第5話 魔王君臨 #1
シーズン2 第5話 魔王君臨 #1
[1]ー《青の国》 港町 レウォンの借り家 夜
〈修道女ダリルが訪れる。家の外でダリルと話すレウォン。〉
修道女ダリル「準備は出来ましたか?」
レウォン「もともと何も持っていなかったので、持っていくものも、ほとんどありません。シスター、本当にこれで良かったのですよね?」
修道女ダリル「勇気を出すのです。記憶を取り戻す旅に一歩、踏み出して行ってらっしゃい。そして、あなたの人生をやり直すのです。もし、どうしても見つからなければ、ここがあなたの帰る場所。いつでも待っています」
レウォン「有難うございます。本当にお世話になりました」
修道女ダリル「笑顔パン屋の皆さんには私からよく話しておきます。皆、寂しがるでしょうね」
[2]ー青の国から緑の国へ行く道 朝
〈馬で移動している一行。後方を見るミレーネ姫。後ろの方にレウォンの姿。〉
【ミレーネ姫の回想:昨夜 青の国の宿屋 ポリーが部屋に引き上げる前
〔ミレーネ姫にレウォンが記憶を取り戻すため一緒に緑の国へ行くことになった旨を伝えるポリー。〕
ミレーネ『まあ、レウォンさんも緑の国へ行くのですね?〔小声で〕もしかして、ポリーの好きな人って?』
ポリー『レウォンさんは、いい人だけど……〔首を振る〕』
ミレーネ『まだ私に打ち明けられない訳でもありますの?』
ポリー『〔哀しげに〕本当にそういうことじゃないのよ』 】
ミレーネ(心の声)「〈そばで馬に乗っているポリーを見て〉好きな人と一緒の旅にしては昨日からずっと浮かない顔ね。夜は部屋に引きこもったままで。やっぱり私の直感は間違ったのかしら?」
〈そこへ、先回りして警護にあたっている近衛隊二人が合流し、ミレーネ姫、副隊長代行、ジュリアスの三人に報告を入れる。〉
近衛 その1「報告します。この先、国境に近い、辺境の村で、ノエル殿と、男一人、それに白の国の者だという親子を見つけました。ノエル殿は怪我をされています」
ミレーネ「まあ、なぜ、そんな所にいたのかしら」
副隊長代行「そこまでは、どのくらい遠いのか?」
近衛 その2「馬でしたら、それほどの距離ではありません」
ジュリアス「ミレーネ、どうしますか?」
ミレーネ「川沿いの、この道の途中までお城から馬車で迎えに来る予定ですのね」
副隊長代行「はい。馬車で走れる道幅が、その辺りまでのようです」
ミレーネ「ノエル達のいる場所に馬車を回しましょう。私達はここから
近衛 その1「では、こちらに向かっている馬車の御者に知らせて参ります」
近衛 その2「私は迂回の道を先導させて頂きます」
〈迂回する一行。〉
[3]ー国境近くの村
近衛「あの小屋です」
〈近づいて止まる一行。ミレーネ姫とジュリアス、何人かの近衛は馬を止め、いったん下りる。小屋の前にヨハンが立っている。〉
ヨハン「〈中に向かって〉たくさんの人が来たよ!」
〈中から走り出てくる元・従者ボリス。〉
ボリス「姫様!」
ミレーネ「まあ、あなたは……一緒にいる男ってボリスでしたの!」
ジュリアス「何と!ボリス殿か?」
ボリス「ああ、ジュリアス様!近衛と話した後も、自分の目で確かめるまでは信じられませんでした。まさか、こんな所で皆様にお会いできるとは」
ミレーネ「本当に驚きですわ。ノエルが怪我をしていると聞きました。そうなのですか?」
ボリス「はい。中にいます。随分、良くなってきましたが、短剣を足に受けたのでしばらく歩けなかったのです」
〈小屋に入る三人。〉
[4]ー小屋の外 道
〈ポリーとレウォンもいったん馬を下りる。必死で笑顔を作り、レウォンに近付くポリー。〉
ポリー「馬に揺られるのは大丈夫?体が辛くないですか?」
レウォン「馬に乗った経験があるのかどうか、自分でも分からないが、何とか今のところは大丈夫だ」
ポリー(心の声)「レックスさんと同じ頃にケインも大怪我をしているはずなのに、どうしてこんなに元気なんだろう?昨日、首飾りの不思議な力を感じると言っていたわ。ケインが奪ったミレーネの首飾り……」
レウォン「楽に馬に乗れるのは〈馬をなでて〉こいつの御蔭かな」
〈そのさわやかな笑顔を見ると、ちょっと泣きそうになるポリー。〉
ポリー「今日は陽射しが強くて、まぶしい……〈と、目に手を当てて涙を誤魔化す〉」
[5]ー小屋の中
ミレーネ「ノエル!」
ノエル「〈敷物に座ったままで〉姫様!申し訳ございません、こんな姿で」
ミレーネ「いいのよ、無理をしないで」
ノエル「皆様、ご一緒なのですね」
ジュリアス「外にポリーもいます。〈ボリスとノエルに〉一体、何があったのですか?サイモン王子やウォーレス殿は?〈ノエルのそばにいる母子を見て〉白の国の方達と聞きましたが、どなたなのですか?」
〈お辞儀をするクレア。それを真似て頭を下げるヨハン。〉
ボリス「実は白の国で大変なことが起こっているのです。この方は、サイモン王子が大変お世話になっているお屋敷の若奥様でクレア様。それに息子であるヨハン様です。白の国の危険に巻き込まれぬよう、サイモン王子様から頼まれ、私達と一緒に緑の国のお城へ行くところでした」
ミレーネ「サイモン王子のお知り合いなのね」
ノエル「逃げる途中で私がこんなことになったものですから、皆、ここで足止めになってしまったのです」
〈そこへ馬車が到着する。〉
近衛「〈小屋の中に〉馬車が着きました!」
ミレーネ「クレアさん、ヨハン君、一緒に馬車で参りましょう。もちろん、ノエルも。ボリスは馬車まで手を貸して頂戴。その
ボリス「有難うございます」
ノエル「姫様のご親切に感謝いたします」
クレア「お世話になります」
[6]ー小屋の外 道
〈皆が小屋から出て来る。馬車から降り、ミレーネ姫に駆け寄る女官長ジェイン。〉
女官長ジェイン「姫様、よくぞご無事で……〈涙ぐむ〉」
ミレーネ「ジェイン、ここまで迎えに来てくれたのね。心配をかけてしまって、御免なさい」
〈その様子を見てポリーとレウォンも自分の馬に戻る。馬車に乗る人達は皆、乗り込む。〉
ポリーとレウォン「「また後で」」
御者「出発します!」
〈再び動き出す一行。〉
レウォン(心の声)「緑の国で僕を待っているものは何だろう?どこの誰とも分からぬ僕に、あんな優しい言葉をかけてくれるポリーさん。身元も分からず、記憶もない、この僕に!二人を待ち受けるものが闇ではなく、どうか明るい光でありますように」
[7]-動いている馬車の中
ミレーネ「ノエル、白の国で大変なことが起こったのでしょう?、危険って何ですの?サイモン王子様はご無事なのですか?怪我で辛いでしょうが、私に詳しく話してくれますか?」
ノエル「はい、姫様。ウォーレス殿と私が、白の国へ到着してすぐ、目まぐるしく事態が急変していきました」
******白の国 ノエルがミレーネ姫に語った、約一ヶ月前の状況
[8]ー《白の国》 ヨーム公の館
〈武装しているサイモン王子と近衛副隊長ウォーレス。ヨーム公の私兵一団が周りに集まっている。〉
サイモン王子「そろそろ、おばあ様が一日に一度、部屋の窓のところに無事な姿を見せる時間です。ウォーレス殿、準備は宜しいですか?」
ウォーレス「はい。ノエル達はいつでも逃げられる態勢で待っているはずです。私達が屋根の上に出るのを合図に、宿屋から護衛二人と一緒にノエル、クレア殿、ヨハン君が国境へ向かいます」
サイモン王子「うまく敵の目をそらせることが出来るだろうか?」
ウォーレス「派手にやりましょう。後は幸運を祈るだけです」
サイモン王子「頼みますよ。では行きましょう」
[9]ーヨーム公の館 屋根の上
〈屋根に上がってくるサイモン王子と近衛副隊長ウォーレス。他に数人の私兵が屋根の上と下で待機している。サイモン王子は大きな白の国の旗を手に、ウォーレスは弓を手に持っている。〉
[10]ー白の国 石造りの城 魔王グレラントの部屋
魔王グレラント「何?王子達が妙な動きを始めたのか?」
[11]ー白の国の至るところ
〈街中に散らばっている魔王グレラントの手下たちが、屋根に上がった王子達に気付く。
[12]ー白の国 宿屋
護衛「王子と副隊長が屋根に上られました」
ノエル「気を付けて行きましょう」
〈そっと宿屋から抜け出す一行。〉
クレア「緑の国への近道はこちらです」
〈クレアはしっかりヨハンの手を握って歩いて行く。〉
[13]ーヨーム公の館 屋根
〈サイモン王子から白の国の旗を渡されて、私兵の一人が大きく旗を振り始める。〉
[14]ー白の国の至るところ
魔王グレラントの手下「あれは何だ?」
〈魔王の手下達は屋根に注目して、周りへの注意が散漫になっている。〉
[15]ー石造りの城 女王の部屋
女王付きの侍従「女王様、そろそろお時間でございます」
〈窓を開ける女王。〉
女王「あれは……?」
〈
女王の侍従「女王様、我が国の旗でございます。側に王子様がいらっしゃいます!」
女王「王子が屋根に上がるとは危険過ぎます。サイモンは一体、何を考えているのか」
女王の侍従「王子の隣りにいる者が弓をこちらに向けて構えております!」
[16]ー白の国 国境付近
クレア「急いで。こちらよ」
〈皆、必死に走る。〉
[17]ー白の国 ヨーム公の館の屋根
〈近衛副隊長ウォーレスが弓をひき、矢を放つ。飛んでいく矢。次々と矢を射るウォーレス。町の人も騒ぎに気付き、空を見上げて、矢が飛ぶ度に歓声を上げている。〉
[18]ー石造りの城 女王の部屋
女王の侍従「女王様、矢が放たれました!お下がり下さい」
女王「王子のそばで旗が振られている。味方の矢という証拠であろう。慌てるでない。〈静かに下がる〉」
〈正確に次々と矢が窓から室内に飛び込み、床に刺さる。矢は十数本飛ばされた後に止む。〉
女王「これだけの飛距離を正確に射止めてくるとは、稀に見る弓の名手と見たが……」
女王付きの侍従「女王様、
〈急ぎ、一本の矢から取り外し、女王に渡す。女王は急いで読み、窓に再び近づき、屋根の上にいる王子に向かって文を持った手を上げる。窓が閉まり女王の姿は見えなくなる。〉
[19]ーヨーム公の館の屋根の上
〈女王が手を上げた姿を確認して喜ぶサイモン王子。〉
サイモン「成功だ、ウォーレス殿!素晴らしい腕前です。お見事でした」
近衛副隊長ウォーレス「恐れ入ります。後は女王様の御心次第でございます。何とかアイラとタティアナを助けて下されば!そして、ノエル達が無事に脱出できたことを願うばかりです」
[20]ー白の国の国境近く
〈サイモン王子達の動きに気を取られていた魔王グレラントの手下達だったが、森に入ろうと草が繁る低い崖をはいつくばるように上がって行く一行についに気付いてしまう。魔王の手下二人が目配せするやいなや、すさまじい勢いで追いかけて来る。〉
ノエル「気付かれたわ!」
護衛 その1「先をお急ぎ下さい。ここは私が!」
〈もう一人の護衛と共に先へ進む一行。残った護衛は手下二人を相手にして一人を倒すが、もう一人にはやられてしまう。〉
[21]ー国境の森
〈追っ手から逃げるために、青の国寄りの方向へ逃げる一行。〉
クレア「ヨハン、頑張るのよ」
〈生き残った手下がまた追いついて来て、今度はクレアとヨハンに向かって短剣を投げる。〉
ノエル「危ない!」
〈とっさにヨハンをかばうノエル。ノエルの足に短剣がささる。〉
クレア「きゃああ。」
護衛 その2「ノエル殿!」
〈痛がるノエル。もう動けない。今度は手に剣を持って現れる手下。護衛が3人をかばうように前に出る。固まってうずくまる3人。泣いているヨハン。手下と護衛が戦うが、手下はかなり手強い。手下は
ノエル「あ、あなたは!」
ボリス「大丈夫ですか?〈手早くノエルの傷の応急処置をし、後ろを確認して〉他の追手は来ていません。さあ、私に捕まって」
[22]ー国境近く 緑の国の辺境の村
〈森から抜け出て来る四人。ボリスがノエルに肩を貸している。〉
ボリス「この村は、もう緑の国です」
ノエル「〈涙ぐんで〉助かったのね」
クレア「〈ヨハンを抱きしめ〉よく頑張ったわ」
ヨハン「もう、怖いおじさん達は来ないの?」
ボリス「〈頭をなでて〉大丈夫だ」
〈そばにみすぼらしい小屋を見つける。〉
ボリス「あの小屋まで行きましょう」
[23]ー《緑の国》 辺境の村 小屋
〈やってくるボリス、ノエル、クレアとヨハン。そっと中の様子を窺う。〉
ボリス「誰も住んでいないようですね」
ヨハン「ボロボロのお家だ」
クレア「こんな、あばら家を使うのですか?もう少し先に行けば、まとまな宿があるでしょう?」
ボリス「〈ノエルの足を見て〉よく、ここまで耐えてきたね。もう、これ以上、無理はさせられない。〈クレアに〉行きたかったら、自分達だけで行って下さい」
クレア「何て、失礼な言い方なの!」
ノエル「ごめんなさい。私が動けないばかりに……」
ボリス「君が謝ることはない」
ノエル「せっかく何とか助かって、一緒にここまで逃げて来たのですもの。あの、どうかお二人とも気持ちを納めて下さい」
クレア「……この辺りの民家で薬草と食料をもらってきます」
〈ヨハンと外に出るクレア。〉
ノエル「〈ボリスに〉あなた様がいなければ、私達は死んでいました。本当に有難うございます。そう言えば、お名前をまだ伺っていませんでしたね」
ボリス「ボリスです」
ノエル「ボリスさん?どこかで聞いたお名前のような気がするわ」
ボリス「お姉さんのアイラさんと共に、以前、お城で働いておりました」
ノエル「ああ、あのボリスさん!姉から、とても親切なお友達と聞いていました」
〈頭を下げるボリス。〉
ノエル「そのボリスさんが、どうして白の国に?」
ボリス「今は無理に色々話さない方が良いでしょう。傷に触ります。もう少し、この傷が良くなったら、詳しくお話しさせて頂きます」
*******以上 ノエルによる白の国の状況報告
[24]ー《緑の国》 城に戻る道 馬車の中 続き
ミレーネ「それでボリスは、その後何か話してくれたのですか?」
ノエル「いいえ。結局、緑の国へ着いてから教えると言われて、まだ詳しくは聞いていません。姫様、サイモン王子様とウォーレスさんのことが心配です」
ミレーネ「ええ。帰ったらすぐに王様にお話しして、白の国へ援軍を向かわせるようにお願いしましょう」
〈二人の話を聞いているクレア。ヨハンは馬車の窓から外を眺めている。〉
ミレーネ「クレアさんは他にご存知のことはありますか?」
クレア「サイモン王子を守るために、女王様がお一人でお城に戻られました。お城は薬師と大臣達が王様を操って実権を掌握しています。女王様はいわば人質です」
ミレーネ「そうなのですか……。女王様が人質に取られていれば、簡単に王子様も手を出せませんね」
クレア「はい。でも女王様は少しでも戦いの開始を遅らせ、その間に父の私兵と王子様が戦いの準備が出来るように、自ら薬師の手中に飛び込まれたのです。女王様は白の国を守るためならば、どんなことでも恐れぬ
#2へ続く
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