第2話 港町・青の国 #2

第2話 続き #2


[12]-《青の国》 宿屋の前 朝


従者レックス「じゃあ、用事が終わったらすぐに桟橋のところに来て下さい。姫様と私は先に行っています。ポリーさんの荷物はこれだけですね?」


ポリー「はい。パン屋さんに渡すお金だけ持って、とにかく急いで行ってきます。開店前でもお店に誰かいると思うから」


ミレーネ「出航に遅れたら置いていきますわよ」


ポリー「心配しないで。すぐに追いつくわ」


〈ポリー、一目散に走って行く。〉


ポリー「昨日のお兄さんがいればいいのだけれど」



[13]-港


〈桟橋の方へ向かい、市場の近くを歩くミレーネ姫とレックス。少し離れた所で、一人の若者が髪の毛をバサッと前におろし、髪を束ね直そうとしている姿がレックスの目に留まる。〉


従者レックス「姫様!〈指差し〉あそこにケインが!」


ミレーネ「何ですって、まさか!?どこ、どこですの?」


〈若者が市場へ歩いて入っていく後ろ姿。〉


ミレーネ「私はそこまで、まだはっきりと遠くが見えませんの。本当にケインなのですか!?」


従者レックス「〈じっと目を凝らして〉確かにそうです!ケイン、待つんだ!」


〈ミレーネ姫に荷物を渡すやいなや、追いかけるレックス。そこへ高く積み荷をのせた荷車にぐるまが曲がってきて、急に飛び出したレックスとぶつかってしまう。〉


周りの人「危ない!」


ミレーネ「レックスさん!きゃああ」


〈大量の荷が崩れ落ち、下敷きになり倒れているレックス。〉


荷車の人「急に飛び出すなんて!おい、大丈夫か?」


〈レックスの周りに人だかりがしている。積み荷を取り除く人たち。お腹を押さえ苦しんでいるレックスの姿。〉


ミレーネ「〈駆け寄り〉レックスさん、しっかりして!レックスさん!すぐ手当てが出来る所へ運んで下さい。お願いします!」


〈血がお腹から噴き出している従者レックス。〉 



[14]ー笑顔パン屋の前


〈店は閉まっていて、道から見える所には誰もいない。奥の庭から裏へ様子を見に行こうか躊躇するポリー。〉


ポリー「またサソリがいたら、どうしよう……」


〈裏へ行きかけて足が止まる。〉



[15]ー笑顔パン屋の前 続き


〈まだ店の前でウロウロしているポリー。〉


ポリー「船に間に合わなくなったら困るわよね。やっぱり、思い切って、裏に回って……」

               

〈そこへ粉の袋を幾つも台車にのせ、左手だけで引っぱり、坂道を上がってきたレウォンの姿。レウォンがポリーに気付く。〉


レウォン「あっ、君は昨日の……」


ポリー「お早うございます。ああ、良かった!昨日は有難うございました。あまり時間がないので用件だけ言わせて下さい。〈貨幣の入った袋を渡し〉ぜひ、緑の国のお城にこちらのパンを届けて頂きたいのです。今日じゃなくても構いません。準備ができ次第で大丈夫です。これはパン代と送り賃にして下さい。お願いします」


レウォン「〈袋を覗き〉こんなに頂いて宜しいのですか?」


ポリー「〈坂を下りながら後ろを振り返り〉お金は多めに入っています。もし余れば皆さんで何か美味しい物でも食べて下さい。昨日の御礼です」


レウォン「有難うございます。さようなら!気を付けて!」


ポリー「〈駆け出しながら〉さようなら!」


レウォン「あ、君!名前は?お城に送るために、君の名を……」


ポリー「〈坂の途中から〉ポリーです。宜しくお願いします!〈手を振る〉」


〈レウォンも手を振り、後ろ姿を見送る。〉



[16]-港の桟橋


〈全速力で走ってくるポリー。立ち止まり、少し息があがっている。〉


ポリー「何でだろう、ドキドキしてる。嫌だ、私ったら!いけない、今はそれどころじゃないわ。船に乗らないと。ミレーネとレックスさんはどこかしら?変ね。〈見回して〉どこにもいない……。えっ?どういうこと?」


〈不安そうにキョロキョロするポリー。〉



[17]-笑顔パン屋


〈店の皆に、緑の国へパンを送る注文について説明しているレウォン。〉


店長「では明日は“臨時休業”にして、このお客様の分を頑張って作ることにしよう」


店員たち「「「賛成!」」」


〈言葉が話せない店員は手を叩いて賛成を示している。〉


視覚障がいのある店員「〈ニコニコしながら〉あの食いしん坊のお姉さんはお金持ちだったんだ。緑の国のお城宛てなんて、すごいことだね」


店長「〈笑って頷き、袋の中の貨幣を見て〉残ったお金で何を食べようか?まだはっきりとは計算していないが、かなりご馳走が食べられそうだよ」


〈喜ぶ店員たち。〉


視覚障がいのある店員「お姉さん、有難う!もう会うこともないけどね」


〈皆が声を合わせて笑う。とても和やかな雰囲気。〉



[18]ー港の桟橋


〈困り果て、まだウロウロしているポリー。船の出航の汽笛が鳴る。〉


ポリー「〈下から船の甲板に向けて〉ミレーネ!レックスさん!」


〈船はそのまま出てしまう。がっくりと膝をつくポリー。〉


ポリー「二人が私を置いていく訳がないわ。時間に遅れてもいないし、荷物もレックスさんに預けてあるのに。〈はっとして〉お城から誰か連れ戻しにやって来て二人は捕まえられたのかも。〈あたりを見回し、再度大声で)ミレーネ!レックスさん!」



[19]ー港近くの宿屋


〈とぼとぼ歩いて来るポリー。宿屋に入る。〉


宿屋のおかみさん「あれ、今朝、出かけたお嬢さん?皆で白の国に行く船に乗るんじゃなかったのかい?」


ポリー 「それが二人とはぐれてしまって。一緒だった人達は宿に戻っていませんよね。私の荷物だけでも届いていないですか?」


宿屋のおかみさん「あれ、やだよ。置いてきぼりかい?」


ポリー「そんなはずはないのですが。あの……。お金は後から必ずお返ししますから、今夜もう一晩ここに泊めてもらえませんか?とにかく二人を探したいのです」


宿屋のおかみさん「〈言いにくそうに〉それが、あいにく、今晩から満室で……。申し訳ないね。それに探すと言っても、あてはあるのかい?」

               

〈首を振り、がっくりして宿を出るポリー。〉



[20]ー別の宿屋


宿屋のおじさん「申し訳ないが、お金がなかったら、うちでは泊められないね」


〈頭を下げ、出て来るポリー。〉



[21]ー港 桟橋


〈馬でジュリアスと護衛がやって来る。誰もいない桟橋。護衛が港管理所に話を聞きに行き、戻って来る。〉


護衛「白の国へ行く船は、さきほど出航したそうです」


ジュリアス「一足ひとあし、遅かったか……」


護衛「ただ、乗せたものは積み荷ばかりで、乗客はいないと聞きました」


ジュリアス「そうか。では、まだ皆がここにいる可能性がある。とにかく探そう」



[22]ー笑顔パン屋の前の道


〈そっと店の前まで来て、中をうかがうポリー。店からお客さんが出て来る気配がしたので慌てて隠れる。〉


店員「〈店の中から〉有難うございました!」


〈帰っていく別の客。〉


ポリー「〈陰から様子を見ながら〉別に隠れる必要は何もないのだけれど」


レウォン「確かに」


ポリー「〈背後にいたレウォンに〉びっくりした!」


レウォン「何をしているのですか?旅立ったはずではなかったのですか?」


ポリー「それが……」



[23]ー笑顔パン屋の店内


〈他の客はいない。店の隅で、出してもらった南国風の飲み物を飲んでいるポリー。厨房の奥では、店長や店員とレウォンがぼそぼそ話している。〉


レウォン「とりあえず、このお金を返しましょう。まだ、何も手をつけていなかった訳ですし」


足に障がいがある店員「これは、新種の嫌がらせかい?儲け話を持ってきて、実は違いました…みたいな?」


視覚障がいのある店員「せっかくご馳走が食べられると思ったのに。緑の国のお城宛てなんて、やっぱり話が出来過ぎているよ」


店長「しー。私は逆に少し〈頭を指して〉病気かもと思ったね。妄想なのか虚言癖なのか」


〈聴覚障がいのある店員もしぐさで頭が変なの?という感じでやり取りする。〉


レウォン「ちょっと待って。城に送る話も、今、何か困った事態になっているのも嘘ではないと思います。もう少し詳しくあの人から事情を聞いてみてもいいですか」


足に障がいがある店員「レウォンは困った人に優しいからな。厄介なことに巻き込まれぬよう気を付けるんだぞ」


店長「お金を返したら、さりげなく早めに帰ってもらおう」


〈皆が、そうだ、そうしようと賛同している。その声が奥から聞こえてきて、泣きそうになるポリー。〉



[24]ー笑顔パン屋の前


〈朝、預かったお金をポリーに返そうとするレウォン。〉


ポリー「そんなつもりで来たのではないのです。ただ、青の国で知っている親切な人達がここしか思い浮かばなかったので……。すみません」


レウォン「一文無しでは、どうすることも出来ないだろう。緑の国の城にパンを送るよう言っていたけれど、そこに知り合いがいるんだよね?君はもともと緑の国の人?旅に出るって行っていたけれど、目的があるのなら教えてくれないか?」


ポリー「〈首を振り〉ご迷惑はおかけしませんから。私、本当はこんな弱い人間じゃないのです。大丈夫です、自分で何とかします。ご免なさい!」


〈こみ上げてくるものがあり、お金を受け取らず、そのまま坂道を走り出すポリー。〉


レウォン「待って!きみ!」


ポリー(心の声)「旅の恥はかき捨てというけれど、これは、もう度を越えて恥ずかしすぎる!」


レウォン「〈店の中に向かって〉ちょっと出るから!」


〈ポリーを追いかけるレウォン。〉



[25」ー診療院


〈バタバタと走り回っている医術師たち。廊下で心配そうに一人で待つミレーネ姫。〉


ミレーネ(独り言)「ポリーに一緒にいて欲しかったわ。気が動転してしまって、何も考えずポリーを置いてきてしまったけれど、後で会えるわよね?」


〈処置室から医術師が出てくる。〉


医術師「手当てはいたしました。しばらく安静にして様子を見ましょう」


ミレーネ「分かりました。有難うございます」


医術師「少しお話しされますか?」


ミレーネ「はい」


〈そこへジュリアスと護衛が入って来る。〉


ジュリアス「ミレーネ!」


ミレーネ「ジュリアス!どうして、ここに!?」


ジュリアス「無事で何よりです。〈ほおっと息をつき〉怪我などもないようですね?」

               

ミレーネ「〈頷き〉私は大丈夫です。でもレックスさんが事故にあってしまいましたの。今、医術師殿から手当ては終わったと聞きましたが、まだ安心出来ませんわ」


ジュリアス「事故に遭ったそうですね。ミレーネ姫達を探すのに、町の警護団に行き、そこで事故の話が出たから驚きましたよ。御蔭で居場所はすぐ分かりましたがレックス殿が心配です。〈周りを見回して〉ところでポリーは?」


ミレーネ「レックスさんがこんなことになってしまい待ち合わせの場所に行けず、ポリーとは会えないままですの。町のどこかで困っているはずよ」


護衛「探して参ります〈出ていく〉」


ジュリアス「頼みます。全く……。ポリーは別行動などするからだ」


ミレーネ「ジュリアス、レックスさんと少し話せるそうよ。一緒に来て頂戴。本当に一人で心細かったの」


ジュリアス「〈そっと肩に触れ〉もう大丈夫だから」


ミレーネ「勝手なことをして御免なさい」


ジュリアス「王様もとても心配されているよ」



******緑の国


[26]ー《緑の国》城の庭


〈侍従と護衛を連れ、散歩している王の姿。〉


王様「もう、ジュリアスは姫と合流しただろうか?」


王様付きの侍従「王様、知らせが届くのも間もなくかと思われます。ジュリアス殿は必ずや姫様を無事に連れてお戻りになられることでしょう」


王様「姫はそれほどまでに白の国の王子のことを慕っておったのか。戻って来たら正式に縁組をさせねばのう。少し寂しくなるが……」


〈ミリアム王子が王を見つけて走ってくる。後ろからミリアム王子付きの侍女も追いかけてくる。〉


ミリアム「お父様!」


王様「おお、ミリアム」


ミリアム「お姉さまはどこ?いつ帰って来るの?」


王様「もう、しばらくじゃ」


ミリアム「ポリーもジュリアスもいなくて、つまんないよ。皆で冒険の旅に行ったの?僕はまた置いてきぼり……」


王様「ははは。ミリアムは冒険に出るには、まだ早い。姫の見識、ジュリアスの文武、そしてポリーの勇気を身に付けるよう準備しておくことだ」


ミリアム「そうしたら、僕もいつか皆と一緒に行ける?」


王様「そうだとも。その時は父も一緒に連れて行っておくれ」


〈ミリアム王子を抱きしめる王。笑顔のミリアム王子。〉



******青の国


[27]ー《青の国》港町 裏道


〈走ってくるレウォン。ポリーを探している。〉



[28]ー港町 別の裏道


〈貧しい家々が並んでいる、荒れた感じの通りを、不安げに歩いているポリー。〉


ポリー「えー、また、行き止まり?」


【ポリーの回想:昨日 パン屋の前 帰る時


レックス『港町は、少々、風紀が乱れています。路地を一本入っただけで、がらりと顔が変わる。危険ですから気を付けて下さい』 】


〈子ども達が集団で日陰にしゃがんでいる姿が目に入る。〉


ポリー「こんにちは」


〈黙って立ち上がる子ども達。誰もにこりともしない。立ち上がると、結構、背の高い子もいる。〉


ポリー「あの、ご免なさい。港の市場の方へ戻りたいのだけど、道を教えてくれない?私は荷物を失くして何も持っていないんだけど。〈何もないポケットや手を見せる〉」


〈物乞いされぬよう先手を打つポリー。子どもの中でも、少し大きい子がまず口を開く。〉


子ども その1「旅行者だろ?」


子ども その2「一銭も持っていないなんて嘘だ!」


〈じりじりとポリーに詰め寄り、子供たち皆が手を出して来る。子ども達の目つきが鋭く、ポリーは不穏な空気に焦りを感じる。〉


ポリー「荷物を失くしたのは嘘じゃないわよ!ああ、もう、さっきの質問は忘れて」


〈走ってその場から逃げ出すポリー。〉


子ども達「逃げたぞ!」


〈わあああっと追いかけてくる子ども達。〉


ポリー「〈振り返りながら〉勘弁して!子どもと一戦交える気はないから!」


〈そこへ、誰かの左手が伸び、ポリーの右手首を掴む。〉


レウォン「こっちだ!」


〈その麗しい横顔を見るポリー。〉



[29]ー港町 坂道


〈子ども達から逃げ切り、立ち止まった二人はかなり息を弾ませている。〉


ポリー「子どもでも大勢だと怖かった……。あの、何度も助けてもらって、すみません」


レウォン「あの子達は、親のいない子や、親がいても面倒を見てもらえない子の集まりでね。港町では船員、商人それに旅人達が、案外、小銭をくれる。悪い子達じゃないのだが、人に小銭をせびることで何とか生活をつなぐ毎日なんだ。自分たちの力だけで、ああやって寄り添いながら生きている。ある意味、たくましい子達だよ」


ポリー「そんな、子ども達が自力でなんて、緑の国ではなかったことだわ。国が子ども達の面倒を見ないのですか?」


レウォン「国の管理下に入る子達もいるけれど、管理されることに向かず、自由に生きたい子ども達もいるだろう?」


ポリー「そうですよね……」


レウォン「一緒に来た人はまだ見つかっていないのか?」


ポリー「まだです」


レウォン「泊まる所は?」


ポリー「〈首を振り〉何軒か断られましたが、もう少し頑張って探してみます」


レウォン「〈手招きして〉心当たりがあるから一緒に行ってみよう」



          

#3へ続く





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