第1話 新たなる旅立ち 

シーズン2 第1話 新たなる旅立ち 


******緑の国  サイモン王子が白の国に帰って約一か月後、従者レックスが帰る日


[1]ー《緑の国》 城の門


〈従者レックスを見送る人達。従者レックスと、付き添う護衛は馬に乗っている。〉


ミリアム王子「またサイモン王子様と一緒に遊びに来てね!」


従者レックス「ミリアム王子様、有難うございます。また、お会いしましょう。皆さん、本当にお世話になりました」


ミリアム付きの侍女「〈見回して〉姫様やポリー様は……?」


従者レックス「先ほど城内で王様をはじめ皆様にはご挨拶させて頂きました」


ミリアム付きの侍女「それにしても、ここへお顔を見せにいらっしゃると思っておりましたが」


〈しきりと辺りを見回す侍女。〉


従者レックス「急な用事などもありましょう。どうぞ、くれぐれも宜しくお伝え下さい」


皆「〈口々に〉お元気で!お気を付けて!さようなら!」


〈手を振る見送りの人々。中でもミリアム王子は泣きそうになりながら一生懸命に手を振っている。従者レックスの乗った馬と、付き添いの護衛の馬が遠ざかって行く。〉



[2]ー城下町 民政大臣の家 ナタリーの寝室


〈ウトウトしていて、はっと飛び起きるナタリー。〉


ナタリー「カノンは?カノンはどこ?」


〈意識が混濁しているナタリーはポリーのことをカノンと呼ぶようになっている。〉


ジュリアス「今、お城に行っているよ」


ナタリー「あの子から目を離してはいけないわ」


ジュリアス「母上は心配しないで。さあ、何か音楽でも聞きますか?」


ナタリー「ええ。そうね」


〈ベッドに再び横になり、目を閉じるナタリー。ジュリアスは小さい音で音楽をかける。女中ステラが入って来る。〉


女中ステラ「ジュリアス様、後は私がさせて頂きます」


ジュリアス「すみません。〈小声で〉ポリーはどこですか?」


女中ステラ「さあ。今日は朝から一度もお見かけしませんね。奥様がまた、お探しですか?」


ジュリアス「ポリーというよりを、ですが……」



[3]ー緑の国から白の国へ行く道


護衛「あの、さきほどから気になっているのですが、何者かに後をつけられているように思います」


従者レックス「〈振り返り〉実は、私も気になっております」


〈後ろから、距離を取って離れてついて来る、馬に乗った人が二人。顔は帽子を目深にかぶり隠している。〉


護衛「どこかで、やり過ごしますか?」


従者レックス「〈前方を指差し〉あの茶房で休み、あの者達がどうするか、様子を見るとしますか」



[4]ー茶房


〈馬から降りて、外にあるテーブル席で一息つく従者レックス。テーブルには焼き菓子とお茶。馬はつなぎ留めてある。〉


護衛「〈後方を見て〉先ほどの二人はいなくなりましたね。念のため、回りをぐるりと一度、見て参ります」


〈レックスが一人になったと見るやいなや、帽子を目深まぶかにかぶった女が来て隣にピタッと座る。〉


声のみ「騒がないで」


〈その横顔を見て、食べていた焼き菓子が詰まりそうになるレックス。〉


従者レックス「ポリー様!」


ポリー「しー」


〈むせるレックスにお茶を渡すポリー。〉


従者レックス「〈お茶を一口飲んで〉どうされたのですか?わざわざ、見送りにここまで来て下さるとは感激です!」


ポリー「〈真剣に〉見送りではないの。白の国へ一緒に連れて行って頂戴。お願いします!」


従者レックス「〈益々むせながら〉ポ、ポリー様!?」


ポリー「あっ、護衛が戻って来る!レックスさん、とにかく、私は家を出て来たの。何としてでも白の国へ行く覚悟よ。護衛にばれると、ややこしくなるから、上手に言ってあの人をお城へ帰して頂戴。お願いします!頼んだから、本当、お願い!」


〈護衛に見つからないように急いで隠れるポリー。〉


従者レックス「〈茫然と〉家を出て、私と一緒に白の国へ行く覚悟って……。まさかですか!?」



[5]ー茶房 続き


〈馬をつないだ所で礼を言い、もう大丈夫だからと護衛に引き取ってもらうレックス。護衛は城へ戻って行く。物陰から見ていて出て来るポリー。〉


従者レックス「〈咳払いし〉ポリー様、いつから、そんなお気持ちに?」


ポリー「決心したのは昨日よ」


従者レックス「昨日……。では、私がいよいよ出発する段になって?」


ポリー「そうなのよ!〈じっとレックスの目を見て〉この機会を逃したら、また、いつ国外へ行けるか分からない。外の広い世界を、ずっと子どもの時から夢見ていたのだから!」


従者レックス「〈ガクッとなり〉え?ずっと子どもの時から?それで、家出をしたのですか?」


ポリー「家出ではないわ。ちゃんと手紙を置いてきたし。昨日、ミレーネにも直接、話に行ったの。そうしたら……」


従者レックス「そう言えば、さきほど二人連れだったのでは!まさか!?」


〈振り返ると、そこには帽子を取ったミレーネ姫の姿。〉


ミレーネ「〈笑顔で〉レックス殿!」


ポリー「自分もどうしても一緒に行きたいからって」


従者レックス「ああ。お二人が無鉄砲なことを忘れていた私が馬鹿でした。これは無理です。王様がお知りになるのは時間の問題。すぐに大騒ぎになりますよ!」


ミレーネ「大丈夫。私も手紙を置いて来ましたわ。それに…私は、もうじき白の国に嫁ぐのですもの。その前に一度、白の国を訪れる機会があっても良いでしょう?〈はにかみながら〉お父様も許して下さるはずですわ」


ポリー「目の方も随分良くなっているし。もしレックスさんに断られても、二人で後をつけて行くだけのことよ。皆で一緒にいる方が安心じゃない?」


〈バンとレックスの背中を叩くポリー。うっとなるレックス。〉


ミレーネ「ポリーったら!レックス殿はまだ病み上がりよ」


ポリー「ああ、いけない!御免なさい」


従者レックス「…だから心配なのです」


ミレーネ「レックス殿、驚かせてしまい、申し訳なく思っています。でも、ご一緒出来るなら本当に心強いですわ。帰りは副隊長たちと戻りますから、心配しないで下さいね。白の国までの案内をどうか宜しくお願い致します」


従者レックス「お供します……」



[6]ー緑の国 城 王の部屋


〈ミレーネ姫の置き手紙を読み驚く王。そこへポリーの置き手紙を持って、慌てて入って来る民政大臣とジュリアス。〉


民政大臣「申し訳ございません、王様。ポリーがまた、とんだ失態を!」


王様「いや、ポリーのせいではない。この頃の姫は特に何でも自分で決めて行動する。今回もそうであろう。白の国のサイモン王子から連絡がないことを、ずっと気に病んでおった。どうしても自分で確かめたかったと見える」


民政大臣「それならば、改めて白の国を正式に訪れる手筈を整えることにいたしましょう。ここはまず一旦お戻り頂かなくては!」


王様「それで結局、サイモン王子から何も言って来なかったら?そうなることを恐れて姫は強行したのではないか?これからも、来るか来ないか分からぬ返事をただ待ち続けろと姫に言うのか?」


民政大臣「王様!しかし、これでは余りに危険すぎます!」


王様「〈手で制し〉分かっておる。本心を言ってみたまでだ。〈少し乗り気でなさそうに〉白の国へ行く近道は一つきり。今から早馬を出せば、すぐに追いつく。姫も、私が許さなければ戻るつもりで出掛けたはずだ。迎えの護衛を急ぎ手配しておくれ」


民政大臣「承知致しました。誠に申し訳ございません。護衛と一緒に私も迎えに行って宜しいでしょうか?ポリーのことです。自分だけ、白の国に行くとも言いかねません」


王様「大臣自ら動けば目立ち、騒ぎが大きくなりはせぬか?」


ジュリアス「では、私が行って参ります」


民政大臣「ジュリアス。何があっても、姫とポリーが白の国に入る前に連れ戻すのだ。必ず!」


ジュリアス(心の声)「父上、決してポリーには白の国の地を踏ませません」



[7]ー緑の国から白の国へ行く道 国境方面


〈大木が何本も倒れ、道が封鎖されてしまっている。〉


従者レックス「これは!」


ミレーネ「何があったの?完全に奥まで塞がってしまっているわ」


従者レックス「馬でこの道を行くのは無理ですね。白の国からの知らせが途切れたのは、これが理由かも知れません」


ポリー「ここまで来て、あきらめたくない!レックスさんは、どうするの?」


従者レックス「はい。私は白の国の人間ですから、たとえ歩いてでも何日かかってでも、国へたどり着きます…と言いたいところですが、〈お腹を触って〉この傷ですから」


ミレーネ「そうですわね。戻って城の者達にまず道の補修をお願いするしかないかしら」


ポリー「戻ったら最後、絶対、私達は出してもらえないわよ」


従者レックス「ポリー様はその勢いなら一人でも倒木を乗り越え国外へ行ってしまわれそうですね。では、ここが無理ならば別の道が幾つかあります。遠回りにはなりますが。そのうちのどれが最善の道かと言いますと……〈考え〉さきほど、川があったのを覚えていますか?川沿いの道を下れば、どこかで川舟に乗ることが出来るはずです。そのまま青の国に入り、今度は青の国の港から白の国へ行く船に乗るというのは如何ですか?」


ミレーネ「まあ、青の国から船に乗るのですか?」


ポリー「すごい!白の国だけでなく青の国へも行けるのね!ああ、私の目の前に未知の景色が広がってきたわ!」


従者レックス「旅は色々な経験も出来ますが、危険とも隣り合わせ。どうぞお二人とも十分に注意を払って行動して下さい。特にポリー様、宜しくお願いします」


ミレーネ「護衛を帰さなかった方が良かったかしら?」


ポリー「大丈夫!私に任せて!レックスさん!さあ、急いで!川下りの船着き場を探しましょう!」



[8]ー緑の国 城と茶房との間の道 (途中)


〈城からやって来た早馬と、レックスと別れて戻って来た護衛が途中で出会う。驚く護衛。言葉を短く交わす二人。速度を上げ、馬を飛ばす早馬の乗り手。もう一度、馬の向きを変え、必死で早馬の後に続く護衛。〉



[9]ー緑の国から白の国へ行く道 国境方面


〈木々がなぎ倒され、通行止めになってしまっている。辺りを見回す早馬の乗り手と護衛。もう一度向きを変え後戻りする二人。〉



[10]ー緑の国から青の国へ続く川


〈ミレーネ姫、ポリーやレックス、他の客を乗せた少し大きめの船。馬を一頭ずつ乗せた小舟。荷物を乗せた小舟。すべてが、川沿いの新しい景色の中をゆったり進む姿。船の上で目を輝かせて、レックスに何か言っているポリー。「はい、はい」という感じで頷くレックス。感慨深けに周りの景色を眺めているミレーネ姫。〉


ミレーネ(心の声)「護衛は追ってこないようだわ。お父様は許して下さったということかしら?心配かけて御免なさい。でも、どうしてもサイモン王子様にお会いしたいの」 


【姫の回想:サイモン王子の笑顔。】



[11]ー緑の国から白の国への道 国境方面


〈後戻りする途中で合流したジュリアスと早馬と護衛。早馬は城へ戻り、ジュリアスと護衛は相談している。〉


ジュリアス(心の声)「白の国への道が封鎖されているとは……。父上はミレーネとポリーを行かせまいと必死だった……。の地に何か恐れるものがあるのを知っているのだろうか?」


護衛「どうしますか?」


ジュリアス「早馬には城へまず戻り、急ぎ倒木を撤去してもらう旨、伝えるよう頼みました。白の国への入国ルートの確保が今後の為にも必要ですから」


護衛「最短ルートはここですが、姫様達が辺境に広がる林を抜けようとしているとなると、どの道を行ったかどうか追うことは難しくなります」


ジュリアス「とりあえずこの辺りを、二手ふたてに分かれて探しましょう。まだ遠くに行ってないことを願うしかないですね」



[12]ー川 船の上


〈川の両側に人々が住んでいる家が立ち並び、商売の船が川を往来して活気あふれる地域まで、姫達が乗った船は下って来る。食べ物を売る小舟が近づいて来て、喜んで買うポリー。笑っている姫。そばで見守るレックス。〉



[13]ー緑の国 城 王の部屋


〈王と一緒に早馬からの報告を聞く民政大臣。ポリーと一緒に姫が城を抜け出したことは内密なので部屋には三人だけである。〉


民政大臣(心の声)「間に合わなかったか。ポリー、私は何の為にこんな茨の道を歩んでいると思うのか……。姫様を連れ、自分から渦中に飛び込んでいくなど……。ああ〈頭を抱える〉」



[14]ー城下町 民政大臣の家の前の道


〈よろよろと歩くナタリーを女中ステラが支えて二人で散歩している姿。そこへ通りかかった外事大臣。〉


外事大臣「お加減はいかがですか?」


ナタリー「まあ、殿!お元気でしたか?」


外事大臣「〈怪訝な顔で〉武官殿?」


女中ステラ「〈小声で〉このところ、奥様は過去と現在を行ったり来たりされていらっしゃるのです」



[15]ー城下町 民政大臣の家のそばの広場 木の下


〈ベンチに座っている外事大臣とナタリー。木や空を見上げ、ニコニコしている童心に帰ったナタリーの笑顔。女中ステラは傍に付き添っている。〉


外事大臣「これほど、重い症状だったとは……。民政大臣も仕事が大事なのは分かるが、少しは城から帰ってお宅で過ごした方がいい」


女中ステラ「ええ、本当に。このところ、旦那様も皆様もずっとお忙しくて、奥様はお寂しいはずです。ジュリアス坊ちゃまは、なるべく奥様のお側にいらっしゃるようにしておいででしたが、今は、ポリー嬢ちゃまを迎えに遠くまで行かれているのでお留守ですし」


外事大臣「それでは末娘さん以外誰もそばにいないということですか?」


女中ステラ「仕方ありません。すみません、色々お気遣いを頂きまして。さあ、奥様、そろそろ戻りましょうか?」


〈急に外事大臣に話しかけるナタリー。〉


ナタリー「殿、最近、絵はお描きになるのですか?〈ステラに〉この武官殿はとても絵がお上手なの」


外事大臣「覚えてくれていたのですね?」


ナタリー「また武官殿が描いた絵を見てみたいわ」


外事大臣「いつでも、お好きな時に」


ナタリー「この場所は気持ちが良くて、いい所ね。武官殿、また明日ここでお会いしましょう」


女中ステラ「奥様。お忙しい方ですから、来て頂けるかどうかは……」


外事大臣「〈手で制し〉明日、参ります。絵も幾つか見て頂けるようにお持ちしましょう」


ナタリー 「まあ、素敵!約束ですよ」


女中ステラ「有難うございます」


〈去って行く外事大臣。〉


ナタリー「楽しみですこと。〈笑う〉」


女中ステラ「こんな笑顔の奥様は、本当に久しぶりでございます。お会いできて良かったですね。さあ、私におつかまり下さい。お家に戻りましょう」


〈ステラにつかまってヨロヨロと歩き出すナタリー。〉



[16]ー緑の国 国境方面 川のそば


〈手分けしてあちらこちらを探していたジュリアスと護衛が川岸の船着き場で合流している。〉


護衛「今日の午後、ここから川舟で二人の女連れと一人の男、3頭の馬が青の国へ向かって川を下ったそうです」


ジュリアス「なるほど。青の国から白の国へ船で渡る道を取ったということか。では我々も青の国へ急ごう」


護衛「今日はもう船が出ません。如何いたしますか」


ジュリアス「夜道だが、とにかく川沿いに行ける所まで下り、先の船着き場まで行き、出来る限り早く青の国に近付いておきたい。青の国から白の国へ出航する船が港を出る前に、我々が間に合うよう祈るしかないようだ」




※第1話 終わり



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