第5話 魔王君臨 #2
第5話 続き #2
[25]ー《白の国》 石造りの城 ミレーネ姫とノエル達が合流した日から数週間前
〈女王の部屋に魔王グレラントがやってくる。〉
魔王グレラント「先ほどの余興は何の真似だ?」
〈女王は黙ってグレラントを睨む。〉
魔王グレラント「馬鹿な王子だ。こんなことで弓の実力でも見せたつもりになっているのか?ヨームの館には、投げ文を入れた。女王の命が惜しければ、もう2度と馬鹿な真似をするなと」
女王「私は死ぬ覚悟でここに来ております。王子が何をしようと、それを止める権利は誰にもありません」
魔王グレラント「それでも
女王「私はまだ、しばらく生き延びるということですね。ではこの侍従の他に、女中二人を世話係として、ここに呼びます。」
魔王グレラント「女中二人とは、一緒に連れ帰って牢に入れた者達か?なぜ、牢に入れたのじゃ?」
女王「世話係として城に戻ろうと促した時、私と一緒に殺されると思ったのでしょう。館からここに移るのを嫌がったものですから、恩知らずな不届き者は牢にぶちこんだまでです。でも、そんな女中でも猫の手よりはましですからね。牢で少しは反省もしたでしょう」
魔王グレラント「女王は、この期に及んでも強気じゃな。まあ、残りわずかな余生。この隔離された城の中で気ままに過ごされよ。すぐに皆揃って、あの世へ旅立つことになるがのう〈高笑いする〉」
〈顔色を変えない女王。ちょっと顔を歪めた侍従。〉
[26]ー白の国 ヨーム公の館
近衛副隊長ウォーレス「女王様は私の願いを聞いて下さるだろうか」
サイモン王子「ウォーレス殿の弓の腕前を見て、私の部隊に必要な人と実感したはずです。そのためなら、ウォーレス殿の願い通り、タティアナさんとアイラさんのお二人を自分の側に置き、殺されぬよう守るでしょう」
近衛副隊長ウォーレス「何とか二人の命を繋ぎとめていれば、この先また救い出す機会もあるかも知れないと思っております」
サイモン王子「ただ、そのためにウォーレス殿をここに残すことになってしまいました。私としては心強いのですが、申し訳なくも感じております。これから、どんな内戦になるのか先が全く読めません」
近衛副隊長ウォーレス「城に残る二人がいる限り、私はここを離れません。王子様のお蔭で、二人を助ける可能性が高まりました。私は喜んで王子様のお役に立つよう戦います」
サイモン王子「ウォーレス殿、聞いても良いですか?タティアナさんとアイラさんとはどういう関係なのですか?」
〈そこへ護衛が来る。〉
護衛「王子様、大変です!民衆が大勢でこの屋敷に押し寄せてきております!」
サイモン王子「なに、民が?」
[27]ーヨーム公の館
〈門が閉じられて、中には武装している私兵が待機している。門の外では門を棒などで叩き、口々に『王子はここにいるんだろう!』『自分達だけで食糧を一人占めするな!』『卑怯者!』『食べ物をよこせ!』と騒ぐ民衆の姿。騒ぎに館の中から庭へ出てくるサイモン王子と近衛副隊長ウォーレス。ヨーム公もいる。〉
サイモン王子「どうすればいいのか?」
ヨーム公「これからが長期戦。我が方の私兵の数も膨大です。
近衛副隊長ウォーレス「白の国の民はいざという時のために何も備えていなかったのですか?」
サイモン王子「今までは、王がいくらでも民にお金を与えてしまっていた。だから、皆、貯めることなどせず、金を好きなだけ使い放題する生活を送っていたのです。なぜか分からぬが、これまで財務大臣がいくらでも資金も食料も工面出来ていました。今、思うと、それも
〈門がある方を見る三人。外で騒ぐ民の姿。〉
[28]ー白の国の街の中 数週間後
〈あっという間に街は荒廃し多くの民は飢え始める。暴徒となり、裕福に見える家や店を襲い、食べ物を盗み歩く民の姿。〉
[29]ーヨーム公の館
〈皆が集まって相談している。〉
サイモン王子「こんなにも早く民の暮らしが崩れ落ちていくとは……」
ヨーム公「戦う準備は整いました。これ以上、戦いの開始を遅らせることは、こちらにとっても不利に働くことになりかねません」
近衛副隊長ウォーレス「
サイモン王子「向こうは港を握っており、物資だけは相変わらず手に入れている。自分達は困ることはないのだろう」
近衛副隊長ウォーレス「一体、敵は湯水のように使う資金はどこから調達していると思われますか?」
サイモン王子「王を抱き込んでいるので、これまでの王家の財産を全て使い果たすつもりかも知れない。遅かれ早かれ、この国を乗っ取るつもりなのだ」
ヨーム公「サイモン王子、今まさに戦いの火ぶたを切るかどうかのご決断を。女王様は王子様にすべて、この国の未来を託され、一人敵陣へ戻られたのでございますよ」
[30]ー白の国 石造りの城 魔王グレラントの部屋
〈魔王グレラントが荒れた街の様子を窓から眺めている。〉
手下「お呼びでございますか?」
魔王グレラント「時が熟した!そろそろ、おいぼれ王の出番だ。ここに連れてこい」
手下「かしこまりました」
〈アルコール中毒でフラフラしている王が来る。〉
王「
魔王グレラント「差し上げますから、その前に、ひと働きして頂きます」
王「何?ひと働きだと。無礼な奴め」
〈魔王グレラントにフラフラと近づく王。魔王に目をじっと覗き込まれ、あっという間に催眠術をかけられる。王はすっとおとなしくなり、床に座りこもうとする。〉
魔王グレラント「王に椅子を」
〈手下が王を座らせる。魔王グレラントは王の顎を片手でクイッと上げる。〉
魔王グレラント「今から一緒に聴衆の前に出るぞ」
[31]ー石造りの城
〈城の前で騒いでいる民。城のバルコニーに王と魔王グレラントが現れる。〉
民 その1「王が出て来たぞ!」
民 その2「俺たちに食料をよこせ!」
民 その3「家族を見殺しにする気か!」
〈王がバルコニーの下にいる民衆に、静かにと手で制す。〉
王「イマカラ、ココニイル、グレラントヲ、コノクニノオウトスル」
民 その1「何だ?」
民 その2「グレラント?」
〈魔王グレラントが王を押しのけて前に出る。〉
魔王グレラント「白の国の民よ、私が今日から、この国のグレラント国王だ。この国を守る政策を前王や大臣達と協議するのに、今まで時間がかかり、民には苦労をかけた。しかし、もう心配はない。ただ今から城の門を開放する。白の国の国防軍に志願する者は皆、城へ来たれ!ここで、いくらでも食べて飲むが良い!その家族にも食料を配給する!」
民 その3「おお、何と有難い!」
民 その1「これで家族の命が助かったぞ!」
民 その2「グレラント国王、万歳!」
民 その3「グレラント国王様!」
〈喜んで盛り上がる民衆。〉
[32]-白の国 石造りの城 開け放たれた門の前
〈国防軍に志願する者の長蛇の列。手下達が受付を担当し、民は志願者名簿に登録しては中に入っていく。それぞれ白い札または黒い札を渡されている。白い札の者は、城の広い中庭に用意された食堂に通され、腕に五匹の蛇の絵が描いてある布を巻かれる。飢えていたので誰もが喜び勇んで食べ物を食べる。〉
民 その1「〈食べ物を運んできた者に〉本当に家族にも食べ物が届けられるのですか?」
手下「はい。名簿に合わせて食料をお届けします。今後、軍で評価が高ければ、それに見合った宝物も進呈されます」
民 その2「〈隣りの者に〉聞いたか?」
民 その3「グレラント王は太っ腹だ!」
民 その1「〈嬉し泣きをしながら〉しっかり働くぞ!」
〈食堂で食事にありついた民衆はすでに百人は下らない。食堂の中庭を見下ろす上の階から眺め、ほくそ笑む魔王グレラント。〉
魔王グレラント「これこそが夢に見た晩餐会じゃ!民よ。好きなだけ食べて飲むがいい!あっははは」
[33]ー石造りの城 地下通路
〈黒の札を手にした者達が不安げに連れて来られている。明らかに年寄りや病人、身体が丈夫でない者達である。〉
魔王の手下「入りなさい」
〈テーブルと椅子がある。全員がテーブルにつく。そこへスープが運ばれてくる。〉
魔王の手下「この後、食べ物が次々参ります。どうぞゆっくりお召し上がり下さい」
〈手下が出ていき、扉が閉まる。皆、不安げに顔を見合わせるが、スープのいい匂いに、ここまで空腹に耐えてきた者たちは誘惑を断ち切れない。思い切って一人が飲む。〉
民「うまい!」
〈スープをがつがつと口に運ぶ民。皆もそれを見て我先にと飲みだす。すると、数分後、うっと痙攣して、机に突っ伏したまま全員が息を引き取る。小窓から中を監視していた手下達。〉
手下「運び出すぞ」
[34]-石造りの城 中庭の食堂の隣りの部屋
〈食堂で食事を終えた者達が集められ、簡単な試験をされ、さらに、すぐに国防軍の一線で使える者、そうでない者に分けられていく。皆、腕には五匹の蛇が描かれた布を結んでいる。〉
[35]-ヨーム公の館 サイモン王子の客室
サイモン王子「どうも街の様子がおかしい……」
護衛「〈入って来て〉サイモン王子、失礼します」
〈耳打ちする護衛。〉
サイモン王子「すぐ通せ」
コウモリ「ご報告に参りました」
〈サイモン王子には姿を見せているが、その姿は
サイモン王子「よく来てくれた。おばあ様も一日一度、窓の所に立って下さるので、無事な姿を今のところ確認出来ている」
コウモリ(声のみ)「はい。ただ、ついに薬師がグレラント王と名乗り動き始めました」
[36]-石造りの城 女王の部屋
〈外の騒動が部屋の中にも伝わり、窓に近付こうとする女王。そこへ城の召使がいつも通り、四人分の食事を運んで来る。侍従が受け取り、召使と言葉を交わす。〉
女王付きの侍従「〈食事を置き〉グレラントが新王になったそうです。王様がみずから宣言されたとのことでございます」
女王「それで今、王は?」
女王付きの侍従「宣言後、どこにもお姿が見えないそうです」
〈ああっと眩暈をおこしかける女王。〉
女王付きの侍従「女王様!」
女王「〈何とか体勢を整え、窓に近寄り、下を見て〉あの者達は?」
女王付きの侍従「新国王の国防軍に志願する者達と聞きました」
女王「民は……。サイモン王子がヨーム公の館にいると知っておるのに、得体が知れぬグレラントという男を王と慕うのか!」
女王付きの侍従「今の状況ではどうすることも出来ません」
女王「このままでは、王子も殺され、私もこの食事に毒が盛られるのも時間の問題。どうすれば良いのか……」
〈静かに近くで座り、事の成り行きを聞いていたタティアナとアイラ。〉
タティアナ「恐れながら、女王様、何とかここから一緒に逃げ出す方法はございませんか?」
女王「私が逃げるなど、王子に従う部隊に示しがつきませぬ。ヨーム公の館からは、この窓がよく見える。士気を高めるには毎日、私が姿を見せ、ここで頑張っていればこそ!」
タティアナ「しかし、このままでは共倒れに終わってしまいます」
女王「城を出れば、サイモン王子の助けになる名案でもあると言うのか?」
******ここで、緑の国、青の国、白の国の時間軸がほぼ重なる
[37]ー《緑の国》 城下町のはずれ
〈馬車や馬で先を急ぐミレーネ姫達の一行。〉
レウォン「そろそろ城に近付いて来たのだろうか?」
[38]ー緑の国 城 王家の食堂
〈青の国から届いたパンに囲まれているミリアム王子。〉
ミリアム「お父様!見て下さい。こんなにパンが届きました!」
王様「青の国からか?なるほど、珍しいパンであるな。姫達が出発前に手配したのであろう。〈侍女に〉しっかり毒見をおこなってから、王子に与えるように」
ミリアム王子付きの侍女「かしこまりました」
〈どれを選ぼうか迷っているミリアム王子。〉
[39]ー城下町 民政大臣の家
〈久しぶりに民政大臣が帰ってくる。〉
女中ステラ「まあ、旦那様。お城の方は宜しいのですの?ポリー嬢ちゃまはお戻りに?」
民政大臣「まだだが、ジュリアスも近衛達もついている。もう姫様やポリーに危険はないはずだ」
女中ステラ「本当に昔からポリー嬢ちゃまにはハラハラさせられっぱなしでございます」
民政大臣「緑の国に入ったら、ポリーはまずここへ寄るはずだ。あいつは当分、謹慎させる。ナタリーの具合は?」
女中ステラ 「このところ、少し落ち着いていらっしゃいます。毎日、同じ絵を眺めてはカノンがもうすぐ帰ってくると楽しそうにおっしゃられて。旦那様もご存じの通りポリー様を最近はカノンと呼んでいらっしゃいます。奥様はポリー様のご帰宅がとても心待ちのご様子です」
民政大臣「絵とは、どの絵のことか?」
女中ステラ「それが……あの。一度、旦那様にお話ししなくてはと思っておりましたが。奥様が外事大臣から先日頂いた絵なのでございます」
〈驚く民政大臣。〉
民政大臣「何?ナタリーと外事大臣が会ったのか?」
[40]-城下町 民政大臣の家 ナタリーの部屋
〈外事大臣にもらった絵の中のカノンを笑顔で見ているナタリーの姿。〉
[41]-緑の国 山奥の田舎
〈民政大臣が昔、預かった子どものことを探るため、馬をとばし、一人で山奥までやってくる外事大臣。馬を降り、田舎に似つかわしくない風雅な屋敷である麗山荘の前に立ち、辺りを見回す。〉
外事大臣「頼もう。誰かいないか?」
〈門を開け、中から一人の男が出て来る。〉
麗山荘の管理人「何か御用でございますか?」
外事大臣「城から参った。〈古い書類を見せ〉約20年前の麗山荘の記録のことで尋ねたいことがある」
麗山荘の管理人「私は、その頃まだ若く、この仕事には就いておりませんでしたので20年前のことは何も知りません。何か、お
外事大臣「いや、そういうことではない。20年も前のことだ。何かあっても今更問題にはならぬ。ただ、現在、城で緑の国の歴史書を編纂しておる。なるべく間違ったことを後世に残したくはない。そこで、当時の事情を知る者に確認作業を行っているのだ」
麗山荘の管理人「左様でございましたか?それならば、当時は祖父がこの屋敷に務めておりました」
外事大臣「おじいさんは今どこにおるのか?」
麗山荘の管理人「ここから見える、あの茅葺の屋根の家に住んでおります。もう、随分いい歳ですので、お役に立てますかどうか……」
[42]-緑の国 城下町のはずれ 道
〈城へ向かうミレーネ姫達の一行。そこへ覆面をした一団が取り囲む。身構える近衛達。〉
近衛「何だ、貴様らは!」
〈馬車の中でおびえる姫達。剣に手をかけ身構えるジュリアスやポリー。ポリーはレックスの剣を持っている。〉
※第5話 終わり
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