第8話 交錯する運命の糸 #1
シーズン2 第8話 交錯する運命の糸 #1
[1]ー《緑の国》城下町 民政大臣の家 玄関の前の道
〈燃えている家の前で立ち尽くしているジュリアス、ポリー、末娘アンと女中ステラ。家の中には父である民政大臣と母ナタリー、そして助けに入ったレウォンがいる。3人が出てくるのを皆が待っている。その時、家の裏の方で何かが崩壊した音がする。〉
ポリー「何の音?」
ジュリアス「裏だ!裏へ回ろう!」
〈家の裏へ回る道を走る二人。後を追うステラとアン。道の向こうから一人でフラフラと歩いて来るナタリー。〉
アン「母様だ!」
〈ポリーがナタリーを抱き留める。〉
ジュリアス「〈同じく駆け寄り〉母様!」
女中ステラ「奥様!ああ、よくぞ、御無事で……」
〈アンも母の足に抱きつく。〉
ポリー「父様とレウォンさんは?」
〈フラフラしていて、何も答えないナタリー。ポリーはステラにナタリーを預け、さらに家の裏手へ走り出す。ポリーと一緒にジュリアスも行く。〉
[2]ー民政大臣の家 裏の方
〈燃えている家。崩れ落ちた屋根の一部。〉
ポリー「〈泣きながら〉父様!レウォンさん!」
ジュリアス「父上!レウォン!」
〈二人の姿はどこにもない。燃えさかる炎。町の消防班の人達が裏にも回って来る。ジュリアスも手伝いに加わり、進められる消火作業。一向に収まらない火の勢い。〉
ポリー「レウォンさん……」
[3]ー城 客用の応接室
〈足に包帯をして座っているノエル。その周りで遊んでいるヨハンとミリアム王子。少し離れてクレアが座っている。そこへボリスが入ってくる。〉
ボリス「〈ノエルに〉足の具合はどうですか?」
ノエル「随分良くなりました。姫様が王様に頼んで、私も一階の客室を使わせて頂いております。遠い使用人部屋では何かと不便だからと気遣って下さったのです」
〈ヨハンがノエルのそばに寄って来る。〉
ヨハン「僕、早く良くなるように、ノエルさんの足を撫でてあげるんだ。〈怪我をしている足をそっと触り、次に怪我をしていない足を触りながら〉こっちの足はしっかり揉んであげる!」
ノエル「〈頭をなで〉小さいのに、私のお世話をしてくれるのよ」
ヨハン「だって、僕の命を助けるために怪我したんだもん」
〈ヨハンを抱きしめるノエル。〉
ノエル「いいのよ。ヨハン君が負担に思わなくても……」
〈ノエルとヨハンのやり取りを嫌な顔をして見ていたが、ついに耐えられずクレアは声を掛ける。〉
クレア「ヨハン、こちらへ。さあ、お父様の好きな絵を描きましょう」
〈ミリアム王子も側に行って、二人で絵を描き始める。部屋にミレーネ姫が入って来る。〉
ミレーネ「ボリス、ここでしたの?〈クレアに会釈して〉クレアさん、何かお困りのことなどはございませんか?」
クレア「温かいお心遣いにいつも感謝致しております。白の国への援護はいかがなりましたでしょうか?」
ミレーネ「今日に限って二人の主要な大臣が城におらず、少し命令系統に支障が出てしまいました。遅れてはいますが、何とか夜までに緑の国から武隊を派遣できますように私も願っております」
クレア「有難うございます」
ミレーネ「ノエルは無理をせず、大事にしていて頂戴ね。ボリス、今、少し話せるかしら?」
ボリス「はい」
〈ミレーネ姫と元・従者ボリスは部屋を出る。〉
[4]ー城 書架室
〈二人きりで向いあい座っているミレーネ姫と元・従者ボリス。〉
ミレーネ「ボリスには、聞きたいことが多くあるのです。まず、青の国から一緒に来たレウォンはどうなりましたの?道中に襲って来た一味は何者だったのですか?」
【ボリスの回想:数時間前 森
〔レウォンが殺した、謎の一味の死体を見るジュリアス、ポリーとボリス。
ジュリアス『ここで見たことと、これから行うことはくれぐれも極秘にして欲しい』】
ボリス「物盗りだったようです。全員、始末されました」
ミレーネ「レウォンを狙ったのではなかったのですか?」
ボリス「〈歯切れ悪く〉多分、あの者が持っていた物を狙ったのではないかと……」
ミレーネ「レウォンは今、どこにいるのです?」
ボリス「ジュリアス様の家です。少し、痛手を受けておりましたので」
ミレーネ「城で手当てすれば良かったものを。なぜ、ここに連れて来なかったのかしら?お蔭で、皆が城に集まれず、王様に詳しく報告も出来ないままですわね」
ボリス「きっと皆様、間もなくお城に参られると思います。それより、姫様、クレアさんですが……あまり信用されぬ方が宜しいかと思います」
ミレーネ「まあ、なぜですの?サイモン王子がお世話になった方ですわよね?」
ボリス「城を乗っ取られたサイモン王子は、クレア殿の父上であるヨーム公にお世話になっていらっしゃるのは確かですが……」
〈歯切れが悪い物言いのボリス。〉
ミレーネ「何か困ったことでもあるのですか?」
ボリス「姫様とサイモン王子様は、ここ緑の国で少し前に恋仲だったと聞きました。今、私が言えることは、どうぞ王子様を何があっても最後まで信じてさしあげて下さいということです」
ミレーネ「ボリス?」
〈そこへドアを激しくノックする音。〉
女官長ジェイン「姫様、大変です!南の窓から外をご覧下さい」
〈書架室を出て、城下町を臨む窓の所へ行く。城下町の真ん中ほどに、モクモクとした黒煙が上がっているのが見える。〉
女官長ジェイン「民政大臣の家が火事です。様子を見に行った者から、家は全焼だと聞いております」
ミレーネ「何ですって?皆は無事なの?」
女官長ジェイン「民政大臣と、青の国から来たレウォンという男の行方が分からぬということです」
〈思わず顔を見合わせるミレーネ姫とボリス。〉
女官長ジェイン「それから、国の西側にある辺境の村より白の国でのろしが上がったとの報告が入りました」
[5]ー城 王の部屋
〈急いでミレーネ姫が入って来る。〉
ミレーネ「お父様!白の国で内戦が始まってしまいましたわ!」
王様「分かっておる。今、やっと外事大臣が戻って来た。すぐ任務に着かせたから、姫も落ち着かぬと思うが、ここは報告を待って様子を見よう。それより、民政大臣の家が火事だという話は聞いたか?」
ミレーネ「はい。一体、どうして、そのようなことになってしまったのかしら……。あの、行方不明が二人と聞きましたが遺体はまだないのですよね?」
王様「いや、今、焼け焦げた死体が一体あると報告が来た。ナタリーの様子がかなりおかしいようだ。城の医務室に連れてきている」
ミレーネ「では、皆も城へ着いたのですか?」
王様「ジュリアスとポリーがさきほど報告に参った。ポリーは青の国へ勝手に姫と連れ立ったことも詫びておったぞ。二人とも家は焼け、家族もあんなことになり、かなり気落ちした様子じゃ。城で、末の妹と女中も一緒にしばらく面倒を見ることにする」
ミレーネ「お父様、有難うございます」
[6]ー城 王の部屋の前 廊下
〈王の部屋から出て来たミレーネ姫に、一人の近衛が近づいてくる。〉
近衛「ミレーネ姫様」
ミレーネ「青の国から戻って来る時に、近衛として一緒にいた者ですね。どうしたのですか?」
近衛「ご報告すべきか迷ったのですが、どうも引っかかることがありまして、姫様にお伝えしておいた方が宜しいかと……」
[7]ー城 王の部屋
〈ミレーネ姫が部屋から出た後、一人で机に座って考えごとをしているエトランディ王。〉
【王の回想:少し前 王の部屋
〔麗山荘から戻って来た外事大臣に、白の国に対する、至急援護の命令を下す王。〕
外事大臣『分かりました。任務から戻りましたら、王様のお耳に入れたい大事なお話がございます。これを〔絵本を渡し〕それまでお預かり下さい。先王様に関わる大切な絵本にございます』 】
〈手の中の絵本をじっと見ている王。〉
[8]ー城の廊下
〈話を聞いた近衛と別れ、医務室へ向かいながら、不可解な表情を浮かべ歩いているミレーネ姫。〉
ミレーネ(独り言)「一人で一度に何人も倒すことが出来たとは。それほど強いレウォンって、何者なのかしら……」
[9]ー城の医務室
〈薬で眠っているナタリー。心配そうに、その回りにいるジュリアス、ポリー、ステラとアン。〉
[10]ー【ポリーの回想:家の焼け跡 1時間ほど前】
〔町の消防班の人が中を確認している。〕
消防班員『遺体は一名です』
〔泣いているポリー。肩を抱くジュリアス。〕
ジュリアス『父ですか?』
消防班員『行方の分からぬ二人は体の大きさや背丈が似ているそうですね。遺体は損傷が激しく、見分けは難しいと思われます』
ジュリアス『どちらにしても父上かレウォンが亡くなってしまった……』
ポリー『あの、焼け跡に剣が残っていませんでしたか?』
消防班員『いえ、そのようなものは見当たりませんでした』
[11]ー城 医務室
〈焼け跡を思い出していたポリー。〉
ポリー(心の声)「レウォンさん、剣が見つからないということは、あなたが生きているの?剣を持って逃げているということかしら?そうならば、お願い、逃げずに姿を現して!父様……。本当に亡くなってしまったの?お別れする最後の最後まで責め続けてしまって……」
〈ベッドで眠るナタリーの手を握り、上掛けに顔をうずめるポりー。放心していたようなジュリアスもやっと今、妹のアンが持っているものに気づく。〉
ジュリアス「アン、その絵は?」
アン「火事になる前に、母様がこれを窓から捨てたのよ。私が拾っておいたの。だって、母様が大事にしていたのに……」
ジュリアス「そうか。全部燃えてしまって、それだけが残るとは」
アン「本当にみんな燃えちゃったの?私のお人形も、母様のオルガンも?父様は?父様はどこにいるの?〈泣きだす〉」
〈ポリーがアンを抱きしめる。〉
ポリー「アン、今は母様が良くなることだけを考えましょう。母様に元気になって欲しいわよね?お人形は、また買ってあげる。だから、泣かないで」
アン「〈小声で〉父様に会いたい」
ポリー「私もよ。アン、私も父様に会いたい!」
〈ジュリアスがポリーの背をなで、そばにいたステラおばさんも涙をこぼし、そっとハンカチで目頭を押さえる。そこに扉を開け、ミレーネ姫が入って来る。〉
ミレーネ「ポリー!ジュリアス!」
******白の国
[12]ー《白の国》 ヨーム公の館
〈私兵や武装した民衆を前に命令を下すサイモン王子。〉
サイモン王子「良いか。まず、緑の国への道を奪還する。成功すれば直ちに私がそのまま前進し、緑の国へ向かう。エトランディ王に物資と軍勢の援助を頼むつもりだ。それまで何とか持ちこたえて欲しい」
皆「〈拳を振り上げて〉おお!」
サイモン王子「皆の者!いざ出陣!」
〈館の門が開けられ、皆がどっと外へ繰り出し、緑の国との国境の道に向かう。〉
サイモン王子(心の声)「こんな形で姫の元へ向かうことになるとは。やはり、あの巨大な流星は凶兆だったのか……」
[13]ー白の国 石造りの城
手下「グレラント様!王子が動き出しました。城ではなく、緑の国へ通じる道へ向かっています」
魔王グレラント「勝手に出ていかせては、まずい。すぐ兵士達を向かわせて阻止しろ。催眠をかけた者から順に送り込む」
〈国防軍に志願した者達で、すぐ戦いに使えそうな人間から一人ずつ、目を覗き込み催眠術をかけていく魔王グレラント。〉
手下「思いのほか相手は大勢のようです」
魔王グレラント「国境を突破させてはならん!もう、こいつらも連れて行け!」
〈催眠術をかけていない兵士も国防軍として集める。〉
魔王の手下「食べ物が欲しければグレラント王のために戦え!勝利品も多く出るぞ!」
兵士達「「「おお!」」」
〈城から飛び出していく国防軍の兵士達。〉
[14]ー白の国 石造りの城 王家の隠し通路
〈必死で這いつくばりながらも出口に向かうタティアナとアイラ。〉
タティアナ「アイラ……。私には、もう無理です」
アイラ「もう少しです。どうか頑張って」
タティアナ「〈首を振り〉姫様の首飾りについて私が話したことを覚えていますね」
〈頷くアイラ。〉
タティアナ「ミレーネ姫にお会い出来たら必ず伝えるのです。そうすれば、白の国と、緑の国が滅亡してしまうことを防げるかも知れない。さあ、一人でお行きなさい。〈女王からの手紙を取り出そうとして〉これも、あなたが持っていた方がいいでしょう」
アイラ「〈その手をそっと戻して〉緑の国へ帰る時は一緒だと決めていたではありませんか?こんな通路に大事なお母さんを置き去りにして、私が行けるはずがありません。タティアナさんは私の母で、ヨハンの祖母です。手紙もお母さんが持っていて下さい。きっと出口はもうすぐです。一緒に頑張りましょう、最後まで」
タティアナ「アイラ……」
アイラ「ヨハンを奪われた時も、あの子から引き離されて城の牢に閉じ込められた時も、私には絶望しかありませんでした。でも、女王様のお力添えで、再び、こうしてヨハンの元に行き、あの子を取り戻せる可能性が出て来たのです。あきらめそうになる私を、ずっと励ましてくれたのはお母さんでしょう?」
〈アイラとタティアナはしっかり手を握る。ゆっくり少しずつまた二人で進みだす。〉
[15]ー白の国 小屋 井戸のところ
〈馬で駈けてきて様子を窺う近衛副隊長ウォーレス。〉
近衛副隊長ウォーレス「〈井戸を覗き〉アイラ!タティアナさん!」
〈すると物陰から一人の男が出てくる。〉
近衛副隊長ウォーレス「〈身構え〉何者だ?」
男「サイモン王子から私のことはお聞きになっていませんか?女王の隠密のコウモリです。女王様から亡くなる前に言いつかっており、ここに参りました」
近衛副隊長ウォーレス「ああ、お前がコウモリ……。来てくれたのか?女王様のことは、お悔やみ申し上げる。二人は、まだのようか?」
男「少し前から待っておりますが、もう少し時間がかかりそうです」
〈遠くの方で、
近衛副隊長ウォーレス「いよいよ始まったか」
男「あっ、今、中で何か物音が」
近衛副隊長ウォーレス「本当か?私には何も聞こえぬ」
男「〈耳を澄ませて〉確かに、何か動くものがこちらへ近づいています」
[16]ー王家の隠し通路
〈必死で最後の細い通路を腹ばいながら、進む二人。〉
アイラ「この先に光が!お母さん、出口ですわ!」
タティアナ「ああ、神様!」
[17]ー隠し通路の出口 井戸の上
男「今、確かに人の声がしました!」
近衛副隊長ウォーレス「〈中に向かって〉アイラ!タティアナさん!」
[18]-隠し通路 井戸
アイラ「ウォーレスさんの声よ!」
〈井戸の壁に開いた横穴から、上を見上げるアイラ。横穴から落ちないように顔を出して上に声を掛ける。〉
アイラ「本当にウォーレスさんなの?」
近衛副隊長ウォーレス「〈井戸の底へ向かって〉アイラ、無事なんだな。タティアナさんは?」
アイラ「一緒よ。ここにいるわ」
近衛副隊長ウォーレス「〈横にいるコウモリに〉二人とも辿りついてくれた!」
男「さあ、早く引き上げましょう。〈下に向かって〉今から井戸の桶を降ろします。綱に掴まれますか?」
アイラ「私は出来ますが、タティアナさんが一人で掴まり続ける体力は残ってないわ」
男「二人一緒は無理です」
タティアナ「アイラ、先に行きなさい」
アイラ「でも……」
タティアナ「ここに二人でいても、二人とも助かりません。まず、あなただけでも上にあがるのです」
近衛副隊長ウォーレス「アイラ、ここまで来たのだ。あきらめないでくれ」
〈促すようにアイラの背中をそっと押すタティアナ。〉
アイラ「お母さん、必ず上に引き上げる方法を考えるから待っていて」
〈降ろされた桶の綱を握りしめ、上に吊りあげられていくアイラ。井戸の外へ二人に抱えられ引っ張り上げられる。〉
近衛副隊長ウォーレス「アイラ!」
〈抱き合う二人。〉
近衛副隊長ウォーレス「よく、ここまで生き延びてくれたよ」
アイラ「どうしても、あなたに伝えたかったの!ヨーム公の館で小さい男の子を見たでしょう?あなたの子よ!」
近衛副隊長ウォーレス「何だって!あの子が?サイモン王子の息子ではないのか?」
【ウォーレスの回想:館で会った可愛いヨハンの姿。】
アイラ「訳あって、今はそういうことにしているの。私達の子どもが王子の息子の替え玉になった理由を記した手紙があるのよ。亡き女王様が書いて下さったわ!」
近衛副隊長ウォーレス「ああ、アイラ!」
#2へ続く
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