第3話 埋もれた記憶の欠片 #1
シーズン2 第3話 埋もれた記憶の
[1]ー《青の国》 坂の上の教会 母屋 ミレーネ姫とポリーの宿泊室 夜
〈ミレーネ姫とポリーがベッドを並べて隣り同士で寝ている。〉
ポリー「一日目は船、二日目は安宿、さすがに今日は白の国のお城のベッドでゆったり眠れるかと思ったけれど、まさか教会で泊まることになるとは……」
ミレーネ「まあ。〈笑って〉ポリーはもう少しで宿さえなかったかも知れなかったのよ」
ポリー「ミレーネの方が順応性はありそうね。体とか痛くない?大丈夫?」
ミレーネ「レックスさんが診療院で怪我をして寝ているのに、私達が贅沢なことは何も言えませんわ。早く良くなるよう、願うばかりですもの」
ポリー「そうよね。レックスさんは緑の国で重傷をおって、またここでも!それもこれも、みな、あのケインのせいよ」
ミレーネ「でも、もう危険な真似はダメよ、ポリー」
ポリー「分かってる。でも、ちょっと町へ出るぐらいはいいわよね?人海戦術を考えているんだ。それに……」
[2]ー【ポリーの回想:夕食後 坂の上の教会 母屋の廊下】
修道女ダリル『ポリーさん。さあ、あなたのお金ですよ。〔レウォンから預かったお金を渡そうとする。〕』
ポリー『〔首を振り〕シスター・ダリル、パン屋さんへ渡して頂けませんか?皆と合流出来たので私はお金の心配がなくなりました』
修道女ダリル『では、明日、自分で届けに行ってはどうですか?店で何か誤解があったようですね。騙され騙し合う世の中ではないと、あの店の皆に知らせてあげて欲しいの。本当は出会った人との交流を誰よりも大切に思う人達なのです』
[3]ー坂の上の教会 母屋 ミレーネ姫とポリーの宿泊室 続き
ポリー(心の声)「また、あの人に会いに行く……」
【ポリーの回想:レウォンの端正な顔。】
ミレーネ「ポリー?」
ポリー「何でもない!とにかく今日はもう寝なくちゃ。お休みなさい!」
〈上掛けをかぶるポリー。外では護衛が姫の部屋の近くを巡回して寝ずの番をしている。〉
[4]ー青の国 港町 朝
〈朝日を浴びてキラキラ輝く海。そして坂道の上にある教会。〉
[5]ー坂の上の教会 庭
〈庭のテーブルで朝食の後、お茶を飲んでいるミレーネ姫、ポリー、ジュリアス。〉
ポリー「じゃあ、私とミレーネは緑の国から近衛隊が到着するまでずっとこのまま、教会で身を潜めていなければいけないの?」
ジュリアス「安全確保のためには仕方がない。護衛とポリーには、とりあえずミレーネのそばにずっとついていてもらう」
ミレーネ「レックスさんのお見舞いにも行けませんの?」
ジュリアス「皆で動くと目立ち過ぎるからね」
ポリー「ジュリアスはこの後どうするの?」
ジュリアス「自分はレックスさんの見舞いと、港管理所でもう少し詳しく白の国の状況を調べてくる。どうも向こうの様子がおかしい」
ポリー(心の声)「その後、書物を扱っている店にも行くつもりだわ。私達だけ、ここから出られないなんて……。怪しい男を捕まえる方法もせっかく思いついたのに」
ジュリアス「ポリーが何か言いたそうだな」
ミレーネ「ポリー、ここはジュリアスの言う通りにしましょう」
ジュリアス「もし本当にケインがこの町にいるとして、我々のことを知ったとなれば、逃げるか、あるいは、どこかに潜んでいてミレーネを狙ってくる可能性も否定できない。だから慎重に動くに越したことはないんだよ。ただ……」
ポリー「ただ?」
ジュリアス「レックスさんの前ではあまり言えなかったが、その見かけた男がケインならば、傷の治りがあまりにも早すぎるようにも思う。その男は普通に歩いていたんだろう?あれだけの重傷を負ってこんな短期間で簡単に動けるようになるだろうか」
ポリー「確かにそうよね。でも、似た人でも何でもとにかく疑わしき者は全部捕まえなくては!その男のせいでレックスさんはまた怪我をした訳だし」
〈話しているジュリアスとポリーの横で考え込むミレーネ姫。〉
【ミレーネの回想:王の会議室 一か月ほど前の事件の夜 〔王に報告している近衛副隊長ウォーレス。その傍で聞いているミレーネ姫。〕
近衛副隊長ウォーレス『…姫様の首飾りには闇の中で光る石がついております。ケインはしっかり首飾りを握りしめ、その石が強く光を放っているのが見えました』】
ミレーネ(心の声)「“足らねば与えられる”……。強く光を放つ時、あの首飾りの石は所有者を守る力を発動する。その力が働いたのかしら?でも、なぜ、あのケインを所有者と認めたの?王家と妃家にまつわる首飾りなのに。あり得ないことだわ……」
******緑の国
[6]ー《緑の国》 城 王様の部屋
〈エトランディ王とミリアム王子がボードゲームをして遊んでいる。楽しげな笑い声。民政大臣と外事大臣が入って来る。〉
民政大臣「失礼致します。王様、ただ今、早馬が到着しまして、姫様は青の国にいらっしゃったとのこと。ジュリアスと護衛が見つけ、ご無事との知らせでございます」
王様「そうか、これで安堵した。すぐ迎えの近衛隊を出そう」
外事大臣「それから昨日より倒木の撤去作業を進めている白の国への道ですが、かなり倒木の数が多く簡単には終わりそうにないと報告が入っております」
王様「姫が帰って来たら、あらためて白の国へ正式に遣いを出したい。引き続き、作業を急ぐように伝えてくれ。」
外事大臣「かしこまりました」
王様「〈立ち上がり、ミリアム王子の頭をなで〉王子がそばにいてくれて、姫の安否が気がかりな間、よい気晴らしとなった」
民政大臣「それは何よりでございました」
ミリアム「民政大臣、ポリーが帰って来たら、うんと叱ってね。僕と遊ばずに、どこかへ行っちゃうなんて!」
〈はははと王が笑う。〉
民政大臣「王子様、ポリーにはよく言い聞かせます」
〈その民政大臣を胡散臭げに横目で見る外事大臣。〉
[7]ー城 外事大臣の執務室
〈机に座って考え込んでいる外事大臣。〉
【外事大臣の回想:昨日 民政大臣の家 応接室
外事大臣『ああ。ご家族でない女の子が一緒でしたね。親戚の女の子ですか?それとも、お友達のお子さんとか?』
ナタリー『いいえ。カノンもうちの子ですのよ。……それに〈小声で〉この子は女の子の格好をしていますけれど、本当は男の子なのです。武官殿、誰にも内緒ですよ。カノンの命が狙われないように……』 】
外事大臣(心の声)「約17、18年前に民政大臣が男の子を預かった。それも命が狙われるような子を。だから女の子の格好をさせ、大切に守っていた……。あの頃は、まだ先王の時代が終わったばかり。民政大臣は文官になって、やっと数年経った頃だ」
【外事大臣の回想:自分が描いた、民政大臣の家族の絵。その中にいる赤い服の小さな少女。】
外事大臣(心の声)「文官だった民政大臣は、妻が皇太子妃の妹ということで早くから後ろ盾を持ち、先王や、先王の母君である皇太后のそばに特別扱いで仕えていたはず。お二人が亡くなる数年前と言えば、先王はすでに体調が思わしくなく、高齢の皇太后と共に、
〈外事大臣が呼び鈴を鳴らすと、大臣の下に仕える者が来る。〉
外事大臣「書庫室に行き、20年前
******青の国
[8]ー《青の国》 坂の上の教会 食堂
〈棚の本に目を通しているミレーネ姫。そのそばで退屈そうに外を見ているポリー。庭には巡回している護衛。〉
[9]ー港町 診療院
〈レックスを見舞うジュリアス。〉
[10]ー坂の上の教会
〈修道女ダリルとミレーネ姫は連れ立って教会の中に入る。護衛も後ろからついて行く。ポリーは扉の前に数段ある階段に腰掛け、港町を見下ろしている。〉
[11]ー港町 書物屋
〈本を物色しているジュリアス。〉
[12]ー坂の上の教会
〈座っていたポリー。扉の近くに立てかけられていた外用の箒に気付き、箒を手に素振りを始める。ブンブン振っているポリー。坂の下からパンの籠を抱え、道を上がってきたレウォン。〉
レウォン「〈笑って〉教会の庭にふさわしくない姿だなあ」
〈振り返って、気付くポリー。〉
ポリー「うわっ。お早うございます。あの、昨日は本当にお世話になりました。お蔭様で皆でここに泊めてもらっています」
レウォン「聞いたよ。探していた人も荷物も見つかったって?僕も安心した。ところで今のは何?護身術のため?」
ポリー「〈恥ずかしそうに〉ええ、まあ……」
レウォン「じゃあ、そんなに心配しなくても、君は案外強いのか」
〈適当にごまかして笑うポリー。〉
レウォン「〈パンが入った籠を渡しながら〉これ、シスターやお連れの人達と一緒にどうぞ」
ポリー「わあ、焼き立てですね!有難うございます。シスター・ダリルは今、教会でお祈り中なんですけど、呼んできましょうか?」
レウォン「いいよ。君から伝えておいて。珍しいね、シスターが名前を教えるなんて。緑の国にパンを送るのも王家と繋がりがあるようだし。もしかして君たちは名家の出?」
ポリー「あ、いえ、それは何と言ったらいいのか……〈口ごもる〉」
レウォン「ははは。僕も詮索して悪かった。もう少し、ここにいるんだろう?じゃあ、また会うかもしれないね」
〈坂道を降りようとするレウォン。〉
ポリー「あっ、待って。〈貨幣の袋をポケットから出して〉緑の国へ届けてもらうパンの代金です。あらためてお願いします。もう一度、受け取って下さい。それから、あと一つ、お願いしたいことが!」
[13]ー港町 坂道
〈手にした一枚の絵を見て笑って吹き出しながら、坂を下りてくるレウォン。〉
【レウォンの回想:数分前 坂の上の教会の庭先 〔ポリーがポケットから似顔絵の描かれた紙を出し見せる。とても下手な絵である。〕
ポリー『ぜひ、この人を探して欲しいのです。昨日の子ども達に手間賃をあげるからって、頼んでくれませんか?地元の子ども達は裏通りとか顔が聞きますよね。でも危険な人物なので居場所だけ分かれば、それで十分なんです。くれぐれも気を付けて動くよう、子ども達には伝えて下さい。』】
レウォン(独り言)「ポリーさんはこんな似顔絵で本気で人が探せると思っているのか?〈笑う〉」
〈坂の下から上がってくるジュリアスとすれ違うレウォン。本を抱えているジュリアス。〉
[14]ー坂の上の教会 庭
〈庭の芝生に座り、大木の下で話をしているミレーネ姫、ジュリアス、ポリー。〉
ミレーネ「やはり白の国との、人の行き来は暫く行われていないのですね」
ジュリアス「もしかすると我が国との道が封鎖されていたことも偶然ではない可能性も出てきたな」
ミレーネ「大丈夫かしら?サイモン王子様がご無事か心配ですわ」
ポリー「内戦が起きた様子はないのに?」
ジュリアス「そこが、もう一つ疑問な点なのだが……」
【三人が同時に思い浮かべる、あの怪しげな
ミレーネ「あの薬師が白の国に戻っていることが引っかかりますわ」
ポリー「私も、今、同じことを考えていた!あいつなら城や町に呪いでもかけそうよ」
ミレーネ「ポリー、呪いだなんて!」
ジュリアス「いや、全くはずれているとは言えないかも知れない。こんな時、ミレーネの首飾りがあったら……。たとえ薬師が何か
ポリー「あの首飾りには、やっぱり隠された偉大な力があったのね!」
ミレーネ「〈頷き〉ケインはまだ首飾りを持っているかしら?」
ポリー「持っているなら早くケインを捕まえて首飾りを奪い返さないと!あいつは薬師と絶対に仲間よ。もし薬師に首飾りが渡ったら!?」
ジュリアス「その時はもっと恐ろしいことが待ち受けているだろう。それだけは何としてでも阻止したい」
〈庭を警護している護衛が近づいて来る。〉
護衛「お話し中、失礼いたします。ポリー様にお客さんです」
ポリー「えっ、私にお客って?まさか……」
【ポリーの回想:麗しいレウォンの顔。】
〈ポリーは護衛が指を差す門の方を見る。門の外に浮浪児たちの一団がいる。〉
ポリー「あ!」
[15]ー坂の上の教会 門の外の道
〈門の所へ走ってくるポリー。庭から様子を見ているミレーネ姫とジュリアス。〉
ポリー「皆、何か分かったの?」
子ども その1「全然ダメだよ」
子ども その2「さっきまで走り回ったけれど、それらしき人はいなかった」
子ども その3「そもそも、あの絵じゃ絶対分からないよ。もう少し上手く描けないの?」
〈そうだ、そうだと言う子ども達。〉
ポリー「分かった!じゃあ、もう一度、今から探して欲しい人の
〈庭の奥の離れたところから様子を窺っているジュリアスとミレーネ姫。声も聞こえないし、何をしているかもはっきり分からない。〉
ジュリアス「ポリーは一体、あそこで何をしているのだ?」
ミレーネ「街の子ども達ともすぐ仲良くなるなんてポリーらしいわ」
〈お金をもらった浮浪児たちが走って帰っていく。〉
ポリー「いい知らせを待っているから。頑張ってね!」
〈一人の女の子がまだ帰らずにポリーの前に立っている。〉
ポリー「あれ?まだ、あげていなかった?はい、宜しくね」
〈お金を渡そうとすると、首を振り、手の中のお金を見せる女の子。〉
女の子「もう、お金はもらったよ。あのね、パン屋のお兄ちゃんから、お姉ちゃんに伝えるように頼まれたの。今日の夜、お店のみんなと港の浜辺でバーベキューしているから、おいでって。(指差し)港の隣りだよ」
ポリー「パン屋のお兄ちゃんって、あの、かっこいい、右手が悪いお兄ちゃん?」
女の子「そう。ずっと遅くまでいるからって言ってた」
ポリー「有難う……」
女の子「ねえ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは友達なの?」
ポリー「友達っていうか、まあ、知り合いかな」
女の子「いいなあ。あのお兄ちゃん、すっごく優しくて大好き。じゃあね!」
〈走って帰っていき、皆を追いかけていく女の子。〉
[16]-港近くの海岸 夕暮れ時
〈笑顔パン屋の皆がバーベキューの準備をしている。夕日が浜辺を照らし、水平線にゆるゆると落ちていく様子。〉
店長「緑の国に送るパンがすべて上手く焼き上がり、梱包も済み、船主に無事預けてきた。皆、ご苦労様。後は明日の朝、船が出るだけだ。送り賃を払ってもまだ十分におつりが出たから今日はお腹いっぱい食べよう」
視覚障がいがある店員「やった、お肉のいい匂いだ。この匂いは上等な肉だね。あのお姉さん、やっぱりいい人だった!」
足に障がいがある店員「ははは。あの人を疑って悪かったけど、終わり良ければ全て良しだ!」
〈皆が朗らかに笑い合っている。〉
[17]ー坂の上の教会 庭のベンチ
〈夕日を眺め、ため息をつくポリー。その隣にそっと来て座り、夕日を眺めるミレーネ姫。〉
ミレーネ「明日にはもう迎えが着くかしら?」
ポリー「わあ、びっくりした!いつから、そこに?」
ミレーネ「私が隣りに来たことも気付かないほど、ポリーが考え事をするなんて前代未聞よ。もしかして、どなたかに恋してますの?」
ポリー「やだ、ミレーネ、私だって夕日を眺めて物思いに
#2へ続く
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