エピローグ 遠く離れて

シーズン1 エピローグ 遠く離れて


[1]ー緑の国から白の国へ行く道


〈サイモン王子一行が進んでいる。その中にいる近衛副隊長ウォーレスの姿。〉


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「今回、唯一の犠牲者になったのが、あのマリオさんだ」

          

【ウォーレスの回想:6年前 城下町の道 影の者に殺されかけたマリオ。それ

を助けた覆面の剣士ウォーレス。】


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「一般のたみなのに、六年前も狙われ、今度はついに殺されてしまった。あの時、マリオさんは一人の若い女を探していた。それが殺害されたことと関係しているのならば……」


【ウォーレスの回想:6年前 城の庭 空から落ちてきた尋ね人の張り紙を見るウォーレス。白杖の若い女の子の似顔絵。そして姫の誕生日の祝宴で見かけた若い女の美しい横顔。】


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「一度は闇に消えた若い女……。しかし、今回、マリオさんが殺されたことで、その影がまた、ちらついているように感じてならない。あの人物はやはり実在していて、王妃様の事件と関わっているのではないだろうか?」


〈馬に揺られながら、考えを巡らす近衛副隊長ウォーレス。〉


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「しかし、六年前、判決が下された時、あの子について全く触れられなかった。ジュリアス様から話は上がったはずなのに、なぜ?つまり大臣や王様の側近の中に、その疑惑をもみ消した者がいるということなのか?」

                

〈近衛副隊長ウォーレスの目の前に、白の国の景色が広がる。荒涼として、寒々とした様子。海沿いに石造りの城が見える。〉


ノエル(独り言)「白の国に着いたわ。何て、暗く寂しげな国なのかしら」


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「六年前、あの若い女も白の国から王妃毒殺のガラス瓶を持って入り込んだ可能性が高い。マリオさんを襲い、私と戦った刺客も多分、同じ一味の者だろう。皆、今もここに潜んでいるのだろうか?」



[2]-白の国に入る門 道


女王の従者「サイモン王子様、お帰りなさいませ。どうぞ、こちらの道へ。女王様がお待ちです」


サイモン王子「城へ行く道と違うではないか。おばあ様はどこにいる?そんなに悪いのか?」


女王の従者「到着すれば、お分かりになります。どうぞ、こちらへ」


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「ここも何か良からぬものに支配されている空気を感じる……」


〈そばにいるノエルを見る近衛副隊長ウォーレス。〉


近衛副隊長ウォーレス(心の声)「アイラがここで生き延びているかも知れぬという一縷いちるの望みを託してノエルまで一緒に連れて来たが、果たして正解だったろうか?」


〈どこか不安げな表情のノエル。石造りの城から離れ、町の中心へ進むサイモン王子の一行。〉



******緑の国


[3]ー城下町 画廊マリオの前


〈とぼとぼと歩いてきたジュリアス。隣のナタリーの店も閉まっている。〉


ジュリアス(心の声)「マリオ……。大切な人を失くすとは、こういうことなのか。数日前までと同じ景色が全く違って見える。一人の人生が奪われただけでない。セナさん、母上、自分……。何人もの人生が変わってしまった……」


【ジュリアスの回想:17年前 可愛かったカノンと皆の楽しそうな姿。】


ジュリアス (心の声)「父上の言うように、ケインはカノンではないのだと信じたい。カノンは小さい時に死んだのだと……。そう、思ってしまえるのならば、母上も自分もどんなに楽か……」


〈背後から近づく足音。振り返るとマリオの妹セナが立っている。〉


セナ「ジュリアス様?」


ジュリアス「あ……」


セナ「葬儀の時は兄のために有難うございました」


ジュリアス「気が付いたら、ここに来てしまっていたよ……」


セナ「事件と、お兄ちゃんがいなくなった現実が、どうしてもまだ信じられなくて。〈うるっと涙を浮かべながら〉あの護衛が生きていたら、お兄ちゃんを何故なぜねらったのか、理由だけでも聞きたいと思っていました。でも、それが分かっても、お兄ちゃんは帰って来ない。あの護衛は死んだことで死罪になったも同然。これで良かったのです。お兄ちゃんを殺した者が生きている方が許せません!」


〈悲痛な面持ちで、ただ黙って頷くジュリアス。〉


セナ「おば様の具合はいかがですか?」


ジュリアス「長期戦になりそうだ」


セナ「探していた若者のこともまだ聞けない状態ですね」


ジュリアス「ああ。〈頷く〉」


セナ「やっぱり、もう、死んでしまった殺人犯の話なんか、おば様にしない方がいいと思います」


ジュリアス(心の声)「セナさん、マリオ、申し訳ない……。確かに、カノンだろうが別人だろうが、ケインは死んだのだ。このまま終わらせることを許してくれ。頼む……」

                

〈涙が出てきて、急いでセナに頭を下げ、向きをかえるジュリアス。そのまま涙を見せないように歩きだす。〉


セナ「〈その背中に向かって〉ポリー殿に、もう少し稽古は待って欲しいと伝えて下さい」      


〈振り向かずにただ、右手をあげて答えるジュリアス。〉




******白の国


[4]ー《白の国》 魔王グレラントの隠れ家 洞窟


〈苦虫をかみつぶしたような魔王グレラントの顔。〉


魔王グレラント「全く、あと一息ひといきのところで……。ケインの行方はまだ分からぬのか?」


手下 その1「国境周辺の、人が隠れていそうな場所を重点的に、捜索しておりますが、まだ見つかっていません」


魔王グレラント「首飾りを奪ったことは確かなのだな」


手下 その1「そう、聞いております」


魔王グレラント「緑の国の力を弱めたことは間違いない」


手下 その1「ただ厄介なことにケインが五蛇いじゃ剣法の使い手と見抜かれたようです」


魔王グレラント「そこまで暴露しておいて、この有様か……!所詮、あいつも。生きて戻ったとしても、次の使い道はよく考えねばならぬな」


手下 その2「グレラント様。到着が延びていたサイモン王子が白の国へ帰国したようです」


魔王グレラント「戻って来たか。女王が裏でこそこそ動き回っておったが、我らが長年築き上げた、この闇の帝国を崩すなど、まあ、無理な話じゃ。せいぜい足掻あがいておれ」



******緑の国


[5]ー《緑の国》 城 ミレーネ姫の部屋


ミレーネ「どうしても不思議で仕方がないわ・・・。」


【ミレーネの回想: 王の会議室 事件の夜 〔報告している近衛副隊長ウォーレス。〕

                

近衛副隊長ウォーレス『はい。姫様の首飾りには闇の中で光る石がついております。ケインはしっかり首飾りを握りしめ、その石が強く光を放っているのが見えました』】

  

ミレーネ(心の声)「首飾りがなぜ光り続けていたの?それにケインが私から首飾りを奪おうとした時……」


【ミレーネの回想:事件の夜 庭 ケインに連れられ走る姫。短剣で鎖が切られ、首飾りがケインの手に渡った。】


ミレーネ(心の声)「どうして首飾りは拒まなかったのかしら?あの夜に限って、何も起こらなかったのは、なぜ?そして、結局、首飾りはケインと共に崖下に消えてしまった……」



[6]ーどこか分からない林の中


〈大怪我をして倒れているケイン。その胸元で必死で光を放っている首飾りの石。数字の8の形に光は輝いている。そこへ一陣の風が吹いてくる。ケインの上に何かが覆いかぶさり、ケインの体に影が出来る。その得体の知れないものが空中を動めく様子。〉



[7]ー城 ミレーネ姫の部屋


〈タティアナの手紙を開いて再度、確認しているミレーネ姫。〉


ミレーネ(独り言)「ハチ、ネツケバ。“植木鉢”、“根付けば”。〈首を振る〉。違うわ。……他にどんな意味が? ネツク……?」


〈そこへノックの音がする。〉


ミリアム付きの侍女「姫様、宜しいですか?〈足をまだ引きずりながら入って来る〉」


ミレーネ「怪我は少し良くなったのね」


ミリアム付きの侍女 「ご心配をお掛けしました。ここまで一人で歩けるほどに回復いたしました。あの、実はこれを見て頂きたくてお伺いしたのです」


〈侍女が差し出す絵を手に取るミレーネ姫。〉


ミリアム付きの侍女「サイモン王子様が出発の前に、急いで部屋に寄られてミリアム様に下さったようです。ミリアム様が“効き目がなくなる”からと隠していらっしゃったのですが、やっと、こっそり見ることが出来ました。この二人の人物をご覧ください」


ミレーネ「〈目を近付けて〉あっ!」


ミリアム付きの侍女「姫様もやっぱり似ていると思われますか?」


〈絵に描かれているのは、勇者ミリアムに一突きにされている剣士ケインと薬師ゴーシャ魔王グレラントの姿。〉


ミレーネ「では、ミリアムを悩ませていた怖い夢というのは、この者たちのせいだったのかしら……」

              

ミリアム付きの侍女「そのように推察されます。せっかくお元気にお過ごしになられているので思い出させぬ方が宜しいかと、ミリアム様には何もお尋ねしておりませんが」


ミレーネ(心の声)「やはり、あの薬師も一連の事件と関係があったに違いないわ。私たちを引きずり込もうとする闇の正体はいったい何なの……?もしかして今までのことは、これから始まる陰謀の、ほんの序章に過ぎないのかも……?」


〈不安に駆られるミレーネ姫の表情。〉



※シーズン1 エピローグ 終わり

                                

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