第6話 麗山荘の悲恋 #2

第6話 続き #2


[10]ー城下町 民政大臣の家 廊下 続き


〈睨み合っている民政大臣とジュリアス。〉


民政大臣「では、どうしろと言うのだ?お前に何を変えられる?」


ジュリアス「自分の無力さに、正直、嫌気がさしています。でも、少なくとも彼だけを犠牲にするつもりはありません。いえ、彼だけじゃない。精神が病んでしまった母様も、亡くなった王妃様、マリオ、タティアナやアイラ、皆、巻き込まれ犠牲になったではありませんか?その人達のために、自分達がすべきことが何かあるはずです!」


民政大臣「……」


ジュリアス「〈涙をこらえ〉ただ、父上をおとしめるような真似だけはしたくないのです。これでも……僕はあなたの息子ですから」

               


[11]ー民政大臣の家 客室


〈廊下に出ようとドアを開けかけ、そのままの姿勢で廊下の声に聞き耳を立てるボリス。〉



[12]ー山奥の田舎 麗山荘


外事大臣「すみません!」


麗山荘の管理人「ああ、さきほどの……。祖父から何か分かりましたか?かなり近頃ぼけてきておりまして、あまり会話にならなかったでしょう?」


外事大臣「はい、残念ながら、おじいさんから直接お話を伺うことは出来ませんでしたが……あの、〈絵本を見せながら〉あなたの娘さんが持っていた絵本をぜひ譲って頂きたいのです。お礼はいくらでもいたします」


〈門の外から中を覗いている子ども達。手には貨幣を持ち、皆、手の中のお金を見せ合っては笑っている。〉


麗山荘の管理人「祖父が、お遊びで描いた絵本です。気に入られたのなら、どうぞお持ちください」


外事大臣「知り合いの子どもが、さぞかし喜ぶ土産となります」


〈貨幣のたくさん入った袋を渡す外事大臣。〉



[13]ー山奥から城へ戻る道


 〈馬を走らせている外事大臣の姿。〉



[14]ー緑の国 城 王の会議室


〈部屋の中へ走ってくる姫。椅子から王とミリアム王子が立ち上がり、姫と抱き合う。後ろからクレアとヨハン、ノエルも続けて入って来る。〉


ミレーネ「お父様、御免なさい。ご心配をおかけして……」


王様「姫が、白の国の王子にどれほど会いたがっていたか。その気持ちは、この父にも察することが出来る」


〈後ろで控えているクレアが王の言葉にちょっと反応する。〉


王様「じゃが、一言も相談せず行ってしまうとは、少々寂しいものがあったぞ」


ミリアム「そうだよ、姉様だけ、勝手にお出掛けするなんて!」


ミレーネ「〈ミリアム王子の頭をなでながら〉本当に御免なさいね。皆に相談すると、返って決心が揺らぎそうで言えませんでしたの。でも間違っていましたわ。正式な手順を踏んで白の国を訪れるべきでした。そうすれば、多分レックスさんは、あのようなことには……〈こみ上げてくる涙をぐっとこらえる〉」


王様「報告は聞いておる。事故は姫のせいではない」


ミリアム「事故って?レックスに何かあったの?」


ミレーネ「まだ、ミリアム王子は知りませんのね」


〈頷く王。〉


ミレーネ「後でミリアムには、私から、きちんとお話しします。お父様、もう一つ心配な点が白の国の現在の状況です。それについては、ここにいるノエルと、こちら、白の国ヨーム公の娘クレアさんから直接聞いて下さい。サイモン王子様に危険が迫っていると考えられます。早く援軍をさしあげたいのです!」


〈ノエルとクレア、ヨハンが王の前に出て、深々とお辞儀をする。心配そうなミリアム王子の顔。〉



[15]ー城下町 民政大臣の家 奥の客室


〈うなされているレウォン。そばに付き添っているポリーと女中ステラ。少し離れて座って考えこんでいる様子のボリス。そこへジュリアスが入って来る。〉


ジュリアス「一度、お城に行って報告して来よう。父上も城へ戻ると言っている。ボリス殿も一緒に」


〈頷くボリス。〉


ポリー「私はここにいる。レウォンさんが目覚めた時、また自分のしてしまったことにおびえ苦しむと思うわ。そばについていてあげたい。お城にはまた日をあらためて、ご挨拶とお詫びにお伺いしますとジュリアスから伝えて」


ジュリアス「分かった」



[16]-城下町から城へ向かう道


〈民政大臣、ジュリアス、ボリスが城へ向かって歩き出すが、民政大臣が何か後ろ髪をひかれるように、自分の家の方を気にしている。ついに途中で家に戻ることを決意する民政大臣。〉


民政大臣「家に忘れ物をした。先に二人で城に行っておくれ」


〈一人でさっと引き返す民政大臣。その後ろ姿を見て、ジュリアスも何か胸騒ぎを覚える。〉


ジュリアス「ボリス殿、申し訳ない。先に行って王様に報告しておいてもらいたい」


ボリス「どこまで話せば良いのか、迷っております。ジュリアス様……実は私は、まだ誰にも話していない事実を知っています。ジュリアス様を信じて、まずその話をさせて下さい。私は〈袋から瓶を取り出しジュリアスに渡して〉この瓶を白の国で手に入れました。そして……タティアナさんとアイラさんが白の国で生きていることを知っております」


〈驚くジュリアス。〉


ジュリアス「タティアナさん達は本当に無事なのですね!?ああ……。〈力が少し抜ける。次に不思議そうに手の中の瓶を見つめ〉これは、王妃様殺害の時に現場にあった瓶とそっくりではないですか……」


ボリス「はい。私はタティアナさんとアイラさんは王妃殺害の犯人ではないと信じていました。それで、その無罪を証明するために、白の国でガラス瓶を調べ続けていたのですが驚くべき事実があったのです」


ジュリアス(心の声)「確か、副隊長と付き合う前にアイラさんはボリス殿と噂話があったが、ボリス殿はアイラさんのために、一人でここまで頑張っていたのか……」


ボリス「白の国では、緑の国のガラス工芸品の贋作が数多く横行おうこうしていました。その作成は決して公にならぬ、地下組織のようなところで極秘に進められていたのです。このガラス瓶は、緑の国の瓶そっくりに似せて作られ、亡き王妃様の毒殺時にも緑の国へ汚名を着せるため使われたのでしょう」


ジュリアス「白の国にそんながあったとは!」


ボリス「ただ、王様にそのことを申し上げれば、緑の国と白の国の手引きをした者の存在をきっとお考えになります。これほど多くの贋作が可能だったのですから。王様は血眼になって、その人物を突き止めるはずです」


ジュリアス(心の声)「まさか、その件も父が関わっているのか!?」


ボリス「このまま真実を追求しても宜しいのでしょうか?」


〈ジュリアスは覚悟を決めて答える。〉


ジュリアス「……良いのだ。王様に報告する時、自分達、家族に気遣いは無用と考えて欲しい。罪のない人達がこれ以上、むごい目に遭わないように」


ボリス「分かりました。それから、アイラさん達はまだ白の国から脱出出来ていませんが、妹のノエルさんと、アイラさんの子どもの命は無事に救えました。後から知ったらアイラさんは何より感謝するはずです。自分の命以上に大切に思っているはずですから」


ジュリアス「ボリス殿、アイラさんの子どもを救ったとは誰のことだ?」


ボリス「クレアさんと一緒にいる男の子です。クレアさんは、自分の子と偽って、その子と一緒にいます。ただ、アイラさんの子である事実は誰も知りませんし、アイラさんが生きて戻らぬ限り、その証拠は残念ながら何もありません」


ジュリアス「アイラさんの子どもということは、その子の父親は副隊長ですね?クレアさんはなぜ、そのような嘘を?」


ボリス「白の国の複雑な事情があるようです」


ジュリアス「白の国の複雑な事情ですか……」 

                 


[17]ー城下町 民政大臣の家 客室


〈眠っているレウォン。そばで座ったまま寝てしまったポリー。〉


【レウォンの夢:子供の頃 民政大臣の家の庭 


楽しげに遊んでいる子ども達。皆がそれぞれ持っている石をくっつけては、白色から青色に変わる様子を見て楽しく遊んでいる。


そこへ急に土砂ぶりの雨。誰かの手が幼いレウォンの手を掴み、どこかへ連れて行く。その時、レウォンは女の子の格好をしてと呼ばれている。


カノンであるレウォンを置き去りにして、走り去る男の人。追いかけて転び泣くカノン。男の人が振り返りながら、何か叫ぶ。川で小舟を見つけ、もぐりこみ眠るカノン。その小舟がゆっくり流れだし、朝になり、小舟は知らない場所に着いている。


降りしきった雨は止み、朝のまぶしい陽射しにカノンが目を開けると、誰かの手が差し出される。その手を握り、小舟から立ち上がるカノン。そして、つないだ手から上に目線を上げていくと、そこにはのおぞましい顔! 】



〈うわっとなり、悪夢から覚め、起き上がるレウォン。はーはーと荒い息を吐く。無意識に首飾りを触わり見つめる。気を失う前に聞いた言葉が蘇る。〉


レウォン「姫様の首飾り……」


〈姫の首飾りをそっと上着の下に隠し、ベッドから立ち上がる。そばの椅子で眠っているポリーは、よほど疲れていたのか、レウォンが動く気配にまだ気付かない。近くにある洗面器とタオル、そしてレックスの剣を見るレウォン。そこへ家の中の別の部屋からオルガンによる「カノンに捧ぐ」の曲の調べが聞こえてくる。〉


レウォン「この曲……。それに、この家の香り……」


〈誘われるように、フラフラと起き上がり歩きだすレウォン。〉



[18]ー民政大臣の家 居間の前の廊下


〈女中ステラがレウォンの着替えを持って客室に行こうとして、廊下にいるレウォンを見つける。まだ民政大臣達は戻って来ていない。〉


女中ステラ「〈レウォンに〉良かった、お目覚めになったのですね。ポリー嬢ちゃまが必死で介抱なさっていたんですよ」


〈ドアが開いているので、居間でオルガンを弾いているナタリーの姿がレウォンンの目に入る。〉


女中ステラ「この家の奥様ですよ。どなたにでも“カノン”と呼び掛けると思いますが、驚かずに……」


〈ステラが言い終わる前にフラフラと居間に入って行くレウォン。〉


女中ステラ「あの……!〈急いで客室の方へ走り〉ポリー嬢ちゃま!」

                


[19]ー民政大臣の家 居間


〈オルガンを弾きながら独り言をつぶやいているナタリー。〉


ナタリー「この曲はのために作った曲ですもの。あの子は目覚めるはずですわ」


〈オルガンの横に立つレウォン。〉


ナタリー「ほらね、やっぱり……。〈弾くのを止めて、レウォンの方に向き直り〉お帰り、カノン」


〈椅子から立ち上がり、レウォンを抱きしめるナタリー。ナタリーの首飾りの石と、レウォンのピアスの石が反応して、白から青に変わる。それを居間の鏡で見るレウォン。〉


レウォン「あ……」


〈鏡を凝視しているレウォンに気づき、ナタリーも自分の首飾りの青くなった石と、レウォンの耳のピアスの石を嬉しそうに見る。そっとレウォンの耳のピアスに触れるナタリー。〉


ナタリー「ね?家族ですもの。別れ別れになっても、きっと見つけてあげると言ったでしょ?」


〈放心状態のレウォン。〉



[20]ー民政大臣の家 客室


〈駈けこんで来る女中ステラ。〉


女中ステラ「ポリー嬢ちゃま!起きて下さい。ここで寝ていた男の人が起きて、居間の方に行きました」


〈ポリーとステラが居間へ急ぐ。〉



[21]ー民政大臣の家 居間 続き


ナタリー「まあまあ、こんなに髪も乱れてしまって」


〈椅子にレウォンを座らせ、自分は後ろに立つ。されるがままのレウォン。レウォンの髪をしばっていた髪紐をほどき、まず前髪をとこうと、櫛を持って前に回るナタリー。レウォンの前髪が顔の前に流れ落ちた、その姿を見る。〉


ナタリー「あ……あ……」


【ナタリーの記憶:自分の店で見た若者(剣士ケインの格好)。マリオの店にいた女。マリオを殺し、かつらを脱いで振り向いた顔!】


〈それは、今、目の前にいる、カノンでありケインであるレウォン。〉


ナタリー「きゃああああああ!」


〈櫛を放り出し、部屋の隅に逃げ込み、震えながらレウォンを見る。固まったままのレウォン。そこへ来るポリーと女中ステラ。〉


ポリー「母様!」


ナタリー「〈身を震わせて、レウォンを指差し〉マリオさんを殺した犯人よ!」


〈それを聞いてはっと我に返るレウォン。ポリーと目が合う。部屋の外へ走り出す。〉


ポリー「〈ステラに〉母様をお願い!」


〈レウォンを追いかけるポリー。〉



[22]ー民政大臣の家 客室


〈奥の客室に飛び込み、置いてあったレックスの形見の剣だけを持ち、出窓から逃げようとするレウォン。追いかけて来たポリーが力づくで引きずり下ろそうとする。〉


レウォン「〈引っ張られたまま振り向き〉君だって、僕がケインだと気付いているんだろ?お願いだ、行かせてくれ」


ポリー「記憶が戻ったのね。どこかに行って、どうするつもりなの?行くなら、私も一緒に行くわ!」


レウォン「〈いったん出ようとするのを止めて、窓から降り、胸に手を置き〉この首飾りを手に入れるためか?」


〈ポリーも力を緩め、そっとそのまま床にレウォンを座らせる。そして窓にはしっかり鍵を掛け、自分もレウォンの前に座る。〉


ポリー「馬鹿ね。手に入れたかったら、さっきまで眠っていたのだから、いくらでも奪う機会があったわ」


レウォン「じゃあ、なぜ?〈急にポリーを抱きしめる〉」


ポリー「レウォンさん!?」


〈体を離して、ポリーの耳のピアスが青く色が変わったのを確認するレウォン。〉


レウォン「青くなった……。やっぱり、君は妹なのか。だから怖がらないのか?殺人鬼でも、兄だから……」


ポリー「違う、違うのよ!」


レウォン「違うって……」


ポリー「あなたは、私が小さかった時に、父がどこからか連れて来て、家で預かっていた子どもなの。母様がとても不憫に思って、私より少し大きかったあなたに乳まで含ませたと聞いたわ。家族同然だったけれど、私とあなたの間には血のつながりはないのよ」


レウォン「じゃあ、僕は捨て子なのか?どこの誰とも知れぬ?」


ポリー「ジュリアスがいくら聞いても父はその先は教えてくれないそうよ。でも、大切な人から預かったとは言っていたの。父や母が守ろうとしていた貴方は、きっと、どこかの高貴な血筋だったはず」


レウォン「この僕が高貴な血筋だって?」


ポリー「あなたは、命を狙われていた。だから、と呼ばれ、女の子としてかくまわれていたの」


【レウォンの回想:幼い頃 森


土砂降りの雨の中、置き去りにされた自分。泣くカノンに男の人が必死で語りかける。

男の人の声『カノン、隠れてひっそり生きろ。何とか生き延びてくれ』 】


レウォン「あの子どもは……僕だった。でも、なぜ、僕はこの家からも捨てられ、グレラントの手下になったのか?」


ポリー「グレラントって薬師ゴーシャのこと?」


レウォン「そうだ。グレラントは、僕の幼い頃の記憶を催眠術で封印して、あいつの影の刺客として生きるように洗脳したんだ」


ポリー「ああ!やっぱり!レウォンさんは、そんな目に遭わされていたのね!で!〈泣き出す〉」


レウォン「君の身代わり?どういうことだ?」


ポリー「父が……グレラントと“悪魔の取り引き”をしてしまったの!!あなたがいなかったら、この……この私が〈自分をバンバンと叩きながら〉これまでレウォンさんが手を染めた恐ろしい罪をすべて犯したはずよ!〈震えながら自分の手を見つめ、泣きながら顔を上げ、その手でレウォンの肩に触れ〉あなたは!!」


〈号泣するポリー。啞然として、ただポリーを見つめるレウォン。〉



[23]ー緑の国 城 王の会議室


〈王とミレーネ姫が頭を抱えている。近衛隊長、他の大臣達、そしてボリスもいる。〉


王様「白の国がこんな大変な事態に陥るとは……。つまり近衛副隊長ウォーレスは、まだ白の国から戻れぬのだな?外事大臣と民政大臣やジュリアスは?あの者達は何をしておる?今、どこにいるのだ?」


近衛「外事大臣は今朝早くから麗山荘の方へお出かけです。」


王様「麗山荘だと?もう、さびれた古い別荘ではないか?何の用事があって、そんな辺鄙な所に?」


近衛「申し訳ありませんが、理由までは分かりかねます」


王様「民政大臣とジュリアスは?」


ボリス「それが、私と一緒にいったん家を出たのですが、忘れ物をしたということで、途中で引き返されました。すぐにまた、この後、お城へ上がられると思います」



※第6話 終わり


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