第21話 奪われた首飾り #3

第21話 続き #3


[26]ー城下町 民政大臣の家 続き


〈ジュリアスと、父である民政大臣が話している。〉


民政大臣「何を今更、昔のことを持ち出すのだ?ナタリーをこれ以上、混乱させるでない」


ジュリアス「では、その子が生きて現れ、王妃やマリオを殺害し、城でまた大事件を引き起こしたのならば父上はどうされますか!」


民政大臣「ジュリアス、何の話だ?さっき、お前は今回の事件は白の国の護衛剣士のせいだと私に説明したではないか。カノンが、その護衛だと言うのか?馬鹿馬鹿しいにも程がある。これ以上、無駄な話を続けるなら……」


ジュリアス「父上!家族の話ですよ。自分達家族の一人が殺人犯かも知れないと言うのに!どこが馬鹿げた話なのです。だから、母上はこんなに苦しんでいる!違いますか?」


〈民政大臣の引きつっていた顔がふっとゆるむ。〉


民政大臣「家族か……。お前も少しは覚えているだろう。一緒に家族として暮らしたとはいえ、カノンは本当の家族じゃない。一時的に預かっていただけだ。ナタリーは、自分で乳まであげ、おまえ達と分け隔てなく実の子どものように育てていたから、思い入れが強過ぎるのだ。そして、あの子は死んだ……。どうして、死んだカノンが白の国の護衛剣士となり、ここに現れる?何を根拠にそんな話をするのだ?」


ジュリアス「〈ポケットから紐についている石を取り出し〉家族で分けた家宝の、この青く光る石です。あの護衛剣士のピアスも同じように青く光ったがあります」


民政大臣「だと?青い色のピアスなど、何処にでもある。我が家の宝である石と同じものだという確証は何だ?お前の、その石を直接、近づけたのか?近づけて、護衛のピアスが実際に光るのを見たのか?」


ジュリアス「いいえ……」


民政大臣「証拠もないのに、ただ、そう思っているだけなのか?ジュリアス、お前はもう少し賢明かと思っていたが残念だ。我が家に関係した者が凶悪犯であるはずがない!お前の話は、軽々しく口にするようなことではないぞ。王家や世間を惑わせる、おぞましい世迷い言だ。いいか?もう全て忘れろ。もし誰かに、この話をするならば息子と言えども、私はお前を斬る!」


ジュリアス「父上!」               



[27]ー城 ミレーネ姫の部屋 朝


女官長ジェイン「姫様、ガラス工芸の専門師がいらっしゃっいました。昨日のあのような事件のすぐ後で、お取り次ぎすべきか迷ったのですが急ぎのご用件と言われまして」


ミレーネ「すぐ行きますわ。王宝の間でお会いしますとお伝えして」



[28]ー城 王宝の間


ミレーネ「専門師殿、どうなりましたか?」


ガラス工芸の専門師「明らかな結果が出ました」


〈ひびが入った、くだんのガラス瓶をテーブルの上に取り出す。〉


ミレーネ「やはり、この瓶は我が国の物ではなかったのですね」


ガラス工芸の専門師「昨晩、お城では大変な事件が起こったとか。城下町では、今朝から、その話題でもちきりです。白の国の者が関わっていたと噂に聞きましたが、そうなのですか?」


ミレーネ「正確には、白の国の王家も騙されていて、知らずに護衛剣士として連れて来た者が事件を起こしたのです」


ガラス工芸の専門師「そうですか。六年前の王妃様の事件も、白の国のが、〈ガラス瓶を指差し〉これで緑の国の者に罪をかぶせようとした疑いが出てまいりましたね」


ミレーネ「そうなれば、自白した二人の処分も果たして正しかったのかということになりますわ」


ガラス工芸の専門師 「〈頷き〉一つ事実が異なれば連鎖的に、事実と思われた他のことにもほころびが生じてくる。再度、すべてを洗い直すことで、最終的に違う結果へと導かれるかも知れません」


ミレーネ「ああ。タティアナやアイラは、あの時どんな思いで刑の宣告を受けたのかしら……」


ガラス工芸の専門師「ただ、すでに六年前に終わったとされる事件の真偽を問い直すことは、かなり波紋を呼ぶのではないでしょうか。それも刑の執行は王命で下されているのですから。姫様、どうなさいますか?」



[29]ー城 森の湖のそば 数日後


〈ミレーネ姫がぼんやりと座っている。その側に置かれている、サイモン王子から贈られた‟流れ星”の絵。そこへポリーとマーシーが連れ立ってやって来る。〉


ポリー「ミレーネ!」


ミレーネ「ポリー。まあ、マーシーも!」


ポリー「ダメじゃない!あんなことがあったのに護衛も連れず、こんな所に一人でいたら……。体調はどう?ここずっと食欲がないと聞いたけれど」


ミレーネ「ええ、何だか全然食べる気がしなくて」


ポリー「やっぱり。それで、こうして用意してもらってきたの」


マーシー「お食事をお持ちしました。〈籐のバスケットを見せる〉」


ポリー「〈籐のバスケットから野菜がはさまれたパンを渡して〉ミレーネ、少しでも食べて。〈自分も食べ始めながら〉そうそう、レックスさんがやっと話せるようになったのよ。レックスさんがすごくマーシーに感謝していたわ。武官試験の時に耳にした、マーシーの一言がなかったら、ケインの正体を暴けないままだったかも知れないって」


マーシー「今回は昼間だったので運よく気付くことが出来たのです。前の時は闇夜で剣士の体の微妙な動きがしっかり見えませんでしたから。光にぼんやり映える剣先の動きが何とか分かるぐらいでした」


ポリー「黒魔術とつながりのある五蛇いじゃ剣法の使い手が、お城の中で、それも自分達のすぐ隣りにいたなんて、今更ながらゾッとするわよね。それに、よりにもよってマリオさんが、あいつにやられたと思うと悔しいし悲しくてたまらない!」


ミレーネ「本当にあんないい人が殺されたことが、まだ信じられませんわ。ずっと悪夢を見ているような気がして……。ミリアムだって、レックス殿がもう少し駆け付けるのが遅かったら襲われていた可能性も十分あったのですもの」


ポリー「ミレーネも人質にされて、最後に刺されたらどうしようかと怖くてたまらなかったのだから!」


マーシー「後で話を聞いた時、心臓が止まりそうでした」




[30]ー城 民政大臣の執務室


 〈机に座っている民政大臣。その表情は暗い。〉


【民政大臣の回想:幼い頃のカノンの笑顔。白の国の王子の護衛として仕えていた剣士ケインの姿。】


民政大臣(心の声)「とうとう、あの子は亡くなったのか。追い詰められ、本当の正体を誰にも知られぬまま……」


【民政大臣の回想:17年前 民政大臣の家

〔若いナタリーが小さなカノンにピアスをしてあげている。〕


若いナタリー『たとえ離れ離れになっても、あなたは私の大切な子よ。どこかで会った時、これでカノンとすぐ分かるわ』 】


民政大臣(心の声)「不幸な星の下に生まれたカノンが、あまりに哀れで、ナタリーが必要以上に可愛がることを許してしまっていたが……。あの子を手放した時、身元につながるピアスは外しておくべきだった。すべてはあの日にさかのぼる。結局こうなる運命だったのか……」



[31]ー城 湖のそば 続き


〈ポリーは美味しそうに食べながら、少しずつ、パンを口に運んでいるミレーネ姫を見る。〉


ポリー「良かった!少しは食べることが出来たわね。マーシーの作る食事は格別おいしいから」


ミレーネ「皆に心配を掛けてしまいましたわ。マーシーも私のために有難う。そう言えば先日の実技試験はどうなりましたの?」


マーシー「残念ながら一番悪い点数でした」


ミレーネ「え?じゃあ、この食事はどういうことですの?厨房班に残っているということでしょう?」


ポリー「試験の後、夏組二人が辞退して美化班に行かせて下さいって言ったのよね?どうも、先輩達のやり方に恐れをなしたらしいわ」


マーシー「女官長さんも全部お見通しだったみたいです。では、私はそろそろ厨房に戻ります。姫様とポリー様はゆっくり召し上がって下さい」



[32]ー城 森から厨房への道の途中 サアムおじさんの畑


〈少し離れた所から畑にいるサアムおじさんを見つけ手を振るマーシー。〉

     

マーシー「サアムおじさん!」


サアムおじさん「〈仕事の手を止め〉おっ、マーシー!」


マーシー「また夕方、手伝いに来ます!」


サアムおじさん「あまり無理しなくていいぞ」


マーシー「私が堆肥について教えてもらいたいのです!」


〈走って厨房の方へ行くマーシー。笑って見送るサアムおじさん。〉


サアムおじさん「少し頼もしくなったのう」



[33]ー城 森の湖のそば 続き


ポリー「ねえ、サイモン王子が帰る前に再会の約束は出来たの?」


ミレーネ「ええ。必ずすぐ戻ると言って下さったのよ。でも、もう一度この目でお顔を見るまで心配で仕方がないわ」


ポリー「サイモン王子達はもう白の国へ着いたかな?まさか、副隊長とノエルが王子と一緒に白の国へ行くことになるとは驚いたわ。当分、向こうにいるのよね?」


ミレーネ「ええ。今回のことで六年前の事件を二人に調べ直してもらうことにしたの。内密に……。まだ今の状態では、王命で下された判決に異議を申し立てることは難しいもの……。白の国で二人は事件のりになるものを見つけたいと言っていたわ。今はとにかく待ちましょう」


ポリー「あと、もう一つ忘れてはいけないのは、〈声を落として〉城の内部に潜む内通者よ。思いがけない人物かも。ミレーネ、とにかく気を付けて。今、私やジュリアスがそばにいられないから。母様が落ち着くまでね」


〈立ち上がるポリー。食べえ終えたものを片付けて籐のバスケットを持つ。〉


ミレーネ「また実家に帰るのね?」


ポリー「今日はとりあえず荷物を取りにお城に来ただけ。ミレーネの様子も心配だったから」


ミレーネ「お城のことは心配せずに、できる限り伯母様の傍にいてあげて頂戴。今や近衛隊もかなり城の守りを強化していますわ。ここにいる私達を狙うのは難しいはずよ」



[34]ー城 ミリアム王子の部屋


〈事件のことはすっかり忘れ、笑顔で女官達と遊ぶミリアム王子の姿。ベッドの枕の下に、サイモン王子が残してくれた、おまじないの絵が置かれている。そこには薬師ゴーシャ魔王グレラントに加え、剣士ケインが勇者ミリアムにやられている場面が描かれているが、まだミリアム王子以外は絵を見ていない。〉



[35]ー緑の国から白の国へ行く道


〈近衛副隊長ウォーレスの乗った馬が先頭を行く。次にサイモン王子の乗った馬が行く。後に続くノエルの馬と、数人の護衛の馬。〉



[36]ー【ウォーレスの回想:数日前 王の部屋 】


〔王の御前に近衛副隊長ウォーレスがいる。〕             


王様『そなたとノエルの、王家に対するこれまでの貢献度をかんがみて今回の件は謹慎のみにする。それで良いか?』


近衛副隊長ウォーレス『王様の御慈悲に感謝致します。王様、白の国の王子が帰国するにあたって護衛が必要と聞きました。謹慎中の立場としては身に余る願いでございますが、ノエルと共にしばらく白の国へ行かせて頂くことは出来ませんでしょうか』


王様『何、白の国へと?民政大臣が国を離れるのが難しく、人選を迷っていたところだが』


近衛副隊長ウォーレス『王様、ぜひお願い致します』


王様『ふむ、ほとぼりが冷めるまで城から離れておるのも良いかも知れぬ。もう一つ。ノエルにはずかしめを与えたアリだが、一か月間自宅謹慎とし武官見習いに格下げする。ただ、父親はこのまま外事大臣の職位にとどめたい。他に適任者がおらぬ。そこは受け入れてくれるか?』

                

近衛副隊長ウォーレス『私もノエルも王様のお決めになったことに従います。アリ殿も、もうノエルを脅すことはないでしょうから』 】



[37]ー城下町 外事大臣の家


アリの母親「この大馬鹿者が!せっかく着実に昇進する道を棒に振るなんて!このまま行けば、民済大臣の息子より早く大臣にもなれただろうに!〈ばんばん叩きながら〉大臣になるどころか、我が家に汚点を残して!!この馬鹿息子!」


〈母親に叩かれているアリ。妹のロラがかばいに入る。〉



[38]ー城下町 ナタリーの雑貨店

 

〈閉まったままの店の前に外事大臣がたたずんでいる。〉



[39]ー城下町 民政大臣の家


ポリー「ジュリアスの荷物も持って来たわよ」


ナタリー「〈ベッドに座って〉あら、カノン。お帰り」


〈ポリーは戸惑った表情でナタリーの傍に座るジュリアスの顔を見る。黙って母の背をなでるジュリアス。〉



[40]ー【ジュリアスの回想:数日前 民政大臣の家 】


〔ジュリアスとポリーが深刻な様子で小声で話している。〕


ポリー『カノンって、私が小さい時、家で預かっていた子どもの名前だったの?』


ジュリアス『そうだ。その子もポリーと同じ石のピアスをしている』


ポリー『だから、八つの石なのね!でも、どうして母様は急にその子のことを?』


ジュリアス『〈瞬時ためらって〉……その子は幼くして亡くなっている。母上にとっては自分の子も同然だった。だから悲しい記憶を心の奥に押し込めていたのだが、今回、何かのきっかけで突然、封印がはずれ爆発したらしい』


ポリー『そんな……。母様は治るわよね?』


ジュリアス『医者の話では、辛くても現実に向き合い事実をしっかり受け止めることが出来れば元に戻るそうだ。それまで辛抱強く見守ろう』


ポリー『‟カノンに捧ぐ”は、その子のために作った曲なのよね?宴で弾くからと、教えてもらって練習していた時は、そんな辛い様子は見られなかったのに』


ジュリアス『僕もあの頃は母上は立ち直っているものと思っていたよ』


ジュリアス(心の声)『たぶん本当にそうだったんだろう。ケインと会うまでは……』


〔ポリーが弾く‟カノンに捧ぐ”の曲を、剣士ケインが隠れて聞いていた姿を思い出すジュリアス。〕


ジュリアス(心の声)『ケインがじっと曲に聞き入っていたのは、ただの偶然だろうか?一体、事実は何なのか?まだ、自分達の知らないことが隠されているとしたら??』 



[41]ー民政大臣の家 続き


ポリー「ジュリアスもたまには、お城に顔を出したら?ミレーネもジュリアスと話したいことがあるみたいよ」


ジュリアス「〈ポリーの話をさえぎるように〉ちょっと、そこまで出て来る。母上を頼むよ」


〈外へ出ジュリアスス。〉


ジュリアス(独り言)「ミレーネに何をどう話せばいいと言うのだ?」




******白の国


[42]ー《白の国》 石造りの城 女王の部屋


女王付きの従者「間もなく王子様がご到着される予定でございます」


女王「至急、ヨーム公の私兵を集め、門まで迎えに行かせなさい。緑の国でも大変な事件があったと聞いている。ここへ入城しては危ない。そのまま、王子はクレアの家に留まらせ、私達もすぐに向かいましょう」


女王付きの従者「王様には?」


女王「黙って行くしかありませんね。このまま永遠の別れになることも覚悟で城を出ます」



[43]ー白の国 名家ヨーム公の館


〈クレアと遊んでいるヨハン。それを見守るタティアナゾラアイラサーシャ。〉


クレア(心の声)「もうすぐサイモン王子様がいらっしゃるわ」



[44]ー【クレアの回想:数日前 ヨーム公の館 クレアの部屋】


女王『クレア、結婚したら、自分の子どもを産むように努力するのです。それが叶えば、身代わりのヨハンは間違えて連れてきた子とし、、城からすぐ出て行ってもらいましょう。ヨハンの家族も一緒に喜んでいなくなるはず。白の国の王子や王女になれるのは名家の血をひく貴女の実の子だけですから』


クレア『王様や王子様がそれで納得されるでしょうか?』


女王『過失ぐらいで、先の短い老婆にひどい仕打ちはしないでしょう。ええ、あくまで私が間違えてしまったことにするのです。万が一のために遺言状も残し、貴女に託しておきます。いつでも使えるように』



※第21話 終わり

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