第7話 父の告白 #2

第7話 続き #2


******白の国


[14]ー《白の国》 石造りの城 女王の部屋 バルコニー 


〈白の国の旗を掲げていたタティアナとアイラがいったん旗を下へ降ろし、二人は台の上にいる女王と抱擁する。そして、タティアナとアイラは部屋の中へ消える。〉



[15]ーヨーム公の館 王子の部屋 


〈窓から城のバルコニーをじっと見守るサイモン王子と近衛副隊長ウォーレス。〉



[16]ー石造りの城 女王の部屋の前 廊下


〈魔王の手下たちが扉を叩き、鍵がかかっている扉を壊そうとする。〉


手下達「「「開けろ!」」」



[17]ー石造りの城 女王の部屋 バルコニー


女王「民よ!私の、この姿を目に焼き付けるのです!」


〈城のバルコニーの上にある大時計がゴーン、ゴーンと鳴ると同時に、侍従に向かって頷く女王。大時計の針に掛けられた縄の輪に首を入れる。〉


女王「〈小声で従者に〉最後まで世話を掛けました」


女王の侍従「女王様!私もすぐ参ります!〈台を引く〉」


〈大時計が鳴り響く中、吊り下がった女王の首吊り死体。その下に立ち、泣きながら白の国の旗を再び掲げる侍従。そこへ扉を蹴破った手下がなだれ込み、侍従はその場で殺される。部屋を見回す手下達。〉


手下 その1「他には誰もいないぞ」


〈吊るされた女王の死体を見上げる手下達。〉


手下 その2「どうする?」


手下 その3「しばらく、さらし者にするか?」



[18]ー白の国の街の中


〈城に向かって歩いていた人達。大時計に吊るされた女王の姿を見つけ固まる。〉



[19]ーヨーム公の館 王子の部屋


〈窓の所でがっくり膝をつくサイモン王子。〉


近衛副隊長ウォーレス「〈横からそっと支え〉サイモン王子様……」



[20]ー石造りの城の周り


〈新王の兵隊になろうとあちらこちらから集まって来ていた人達が、大時計に吊るされた女王の死体を見て泣きながら、地面にひれ伏す。〉


民衆「女王様!」



[21]ー石造りの城 中庭の食堂


〈中で食事をしていた人達も、外の騒ぎに気付き、食べ物を手にしたまま、門の外に出て来る。〉


民 その1「何だ?」


民 その2「何かあったのか?」


〈皆がひれ伏している先の吊るされた死体を見つける人々。〉


民 その1「あああ!」


民 その2「女王様!」


〈ひれ伏していた者が横に来た民に気づく。〉


民 その3「おお、お前は隣組の!」


民 その1「やはり志願しに来たんだな」


民 その3「中にいたのか?俺は今、女王様の最期の言葉をここで聞いていた。何がどうなっているのか、よく分からんが、俺たちが恐ろしいことに巻き込まれているのは確かだ」


〈ぶるっと震える民その3。〉


民 その3「〈民その1が手に持つ食べ物に気付いて〉中には食べ物があるのか?さっき、ここに着いたばかりで数日間、何も食べていないんだ」


民 その1「これを少し食べるがいい」


〈他の者達も食べ物を持っている者から分けてもらい、少し食べる。そこへ着いた人達が加わり輪が出来始める。〉


民 その2「中には食料がたんまりある」


民 その3「女王様のために“供え物”もしたい」


民 その1「そうだな」


〈少し元気になった者が大勢中へ入り食べ物を外へ持ち出そうとする。何人かは食べ物を持って外へ出る。何人かは捕まる。〉


魔王の手下「お前たち、勝手な真似をすると容赦せぬぞ!」


〈混乱を極める城の門のあたり。〉



[22]ー石造りの城 中庭の食堂を見下ろす階段


〈魔王グレラントの一行が上から下りてくる。〉


魔王グレラント「何の騒ぎじゃ?」


手下「女王の遺体を見た民達が、弔いの供え物をすると言って、食料を持ち出しております」


魔王グレラント「何!?すぐ門を閉めろ!女王の亡骸を早く下ろせ!」



[23]ー白の国 石造りの城へ向かう道


〈遠方から来ていた人達が足を止めて城の大時計を見ている。〉


民 その4「女王様!」


民 その5「何と恐ろしい姿……」

               

〈別の集団が来る。〉


民 その6「城に行くのが、おっかなくなった」


民 その7「新王は本当に信用出来るもんかね?」


民 その8「王子が密かに決起の時期を見計らっているという噂を聞いたぞ」


〈また、別の一団が合流する。〉


民 その9「王子となら俺達の国を取り戻せるのか?」


民 その10「王子の元へ急ごう!」



[24]ー石造りの城の前 広場


民 その1「なんで門を閉めるんだ?!」


民 その2「あれを見ろ!」


〈魔王の手下によってバルコニーから撤収される女王と侍従の遺体。広場では中と外から大勢の人がまた出たり入ったりしようとして、門を閉めようとする手下と小競り合いになる。〉


民 その3「我々に女王の御遺体を!」


民 その1「ここで我らの手による弔いを!」


〈広場にいる民達はひれ伏し叫ぶ。無情にも閉められる城の門。〉



[25]ー石造りの城 城の中


〈外の様子を気にする魔王グレラント。そこへ手下が入って来る。〉


手下「女王の部屋から、女王と一緒にいた二人の女たちがいなくなっております」


魔王グレラント「城のどこかに隠れ、この混乱に乗じて逃げ出すつもりじゃな。しかし、今は雑魚ざこどもに構っておれぬ。あの民達は何なんだ!!」


手下「グレラント様の国防軍に志願していた者の多くが城外に出てしまいました。中に残っている者も少なからず動揺しているようです」


魔王グレラント「うーむ、あの女王、死してのちに風向きを変えるとは!遺体はどうした?」


手下「ひとまず地下室に運びました。城の前の広場にいる者達はどうしますか?」


魔王グレラント「全員皆殺しにしたいところだが、そうすれば余計に大勢の民衆を操るのが難しくなる。くそっ、あと一息のところを!」



[26]ーヨーム公の館


〈サイモン王子がやっと顔を上げ、あふれる涙をぬぐい、立ち上がる。〉


サイモン王子「ウォーレス殿、最期の女王の姿を見ましたね。緑の国の二人を抱きしめ、その後……」


近衛副隊長ウォーレス「二人は我々の視界から消えました。部屋に残ったとは考えられません。どこへ行ったのでしょう」


サイモン王子「秘密の隠し通路です。女王の部屋にかけられた一枚の絵の裏に、王族しか知らぬ秘密の抜け道があります」


近衛副隊長ウォーレス「では、二人はその通路を?」


サイモン王子「おそらく、そこを使って逃げようとしているに違いありません。〈地図を指し〉無事に脱出出来れば、この場所にたどりつくはず。〈地図にある小屋の絵を見せ〉庭にある井戸の壁に横穴があり、そこが隠し通路の出口なのです」



[27]ー石造りの城の隠し通路


〈アイラとタティアナが暗がりを蝋燭の燭台で照らしながら少しずつ進んでいる。まず、曲がりくねった階段を下り、途中から迷路のようなところに入っていく。道は細かったり険しかったり、かなり大変な様子。〉



[28]ー【タティアナとアイラの回想:数日前 石造りの城 女王の部屋】


女王『あの絵が隠し通路への扉です。絵を押して、中に入り内側から鍵をかければ、こちらから開けることは出来ません。追手の心配なく脱出することが可能です』


タティアナ『女王様も一緒に参りましょう』


女王『隠し通路には難所が多い。私の老いた身体で出口にたどりつくのは無理でしょう。それに私は、最期まで、この国の女王としての役割を果たさねばなりません。そなたの話がまことなら、緑の国の姫の首飾りが両国を救う唯一の切り札となる。そなた達は何とか生き延びて必ず姫に会うのです』


〔頷く二人。〕


女王『〔アイラに〕ヨハンのことは申し訳ないことをしました。クレアは私の提案を御国のためにと聞き入れてくれたのです。あの娘に非はありません。〔タティアナに〕王子とクレアへ私からの手紙です。あなたに預けます』】



[29]ー石造りの城からの隠し通路 続き


〈必死で抜け道を進むアイラとタティアナ。難所でアイラがタティアナを助ける様子。〉



[30]ーヨーム公の館 王子の部屋


サイモン王子「ウォーレス殿は二人を助けに、この小屋へ行って下さい」


近衛副隊長ウォーレス「しかし、それではサイモン王子様をお守りする約束が果たせません」


サイモン王子「女王がバルコニーで二人を隣に立たせ我が国の旗を掲げさせていた。それは、あの人達が我が国にとって大切な存在と伝えたかったのだと思います。あの二人を守ることも、きっと意味があるはずです」


近衛副隊長ウォーレス「サイモン王子様……」


サイモン王子「頼みましたよ」


〈そこへ私兵の頭が部屋に駆け込んでくる。〉


私兵の頭「サイモン王子様、大変です!」


サイモン王子「今度はどうした?」


私兵の頭「外を見て下さい!」


〈再び窓の所に走り、急ぎ外を見る。館を取り巻く大勢の民の姿。〉

              

民 その1「女王様のかたきを!」


民 その2「前王様の仇を!」


民 その3「俺達の白の国を取り戻すぞ!」


〈どんどん民衆の数が増え、その声が大きくなる。感激に打ち震えるサイモン王子。〉




******緑の国


[31]ー《緑の国》民政大臣の家の前 道


〈城へ戻るために城下町を馬で外事大臣が通りかかる。民政大臣の家の前に一人でいる、末娘アンに気が付く。馬を止め、降りて話しかける。〉


外事大臣「一人でどうしたの?」


アン「あっ、おじちゃま、こんにちは。母様の様子が変なの。この絵……おじちゃまがくれた絵でしょ?」


〈アンが手にしていたる絵を見せる。先日、ナタリーに外事大臣が贈った、‟民政大臣の家族が庭で集う”、18年ほど前の絵である。頷く外事大臣。〉


アン「ずっと大切にしていたのに、急にもう見たくないって、さっき窓から母様が捨てたの。それで、私が急いで拾いに来たのよ」


外事大臣「どうして捨てたのかい?」


アン「〈絵の中のカノンを指して〉この子が帰って来たの。でも、とても怖いんだって」


【アンの回想:民政大臣の家 居間 少し前

ナタリーがレウォンに叫び取り乱した一部始終を、二階から降りて来て、陰で聞いていたアン。】


外事大臣「本当に、が帰って来たと言っていたのだね?」


アン「知らないお兄ちゃんが、おうちにいるんだけど、母様が『』って何度も呼んでいた。〈絵の少女を指して〉この絵を見てお話していた時、母様がおじちゃまに言っていたでしょ?この子はカノン。女の子の格好をしているけれど男の子で、それは誰にも内緒よって」


 

[32]ー民政大臣の家 居間


〈居間の方でステラが叫ぶ声。〉


女中ステラ「奥様、お止め下さい!旦那様!皆様、早く!」


〈奥の客室から走り込んでくる民政大臣、ジュリアス、ポリーとレウォン。そこに火がメラメラとついた布きれを持って立ち尽くすナタリーの姿。ステラはクッションでバンバン叩いて火を消そうとするが火はついたままである。〉


ポリー「きゃああ!母様!」


ジュリアス「水だ!〈台所へ走る〉」


ナタリー「〈レウォンを見て〉ほら、火でいぶせば、隠れていた鬼が出て来た!〈レウォンを指で差し、その後、気がふれたように火のついた布を振り回す〉」


民政大臣「ナタリー、落ち着け。お前がずっと待っていたカノンだぞ」


ナタリー「私のカノンは森で死んだのよ!あ、熱い!」


〈ナタリーの手に布の火が触れ、思わず布を離し、放り投げた先にカーテンがあり、火が燃え移ってしまう。ジュリアスが台所から桶で水を持ってきて、必死で水をカーテンにかけるが間に合わない。〉


民政大臣「いかん。まず皆、外へ逃げよう」


〈あっという間に激しい勢いで広がる火の手。一緒に玄関まで向かうが、玄関の手前で急にナタリーが気づく。〉


ナタリー「アンは?アンはどこ?」


ステラ「ああ!さっきまで、二階にいらっしゃったのですが」


ジュリアス「何だって!アン!」


ステラ「アン嬢ちゃま!」


ナタリー「〈奥の客室の方の廊下を指差し〉ああ、あの子があそこで私に助けを求めている!アン!行かなくちゃ!〈きびすを変えて奥へ向かう〉」


民政大臣「ナタリー!!〈追いかけて奥へ行く〉」


ポリー「母様!父様!〈自分も追いかけようとする〉」


ジュリアス「だめだ!ポリー!」


〈レウォンとジュリアスで、ひきずるようにポリーを外へ連れ出す。〉



[33]ー民政大臣の家の前 道


〈家の中から上がる火の手に外事大臣が気づく。〉


外事大臣「大変だ、火事だ!〈大声で近所に聞こえるように〉民政大臣の家が火事だ!」


アン「母様!〈中へ行こうとする〉」


外事大臣「〈抱きかかえて〉行っちゃだめだ!」


〈そこへジュリアスとポリー、レウォン、女中ステラが玄関から出て来る。〉


ジュリアス「アン!ここに、いたのか!」


〈ステラがアンを抱きしめる。〉


ポリー「じゃあ、父様と母様は?」


レウォン「助けに行かなくては!」


〈一瞬、レウォンの袖を握り引き留めるポリー。その手を無理に離すレウォン。〉


レウォン「〈上着の下から首飾りを出して、ポリーに見せ〉この力を信じている。〈ジュリアスに〉ポリーさんを頼みます!」


〈燃えさかる家に一人で飛び込んでいく。〉


ジュリアス「レウォン!」


ポリー「レウォンさん!」


〈近所の人達が集まって消火活動を始めるが、かなり火の勢いは強い。〉


外事大臣「〈アンに小声で〉カノンは今のお兄ちゃんのことだね?」


〈絵を両手に抱えたまま頷く末娘のアン。〉


外事大臣(心の声) 「この目の前にいたのが、先王の息子なのか……。火の中に飛び込んでしまったではないか……」



[34]ー民政大臣の家 奥の客室の方 廊下 


〈燃える家の中でアンを探しているナタリーと民政大臣。〉


ナタリー「アン!」


民政大臣「アン、どこだ!」


〈助けにいくレウォン。〉


レウォン「アンちゃんは外にいました。無事です。さあ、急いで出ましょう」


民政大臣「こんな私達のために火の中を来てくれたのか……」


〈三人は玄関の方へ向かおうとするが、途中で廊下の天井が崩れて来る。〉


レウォン「奥の部屋へ!」


〈三人は奥の客室に行き、出窓を開け、そこから逃げようとするが、窓の鍵が固く閉まったままで開かない。〉


レウォン「さっきまで開いたのにどうしたんだ!」


〈鍵をガチャガチャと必死で開けようとするレウォン。部屋の扉は閉めてあるが、廊下で火がパチパチと燃え広がる音がして、煙が扉の隙間から入り込んで来る。〉


民政大臣「窓の鍵が開かぬのは、家が火事のせいでひずんでしまったせいかも知れない」


〈うぉーうぉーと吠えるような声をだして、部屋をぐるぐる回り、おかしくなっているナタリー。煙がどんどん部屋に充満してくる。〉


民政大臣「王子を道連れにしてしまうようだ。〈煙でむせながらレウォンを見つめ〉どんな形であれ、本当は生き延びて欲しかった……」


レウォン「民政大臣、ジュリアス殿もポリーさんも気持ちは同じ。父親である貴方にどんな形であれ生きていて欲しいはずです!」


民政大臣「〈つぶやくように〉人生は、運命という大きな手に操られた、はかない夢物語だな……」               


〈ひどくなる煙にむせながら、出窓から離れ、部屋の中を見るレウォン。見回すと、レウォンはタオルの入った洗面器とレックスの剣を見つける。急いでタオルを民政大臣に渡し、自分は剣を手に取り、左手に力を込め、胸元の首飾りの石も同時に握るレウォン。首飾りの石が鮮やかに光り出す。剣を構え、出窓の所に再度近寄るレウォン。〉


レウォン「やあああああ!」


〈剣を突き立て、出窓を打ち破る。その姿に朦朧もうろうとしかけていた民政大臣もはっと我に帰る。外の空気も部屋に入ってくる。〉


レウォン「さあ、早く!ここから出ましょう〈持っていた剣を破った窓から外へ投げ捨てる〉」


民政大臣「ナタリー、しっかり!〈ナタリーの頬を叩く〉」


〈まず二人でナタリーを出窓から外へ出そうとする。後ろではもう扉が燃え、火の手が部屋に入り込んできている。レウォンが左手でナタリーを抱え、民政大臣が後ろから押し上げ、レウォンとナタリーが出窓に上がり、一緒に外へ転がり出る。ナタリーを地面におろしたレウォン。二人に続き、出窓から外へ出ようとする民政大臣。民政大臣の手を掴み、出窓から大臣が降りるのをレウォンは助けようとする。その時、火の熱が回り、弱くなった部屋の天井が二人の上に崩れてくる。〉


民政大臣とレウォン「「わああああ!」」




※第7話 終わり

              


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