第20話 幻の五蛇剣法 #2

第20話 続き #2


[18]ー《緑の国》 城 鍛錬場 武官試験会場 続き


〈試験会場の入り口に立つ、ミレーネ姫、近衛副隊長ウォーレス、ノエルの姿を見て、ぎょっとする武官アリ。そこへ女官長ジェインも駆け寄る。〉


女官長ジェイン「〈小声で〉姫様、私も一緒に参ります。〈ノエルに〉無事だったのですね。どれほど心配していたことか……」


ノエル「すみませんでした」


〈四人が王の前に進み出る。〉


王様「姫、どうしたのだ?まだ試験は終わっとらぬぞ」


ミレーネ「はい、お父様。だからこそ、お話しさせて頂きたく思います。実は昨日、そこにいるアリからノエルははずかしめを受けました。悲しみと悔しさでノエルは一晩中、森をさまよい続け、もう少しで命を落とすところでした。やっと先ほど見つけることが出来、保護したのです」


王様「何と!」


女官長ジェイン「朝、ノエルが部屋に戻って来ていない旨、私も報告を受けております。武官の試験が済み次第、王様に近衛を動員して頂き、森での捜索を願い出るつもりでおりました」


〈ざわつく観衆。〉


外事大臣 「馬鹿息子が……」


武官アリ「わ、私は体調の悪いノエルさんを介抱したまでです。姫様は何か誤解されていらっしゃる。なあ、ノエルさん、そうですよね?」


近衛副隊長ウォーレス「アリ殿、このに及んで、まだシラを切るつもりですか?」


武官アリ「副隊長もよく、そんなことが言えますね!群衆の前でノエルさんに、こんな真似をさせても宜しいのですか?ノエルさん、さあ、何もなかったと、はっきりさせましょう!」


ノエル「〈アリをきっと睨み〉この人は、私をとばらされたくなければ、言うことを聞けと脅し、女性にとって最も恥ずかしい屈辱を与えたのです!〈泣き出す〉」


〈倒れそうなノエルを女官長ジェインが支える。居合わせた人々が驚く。〉


大臣達「アイラの妹だと?」


観衆「あの6年前、死罪にあった女官アイラのことか?」


近衛副隊長ウォーレス「王様。私もここではっきり申し上げさせて下さい。ノエルがアイラの妹なら、私はアイラの婚約者でした。それを隠したまま今日までお城仕えをして参り、申し訳ございませんでした。私の罪はノエルより重いと思われます。ノエルに御とがめがあるのでしたら、私も同様にお願いします」


観衆「おお、あの人はアイラの婚約者だと?!」


近衛副隊長ウォーレス「ただ私達に非があるからと言って、武官アリ殿がノエルに卑劣なことをして許される道理はありません。昨日、ノエルが連れ込まれていた場所にもう少し遅く到着していたら何が起こっていたかと思うと、怒りでどうかなりそうです。適正なる厳罰を願います〈頭を深く下げる〉」


外事大臣「聞いておれん!〈席を立つ〉」


武官アリ「父上!」

     

〈王が近衛に合図する。取り囲まれるアリ。暴れるが連れて行かれる。次に近衛が副隊長ウォーレスとノエルの所に行く。二人は王と姫に頭を下げ、近衛の後について武法所へ向かう。〉


王様「この件は十分調べた上で、後に審議にかける。武官試験の優勝者も保留とする。サイモン王子、本日はお見苦しいところをお見せして申し訳ない」


〈神妙な顔で頷く王子。〉


王様「ひとまず試験を終えよう。気を取り直して最後にしっかり模範試合をおこなってくれ。暫定二位のジュリアス、出来るね?」


ジュリアス「はい」


ジュリアス(心の声)「本当に機会が巡ってきた……」


王様「では、相手は誰を望む?」


〈ジュリアスは王のそばにいるミレーネ姫をちらと見る。〉


ジュリアス(心の声)「ポリー、これでいいのだな?」


ジュリアス「白の国の護衛剣士ケイン殿をお願いします」


〈驚くミレーネ姫、サイモン王子、従者レックス、そして剣士ケイン本人。ジュリアスはしっかりと剣を握りしめ、足に力を込め、ケインのいる客席前に進み出る。〉


ジュリアス「〈ケインに堂々たる態度で〉どうぞお手合わせを願いたい!」


観衆 その1「おお、緑の国と白の国との決戦か!」


観衆 その2「これは見物みものだ!」


〈ジュリアスは観衆の中のセナとマーシーを見つけて目で合図する。〉


王様「なるほど。こういう顔合わせはめったにないことだ。サイモン王子、宜しいか?」


サイモン王子「ケイン、行って来なさい」


従者レックス「白の国の強さを見せて来て下さい」


〈予期せぬ展開にとまどいながら前に進み出る剣士ケイン。〉



[19]ー城下町 民政大臣の家 ナタリーの寝室


〈部屋をウロウロして窓から城の方を見るポリー。〉


ポリー(心の声)「ジュリアスの試合はどうなったかしら……」


〈眠っているナタリーの手を握って座っている民政大臣。うわごとを言うナタリー。〉


ナタリー「カノン、カノン……」


ポリー(心の声)「カノン……。あの曲名と同じ、女の子の名前……」



[20]ー城 鍛錬場 武官試験会場


〈剣を構えて向かい合う剣士ケインとジュリアス。〉


ジュリアス「ケイン殿、手加減なしでお願いします!」

    

〈黙って頷くケイン。模範試合が始まる。目を皿のようにして見るセナとマーシー。〉


セナ「ジュリアス様はさっきの試合で脇腹を痛めているから心配だわ。あの護衛剣士がどの程度、強いのか分からないけれど。〈じっとケインを見て〉えっ!?この若者って!?」


【セナの回想:数日前 ナタリーの雑貨店

入って来た若者。声をかけるセナ。香水の瓶を落としてぶつかりそうになっていたナタリーと若者。出て行った若者を必死で追いかけて行ったナタリーの姿。】


セナ(心の声)「この人っておば様の探していた若者なのでは!」


マーシー「〈試合を見ながら小声で〉セナさん、あの護衛剣士は見かけより強くありませんね。あまり剣先をジュリアス様に向けてきません」


セナ「〈はっと我に返り〉あ、ああ、そう?」


マーシー「それでもジュリアス様の攻撃をかわす姿をじっと見ていると、あの剣士から数匹の蛇が立ち昇って来るように感じてしまうのは、どうしてでしょうか?頭と両手足の動きが何か不思議なのです」


セナ「闘う姿に蛇が重なって見えるだなんて。マーシーさんは面白いことを言うわね」


マーシー「本当、私って変ですよね」


セナ「でも言われてみると確かに、この動きは何?」


〈その時、セナの思考をさえぎるように王の席のあたりがざわつく。〉


使いの者「王様、失礼致します。白の国からサイモン王子様へ緊急の伝令が届きました!」


〈王は試験官に手で模範試合を止めるよう合図する。〉


試験官「二人とも、そこまで!」


〈剣を下ろし向かい合う剣士ケインとジュリアス。〉



[21]ー城 鍛錬場の外


〈ぞろぞろと帰る観衆。片隅にジュリアス、ミレーネ姫、サイモン王子、従者レックス、剣士ケイン、セナ、マーシー、その他に姫のお付きの女官と護衛が集まっている。〉


ジュリアス「では、王子様達もどうぞお気を付けてお帰り下さい。これから実家に戻るため、お発ちになる前にお会いできるか分かりません。念のため、今、ご挨拶をさせて頂きます」


サイモン王子「こちらこそ色々とお世話になりました」


〈一緒に頭を下げる従者レックスと剣士ケイン。〉


サイモン王子「ジュリアス殿もお母上の容態が大事おおごとでなければ良いのですが」


ジュリアス「ご心配頂き申し訳ありません」


ミレーネ「私も叔母様の様子が気になりますわ。何かあれば、すぐ使いの者をよこして頂戴」


〈この時、姫の胸元に首飾りがないことに気付くジュリアス。〉


ジュリアス 「ミレーネ、首飾りはどうしたのですか?」


ミレーネ「今、ミリアムがしていますの。昨日もよく眠れず大変でしたのよ。何でも大事にしていた王子様の絵を失くし、落ち着かなかったらしくて……」


〈サイモン王子に申し訳なさそうにするミレーネ姫。剣士ケインはじっと、その話を聞いている。〉


従者レックス「〈そっと促すように〉サイモン王子様、ひとまずお部屋に戻って、荷造りのご準備を」


サイモン王子「ああ、そうだな。気が動転しているよ。こんな急にお別れとは……〈姫を見つめる〉」


ミレーネ「一緒にお部屋までお送りしても良いかしら」


〈一緒に歩き出すサイモン王子とミレーネ姫の一行。残ったジュリアス、セナとマーシー。〉

 

ジュリアス「このまま急いで家に戻ります。マリオから、試験の後にすぐ来て欲しいと言われていたことも気にはなっているのですが」


セナ「私がまず店に寄ります。そこでお兄ちゃんに用事を聞いてジュリアスさんの所に急いで知らせに行きますから、その件は大丈夫です。それに……」


【セナの回想:さきほど 鍛錬場 ジュリアスと戦っていた剣士ケインの姿。】


セナ「もし、おば様がお話し出来る状態であれば、どうしても直接お伝えたいしたいこともあるのです」


ジュリアス「では、家で待っていますね。とにかく今は急ぎます!〈はやる気持ちで立ち去る〉」


マーシー「私も厨房に戻ります」



[22]-城 サイモン王子の客室


〈ソファに座るサイモン王子。そばで荷造りをしている従者レックス。〉


サイモン王子「おばあ様が急に体調を崩されるとは驚いたよ。危篤とは……。間に合うだろうか?」


従者レックス「この間、届いた書状では、とてもお元気の御様子で安心しておりましたのに」


サイモン王子「とにかく、明日の朝一番に発つとしよう」


従者レックス「はい。ミレーネ姫様とこんなに早くお別れとは、お寂しいことですね」


サイモン王子「こればかりは仕方がない。また、おばあ様の容態が回復したら、すぐ戻って来たいと思っている」


従者レックス「そうですか!ぜひ姫様にも、そうお話し下さい。きっと王子様を待っていて下さいますよ」


サイモン王子「〈頷き〉私は発つ前に少しやり残していることを済ませたい。レックス、荷造りは頼んだよ。ところで、ケインは?」


従者レックス「そう言えば、どこに行ったのでしょうか?」



[23]ー城の中 廊下


〈ミリアム王子の部屋に走っていく剣士ケイン。〉


ケイン(心の声)「ミリアムが首飾りを持っているのか!今のうちに手に入れなければ!」


               

[24]-城 厨房


〈戻ってくるマーシー。きれいに飾り切りした野菜など、色々用意しておいた食材が調理台の上にそのまま置いてある。〉


マーシー「よし!今度は私が頑張らなくっちゃ」


〈食材を取り上げ、ん??と匂いをかぐ。〉


マーシー「これは……!?」


〈愕然となり、頭を抱えて座り込むマーシー。目に涙があふれてくる。〉


マーシー「誰がこんなことを……。ひどい……」

               


[25]ー城 ミリアム王子の部屋


〈ノックの音に扉を開けるミリアム王子付きの侍女。〉


ミリアム付きの侍女「まあ、白の国の王子の護衛のかた。どうなさいましたか?」


剣士ケイン「急にサイモン王子が国に帰ることになったのですが、最後にもう一度ミリアム王子様との時間を過ごしたいとのこと。ミリアム様をお迎えに上がったのですが、今、宜しいでしょうか?」


ミリアム付きの侍女「まあ、そうでしたか?〈小声で〉ミリアム様はちょっとご機嫌ななめなのですが、どうしましょうか?」


剣士ケイン「何かあったのですか?」


ミリアム付きの侍女「〈小声で〉姫様からお預かりしました大切な物を紛失されたのです」


ケイン(心の声)「まさか、首飾りを!何と役立たずなミリアム!」


ケイン「よく探されたのですか?」


ミリアム付きの侍女「ええ。それが……。どこに置いたか、ミリアム様が覚えていらっしゃらなくて。明日、美化班に頼んでお城中を探すことになると思います」

    

〈そこへ現れるミレーネ姫。ミリアム王子の部屋の前にいる剣士ケインを不思議そうに見る。姫に会釈するケイン。〉


剣士ケイン「では、私はこれで……〈去る〉」


〈立ち去るケインの後ろ姿を見るミレーネ姫とミリアム王子付きの侍女。〉


ミリアム付きの侍女「サイモン王子様が急にお帰りになられるそうですね」


ミレーネ「ええ。そのことを言いにいらしたの?」


ミリアム付きの侍女「はい。帰る前にサイモン王子様がもう一度ミリアム様にお会いしたいと。でも、今はミリアム様のご機嫌がとても悪いものですから。残念ですが、そうお伝え致しました」


ミレーネ「何かあったのですか?」


ミリアム付きの侍女「姫様、申し訳ございません!私が目を離したばかりに……!」



[26]-城下町 画廊マリオ


〈マリオの店は閉まったままである。〉


セナ「まだ、お店を開けていないなんて変ね」


〈ノブを回しても鍵がかけられ、横の窓を見るとカーテンも閉まったままである。〉


セナ「お兄ちゃん!お兄ちゃん!〈扉をドンドンと叩く〉」


〈返事がない。〉


セナ「急用でも出来て、どこかに出掛けているのかも?それにしても、カーテンもまだ閉めっぱなしなんて」


〈小袋からセナが預かっている、店の鍵を出し、扉を開け中に入る。カーテンが引いてあるので室内は暗い。まず、一番近い窓のカーテンを開け、店内を振り返る。床にあるマリオの死体。〉


セナ「いやあああ!!お兄ちゃん!!!」



[27」ー城下町 民政大臣の家


ジュリアス「ただ今、戻りました」


〈奥からポリーが出てくる。〉


ポリー「ジュリアス!どうだった?優勝は誰?」


ジュリアス「あれから、色々お城でも騒動があってね。後で詳しく話すよ。母様の具合は?」


ポリー「目を開けたかと思うと、また眠っての繰り返し。今までも時々倒れることがあったけれど、今回みたいなのは初めてよ。医者の先生も精神的なものとしか考えられないって言うんだけど」



[28]ー城 サアムおじさんの畑

 

〈わき目もふらず走ってくるマーシー。〉


マーシー「もう少し野菜をもらいます!」


サアムおじさん「マーシー、まだ足りないものがあったか?」

       

〈何も答えず頭だけ下げて、野菜を抱えて走っていくマーシー。〉


サアムおじさん「実技の前で緊張しておるのか?〈後ろ姿に向かって〉わしも後から行くから頑張れよお!」



[29]ー城 サイモン王子の客室


〈ミレーネ姫が医官と医女を連れて、部屋の前にいる。医官と医女二人の手には薬の入った瓶がある。〉


ミレーネ「緑の国で扱っている薬の中から、特別、効き目があり、重宝されておりますものを幾つかご用意致しました。少しでも女王様のお役に立てればと思いまして」


サイモン王子「有難うございます。レックス、ここに」


〈従者レックスが丁重に薬を受け取り、奥へ持っていく。医官と医女も下がり、護衛は少し離れて待つ。〉


ミレーネ「本当に突然のことで、お別れの宴も開けず残念ですわ」


サイモン王子「いいえ。昨晩も私の為に宴を開いて頂き、もう十分です。それに私はこれで姫とお別れとは思っておりません」


ミレーネ「まあ、サイモン王子様。そう、おっしゃって下さるのですね」


〈見つめ合うミレーネ姫とサイモン王子。二人を奥から垣間見て、嬉しそうな従者レックス。荷造りを再開し、自分や剣士ケインの小部屋も忘れ物がないか覗いて確認している。ふと隅にある袋に気付く。〉


従者レックス「これは、昨日、変装に使った服やかつら!ケイン殿は、ポリー様に返しに行ったはずだったのに。〈中を見て〉え??昨日と入れ方が違っている?また取り出したのか……でも、なぜ?」



[30]-城の中 廊下


〈怒りをあらわに、あちらこちら探しながら歩き回っているケイン。〉


ケイン(心の声)「明日では遅いのだ!一体、どこへ隠した?今夜、ミリアムが悪夢を見た時しか、もう手に入れる機会はない。それまで待つかしかないのか?幸い、今夜は城内に邪魔者が少なそうだが……」




#3へ続く

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