第10話 呪われし小瓶 #1

シーズン2 第10話 呪われし小瓶 #1


[1]ー《緑の国》 城の中 廊下


〈コソコソと話しているミリアム王子とヨハン。ちょっと遠巻きに二人の様子を見ているクレアと侍女。〉


ミリアム付きの侍女「喧嘩したかと思えば、もう、この通り仲良しですね」


クレア「子どもですもの。大人には内緒だからと、全く……」


ミリアム付きの侍女「何の相談でしょうね。お二人で可愛いお姿ですわ」


〈内緒話をして、少し何やら揉めているが、結局、何かをそっとヨハンがミリアムに手渡し、ミリアムがポケットにしまう。そこへ慌てて走ってくるボリス。ヨハンの肩をつかむボリス。〉


ボリス「〈焦って怒鳴るように〉さっきの物はどうした!?」


〈体をこわばらせるヨハン。横からミリアム王子がボリスに言う。〉


ミリアム「〈小声で〉しっ!声が大きいよ。ボリスさんが誰にも言っちゃいけないって言ったんでしょ?だからって」


ボリス「〈それを聞きミリアムに詰め寄り〉ミリアム王子が持っているのですか?すぐに出して下さい!」


ミリアム「知らないよ!僕は持っていない!」



[2]ー城 書架室


〈書架室にも階下の廊下での騒ぎが聞こえる。〉


ミレーネ「何か、騒がしいわ」


ジュリアス「相変わらず、ミレーネの聴力には舌を巻きます」


〈首飾りの石を触わって微笑み立ち上がるミレーネ姫。〉


ミレーネ「様子を見に行きましょう」


〈修道女ダリルが託してくれた手紙はミレーネ姫がドレスの胸元にしまい、書架室から出ていく二人の姿。竜神様について書かれた本だけが机の上で開かれたまま残されている。〉



[3]ー城 二階の廊下


ボリス「ミリアム王子!返すんだ!」


〈ボリスがミリアム王子のポケットを無理やり探ろうとした時、数人の護衛が走って来てボリスを取り囲み、ボリスからミリアム王子を離す。〉


護衛「ミリアム王子、大丈夫ですか?〈侍女と別の護衛に〉王子様をすぐお部屋にお連れして。〈ボリスに〉ボリス殿がミリアム王子様に近づくことは禁じられております」


ボリス「いや、待ってくれ。ミリアム王子、それは危険な……」


ミレーネ「何を騒いでいるのです!?」


〈螺旋階段を降りてきて現れるミレーネ姫とジュリアス。〉


護衛「ボリス殿がミリアムミ王子に何かしようとしていました」


ミレーネ「まさか、ミリアムに……。ボリス、やはりそうだったのですね!すぐに、この者を捕えるのです!ミリアム、怪我はなくって?大丈夫ですの?」


ミリアム「う、うん……〈頷く〉」


ボリス「お待ちください!姫様!どうか話を聞いて下さい」


〈護衛達によって武法所へ連行されるボリス。ジュリアスとミレーネ姫は、その後ろ姿を見送る。〉


ミレーネ「レウォンが言った通りでしたわね」


ジュリアス「ボリスさんにまで裏切られるとは……。この魔王との争いはどこまで人への信用をなくさせるのだろう」



[4]ーミリアム王子の部屋


〈決意を固めたような表情のミリアム王子。〉


【ミリアムの回想:さきほど 城の廊下

ボリス『いや、待ってくれ。ミリアム王子、それは危険な……』】


ミリアム(心の声)「だって知っているよ。だから、勇気が試されるのでしょう?……。僕ならきっと出来るよ!ヨハン一人じゃ無理だもの」


〈ぎゅっとポケットの中にある小瓶を握る姿。〉



[5]ー緑の国と白の国の国境の森 薄暗くなってきた時間


〈サイモン王子が白の国より、再度、緑の国側へ馬で現れる。前線で指揮をしていた外事大臣が迎える。〉


外事大臣「サイモン王子、どうされましたか?」


サイモン王子「グレラントの手下がこの国に刺客として入り込んでいる危険があります。王様に直接、お伝えさせて下さい」


外事大臣「では、一緒に参ります!〈そばの近衛隊に〉ここは頼んだぞ!」


〈二人で急ぎ城に向かう。〉



[6]ー緑の国 城下町 夜


〈城下町は厳戒態勢で家々は灯りを落とし、ひっそりとしている様子。民が暮らす、ある一軒の家の様子。〉


子「母ちゃん、怖いよ」


母「警戒しろと言っても、私らには、どうすることも出来んし……」


父「〈立ち上がり〉ちょっと出てくる」


母「あんた……」


父「町の用心組に行けば、緑の国のため、俺達が出来ることがあるかも知れん」


子「父ちゃん……。父ちゃんが家にいなくて誰かが僕を殺しに来たら、誰が守ってくれるの?」


父「心配するな。母ちゃんのそばで寝ていろ。明日の朝、起きた時には怖い夢は終わっているからな〈頭を撫でる〉」


子「うん」


〈父親が外に出ると、他にも何人かの男が灯りを持って、用心組の詰め所の方へ歩いている。サイモン王子と外事大臣は、集まりつつある人々の灯りがあちらこちらでチラチラ揺れる、暗い城下町を馬で駆け抜けていく。〉



[7]ー城 鍛錬場


〈ジュリアスとミレーネ姫が入ってくる。レウォンに手当をされているポリー。〉


ミレーネ「まあ!」


〈ジュリアスは妹ポリーの酷い姿に一瞬、顔を背ける。〉


ミレーネ「大丈夫ですの?」


ポリ―「手当てはもう終わったから〈微笑む〉」


ジュリアス「〈その声で向き直り〉全く嫁入り前の娘が!医務室に行かなくていいのか?」


レウォン「すみません、そう言ったのですが……」


ポリー 「医務室には母様がいるから、あそこで手当てをしたら、また騒ぎになると思ったのよ。だから薬だけを取ってきたの。大丈夫!みんな、気にし過ぎよ」


ミレーネ「でも、かなり怪我をしているのが見えましたわ」


ジュリアス「この後は自分がレウォンの相手をします。ポリーは少し休んだ方がいい」


ポリー「本当に平気だってば!」


レウォン「いや、ジュリアス殿の言う通りだ。これから長期戦になるかも知れない。体は大切にして欲しい。ジュリアス殿、かたじけない」


ミレーネ「私はポリーを連れてお城の本館へ戻りますわ。ジュリアス、レウォンにタティアナからの手紙の件とボリスのことを話しておいて頂戴ね。ポリーには私が話しますから」



[8]ー城 ボリスの牢


ボリス「頼む、姫様をここへ。それが無理ならジュリアス様かポリー様を」


牢の番人「うるさいぞ。怪しい行動をしたと聞いている。疑いが晴れるまで、ここでとりあえず、おとなしくしていることだ。どうしても言いたいことがあるなら、私が姫様に伝えよう」


ボリス「それには問題があまりに複雑すぎる」


牢の番人「私には言えぬというのか?」


ボリス「〈考えあぐねていたが意を決して〉では、一つだけ頼む。ミリアム王子がを持っている。見た目はのようなものだ。それだけでも取り返して来てくれ。いや、とにかく厳重に保管して欲しい。それは危険な物なのだ。ミリアム王子が持っていてはいけない……〈そこまで言うと、がっくりと膝をつく〉」


牢の番人「何だと!そんな危ない物を王子様に渡していたのか?お前は本当に謀反を起こしていたのだな。牢に入れた時は、半信半疑だったが!恐ろしい男よ。〈辺りに向かって大声で〉謀反である!謀反である!」


〈近衛達が走ってくる。〉


牢の番人「こいつは謀反者だ!〈近衛の一人に〉すぐに武法所に連絡し、取り調べを頼みます。〈近衛の一人は連絡に走って行く。別の近衛に〉私はミリアム王子の所へ急ぎ、行ってきます」


別の近衛「どうしたのですか?」


牢の番人「一刻を争う。ここはしっかり見張っておいて下さい」


〈牢を出て城の方に向かう番人。一人の近衛がボリスの牢を見張っている。すると、武法所に報告に行き、急いでまた戻って来た近衛が、牢の入口の外で何かにつまずく。下を見ると、さっきまでここにいた牢の番人の死体。〉


戻って来た近衛「うわあああ!誰か来てくれ!」


〈ボリスの牢の前にいた近衛が悲鳴を聞き様子を見に行く。〉  



[9]ー城 ボリスの牢


〈外の声にはっと身を固くするボリス。牢のすぐ脇から現れる人影。〉


偽コウモリ「馬鹿な奴だ、お前は」


〈ぎょっとして偽コウモリを見るボリス。〉


偽コウモリ「聞かせてもらったよ。御蔭でミリアム王子の手にが渡ったことは分かったが、まさかグレラント様を裏切ろうとするとは……」


ボリス「〈牢の格子の近くへにじり寄り〉頼む。アイラとその家族の命だけは助けてくれ」


偽コウモリ「結局はアイラか。お前を捨てた女なのに。どのみち緑の国は亡び、この先、民にとっては地獄の日々になる……」


〈首をうなだれるボリス。〉


偽コウモリ「覚悟は出来ているだろうが、裏切りの対価は払ってもらう。謀反がばれた罪人が牢で自害したと皆は思うだろう」


〈格子の隙間から、ぐさっとボリスの腹を刺す偽コウモリ。倒れ、苦しむボリスの横に短剣を投げ入れる。〉


偽コウモリ「作戦は続行だ」


〈牢の前から姿を消す偽コウモリ。牢の中で倒れたボリスは、そばにあったマフラーへ必死で手をのばす。ノエルからもらった緑色のマフラーと青色のマフラーを何とか手元に引き寄せる。〉


ボリス「アイラ……。ノエル……ヨハン……」


〈マフラーを抱きしめ、こときれるボリス。そこへ戻って来る近衛。〉


近衛「何だ、今の音は?うわあ、ボリスも死んでいる!」


〈牢の中で死んでいるボリスと、そばに落ちている短剣。〉



[10]-城 城の庭

  

〈門から庭を通り、城の本館の入口へ向かうサイモン王子と外事大臣。鍛錬場から戻る途中のミレーネ姫とポリーが見つける。〉


ポリー「サイモン王子!」


〈二人、駆け寄る。〉


ミレーネ「ご無事でしたのね」


サイモン王子「はい、あの、クレアとヨハンがこちらにお世話になっているはずですが……」


ミレーネ「……ええ。無事にここで滞在していらっしゃいます」


サイモン王子「感謝致します。では、まず、私は急ぎ、王様にお目通りをさせて頂きます〈行きかける〉」


〈ポリーが姫を促すよう背中に合図する。〉


ミレーネ「……サイモン王子様、後ほど、少しだけお話させて下さい」


サイモン王子「分かりました」


〈外事大臣と王子は一緒に中へ入っていく。二人の後ろ姿を見るミレーネ姫とポリー。〉


ミレーネ「まず二人のことを聞かれたわ」


ポリー「まだヨハン君を自分の息子と思っているから仕方ないのよ。それより、王子と勇気を出して向き合ってね」


ミレーネ「出来るかしら……」


ポリー「“真実は眠らない”のでしょう?それにしてもサイモン王子はかなりやつれていたわね」


〈ミレーネ姫とポリーも、王子の後を追うように城の中に入っていく。〉



[11]ー城 王の部屋へ向かう廊下


サイモン王子(心の声)「ミレーネ姫。私からはお会いしたかったなどと口に出せない立ち場になってしまった……。変わらぬ美しい姿にもう一度会えただけで十分です……」



[12]ー城 王の部屋


〈サイモン王子と外事大臣から話を聞いたエトランディ王。〉


王様「本当に、が国の乗っ取りを企んでいるのか?姫の目を治した、我が国にとっては恩人であるぞ」


サイモン王子「それが、あの者の汚いやり口です。我が父も油断させられ、白の国は壊滅状態におとしいれられてしまいました。緑の国にも魔の手がのびてきております。すでに城内にグレラントの刺客が入り込んでいる可能性があり、急ぎ、お知らせしなくてはと参りました」


王「何!刺客が、この城内にと?」


サイモン王子「王様、姫様、王子様の身辺警護をくれぐれも怠りませんように、お願い致します」


王様「自国が大変な時によく知らせてくれた」


サイモン王子「いえ、こちらこそ、王様の多大なる援護で、白の国は今もまだ何とか持ちこたえております〈頭を下げる〉」


外事大臣「〈横から少し焦って様子で〉王様、グレラントの刺客かどうかは分かりませんが、実は……。お尋ね者であるケインが、名も姿も変え城内に潜入しているようです」


サイモン王子「〈驚き〉ケインが、まさか、ここにですか?」


王様「あれは死んだのではなかったのか?」


外事大臣「そう思われておりますが、どうも違うようです。さらに、あの者には恐るべき事情が隠されていることが判明しました。王様にお渡ししたに、その秘密が描かれていたのでございます。すぐにでもお話ししたかったのですが、いくさが始まって非常事態となってしまい、後回しになりましたことをお許し下さい」


王様「あの絵本は何を意味しているのじゃ?」


外事大臣「恐れながら、絵本に出てくる熊は先王様かと。産まれたウサギは、誰にも存在を知られていなかった、先王の実のお子様のようです。その事実を知った亡き先王の後添えである奥方様、つまり王様の義理のお母様がお怒りになられ、20年前、その赤子を殺すように命じられました。ここまでが絵本に隠されていた昔話です。しかし、その子は殺されず生きていた。民政大臣が赤子を密かに隠し育てていたのでございます」


王様「外事大臣、お前は一体、何を言いだす?」


外事大臣「王様も、麗山荘でお傍にいた女人と先王様が仲睦まじかったことを、お聞きになられたことがございませんか?」


王様「それで、そのことがケインと、何の関係がある?まさか、お前はケインが、その先王の息子であると!?」


外事大臣「民政大臣の元から行方知れずとなった後、グレラントの闇の世界で育ち、残念なことに、こうしてになったようです」


王様「何と……」


外事大臣「これも全て、民政大臣の落ち度と思われます。先王の後妻であられた奥方様のお言葉に従っていれば、今、このような危機は免れたのではないのでしょうか?」


王様「うーむ。王家の血をひく者がとは民に顔向け出来ぬ。白の国にも王子の護衛剣士として入り込んでいた男だ。サイモン王子を危険と隣り合わせにさせてしまった元凶は実は我が国だったというのか……。何とも面目ない」


サイモン王子「王様は、何もご存知ではなかったことです。どうかご自身をお責めになられませぬように。〈外事大臣に〉分かったのは最近のことなのですね?」


外事大臣「はい。まだ、昨日のことでございます」


サイモン王子「なぜ、ケインが今、緑の国にいると思うのですか?見かけたとでも?それならば、なぜ捕まえなかったのですか?」


外事大臣「私が見たのは民政大臣の家が火事になって、燃えている家の中にあの者が入って行く時でした。大騒ぎの中、一瞬の出来事で……。焼け跡に死体が一体あったので、民政大臣かケインなのかはっきり確認してから、この話を王様にと考えていたのも事実でございます。その後は、まだ姿を見ておりません。ただ、城内に刺客の可能性ありと聞き、もはや一刻の猶予もないと、私が知り得たことをお伝えさせて頂きました。サイモン王子様の前で誠に申し訳ございません」


王様「いや、いい。サイモン王子と我々とは、もはや運命共同体。これは両国にとって必要な情報じゃろう。了解した。ケインと刺客が同一人物であれ、別の者であれ、何にせよ危険人物じゃ。すぐに城をあげて曲者を探し出せ!」


外事大臣「御意!」


王様「外事大臣、この件をよく突き止めてくれた。情勢が落ち着いたら、もっと詳しく話を聞かせて欲しい」



[13]ー城の廊下 王の部屋の近く


〈ミレーネ姫とポリーがサイモン王子が出てくるのを心配そうに待っている。そこへ近衛が一人、走って来て王様の部屋に向かう。近衛を呼び止めるミレーネ姫。〉


ミレーネ「何かあったのですか?」


近衛「牢にいたボリスが自害しました」


ミレーネ「!?」


近衛「その直前に、謀反をおこしたと白状していたそうです」


〈報告のため、近衛が王の部屋に入る。ミレーネ姫とポリーが顔を見合わせる。〉


ポリー「ジュリアス達に伝えてくるわ」


〈鍛錬場に走って行くポリー。〉




#2へ続く


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