第21話 奪われた首飾り #1

シーズン1 第21話 奪われた首飾り #1


[1]ー《緑の国》 城の廊下 2階


〈従者レックスの声に応え、ミリアム王子を後ろから抱えるように走り出すミリアム付きの侍女。レックスに剣を向けられているので、ミリアムに即座に襲いかかることが出来ないケイン。ミリアム達が逃げた方向へ手にしていた短剣を目にもとまらぬ速さで投げ、足止めしようとする。足に剣が命中し倒れる侍女。その侍女に覆いかぶされたミリアム王子。〉


ミリアム「わああ!〈ここで覚醒する〉」


従者レックス「〈ケインに剣を向けたまま横目で確認して〉ミリアム様、そのまま逃げるのです。後ろを振り向いては行けません!」


ミリアム付きの侍女「ミリアム様、急いで!」


〈侍女の下から這いだし、前を向き、まっすぐ螺旋階段の方へ走るミリアム王子。〉



[2]ー城 書架室 3階


〈暗い中、持ってきた灯りだけをともし、静かに語らっているサイモン王子とミレーネ姫。〉


サイモン王子「姫が贈って下さった詩に感銘を受け生まれた絵です。この絵があれば、曇っていても、雨の日でも、いつでも流れ星に二人の願いを懸けることが出来ます」


ミレーネ「ええ。有難うございます。あっ!〈口の前に指を立て〉しー。今、誰かの悲鳴が聞こえましたわ!」


サイモン王子「そうですか?私には全く何も聞こえませんが?」


〈びくっと体を震わせるミレーネ姫。〉


ミレーネ「今度はミリアムの叫び声です!騒がしい足音もしています。私は目が悪かった時に聴覚が鋭くなったので、遠くの音が他人ひとより、よく分かりますの」


サイモン王子「何かあったのかも知れない。行きましょう!」

                

〈急いで出ていく二人。書架室のテーブルに残されたサイモン王子の描いた絵。〉



[3]ー城の廊下 2階


〈従者レックスはケインに斬りつけていくが巧妙によけられる。そのすきにケインは倒れている侍女に駆け寄り短剣を抜き、また武器を手にしてしまう。その背後から切りつけようとするレックス。今度は床に転がりながら、剣先をかわして立ち上がるケイン。剣と剣の闘いになる二人。ついにケインは五蛇いじゃ剣法の秘技を繰り出してレックスの腹部を斬りさく。そこへ騒ぎを聞きつけ集まって来た護衛二人。〉


護衛 その1「何事ですか?」


護衛 その2「これは一体!?」


〈驚いている間に護衛二人も足をケインに斬られ、その場から動けなくなる。ミリアム王子を追いかけるケイン。ここまで、ほんの3分ほどの出来事。〉



[4]-城の廊下 螺旋階段の手前 2階


螺旋らせん階段の前で足がもつれ転ぶミリアム王子。ケインが追いつき肩に手をかける。〉


ケイン「あまり困らせるな。〈ミリアムの手から首飾りを取り上げようとする〉」


〈そこへ3階から螺旋階段を下りてきたミレーネ姫とサイモン王子。〉


ミレーネ「ミリアム!」


サイモン王子「ケイン、どうしたのだ?」


〈その声に気づき、ケインがミリアムを急いで抱きかかえる。だが、抱きかかえられながら、一瞬早くミリアムは手に持っていた首飾りを姫に向かって投げる。飛んできた首飾りを急ぎ拾うミレーネ姫。ミリアム王子に剣を突きつけるケイン。〉


ケイン「皆、声を出すな。静かに!騒いだら、こいつを殺す」


〈恐ろしさで震えだすミレーネ姫。固まるサイモン王子。〉


ケイン「〈ミリアムの耳元に〉なめた真似をするとは!殺されたいのか?次は容赦しないぞ。絶対に泣き声をあげるな」


〈必死で泣くのを我慢しているミリアム王子。〉


ケイン「二人とも下へ降りろ。サイモンの部屋に行く」



[5]ー城の入り口


〈外から駈けこんでくるジュリアスとポリー。〉


ポリー「近衛隊にまず知らせるべきよね?」


ジュリアス 「安否の確認が先だ!」


〈2階から、悲鳴や叫び声が聞こえる。〉


ジュリアス「上だ!」


〈城の入口近くの階段を駈け上がる二人。2階の廊下で傷ついた侍女や護衛たちの姿を見る。〉


ポリー「遅かった……」


〈通りかかった女官が凄惨な状況に腰を抜かす。騒ぎを聞きつけ集まってくる城の人達。〉


ジュリアス 「武官と近衛隊に全員集合をかけて下さい!それ以外の人は部屋で待機!必ず鍵をかけて!危険人物が城の中にいます!」

  

〈近衛と武官が数人走って来る。集まりかけていた、近衛と武官以外の人達は急いで部屋に戻っていく。〉


ジュリアス 「王様、姫様、王子様の無事をまず確認願います!それから、白の国から来た三人は重要参考人と思われます。見つけたら、すぐ確保を!」


〈廊下で負傷している人の中に床に顔をふせ、苦しんでいるレックスの姿を見つけるポリー。〉


ポリー「ジュリアス、ここにレックスさんが!」


ジュリアス「何だって!〈深手を負ったレックスに駆け寄り〉医官をすぐ呼んで下さい!」



[6]ーサイモン王子の客室 1階


〈部屋の明かりは消したまま、暗がりの中から外の様子を窺うケイン。腕にはミリアム王子を抱えている。〉


ケイン「皆が気づいたようだな」


〈窓とは反対の壁際に立ち、手に持っていた首飾りを首から掛けるミレーネ姫。首飾りの石をそっと握りしめる。サイモン王子は姫をかばうように立っている。〉


サイモン王子 「ケイン、頼む。ミリアム王子をこちらへ。金はいくらでもある。〈足元にあった紙幣の入った鞄を投げて〉全部持っていくがいい。確実に逃走できるよう約束する。犯した罪にも目をつぶる。だから、姫や王子にだけは危害を加えるな」


ケイン「サイモン。まだ、命令できる立場にあると思っているのか?あいにく、こちらも金はいくらでもあるのでね。がいる限り、うまく逃げ切れるはずだ」


ミレーネ 「誰なの?一体あなたは何者?」


ケイン 「自分が有利な状況にいるのに素性を明かすほど馬鹿じゃない」


ミレーネ「一つだけ聞くわ。あの薬師も仲間なの?」


ケイン「薬師殿に目を治してもらった恩を忘れて疑うのか?こうしてミリアムが人質になっているのに、お前が質問する立場か?こちらが聞く。この城の森には何の力が隠されている?」


【姫の回想:今日の午後 突風に遮られて森に入れず、飛ばされるように出て来たケイン。】


ミレーネ(心の声)「森……?自分が入りこめないことに気付いたのね」


ミレーネ「森には数多く秘密があるわ。遥か昔から森の中で様々な生命が息づき、交わり、響きあっている場所よ。私達の知らない力が計り知れないほどあって当然だわ」


ケイン「あいにく、森のない国で生きてきたのでね。もう一つ答えろ。首飾りの力を引き出せるのは、お前の他には誰がいる?」


ミレーネ「……この首飾りの石が認めた者よ」


ミレーネ(心の声)「首飾りを奪い私の力を封じることは出来たとしても、闇の者たちがこの力を使うことは出来ないと信じるわ……」



[7]ー城の廊下 2階


ジュリアス「レックスさん!大丈夫ですか?」


ポリー「しっかりして!今、医官が来ます!」


〈ポリーはレックスの腹部の傷が目に入るが、あまりに痛々しく、すぐに目を逸らす。〉


従者レックス「ケインが…ミリアム王子と…首飾りを……。あいつは…危険……。サイ…サイモン王子…は…何も…知りません……。それ…だけは……」


ポリー「今、ミリアムは?」


〈螺旋階段の方向を指差す。〉


ジュリアス「ケインに仲間がいるか分かりますか?女の仲間が?」


レックス「多分…それは…あいつが…女の…服を…借りた…〈ううっと呻き苦しむ〉」


〈医官が駆けつける。〉


医官「今は、無理して話さない方がいい」


近衛「〈走って来て〉サイモン王子の客室に、ミレーネ姫とミリアム王子、サイモン王子の三人を人質にして、ケインが立てこもったようです!」


ジュリアス「ああ……」


従者レックス「どうか…サイモン…王子を…頼み…ます」


医官「だんだん出血がひどくなってきた。見た目より傷が深そうだ。早く医務室に運びましょう!〈近くにいた近衛や武官を手で招く〉」


〈抱えられ、医務室に向かう従者レックス。〉


ポリー「レックスさん、頑張って。しっかり!」


ジュリアス「〈医官に〉レックスさんを助けて下さい!お願いします!」


〈医官も一緒に去る。ジュリアスとポリーはサイモン王子の客室に急ぐ。〉




[8]ー城 サイモン王子の客室の前


近衛 その1「ドアを蹴破るか?」


近衛 その2「〈首を振り〉中に人質が多すぎる」


ポリー「〈扉をドンドン叩いて〉生きているかどうか、声だけでも聞かせて!」


ジュリアス「ミレーネ!ミリアム!」

                


[9]-城 サイモン王子の客室の中


〈ベッドからシーツを取り、剣で裂き始めるケイン。裂いたシーツで、ミリアムにさるぐつわをする。ミリアムの手足も縛る。〉


ケイン「廊下がうるさい。〈ミレーネに〉静かにさせろ。〈庭も覗き〉外の包囲を始めるなら、人質が一人ずつ殺されると、扉越しに伝えるのだ」



[10]-城 武法所 勾留室


〈取り調べが始まるのを座って静かに待っている近衛副隊長ウォーレスとノエル。〉


近衛副隊長ウォーレス「何やら城の方が騒がしくないか?」


ノエル「〈窓の所に行き外を見て〉事件でなければいいけれど……」


〈そこへ近衛が一人入って来る。〉


近衛「お伝えします。副隊長、すぐに近衛隊に復帰を!王様が特別、お二人の審議取り調べの延期をお決めになられました」


近衛副隊長ウォーレス「何があった?」



[11]ー城 武法所 別室


〈集められている近衛隊。中央では隊長が外事大臣と共に作戦を練っている。ウォーレスが入っていく。〉


近衛隊長「副隊長、来たか」


近衛副隊長ウォーレス「はい」


〈目が合った外事大臣とウォーレスの間に一瞬気まずい雰囲気が流れる。〉


近衛隊長「大変なことになった。白の国の護衛剣士が乱心だ。姫と二人の王子が捕まっている。多分、奴は窓から庭へ逃げるつもりだが、姫達が一緒におられるため、近づくことが出来ない。遠くから確実に奴をとらえるには、弓の名手である副隊長に頼むしかないのだ」


近衛副隊長ウォーレス「〈外を見て〉この暗さで、ですか……。一矢でしとめるのは、かなり難しいことになります」


外事大臣「とにかく最善を尽くしてくれ。相手に気付かれぬよう、皆はひそかに配置につけ」



[12]ー城 サイモン王子の客室


ケイン「さあ、そろそろ首飾りをこちらへもらおうか。ミリアムを殺されたくなければ……。〈裂いたシーツの切れ端を投げ姫に〉自分でさるぐつわをして、足も縛っておけ。〈サイモン王子を顎で指し、姫に〉そいつの手も縛れ」


ミレーネ「その前に、どうかミリアムでなく私を人質にすることを考えて!私は首飾りを持っています。首飾りを持っている私とミリアムの交換よ。悪くない交渉のはずですわ。その代わり、ミリアムの安全が保障されない限り、この首飾りは何があっても渡せません」


ケイン「姫と首飾りか……」


サイモン王子「それならば私が!ミレーネ姫、首飾りを私に!私が代わりに行きます。護衛と信じ、この悪人を緑の国へ連れて来てしまった責任は白の国の王子である私がとります」


ケイン「お前は早く、さるぐつわをして静かにするのだ!」


ミレーネ「ミリアムの命は私の命。私が参ります。お願いします」


ミレーネ(心の声)「首飾りが私と共にあれば、未知なる力が発揮できるはず。最後は首飾りの力に賭けるしかない!私を守ってくれると!」


〈部屋の隅にあった紙袋がケインの目に入る。〉


ケイン「いいだろう。〈紙袋を投げ〉町娘の服に着替えろ。その衣装では走れぬ。さっさとするのだ」


〈頷く姫。〉



[13]ー城 サイモン王子の客室 続き


〈サイモン王子はさるぐつわをして、手足を縛られた状態で部屋の隅にいる。ミレーネ姫は町娘の格好をし、首飾りをかけたまま、さるぐつわだけをして、ケインから少し離れて立っている。窓の外の様子を見るケイン。〉


ケイン「〈ミレーネ姫に〉今から、外に出る。お前の手を引くから必死で走れ。首飾りを途中で手放したり、最後まで逃げきれぬようなことがあれば、その場でお前を殺す。いいな?」

               

〈黙って頷く姫。サイモン王子がさるぐつわをしたまま、うーうーと声を出し心配そうに訴える。目で“心配しないで”と合図するミレーネ。ミリアム王子は放心したように震えて座りこんでいる。〉


ケイン「行くぞ!」



[14]ーサイモン王子の客室の前 廊下


〈扉の隙間に耳を寄せ中の様子を窺うために静まり返っていた人達。〉


近衛 その1「外に出るようだ!」


近衛 その2「待機部隊に知らせろ!」


近衛 その3「姫様が一緒に連れて行かれるらしい!くれぐれも姫様の身の安全を最優先に!」


〈ジュリアス、ポリーも庭の方へ回る。〉



[15]ー城の庭


〈ケインに手を掴まれ、窓から出るミレーネ姫。そのまま一緒に庭を横切り走る二人。〉


待機部隊 その1「出て来たぞ!」


待機部隊 その2「姫様が盾になっている!」


待機部隊 その3「これでは矢を放てません!」

               

〈庭を横切りながら、掛けている首飾りの石を片方の手で握りしめるミレーネ姫。〉


ミレーネ(心の声)「今までも私を守り続けてくれた首飾り……。お願い、助けて!」              


〈首飾りの石が光り出す。〉


ミレーネ(心の声)「お願い!、突風よ、吹いて!ケインをはじき飛ばすほどに!」


〈息を殺して見守る人達。〉


ジュリアス「まずい……。塀までたどりついたら、ミレーネを殺して首飾りを奪い、あいつはそのまま逃げてしまうかもしれない……」


ポリー「ミレーネ……」


〈弓矢を構えたまま、待機部隊と近衛副隊長ウォーレスがじりじりと前進する。〉




******白の国


[16]ー《白の国》魔王グレラントの隠れ家 洞窟


魔王グレラント「おおお!〈体をうちふるわせ〉手に取るように分かるぞ!ついにケインが首飾りを奪い取る時が来た!そうだ、邪魔な小娘も一気に殺せ!!」



******緑の国


[17]ー《緑の国》城の庭 塀の近く


〈まるで魔王グレラントの声が聞こえたように、ケインが目を細め、隣りの姫を走りながらチラッと見る。遠くに待機する弓矢の部隊も振り返り見る。〉


ケイン(心の声)「塀にたどりついた瞬間、首飾りの鎖を切ると同時に姫の首も一緒に切りつける……。これで同時に二つの目的が果たせるはず」


〈塀が目の前に近づいて来る。〉


ミレーネ(心の声)「神様!お母様!なぜ突風が吹かないの?お願い!」


〈庭の闇に浮かび上がるミレーネ姫の首飾りの石の光。遠くから必死で状況を見つめるジュリアスとポリー。〉


ジュリアス「首飾りの石が光っているのに、なぜ、何も起こらない?どうか姫を守って下さい!」


〈塀の前に来たと同時にケインがミレーネの胸元の首飾りの鎖を掴み、振り上げた短剣がきらめいた、その瞬間!〉


ポリー「めて!だめーーー!〈絶叫する〉」


ナタリー(声のみ)「止めて!ダメよ!」


〈ポリーの声に重なるように、ナタリーの声がはっきりとケインの耳に響く。ケインの動きが一瞬、止まる。掴んでいる首飾りの石がますます光り、その光に目を奪われていると、光の奥から送られてくる強烈な波動を感じ、戸惑うケイン。今度は、ナタリーの懐かしい香水の香りがケインを包み込む。〉


ケイン「この香りはどこから?あの店で嗅いだ香水と同じ香り……?〈思わず辺りを見回す〉」


〈離れたところから叫び続けるポリー。〉


ポリー「お願い!殺さないで!」


ナタリー(声のみ)「〈ポリーの声に重なって〉お願い!殺さないで!もうこれ以上、誰も殺してはダメよ!私の、私の大切な……カノン!!」



#2へ続く

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