第2話 港町・青の国 #1

シーズン2 第2話 港町・青の国 #1


[1]ー緑の国と青の国を結ぶ川 船の上 夜


〈船の上では、船頭から毛布を配られ、その毛布にくるまって座ったままの者、横になっている者など様々である。見上げれば、空には満月。まだ起きて夜空を眺めているミレーネ姫とポリー。〉


ポリー「いつもと違う場所なのに同じ月が見えるのね。緑の国で皆も見ているかな」


ミレーネ「ええ。白の国でも……」


ポリー「ミレーネはサイモン王子のことばかりね。もうすぐ会えるのよ。ねえ、ドキドキする?」


ミレーネ「ポリーったら、からかわないで。まず、無事に白の国へ着けるかどうかの方が心配ですわ」


ポリー「勝手なことをして父様もジュリアスも怒っているだろうな。母様も本当は心配なんだけど」


ミレーネ「私達、皆に迷惑をかけてしまっていますのね」


ポリー「もう出て来ちゃったのだから振り返るのは止めよう。明日はいよいよ青の国!少しでも寝た方がいいと思うわ。ミレーネ、眠れそう?この船で?〈声を潜めて笑う〉」


ミレーネ「〈同じく声を潜めて笑いながら〉頑張ってみますわ」


〈船に揺られながら目を閉じる二人。〉


ポリー(心の声)「母様、帰ったらずっとそばにいるから。今、少しの間だけ許して。見てきたことをいっぱい話すね……」



[2]ー川 船の上 朝


従者レックス「姫様、ポリー様、起きて下さい。船を下りますよ」


ポリー「着いたの?あつ、痛たた……。変な格好で寝たから、体が痛い!」


ミレーネ「船で泊まるなんて初めての経験が出来ましたわね」


従者レックス「このまま、青の国の港まで船で行く手もあるのですが、一度、船を下りて馬で行く道の方が楽そうです。船ばかりでは体も辛いでしょう。船頭さんから、この船着き場を下りてすぐに、美味しい食事が出来る所があると聞きました」


ポリー「やった!それは、ここで下りなくちゃ!」


ミレーネ「ポリーったら、話が早いですこと」



[3]ー船着き場近くの食堂 


〈美味しそうに食事を食べている3人の姿。外に馬は繋がれている。〉



[4]ー《青の国》 食堂から港までの道


〈食堂から出て来て、馬に乗り、丘の道を進むミレーネ姫、ポリー、従者レックス。まだ、道の両端は鬱蒼うっそうとした木々に囲まれ、先の景色は見えない。〉


従者レックス 「この丘を越えて、後は下りの一本道だそうです」


〈丘の上に出た所で急に視界が開ける。〉


ポリー「わああ!海よ!!」


ミレーネ「これが青の国……」


〈丘から見下ろす青の国。海が見え、港があり、港には大きな船も停泊している。港と丘の間に家々が立ち並ぶ坂の町。〉


従者レックス「ここからの眺めは絶景ですね」



[5]ー《青の国》 港町


〈港で色々調べている従者レックス。少し離れた所で待っているミレーネ姫とポリー。レックスは二人の元へ戻って来るが、怪訝けげんな顔をしている。〉


ミレーネ「どうしたのですか?」


従者レックス「明日の朝、白の国に行く船があの桟橋から出るので、夕方には向こうへ着けるのですが……」


ポリー「良かった!やっぱり行き交っている船があるのね」


従者レックス「あるにはあるのです。ただ……〈首をかしげて〉白の国に船が着いても、一般の人は入国出来ないというのです」


ポリー「どういうこと?」


従者レックス「白の国の港で荷物の上げ下ろしは行われるのに、人の出入りはここしばらく禁じられていると。今までには考えられないことです。理由を聞いても青の国の人達もよく分かっていないようでした。やはり白の国に何かあったのでしょうか?」


ミレーネ「不可解なことが多いですわね」


ポリー「でも、港は機能しているじゃない?荷物の上げ下ろしがあるなら、少なくとも向こうで働いている人達が誰かいるはずよ」


従者レックス「とにかく、明日、着けば分かることでしょう。私は何と言っても王子様直々の従者。を利かせれば特別に上陸出来ると思います」


ポリー「そうよ!レックスさん、さすが!」


ミレーネ「頼りになりますわ」


従者レックス「じゃあ、この馬たちを預けて来ます。何とか私達三人も船に積み込んでもらうように交渉して参ります。姫様達は先に宿へ行き休んでいて下さい」



[6]ー青の国 港町 宿屋


ミレーネ「つい、この間までは、お城を出たこともなかったのに、国を離れてこんな遠くにまで旅をして。やはり疲れましたわ」


ポリー「そうよね。初めてのことばかりで、まだ緊張もしているし。ミレーネ、少し横になって休んだら?昨日の夜は一晩、船で過ごしたからあまり寝てないでしょ?」


ミレーネ「ええ」


〈横になる姫。部屋の窓から外の様子を、もの珍しそうに見ているポリー。〉


ポリー「ねえ、ミレーネ?」


〈振り返ると姫はスヤスヤと眠ってしまっている。〉


ポリー「よほど疲れたのね」

                


[7]ー青の国 港町 宿屋の前


〈ポリーがウロウロしている。そこへレックスが帰って来る。〉


ポリー「レックスさん、部屋で姫は眠っているの。私は今から少し、町を見物したいんだけど、いいですよね?今日一日しか、ここにいられないから、もったいなくって!」


従者レックス「ポリー様は元気ですね。私も疲れましたので部屋にいます。隣の部屋からしっかり警護はしますので、姫様のことはお任せください。暗くなる前には必ず宿に戻って来て下さいよ」


ポリー「了解です!」


〈港の方角へ走って行くポリー。〉



[8]-青の国 港にある市場


〈港の市場を見て回っているポリー。初めて見る珍しいものが多く並んでいるため、ポリーはわくわくして、あちらこちらを覗いている。店を覗いていると、甘い香りのする、美味しそうなパンを食べながら歩いている人が隣りに来る。そのパンの香ばしい匂いが気になるポリー。〉


ポリー「あの、すみません。そのパンはどこに売っているのですか?」


町の人「ああ、これ?すごく美味しいですよ!青の国で一番美味しいパン屋と思うわ!笑顔パン屋と言うのよ」


ポリー「〈目を輝かせて〉青の国で一番の‟笑顔パン屋”ですか?」


〈市場の外に出て、指差しながら、町の人がお店の場所を説明してくれる。頭を下げて、市場から離れ、その店に向かうポリー。〉



[9]-青の国 坂道


〈港から坂を上がって来るポリー。〉


ポリー「坂を二つ上がって、右に入り、左手の……。あった!」


〈『笑顔パン屋』は白壁のこぢんまりとした可愛い店。看板には大きい太い文字で『笑顔パン屋』。その下に少し細い文字で“みんなの笑顔は私の元気、みんなの元気は私の笑顔、いつも有難う!”と書いてある。ポリーは、大きな鈴のついたドアを開け、中に入る。〉


ポリー「ごめん下さい」


〈入るとすぐに、視覚障がい者の若い男の子が椅子に座っている。左手の上腕に布の腕章をしていて、そこに“私は目が見えません。話しかけて下さい”とある。〉


店員 その1「〈ドアの鈴に反応して〉いらっしゃいませ!」


〈支払いをする場所には別の若い女性の店員がいて満面の笑顔でお辞儀をする。同じく腕章に“私は耳が聞こえません。唇の動きで話が分かります。私の顔を見て話して下さい”とある。〉


【ポリーの回想: 先ほど 市場 

町の人『他とは少し違う特別な店だけれど、先入観が無い方がいいと思うから言わないでおくわ。とにかく、行ってみて』 】


ポリー(心の声)「そういうことだったのね」


〈視覚障がい者の子のそばに行くポリー。〉


ポリー「こんにちは!甘い匂いに惹かれて、初めて来ました。おすすめはありますか?」


店員 その1「試食がたくさんあります。どうぞ召し上がって決めて下さい。パンのトレイの前にカードがあって、パンの名前が書いてあるので、その名前を言ってもらえればどんな味か、僕が説明しますよ」


ポリー「わあ。こんなに試食してもいいのですか?それも、試食用のパン一切れが結構大きい!嬉しいです。じゃあ、どれにしようかな。それぞれ名前がおしゃれですね!では、まず、これを頂きます」


〈試食のパンを一つ食べてみるポリー。〉


ポリー「んー、美味しいです!“木陰の下で”はミントの味。黒砂糖も入っていますね?」


店員 その1「その通りです。よく分かりましたね!」


ポリー「〈調子に乗り、次の試食を食べ〉“太陽の贈り物”。なるほど、これはトマトのジャム……〈もぐもぐと咀嚼そしゃくして〉普通の赤いトマトとグリーントマトを使い、二色にしているのも中々いいですね」


店員 その1「ははは!こんなお客さん、初めてだ!僕が説明する手間が省けるなんて」

               

〈支払い担当の聴覚障がいがある店員も、二人の笑顔から楽しそうな様子と分かり、視覚障害のある子の隣りに来て、手を握って喜びを伝えあう。その横で、まだ幾つか試食するポリー。試食する度に皆で盛り上がっていく様子。〉 

               

レウォン「いらっしゃいませ。すごく楽しそうですね」


〈奥の厨房から、焼き立てパンを持ってきた、細身で顔立ちの良い若い男。髪の毛は額を出し、前髪を後ろに持っていき、一つに束ねている。左手だけでパンをのせたトレイを運んでくる。〉


ポリー(心の声)「青の国にも、美形の男子がいるのね……」


店員 その1「〈声がした方を向き〉このお客さん、僕と同じぐらい、味が何でも分かるんだよ」


〈現れた男のさわやかな笑顔に見とれていたポリーはハッとなる。〉               


ポリー「〈恥ずかしそうに〉すみません、お騒がせして。試食したパンはどれも美味しくて大満足です。あの、ここにある全種類、買わせて下さい」


レウォン「全種類?食べきれますか?」


ポリー「明日からまた旅に出ますし、一人じゃないので皆で移動中にも食べます」


店員 その1「では、旅をしながら、いっぱい食べて楽しんで下さい。じゃあ、あちらへどうぞ」


〈支払い担当の店員が清算する台の所へポリーを案内し、パンを袋に詰めたりする。〉


レウォン「〈笑って厨房へ戻りながら〉たくさんのお買い上げを有難うございます」


〈会釈して笑い返すポリー。レウォンの腕章には“私は右手が使えません。左手でどんな御用にもお答えします”と書いてあるのがポリーの目に入る。〉



[10]-青の国 『笑顔パン屋』


〈聴覚障がいのある支払い担当の店員からパンが入った袋を受け取り、その店員に分かるように大きく口を動かすポリー。〉


ポリー「どこかで座って食べられますか?この焼き立てを食べたいのです。近くに広場はありますか?」

               

〈店員は頷いて、ポリーの手を引いて、店を出る。パン屋の脇に裏へ続く細い道があり、その先には小さな庭。木の下にベンチもあり、花も咲いている。〉


ポリー「〈店員に口の動きを見せて〉いい所ね。ありがとう」


〈店員の女の子が手をゆっくり動かし「ごゆっくり」としぐさで伝えて去っていく。ポリーがベンチに座ると、ちょうど店の厨房の裏口が庭に面して、大きな窓から中も見える。さきほど会った、かっこいい若者の他に、足を引きずっている人、手や体を震わせながら動いている人達が見える。食べながら、中の厨房を眺めるポリー。〉


ポリー(独り言)「障がいを抱えながらも、こうして美味しいパンを作って食べて、皆、笑顔で幸せそう。それぞれが役割分担して働いているっていいな」


〈そこへ、さきほど裏庭へ案内してくれた店員がトレイに飲み物を持って裏口から現れる。ポリーが不思議に思っていると、レウォンが裏口から顔をのぞかせる。〉


レウォン「〈裏口から大きな声で〉南国風飲み物をどうぞ。お代は結構です。たくさん買ってもらったから〈ウィンクする〉」

               

〈どきっとなるポリー。慌てて頭を下げる。ところが、笑顔でポリーに近づいてきた店員の足が急に止まり、震えだす。まだ、裏口からこちらを見ていたレウォンを振り返り、しっと指で示してから急ぎレウォンを手招きする。店員はそのまま、そっとトレイを下ろし、ポリーには動くなと身振りで合図。訳が分からず固まるポリー。そっとやって来たレウォンは呼ばれた理由に気付く。〉


レウォン「〈静かな声でポリーに〉サソリがいる」


〈ポリーは、ひいっとなりながら、下を見ると、足のすぐ近くにいるサソリ。レウォンは、店員の女の子に中に入るよう手真似で合図する。落ちていた棒切れを左手で拾い、自分は忍び足でポリーのそばへ来る。気配を消しているレウォン。〉


レウォン「〈ささやくように〉昼間のサソリはそれほど活発じゃない。そっと動けば大丈夫。まず、静かに両足をベンチの上に乗せて」


〈ポリーは言われた通りにする。〉


レウォン「サソリと反対側へそっと降りるんだ」

               

〈頷くポリー。サソリが動けば棒切れで叩く構えのレウォン。〉


レウォン「〈小声で〉まだ足を降ろさないで。〈棒切れを構えたまま〉いい?そっとだよ」


〈ポリーは地面に足をそっと下ろす。サソリは動かない。そのまま静かに立ち上がり、忍び足でレウォンの所に行くポリー。その後、後ろ向きでサソリに注意を払いながら静かに庭から離れる二人。〉


ポリー「〈ふうっと息をつき〉有難うございました」


レウォン「ここは暑い国だから、サソリは時々出没するんだ」


ポリー「そうなのですね。心臓が止まりそうでした。ああ、でも、パンが……」


〈パンの入った袋はベンチの上に置かれたままになっている。サソリはまだベンチのすぐ近くにいる。〉


レウォン「サソリがいなくなったら後で回収するから気にしないで。あ、すみません。僕も夢中でため口になっていました。〈ポリーに、にこっと笑いかけ〉刺されたら大事おおごとでしたよ。じゃあ新しいパンと交換しましょう」


ポリー「すみません」


〈裏口から聴覚障がいの店員が来て、嬉しそうにポリーの手を取る。〉


ポリー「〈顔を見ながら〉有難う」


〈頷く店員。その女の子の肩をポンポンと叩くレウォン。ベンチの上のパンの袋を指差し、手で“交換”のサイン。頷き、店員の女の子がポリーの手を引き、店の表に回る。〉

               



[11]-青の国 海岸そばの食堂 夜


〈砂浜に木のデッキが張り出し、波の音が聞こえ、デッキのあちらこちらに灯り用の火がたかれている。テーブルにはお酒、海の幸。ポリーが買ったパンもある。〉

               

ポリー「〈感慨深く〉旅は一期一会と言うけれど、その通りね」


ミレーネ「今日、一人で出掛けた時に、どなたかと会いましたの?」


ポリー「〈はっと我に帰り〉あつ、何でもない、気にしないで、ただの独り言!〈笑う〉」


従者レックス「それにしても、ポリー様、パンを買い込みましたね。どれも中々美味しいですが、すごい量です」


ミレーネ「本当に。よほど気に入ったのですわね」


ポリー「ミリアム王子や母様、ジュリアスやみんなにも、パンをお土産に買いたいけれど、これから白の国へ行くのに、ずっと持ち歩く訳にはいかないわよね」


従者レックス「パンって、どのくらい日持ちがするのですか?川を使って緑の国と交易があるので、食べ物も運んでいると思うのですが?」


ポリー「そうよ、それだわ!朝、パンを船に積んでもらって緑の国へ送れば、次の日の夕方までには、お城に着く。船着き場からお城までの運び賃をうんとはずめばきっと可能ね!つまり、あの店でもっと、もっと、たくさん買うことが出来るってことよ」


ミレーネ「ポリーったら、美味しい食べ物のことになると真剣ね」


ポリー(心の声)「今日、あんなに親切にしてもらったんだもの。貨幣をお礼として渡すのは失礼だとしても、パンを買うなら、お土産にもなるし、パン屋の皆にも喜んでもらえて一石二鳥よ!」


〈ミレーネ姫が海の彼方の水平線をとらえ、ぼんやりと見つめる。〉


ミレーネ「あの海の向こうに、白の国がありますのね」


従者レックス「明日の夜は、お城で王子様達と一緒に会食されていることでしょう。サイモン王子がどれほど喜ばれるかと思うと、私も頑張ってここまでお供した甲斐がありました!」


ポリー「サイモン王子、驚くわね!ああ、また、白の国という、私の知らない世界が待っている。明日は、どんな一日になるんだろう!」



#2へ続く

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