第7話 父の告白 #1

シーズン2 第7話 父の告白 #1


[1]ー《緑の国》 城下町 民政大臣の家


〈走って家に入るジュリアス。居間では女中ステラが母をなだめているが、そのまま奥の客室に向かう。客室の前の廊下に民政大臣がいる。〉


ジュリアス「父上!」


民政大臣「しっ……」



[2]ー民政大臣の家 客室


〈泣いているポリーと、手を握りあっているレウォン。〉


レウォン「自分の運命が呪わしいよ。だけど、一つだけ、救われた……。僕が、君の代わりをしたというならば、このおぞましい人生を君が知らずに済んだということだね」


ポリー「そんな……そんなこと、言わないで!」


レウォン「本心だよ、ポリー。こんな罪深い僕にも存在する理由があったと……。だけど、これから、どうすればいいんだ?僕はグレラントの陰謀を知っている。あいつは、まず白の国を乗っ取り、次に、この緑の国を手に入れる計画だ。あいつの最終目的は、この豊かで資源に満ちた、緑の国なんだよ」


ポリー「ああ、早く何とかしなくては!ミレーネに全てを話して、王様にお伝えしてもらいましょう」


レウォン「ポリー。僕はこの国の王妃殺害に手を貸している。この間は城で大事件も起こした。マリオさんという民も巻き添えにした許されざる者だ。お城で協力させてもらえるはずがない」


ポリー「レウォン……。じゃあ、グレラントとの戦いが終わるまで、ケインだったことは隠してレウォンとしてやり通すの。あなたが緑の国を救えば、ミレーネや王様だって、きっと少しは考慮して下さるわ!あ……」


〈その先を促すような顔のレウォン。〉


ポリー「ミレーネは私達より嗅覚が鋭いから、普通では分からないあなたの独特の匂いに気付いてしまうわ」


レウォン「やはり、もうこれ以上、正体を隠したままではいられない。グレラントは悪の化身のような奴だ。中途半端な気持ちではあいつとの戦いに勝つことなんて出来はしない」


〈扉を開けて民政大臣とジュリアスが入って来る。〉


民政大臣「そこまで決心しているのなら全てを話そう」


ポリー「父様!」


レウォン「民政大臣!」


ポリー「〈民政大臣に詰め寄り、バンバンと叩き〉父様!どうして!どうして、レウォンさんに、こんな仕打ちを!私を守るためだったのでしょう?でも、悪魔に魂を売るような真似だけは絶対してはいけなかったのよ!!」


ジュリアス「〈ポリーを引き離しながら〉落ち着くんだ、ポリー」


ポリー「まず謝ってよ!レウォンさんを生き地獄へ落とすなんて!!」


民政大臣「〈がっくりと膝をつき〉娘の言う通り、どんなにお詫びをしても許されるものではないことです。レウォン……いやユランティス王子……」


ジュリアス「ユランティス?」


ポリー「王子??レウォンさんが王子??」


レウォン「民政大臣、血迷られたのか!?」


民政大臣「間違いなく、この方は、今の王の腹違いの弟であり、王家の血筋なのだ。この因縁は今から約20年ほど前にさかのぼることになる」




******民政大臣の告白 その1 18~19年前の話


[3]ー【19年前 民政大臣の家】


〔当時の民政大臣の家 外は嵐。熱で苦しんでいるナタリー。〕


文官(若き日の民政大臣)『ナタリー、大丈夫か?』


ナタリー『あなた……。もう、だめ……』


〔ベッドの脇で、女中ステラのエプロンを握りしめ泣いているジュリアス(子ども時代)。ステラもハンカチで涙をぬぐう。そばで難しい顔をして立っている医術師。〕


文官『先生!』


医術師『非常に危険だ。覚悟しておいた方がいい』


〔それを聞いて、外へ飛び出す文官。嵐の中を狂ったように歩いていく。〕


文官『〔吠えるように〕どんなことがあってもナタリーを死なせるものか!』



*父の語り「私は絶望にかられながらも、一縷の望みをかけ、あの薬師のもとを訪れてしまったのだ」



[4]ー【19年前 どこか遠い山奥の洞窟】


〔遠い山奥の洞窟を訪ねる文官(若き日の民政大臣)。そこに怪しげな薬師魔王がいる。〕


薬師魔王『ほお。熱病の妻を助けたいと……』


文官『お願いします。どんなことでもします。私の、この命を捧げてもいい!お金が足りなければ、何度でも、どれだけでも持って来ます。どうか……』


薬師『そんなものは、いらぬ。お前に息子はおるか?その子をもらおう』


文官『息子ですか……』


薬師『〔薬の瓶を渡しかけた手を引っ込め〕何でもすると言ったくせに出来ぬらしいな?では、話は終わりだ」


文官『次に……!次に生まれた子を差し上げます』


薬師『〈じっと顔を見て〉いいだろう』


*父の語り「それが、若い私が結んでしまった悪魔との契約だった。あの時の私は、まだ見ぬ子どもよりも、ナタリーやジュリアスを守ることしか願っていなかった。もう、次の子どもをすことは望まなければいい。浅はかな私はそうとまで考えていた。しかし、この時すでにナタリーのお腹には新しい命が宿っていたのだ」



[5]ー【18年前 緑の国の城  先王の後妻の部屋 】


*父の語り「その後、私は先王の後妻である奥方おくがた様に仕えていた。そして、あの日、私は奥方様に呼び出されることになった」


亡き先王の後妻『麗山荘にいた女中が、極秘で、亡き王の子どもを産んだというのはまことか?』


文官(若き日の民政大臣)『私からは何も申し上げることは出来ません』


亡き先王の後妻『皆で後妻の私を馬鹿にしおって!』


〔手当たり次第に物を投げ、怒り狂う後妻。〕


亡き先王の後妻『皇太后も、王様もこの世を去り、皇太子がエトランディ王になったとはいえ、まだ何も出来ない若さ。では今、誰が実権を掌握しているのか?この私ではないか!それを、皆、分からぬと見えるな!』


文官『どうぞお怒りをお納め下さい。奥方様に私達は尽くすのみでございます』


亡き先王の後妻『はっ!言葉でなら、いくらでも言えること。その言葉がまことかどうか確かめようではないか。今すぐ、その赤子を探しだし、殺してここに連れて来なさい!』


文官『奥方様!』


亡き先王の後妻『子どもは男児と聞いておる。生かしておけばいつか謀反を起こさぬとも限らぬ。わざわいの芽は摘み取っておかねば!』


*父の語り「恐ろしい命令だった。しかし、当時は誰も亡き先王の後妻である奥方には逆らえぬ。私は、仕方なく、隠れて暮らす、その親子のもとへ行き、一歳半を過ぎたばかりのユランティス王子を母親から奪ったのだ」


******父の告白 その1 終わり




[6]ー城下町 民政大臣の家 奥の客室


〈レウォンとポリーとジュリアスが民政大臣の話を聞いている。〉


ポリー「何てことを……」


ジュリアス「女中だった母親はどうなったのですか?」


民政大臣「子どもを奪われたことを悲観して、その日のうちに命を絶ったと後から知った」


ポリー「ああ」


〈口を押さえて、レウォンを見るポリー。我慢しているレウォン。〉


民政大臣「しかし、私は連れて来た赤子を、どうしても殺すことなど出来なかった。納屋に隠し、ひとまず城へ戻ると、奥方が急死したという知らせが入っていた」


ポリー「なぜ死んだの?」


民政大臣「川遊びに出掛けていた奥方一行の舟が転覆したのだ。いつもは穏やかな流れの川が、その日に限って、突然、激流となり舟を飲みこんだと聞いている。それも、奥方の舟が通った時だけ、流れが突然荒々しく変貌したそうだ」


ジュリアス「母親の無念が通じたのか……」


〈ぼう然と聞いているレウォン。〉


民政大臣「これで、子どもを殺さなくて済むことになった。しかし、奥方は死んだとはいえ、まだ、奥方側についていた者達も多く城に残り、エトランディ王が若いことを口実に、強い勢力で幅を利かせていた。その中で、ユランティス王子の存在を明かす訳にはいかず、密かに私は王子を納屋から連れて帰り、我が家でかくまおうと決めたのだ。という女の子として」


【民政大臣の回想:幼いカノンの可愛い笑顔の姿。】


民政大臣「だが、私はあの時、本気で王子を救うつもりだったのだろうか……。当時、我が家ではポリーが誕生していた。顔を見れば、ポリーも何より愛しい我が子だ。私の心に薬師魔王との契りがあまりに重くのしかかってきた。何も代償を払わなければ、薬師は怒り、何を仕掛けてくるか分からぬ。私は苦境に陥っていた」


〈苦悩の表情を浮かべる民政大臣。〉


民政大臣「あの薬師魔王が約束を反故ほごにしてくれない限り、ジュリアスとポリーのどちらかを差し出すことになる。私の心に、が聞こえ始めたのは、その頃からだ。預かっている王子は元来、殺されるはずだった子どもだと。そして、誰も生きていることは知らないのだと」


〈皆が固唾を飲んで大臣の話を聞いている。〉


民政大臣「ついに約束の日が近づいて来た。薬師魔王から、乳離れする2才を過ぎたら、子どもを差し出すように言われていたのだ。ポリーが2才になる頃、王子は実際には3才を過ぎていただろう。何も知らずに二人を姉妹のように可愛がるナタリーの横で、私は毎日砂を噛むような気持ちを抱え、一人で悩み続けていた……」

 


******父の告白 その2  16年前


[7]ー【16年前 城下町 民政大臣(当時は文官)の家】


*父の語り「あれは、嵐の前の静けさという言葉通りの午後だった」


文官(若き日の民政大臣)『〈ナタリーに〉カノンを連れて森へ行ってくる』


ポリー『も!』


文官『ポリーは風邪気味だから、今日はお留守番だ』


ナタリー『天気が悪くなりそうよ、大丈夫?』


文官『少し遊んで、キノコを採ったら、すぐ帰ってくるよ』



[8]ー【緑の国 遠い森 16年前】


*父の語り「そして、あたりが暗くなり、雨が強く降りだしても、まだ私達は森から帰らなかった。」


〔雨の中、突然、森で一人ぼっちにされ、恐怖におののくカノン。〕


カノン『とうちゃま!!』


文官(若き日の民政大臣)『カノン、隠れて目立たぬように、ひっそり生きろ!生き延びるんだ!』


〔カノンの方を振り向き、雨でかき消さりそうになる声を必死ではりあげて、その後は振り向かず走り去る文官(若き日の民政大臣)。〕



*父の語り「やはり、どうしても薬師魔王に差し出すことなど出来なかった。私はカノンが誰かに拾われ、新しい人生を生きることを願い、置き去りにした。しかし、人生は思うようにいかない。何という因縁か。雨をよけようと、カノンが潜り込んだ小舟が流され、朝、着いたところが、薬師魔王の隠れ家の近くだった。お前を見つけたのは、まさに薬師魔王その人だったのだ……」



******父の告白 その2 終わり



[9]ー城下町 民政大臣の家 奥の客室


ポリー「そんな……」


レウォン「その辺りから、少しだけ思い出すことが出来ます。幼かったので、ほとんどあまり覚えてはいませんが。見知らぬ場所に乗っていた小舟が着き、どうしようと心細かった僕の手を、恐ろしい形相のおじいさんが掴み、眼をのぞきこんでいた。あの時から、僕の世界が変わってしまったのですね……」


ジュリアス「父上は薬師には何と説明したのですか?」


民政大臣「私は妻が産んだ子が双子で、一人を差し上げるつもりだったと言いはった。しかし、薬師魔王のところへ連れて行く途中で、その子が森で迷子になり、行方知れずになったのだと。その子が、薬師魔王との約束の子だったから、もう他の子は渡せない。探せるものなら探してくれと言い続けた。必死で探しても、見つからず消えてしまったのならば、どうしようもない。心の中ではそうなるようにと、ただ、ひたすら神に願ったのだ。だが……思えば、あの時、薬師魔王はすでにカノンを手にいれていた。だから、私もそれ以上咎められず、ポリーも差し出さずに済んだのだろう」


ポリー「父様は父様なりに皆を守ろうとしていたのね。誰にも言えずに……」


民政大臣「私は少し心の荷を下ろしたつもりでいた。ここから新たな苦悩が待ち受けているとも知らず……。神様は決して私をお許しになることなど、なかったのだよ。あの日以降、カノンを我が子同然に可愛がっていたナタリーは嘆き悲しみ、カノンを迷子にしてしまった私のことを責め続けた。責められても、もちろん薬師魔王との恐ろしい契りのことはナタリーに打ち明けられない。そして、少しずつ、私との間に溝が出来はじめ、ナタリーの精神は病んでいったのだ」


レウォン「……それほどまでに僕のことを可愛がって愛してくれていたのですね」


【レウォンの回想:城の庭 1か月ほど前 


〔ミレーネ姫を殺そうとしていた、剣士ケインである自分の姿。〕


聞こえるナタリーの声『お願い!殺さないで!もう、これ以上!誰も殺してはだめよ!私の、私の……大切なカノン!』 】


民政大臣「行方不明になった森にナタリーは何度も探しに出掛けた。結局、子どもの死体は見つからず、逆に無事だと言う証拠もなかったが、私もナタリーもカノンがどこかで生きていてくれることを信じ祈っていた」


レウォン「グレラントのもとで、僕が生きていると知ったのはいつですか?」


民政大臣「6年前だ。薬師魔王が、ついに緑の国の王家を狙った計画に着手するため、再び私に接触してきた。悪縁を呪ったが、協力すれば、家族も、薬師の元で生きているカノンも殺しはせぬと言われ、従うしかなかった……。その時にカノンを見つけた経緯も薬師魔王から聞いたのだ」


ポリー「〈泣きながら〉城の内通者は父様だったの?」


ジュリアス「王宝のガラス製品の数々を白の国へ持ち出したのも父上ですね」


レウォン「それらがグレラント一味の資金源にもなっていたのは事実です。白の国では再生ガラスを使い、全くそっくりの贋作を作る技術を発展させたのですから」


ジュリアス「すりかえたのですか?」


民政大臣「王宝の間の収納庫からお宝を数点持ち出しては、贋作が完成した後にまた本物は戻しておいたのだ。収納庫の点検の時期はすべて把握していたから簡単だったよ。だから、逆にばれることなく、ずっと続けてしまった……」


ポリー「父様が、そんな恐ろしいことに手を染めていたなんて……」


レウォン「偽物はひとつ原型が出来れば、それをいくらでも大量生産出来る。本物と偽り、かなりいい値で多くの国々と取引し、グレラントは巨額の富をため込むことが出来たはずです」


〈その時、居間の方で女中ステラの叫び声がする。〉


女中ステラ「来てください!奥様が!」




******白の国


[10]ー《白の国》ヨーム公の館 王子の部屋 


〈頭を抱えているサイモン王子。それを少し離れた所から見ているヨーム公、私兵のかしら、近衛副隊長ウォーレス。〉


私兵の頭「ヨーム公、王子が出来ぬのであれば、私共で起兵の決断をするしかありません」


近衛副隊長ウォーレス「城に民がぞくぞくと入って行くようです。このままでは、王子を逃がすことさえ難しくなってしまいます」


ヨーム公「娘と孫がまず無事に逃げられたことが救いです。ウォーレス殿、ここは我々が防ぐので王子と緑の国へ逃げて下さい」


近衛副隊長ウォーレス「しかし、私はまだ、ここを離れる訳には……」


〈急に庭で集まっていた私兵が騒ぎ出す。〉


私兵 その1「あれは何だ!」


私兵 その2「女王様だぞ!」


〈その声ではっとなり窓の所へ行くサイモン王子。〉



[11]ー白の国 石造りの城


〈バルコニーに出る女王。女王付きの侍従が台に乗り、バルコニーの上にある大時計の針に縄を掛けている。その横でタティアナとアイラが立ち、白の国の旗を掲げている。侍従が台の横で膝まづく。台に立つ女王。バルコニーから下に集まっている民衆に声を振り絞り伝える。〉


女王「白の国の民よ、聞こえますか?この城の中で起きていることをを知って欲しい。王は廃人にされました。別の場所にいる王子は命を狙われています。すべて新王と大臣の陰謀です。この城を乗っ取るがために!騙されてはなりません。そんな人たちが、この国を、あなた達たみを、本気で心から愛せると思いますか?この国と民を守りたかったのに守れなかった私の……これが最後の姿です!」



[12]ーヨーム公の館


サイモン王子「おばあ様!」



[13]ー石造りの城 廊下


〈魔王グレラントの手下たちが走る。〉


手下達「「「女王の部屋へ急げ!!」」」



#2へ続く

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