第10話 呪われし小瓶 #2

第10話 続き #2


[14]ー《緑の国》 城 廊下 王の部屋の前


〈サイモン王子と外事大臣が出て来る。ミレーネ姫が近づく。〉


ミレーネ「サイモン王子様、軽食を用意させました。とてもお疲れの御様子ですわ。どうぞ、少しお休み下さい」


サイモン王子「せっかくのお申し出ですが、すぐにでも国へ戻らなければなりません」


ミレーネ「あの……」


外事大臣「先に行って、馬の準備をしております。少しだけでもお話下さい」


ミレーネ「外事大臣、皆の分の食料も用意しておりますから、一緒にお持ちになって下さいね」


外事大臣「有難うございます」


〈二人になる。少し離れて護衛が立つ。〉


ミレーネ「書架室へ参りましょう」



[15]ー城 書架室


〈椅子に腰かけているサイモン王子とミレーネ姫。〉


サイモン王子「この度はウォーレス殿にとてもお世話になりました」


ミレーネ「そうでしたの?」


サイモン王子「お伝えすべきか迷っていたのですが、ウォーレス殿は、この国から白の国に来ていたアイラさんとタティアナさんという二人を救おうと必死でした。タティアナさんは、前に姫様が私に話してくれた方ですよね。まるで、おばあ様のように慕っていらっしゃったと」


ミレーネ「サイモン王子様、そのことに気付いて下さっていたのですか?それで、二人は今、どこに?本当に生きていますのね?」


サイモン王子「タティアナさんは、残念ながら、白の国を脱出前に命を落とされたと聞きました。アイラさんは、騙されてグレラントの一味に連れさられてしまい、今、生死が不明なのです」


ミレーネ「そんな……」


サイモン王子「白の国のために戦ってくれたウォーレス殿に報いたかったのですが、こんな結果になり、私も辛いです」


ミレーネ「でも、王子様はウォーレスの息子を救いましたわ」


サイモン王子「え、息子って誰のことでしょう?」


ミレーネ「クレア様が連れているヨハン君こそ、ウォーレスとアイラの子なのです」


サイモン王子「それは、事実なのですか!?あの子は、私の子では……あ……〈慌てて口を閉じる〉」


〈首を振る姫。〉


ミレーネ「何か特別な事情で、サイモン王子様はを、信じていらっしゃると聞いております」


サイモン王子「そうなのですか!〈かなり安堵して少し笑いながら〉あまりに次々に新たな真実を知って混乱しそうです。ケインの話も驚きました。まさか先王様の息子だったとは。姫様はすでにご存知なのですか?」


ミレーネ「ケインの話をなぜサイモン王子様が!?」



[16]ー城 鍛錬場


〈入ってくるミレーネ姫。何か大きな袋を抱えている。中にいるレウォン、ジュリアス、ポリー。〉


ミレーネ「良かったですわ、皆、まだ、ここにいて」


ポリー「サイモン王子は?」


ミレーネ「今、クレアさんとお話しています。実は大変なことになってしまったの。お父様がレウォンさんのことを知ってしまいましたわ」


ジュリアス「それは一体どうして?」


ミレーネ「サイモン王子様のお話では、外事大臣がケインの素性と生い立ちを暴露して、その上、今、名前と姿を変え、この城内にいるかも知れないと忠言したそうです」


ポリー「そんな……。見つかったら大変じゃない!」


ミレーネ「さきほどから城内、くまなく捜索が始まっています。それも、の姿ではなく、の姿が捜索の対象として触れ回られていますの。外事大臣は、火事の時に目撃していたようですわ」


ポリー「どうしよう……」


レウォン「それで、姫様は僕のためにサイモン王子を待たせているのですね」


ジュリアス「なるほど。ミレーネは、逆に今がと見た訳ですか?では、サイモン王子には全てを話したのですね?」


ミレーネ「ええ。私の言葉を信じて頂くには隠しごとは出来ませんもの。もちろん両国を救うためにもなりますから」


ポリー「分かった!つまり、レウォンさんを白の国へ連れて行くのね。じゃあ、私も一緒に行って魔王グレラントに立ち向かうわ!」


ミレーネ「外事大臣は、ポリーの家族とケインのつながりを知っています。だから、二人が一緒にいれば、かえって疑われてしまうわ。サイモン王子がお城を出る時、付き添うのは外事大臣なのですもの」


ジュリアス「外事大臣は母上に親切なふりをして近づきながら、色々探っていたと言う訳か」


ポリー「王様に言いつけた外事大臣がレウォンさんと一緒に行動するなんて、そんな綱渡りのような賭けが出来るの?」


レウォン「危険ではあるがサイモン王子が協力してくれる限り、見破られないかもしれない」


ミレーネ「ええ。私もそう考えましたの」


〈クレアとサイモン王子が鍛錬場に現れる。〉


レウォン「サイモン王子!」


サイモン王子「レウォンか?確かにこの姿では誰もケインと気付かないだろう」


レウォン「本当にこれまでのことは申し訳ありませんでした〈頭を下げる〉」


サイモン王子「正念場はこれからだ。頼むよ、レウォン」


〈頷くレウォン。今度はクレアがミレーネ姫に頭を下げる。〉


クレア「姫様、今まで騙すような真似をしましたこと、どうかお許し下さい」


ミレーネ「クレアさん、謝らないで下さい。貴女の話はすべて嘘だった訳ではありません。サイモン王子もヨハン君も、貴女やご家族が助けて下さったことに変わりはないのです。心からお礼を申し上げます。これは本心ですわ」


クレア「姫様」


ミレーネ「ただ、もう一つ、協力して頂けますわね」


クレア「〈頷き〉ヨハンは言われた通りに、ミリアム王子様のお部屋で預かって頂きました」


サイモン王子「さあ、行きましょう。あまりに遅いと、外事大臣が怪しむかも知れません」


ミレーネ「そうですわね。では、レウォンとクレアさんはこれに着替えて下さい〈袋から服を見せる〉」


ポリー「それで、その大きな袋を……」



[17]ー城 裏門 


〈馬を用意して待っている外事大臣。走ってくるサイモン王子とクレアに扮装したレウォン、ミレーネ姫。レウォンはフードをかぶって、ばれないようにして変装している。〉


サイモン王子「お待たせしました。すみません、外事大臣、クレア殿がどうしても一緒に戻りたいと申しまして」


〈クレアに扮装したレウォンが頭を下げる。〉


外事大臣「危険なのに宜しいのですか?もう少し、こちらでお待ちになった方が……」


ミレーネ「白の国に残っているお父様やお母様のことがとてもご心配で、決断されたのです。私も、そのお気持ちはよく分かりますわ。家族と離れ離れでは生きた心地がしませんもの」


外事大臣「そうですか」


サイモン王子「白の国を守るため私兵をつぎ込んで貢献してくれたヨーム公に私は多大な恩義があります。娘であるクレア殿は私が必ずお守りして館までお送りいたします。さあ、クレア殿〈手を差し伸べ、馬に一緒に乗る〉」


ミレーネ「お気を付けて!」


ミレーネ(心の声)「サイモン王子、ここへ必ず迎えに来て下さい。流れ星よ、どうか二人の願いをかなえて……」


〈城を発つサイモン王子の一行。少し離れて見ている女官姿のクレア。〉


【見送るクレアの回想:城内 少し前 

〔サイモン王子とクレアが二人きりで話している。〕

サイモン王子『クレア殿には、昔、ひどいことをして心身ともに傷つけてしまった。僕の方こそ許して欲しい〔深々と頭を下げる〕』】


クレア「サイモン王子様、どうぞご無事で……」

                 

〈女官姿のクレアが見送っていると、その後ろから声をかける門番。〉


門番「女官殿、さきほど姫様に宛てた文を預かった。男が“白の国にいるウォーレス副隊長からの文だ”と言って急いで届けにきたのでな。頼んだよ」


〈受け取るクレア。見送ったミレーネ姫がクレアの所へ戻って来る。〉


ミレーネ「さあ、私の部屋へ戻りましょう。〈声を潜めて〉城内で一番の隠れ家ですのよ」



[18]ー城 廊下


〈ものものしく警戒にあたっている近衛や護衛。そこを歩いていく姫と女官に扮したクレアの姿。〉


近衛「姫様、あまり遅い時間に城内をお歩きになられませんぬように」


〈近づいた近衛の前で急いで顔を下に向ける、女官に扮したクレア。〉


ミレーネ「有難う。もう部屋に戻りますわ」


近衛「姫様、ボリスが自害したことはご存知ですか?」


ミレーネ「ええ」


近衛「その件ではノエル殿も取り調べを受けております。本当は、白の国から来て逗留されていた客人……ええっと、クレア様ですか?その方も同様に呼ばれるところでしたが、すでに白の国の王子と城を出られたと聞きました」


〈女官に扮したクレアはかすかに動揺している。〉


ミレーネ「さきほど、サイモン王子様とご一緒にね。では、今後もしっかりと見回りを頼みましたよ」


〈二人で歩いていく。〉


クレア「〈小声で〉ボリスさんが自害したなんて……」


ミレーネ「〈小声で〉気をしっかり持ち続けて下さい。両国の為にも」



[19]ー城 ミリアムの部屋


〈一緒に寝ているミリアム王子とヨハン。薄目を開け、小声で話し始める。〉


ミリアム「〈囁くように〉今夜、行くよ」


ヨハン「本当に?何だか怖いな、僕……」


ミリアム「〈寝ころんだまま窓を見上げ〉今日はお月様が満月に近いね。いつもより外が明るいはずだよ」


ヨハン「明るかったら、すぐ見つかってしまうよ!」


ミリアム「やってみないと分からない。きっと、隠れんぼ遊びみたいだ。それに、そんなに遠くないよ」



[20]ー城 ミレーネ姫の部屋


ミレーネ「ウォーレス殿からの手紙ですって!」


〈クレアが持っていた手紙を渡す。〉


クレア「私を姫様付きの女官と思い、門番が渡してきました」


ミレーネ「私宛てだと言っていたのですね」


クレア「はい」


ミレーネ「〈手紙を読んで〉“アイラが待っているから会いに行って欲しい”と書いてあるわ」


クレア「行ってはいけません、姫様。罠に決まっています」


ミレーネ「そうですわね。行けば、刺客が待ち伏せしているはず。でも、本当に人質にされているならば、アイラがまだ生きていて助けることが出来るかも知れない」


クレア「姫様。場所は書いてあるのですか?」


ミレーネ「城下町のはずれのあばら家とあるけれど。これが本当にアイラのいる場所かどうかも怪しいですわね……」




[21]ー城 城下町のどこか分からぬ場所 あばら家


〈さるぐつわをはめられ、手と足を縛られたアイラがうーうーと言いながら転がっている。あばら家の外を、見回りでちょうど通りかかった用心組の人達の声が、中にいるアイラに聞こえる。〉


用心組の声「怪しい人物を見つけたら、とにかく捕まえよう」


用心組の声「違っていても、後から謝れば済む。事件が起きてからでは遅い」


〈閉められている扉の方へ必死ではっていくアイラ。体をくねらせ、用心組の人達に気付いてもらえるよう、縛られた足でドンドンと扉をけり続ける。〉




[22]ー城 ミリアム王子の部屋


〈部屋にいる女官が寝たところを見計らって、そっと抜け出すミリアム王子。パジャマ姿のままである。廊下に出るとドアの前に護衛がいる。〉


護衛「ミリアム様、お手洗いでございますか?」


ミリアム「うん。〈歩き出し、階段を降りようとする〉」


護衛「ミリアム様、寝ぼけていらっしゃるのですか?お手洗いはあちらです〈二階のトイレを指差す〉」


ミリアム「二階のお手洗いに、夜、行くのは嫌なんだ。知っているだろう?僕が怖い思いをしたこと……。夜は一階を使う〈護衛と一緒に階段を下りて行く〉」


〈そのすぐ後、ドアから顔をのぞかせたヨハン。廊下に誰もいないことを確かめ、上着をはおり靴をはいたヨハンが部屋から出て来る。ヨハンはミリアムの靴と上着を持って階段をそっと下りていく。〉



[23]ー城 姫の部屋


〈手紙を前に置き、悩んでいるミレーネ姫の姿。傍で座ってクレアは心配そうに姫を見つめている。〉


姫(心の声)「アイラだけでも何とか助けることが出来ないかしら……」




[24]ー城下町 どこか分からない場所 あばら家


〈偽コウモリがやって来る。あばら家の扉が開け放たれ、中はもぬけの殻である。〉


偽コウモリ「しまった!逃げられたか。行く先は城だな……」




[25]ー城 一階トイレの窓の下


〈ミリアム王子がお手洗いの掃除用の流し台によじ登り、そこの窓から庭へ顔をのぞかせる。〉


ミリアム「早く、早く!」


〈ヨハンが手をのばし、靴と上着を渡す。いったん流し台から降り、それらを身に付けるミリアム王子。再び、掃除用の流し台によじ登り、そこから、窓のすき間に横になって入り込む。足と体が外に出る。〉



[26]ー城 一階トイレのそばの廊下


〈待っている護衛。その側を通り、城内を見守りながら曲者を捜索している近衛隊。〉


護衛「今夜は落ち着かないな……」



[27]ー城 一階のトイレの外 庭


〈窓にぶら下がっている格好のミリアム王子。〉


ヨハン「〈小声で〉大丈夫?」


〈よいしょと飛び降りるミリアム王子。〉


ヨハン「〈小声で〉すごいなあ」


ミリアム「ポリーに鍛えられているからね。さあ、行こう!」


〈森へ向かって走り出そうとすると、見回りの近衛達がくる。生垣の下に潜り込む二人。じっとしている間に近衛達は通り過ぎ、生垣から這いだす二人。〉


二人「「〈小声で〉小さいって便利!」」


〈笑いながら、手をつなぎ、森へ走る二人。〉

  


[28]ー【ヨハンの回想:夕方 城の庭】


〔ボリスとヨハンが散歩しながら話をしている。〕


ボリス『勇気のある子どもにしか出来ないを教えてあげよう。ここだけの秘密だ。誰にも内緒でやってみるかい?』


〈ヨハンに小瓶を見せ、何か耳元に囁くボリス。〉


ヨハン『〈ボリスを見て〉でも……僕はお城の森のことをよく知らないし。ミリアム王子に話して、一緒に手伝ってもらってもいい?二人でなら出来ると思う!』


ボリス『ミリアム王子か。よし、いいだろう。二人とも秘密が守れて、勇敢だと信じているよ』


ヨハン『有難う、ボリスさん。魔法が成功したら、お母様も喜ぶね』


ボリス『もちろんだとも』


ヨハン『やった!だって、お母様は最近あまり笑わないから。僕、お母様の笑った顔が見たいんだ』


〔絵の具のような液体が入った小瓶をヨハンに渡すボリス。]

 



[29]ー城 一階トイレの外 廊下


護衛「王子様は遅いな。途中で覗けば嫌がられるだろうし。それにしても……〈ドアをそっと叩き〉王子様、王子様、大丈夫ですか?」


〈返答がなく、中はしーんとしたままである。思わず駆け込む護衛。〉


護衛「ミリアム王子様!」


〈トイレの中を探すが、どこにもいない。王子が履いていたスリッパのみが残されている。〉



[30]ー城 ミレーネ姫の部屋


〈ついに椅子から立ち上がるミレーネ姫。〉


クレア「姫様、どうするおつもりですか?」


ミレーネ「お父様に話してみますわ。そして、アイラの救出をお願いしてみます」


クレア「姫様自ら、決してその場所へ行くことだけは、お止め下さいね」


ミレーネ「分かっております。クレアさんは今、人目についてはなりません。ここでお待ち願いますわ。サイモン王子と白の国へ帰ったはずの方なのですから」


〈廊下に出るミレーネ姫。すると、ミリアム王子の部屋の辺りが騒がしい。急いで通りかかった近衛に聞くミレーネ姫。〉


ミレーネ「何事ですか?」



※10話 終わり

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