。その隙にグレラントの腹を五蛇剣法で切り裂くレウォン。ついにズルズルとバルコニーに仰向けに倒れるグレラント。〉


魔王グレラント「〈虫の息で〉みど…りの…くに…は…もう…わし…の…どくで…けが…された……。わし…しか…まじゅ…つを…とけぬ…のに……わし…を…ころ…す…とは……おろ…か……〈がくっとなる〉」


レウォン「どういう意味だ!?」


〈魔王グレラントはすでに息絶えている。窓に近寄り、下を見るレウォン。まだ矢を構えていた近衛副隊長ウォーレス。隣にサイモン王子。二人に向かって叫ぶレウォン。〉


レウォン「魔王は死んだ。しかし緑の国が危ない!グレラントがどこかに毒を仕掛けたようだ!それから……が一人いる。急いで救助を!」



            

******緑の国


[11]ー《緑の国》 城の森


〈暗い森の中、月の光を頼りに歩いているミリアム王子とヨハン。〉


ヨハン「やっぱり、やめれば良かったかな」


ミリアム「弱虫だなあ」


〈その時、近くの茂みで鳥か動物なのかガサガサと音がする。〉


ヨハンとミリアム「「わああ」」


〈腰をぬかす二人。〉


ヨハン「もう、僕、帰りたい」


ミリアム「でも、クレアさんに魔法を見せたいって言ったじゃないか」


ヨハン「うん……」


ミリアム「僕も姉様に見せたいんだ。ずっと、姉様が元気なくて。なぜだか分からないけれど、僕もとても悲しい気持ちになるんだ」


ヨハン「王子様はこの魔法でみんなが元気になると信じてる?」


ミリアム「元気になるに決まっているよ!きっと!魔法がかかれば、輝くんだよ」


ヨハン「やっぱり僕も頑張る!」


〈もう一度、立ち上って走り出す二人。〉


ミリアム「ほら、あそこが湖だ!」



[12]ー城の森 


〈森の中に走って来るミレーネ姫の一行。〉


侍女と護衛とクレア「「「ミリアム王子様、ヨハン様!〈何度も呼びかける〉」」」


ミレーネ「ミリアム、どこにいるの?ヨハン君、返事をして!」



[13]ー城の森 湖のそば


ヨハン「今、僕達を呼ぶ声が聞こえたよ。探しに来たみたいだけど」


ミリアム「〈小瓶を手にして〉急ごう。このを入れてしまえば、見つかっても平気だよ。後は朝日を浴びてのを待つだけだもの。虹色の湖を見れば、夜にお城を抜け出したことだって、絶対に許してもらえる」


ヨハン「うん、そうだね」


ミリアム「でも、今、見つかれば、まず、お城に帰らされるに決まってる。本当は、ここで太陽が昇るのを待って、魔法がかかるところを見られたら最高なんだけどな」


ヨハン「〈湖の辺りを見回して〉木の上なら、見つからないかも」


ミリアム「絵の具を入れたら〈一本の木を指して〉あの木に登ろう」


〈小瓶の蓋に手を置くミリアム王子。ヨハンと見つめ合い、お互いに頷く。蓋をあけて、中の液体を湖に流し入れる。〉


ミリアムとヨハン「「魔法よ、かかれ!」」


〈願い終わった二人は走って、湖の反対側の方向へ回り、途中でそのほとりに立っている木に登り、葉陰で身を寄せる。〉



[14]ー城の森 湖


〈湖の中に不気味な液体が広がっていく様子。〉



[15]ー城の森 湖のそば


〈走ってくる姫達一行。〉


ミレーネ「ここにいないなんて、何処に行ったのかしら?」


クレア「森にある湖とは、ここしかないのですね?」


ミレーネ「ええ」


ミリアム付きの侍女「ミリアム様!ヨハン君!」


〈木の枝の上で、くすっと笑いあうミリアム王子とヨハン。上手く見つからず隠れることが出来ていると思っている。まだ自分たちがボリスに騙されてどれほど大変なことをしてしまったか全く気付いていない。湖のそばで首飾りを触わり、目を閉じるミレーネ姫。〉


ミレーネ(心の声)「この匂いは、ミリアム、あの子の匂い……。つい、さきほどまで、ミリアムがここにいたんだわ。それに、近くで人の心臓の鼓動をかすかに感じる。ドクドク……ドクドク……」



[16]ー城 森の湖


〈ミリアム達が入れた不気味な液体が、どんどん溶けて広がる様子。その下から何か得体のしれないものが動き始める。〉



[17]ー城の森 湖のそば


ミレーネ「ミリアム達はこの近くにいるわ!」


〈その時、沼の底から臭うような強烈な何かを感じるミレーネ姫。〉


ミレーネ「え……?この強い臭いは何?あの闇夜に感じた臭いと同じだわ……!?」


〈その瞬間、湖から怒り狂った姿で竜神が現れる。〉


皆「きゃああああ!」


クレア「竜神様よ!」


〈皆、思わず地面にひれ伏す。怒る竜神が現れた途端、月が隠れ、森がまっ暗になり、暗闇の中で、もはや、その竜神の姿は分からぬが、何か大きな生物が湖の上を咆哮しながら悶え苦しみ動き回っている。〉


護衛「姫様、危険です。ここから逃げましょう!」


ミレーネ「でも、この近くにミリアム達がいるのよ!」




#2へ続く


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