第9話 伝説の忘珠 #1

シーズン2 第9話 伝説の忘珠 #1


[1]ー《緑の国》城の森の奥 神秘の木の近く


〈ミレーネ姫とレウォンが話し続けている。〉


ミレーネ「では、白の国でサイモン王子は今、どうなっていると思いますか?のろしが上がった、あの国で……。魔王グレラントの計画では、王子様の役割は何でしたの?」


レウォン「サイモン王子は、姫様を白の国へおびきよせるためのにすぎなかったのです。もし、結婚して、白の国へ行っていたら、姫様はにされて一生、幽閉の身だったでしょう。魔王グレラントは、この首飾りと、その力を引きだせる姫をとても警戒し、とにかくその両方を手に入れようとしていたのですから」


ミレーネとレウォン「〈二人同時に〉聞いてもいいですか?」


レウォン「姫様がお先に」


ミレーネ「あの……私とサイモン王子の結婚話があったということは、サイモン王子には誰か妻に当たるような人や子どもはいなかったのですね?」


レウォン「何の話ですか?僕が知る限りでは、そのようなことは何も……。あっ、でも……」


ミレーネ「何ですの?」


レウォン「サイモン王子の母であるお妃が亡くなったことはご存知ですか?」


ミレーネ「はい」


レウォン「その頃、町でサイモン王子の良くない噂がたっていました。でも、昔の話です」


ミレーネ「良くない噂……〈顔を曇らせる〉」


レウォン「〈黙った姫を見て〉僕も質問しても良いですか?この首飾りの石は、姫と僕、他に誰か力を引き出せる人がいるのですか?例えば、姫と同じく、王家と妃家の両方の血をひくミリアム王子は?そうであれば、魔王グレラントに狙われることを警戒しなければなりません」


ミレーネ「〈その質問にはっとなり〉ミリアム……」


〈その時、ポリー達より先に戻って来るコットンキャンディー。〉


ミレーネ「二人には伝えられたの?」


コットンキャンディー「ピピ」


ミレーネ「有難う〈頭をなでる〉」


レウォン「コットンキャンディーは本当に姫の言葉が分かるのですね」


ミレーネ「ええ。この子は特別なのです」


〈そこへ走って来たジュリアスとポリー。レウォンを見つけ、皆の前でもレウォンに抱きつくポリー。〉


ポリー「レウォンさん!!」

               

〈少し戸惑いながらも、受け止めるレウォン。二人を見守るミレーネ姫とジュリアス。〉


レウォン「ポリー……」


ポリー「〈泣きながら〉生きていてくれて有難う」




[2]ー緑の国 国境の森


〈緑の国の近衛隊を指揮している外事大臣。その元へ、先に前に進んでいた近衛が馬を飛ばして戻って来る。〉


近衛「外事大臣、森の奥の白の国側が大変なことになっています。白の国の王子の部隊と、得体の知れぬ兵士たちの間にすさまじい戦いが起きていて、今、王子より援護を頼まれました!」


外事大臣「〈回りの近衛達に〉急ぐぞ!〈報告に来た近衛に〉このまま城に行き、王様にも伝えてくれ」


近衛「かしこまりました。〈城へ向かう〉」


〈前進する外事大臣。森のかなり奥まで行くと、まだ倒木により道がふさがれており、先に到着した近衛達が必死で倒木を撤去し道を通している最中である。木々の間を通して白の国側の人影が見えてきている。〉


外事大臣「サイモン王子、聞こえますか?サイモン王子!」


近衛「外事大臣がここまで来ておられることを伝えてまいります」


〈馬から降り、倒木を乗り越えて行く近衛。数分後、奥からサイモン王子と近衛がよろめきながら出てくる。〉


外事大臣「サイモン王子!」


〈馬を降り側に行く。〉


外事大臣「お怪我は?」


サイモン王子「私は大丈夫です。外事大臣、緑の国に薬師として訪れた男の正体が、グレラントという魔王でした。すでに白の国は乗っ取られてしまい、我が国の次は、緑の国が狙われています。何とか、ここで食い止めなければなりません!」


外事大臣「分かりました。王様の元へはすでに現状を知らせるために護衛が向かいました。サイモン王子様も我が国の城へ避難いたしましょう!」

              

【サイモン王子の回想:戦っている白の国の民やヨーム公の私兵の姿。弓矢で応戦している近衛副隊長ウォーレス。】


サイモン王子「申し訳ありませんが、私だけ、民を犠牲にして助かる訳には行きません。戦っている民の元へ戻ります。王様へは外事大臣からも、くれぐれも援軍を宜しくとお伝え下さい。それから、かたじけないのですが、兵糧もお願い致します。グレラントの味方以外には、白の国の中に全く食料が行き渡らぬ状況です」


外事大臣「食糧の調達もお任せ下さい。しかし、王子様をお連れしなければ、姫様がどんなに悲しまれるか知れません」


【サイモン王子の回想:ミレーネ姫の美しい笑顔。】


サイモン王子「私は姫様のためにも、緑の国を全力でお守りしたいのです。戦いが終われば、お会いすることも叶うでしょう。外事大臣、私の気持ちをお察し下さい」


〈道が完全に開通する。そこへ緑の国の弓矢を持った近衛隊も外事大臣の元へ到着する。サイモン王子の馬を連れた、白の国の味方の兵も前から駈けて来る。その馬に飛び乗るサイモン王子。〉


外事大臣「〈近衛隊に〉サイモン王子の援護にすぐ取り掛かれ。〈サイモン王子に〉どうぞ、ご無事で!こちら側は私がお守りします。緑の国に手出しはさせません!」


サイモン王子「有難うございます。お願いします」


〈そのまま白の国へ戻っていくサイモン王子。近衛隊の一部がそのままサイモン王子の後を追い白の国へ向かう。残りの近衛隊は外事大臣と一緒に国境を突破されないよう緑の国の守りにつく。〉

       


******白の国



[3]ー《白の国》 国境近く


〈魔王グレラントの国防軍と、サイモン王子の私兵や民衆が戦っているが、どちらも疲弊してきている。必死で矢を射る近衛副隊長ウォーレス。〉



[4]ー白の国 石造りの城


〈手下から戦況の報告を聞く魔王グレラント。〉


魔王グレラント「五蛇いじゃ剣法の使い手は、今、城に何人残っておる?」


手下 その1「私ともう一名、待機しております」


魔王グレラント「ふむ。城まで、今すぐ、王子の私兵が攻め込んでくるとは思えぬ。ひとまず、矢を放って邪魔をしているというを始末しろ。あいつは一人で、随分と好き勝手にやりおるようじゃ。今すぐ五蛇剣法使い二人で行き、済んだら急ぎここへ戻れ」


手下 その1「はっ」


〈そこへ別の手下が入って来る。〉


手下 その2「グレラント王様。今、緑の国より隠密が到着しました」


魔王グレラント「何?サイモン王子が、もう緑の国の城へ行きついたという知らせか?」


手下 その2「いえ、そちらは、まだかと思われますが、ケインのことです。現在、首飾りを持ったまま、緑の国の城の中に潜んでいるそうです」


魔王グレラント「そんな所におったか。灯台もと暗しじゃな。しかし、緑の国の者たちは、なぜ、あいつを野放しにしている?」


手下 その2「ケインは記憶を失い、別の名を名乗っている上、見た目も全く以前とは別人のようであるため、まだ気づかれていないと思われます」


魔王グレラント「なるほど。記憶を失っておるのか。それでは、どちらに転ぶか分からぬな。うまく、こっちの世界に素直に戻ってくれば、それはそれで使い勝手があるが……。あいつは五蛇剣法が使えるだけに敵に回しては危険も多い。ふむ。ここは欲張らず、あいつは捨て駒にした方が良いな。ケインから首飾りだけは奪い取り、確実に殺すよう伝えろ」


手下 その2「はっ」


魔王グレラント「ずっと闇の中だけに生きていたケインをわしは信用しておったが、今は分からん。わしの知らぬ間にあいつが何を見て、何を経験したのか……。とりあえず、ミレーネ姫とミリアム王子の方はは生け捕りにせよ。この二人は、首飾りもない今、無防備で利用しやすい切り札。ひ弱な者たちは、脅かしや暴力で簡単に操れるというものだ」


手下 その1「弓の名人を処理したら我々も緑の国へ参りますか?」


魔王グレラント「いや。緑の国には、すでに五蛇剣法の使い手一名とを送り込んでおるから必要ないはず。ならしっかり仕事をしてくれるだろう」



[5]ー白の国の国境近く


〈弓矢をつがえている近衛副隊長ウォーレスの回りに、突如として国防軍の奇襲部隊が集まってくる。さらに、その後ろから、魔王の手下二人が馬で駈けてきて、ウォーレスに襲い掛かる。突然のことでウォーレスの弓は間に合わない。剣を抜き、向き合うウォーレス。相手は五蛇剣法の使い手。二対一の直接対決となるが、さすがのウォーレスもまず左足をやられてしまう。とどめを刺されそうになった時に、魔王の手下一人の胸に矢が刺さる。もう、一人の手下にも矢が腕に刺さり、その手下は城へ逃げ帰っていく。弓をつがえた近衛隊が、サイモン王子と一緒にウォーレスの元へ走ってくる。〉


サイモン王子「ウォーレス殿!」


近衛副隊長ウォーレス「サイモン王子……〈左足から血を流している〉」


サイモン王子「しっかり!ウォーレス殿がここで踏みとどまってくれたので、国境の道が通じ、今、緑の国から続々と援護が来てくれています。もう、大丈夫です」


近衛副隊長ウォーレス「サイモン王子も逃げなくては……」


サイモン王子「傷に障ります。今は静かにされた方がいい」


〈一台の台車が近くを通りかかる。〉


近衛「サイモン王子様、副隊長を運べる台車があそこに!〈台車引きに向かって〉ここへ来てくれ!」


サイモン王子「良かった。とりあえず、ヨーム公の屋敷まで運ぼう」


〈台車が来る。すでに台車に寝かされている人達を見るサイモン王子。〉


サイモン王子「この者達は?」


台車引きの男「道端で倒れていた怪我人です。一人は意識がはっきりしていますが、もう一人は虫の息で助かりますかどうか……」


サイモン王子「〈虫の息の男の顔を見て〉お前はコウモリ!なぜ、ここに!」


近衛副隊長ウォーレス「〈思わず起き上がり〉コ…コウモリ??アイラと緑の国へ行ったはずでは?〈痛む足を我慢しながら、コウモリの顔を見て〉私が会ったコウモリと顔が違う!サイモン王子、この者が本当にコウモリなのですか?」


〈頷くサイモン王子。〉


近衛副隊長ウォーレス「アイラが危ない!いますぐ緑の国へ行かねば!あっ……〈怪我をしたところから、血がしたたり落ちる〉」


サイモン王子「〈周りにいる近衛達に〉副隊長を頼む。私は緑の国の城へ急ぎ、刺客としてがすでに緑の国に潜入していると伝えて参る!〈ウォーレスに〉このことは私に任せて下さい」


〈台車にのせられた近衛副隊長ウォーレスは守られながら、ヨーム公の屋敷へ向かう。サイモン王子は馬で数名の私兵と再び国境へ向かう。残った近衛隊と王子の私兵が近辺を制圧しにかかる。〉



******緑の国


[6]ー《緑の国》城の森 奥深く 神秘の木のそば


〈座り込んで話しているミレーネ姫、レウォン、ジュリアス、ポリー。皆の中央には白の国からボリスが持ち込み、ジュリアスに渡したガラス瓶が置かれている。〉


レウォン「そのボリスさんという人が、本当に、この瓶を持っていたのですか?」


ジュリアス「うまく盗んできたような話だったが……」


レウォン「おかしいですね。ガラス瓶など、お宝の贋作を作る場所には外部からは簡単に潜入できないはずです」


ポリー「だから、ボリスさんはアイラさんの無実をはらすために命がけで頑張っていたのよ」


レウォン「初めはそうだったかも知れない。しかし、魔王グレラントは自分に必要な人間を取りこむ能力にけています。そして、目を覗きこまれたら最期、どんな人間も洗脳されます。あのグレラントはを巧みに操ってくるのです。僕がそうされてしまったように……」


【レウォンの回想 1:レウォンの子ども時代 森に捨てられて小舟で流された朝               


魔王グレラント『〔手をさしのべて〕一人ぼっちで怖かったろう。一緒に来ればもう一人きりじゃない。食べ物もどっさりあるぞ」

〔頷き、魔王の手を握ってしまう幼いカノン(レウォン)。〕】


【レウォンの回想 2:レウォンの子ども時代 魔王グレラントのアジト


魔王グレラント『私の言うことを聞いて、いい子にしているんだ。そうしたら必ず、父さんと母さんが迎えに来てくれる。何でも全部言う通りにするんだよ。いいね?』

〔目を覗きこまれ、頷いている幼いカノン(レウォン)。〕 】


ミレーネ「でも、ボリスは子どもではなく大人よ。自分の意思をもっとしっかり持てるはずではなくて?」


ジュリアス「ただ……もし、ちょうどその頃、好きだった女性が、別の男の人の子どもを産んだことを知ったとなれば?」


ポリー「確かに、すごく好きだったからこそ、かなり気持ちは複雑で揺れたはず!」


ミレーネ「待って、待って頂戴。好きだった女性が子どもを産んだって?一体、二人は誰の話をしているの?」


ジュリアス「まだ、この目で本当に無事を確かめるまでミレーネには何も言えなかったのだが、アイラさんとタティアナさんは白の国で生きている可能性がある」


ミレーネ「何ですって!」


ジュリアス「アイラさんは副隊長との子を産み、実は……その子が今、この城にいるヨハン君らしい」


ミレーネ「ヨハン君はクレアさんの子ではないの?」


ポリー「そこが、よく分からないのよ。どういう事情で、クレアさんの息子ということになっているのか。でも、ヨハン君があの人を母親と信じているから、簡単には口に出来なくて……」


ジュリアス「この話を持ち出すにしても、ヨハン君の気持ちを傷つけないように慎重に進めなくてはね」


ミレーネ「ああ……〈体の力が抜ける〉」


ミレーネ(心の声)「サイモン王子の子どもではなかったわ……」


ポリー「ミレーネ、大丈夫?」


ミレーネ「ノエルはこのことを知っていますの?」


ポリー「まだ、何も知らないみたい。ボリスさんがノエルさんに何も言わないことも少し変なんだけど」


レウォン「とりあえず、ボリスさんが魔王グレラントの一味でないかどうか、そこは疑ってかかった方がいいと僕は思います」


【ミレーネ姫の回想:ほんの少し前 レウォンと二人で話していた時


レウォン『……この首飾りの石は、姫と僕、他に誰か力を引き出せる人がいるのですか?例えば、姫と同じく、王家と妃家の両方の血をひくミリアム王子は?そうであれば、グレラントに狙われることを警戒しなければなりません』 】


ミレーネ 「ミリアムが心配だわ。ボリスは今、どこにいるの?」


ジュリアス「それが、自分たちも、さっきから気にしていたのだが……」


ポリー「どこへ行ったのか、姿が見えないのよ」


レウォン「皆、一度、城の中へ戻るべきですね」


ミレーネ「ええ、そうですわね。〈レウォンに〉護衛の中には少し、あなたを怪しんでいる者もいます。さきほども、一人の護衛が、私に気を付けるよう進言してきましたの。くれぐれも素性がばれないように動いて下さいね」


レウォン「分かりました」



[7]ー森から城へ戻る道


〈皆で城へ戻りながら話している。〉


ポリー「城で誰かにレウォンさんがケインと見破られたらと思うと怖いわ」


レウォン「僕のことは心配いらない。火事からもこうやって生還出来ただろう?君のお父さんを助けられなかったことは申し訳なかったが……」


ジュリアス「母だけでも助けてもらって感謝しているよ」


ミレーネ「今は、とにかく迷いを捨てて、魔王グレラントに立ち向かうことだけに集中しましょう……。かなり厳しい状況になるはずですから」


〈皆がこれから立ち向かう相手の手ごわさに思わず押し黙り、しばらくそのまま歩く。〉


レウォン「〈急に〉そう言えば!シスターダリルから手紙を預かっていました。〈ふところから出す〉ここへ着いたらすぐ渡すつもりが……すみません。姫様に渡せば分かると言われていたものです」


〈受け取って手紙を見るミレーネ姫。〉


ミレーネ「ジュリアス、タティアナからダリルに宛てた、昔の手紙よ!」


ジュリアス「探していたものが見つかったということか!」


レウォン「そんなに大切なものだったのですね」


ポリー「〈レウォンと顔を見あわせて〉そうみたい」


〈そこへ、城の中から護衛や従者、女官が走り出てくる。〉


皆「「「姫様!皆様!どこにいらっしゃったのですか?大変です!」」」



#2へ続く

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