第20話 幻の五蛇剣法 #1

シーズン1 第20話 幻の五蛇剣法 #1



[1]ー《緑の国》 城の庭


ミレーネ「サイモン王子様」


サイモン王子「ミレーネ姫様」


仲睦なかむつまじい様子で駆け寄る二人。〉


ミレーネ「ご気分は宜しくて?酔い覚ましは効きましたか?」


サイモン王子「はい、お蔭様で、とてもすがすがしい気分です。昨日は本当に楽しい時間を有難うございました」


従者レックス(心の声)「何とも微笑ましいお二人の姿……」


〈そこへ近衛副隊長ウォーレスがやって来る。〉


近衛副隊長ウォーレス「護衛が必要と伺いまして。ケイン殿は?」


サイモン王子「手をわずらわせてかたじけない。ポリーさんの付き添いで森へ行ったものですから」


近衛副隊長ウォーレス「では探しに行って下さったのですね」


ミレーネ「ウォーレス、探しにって誰をですか?」



[2]-緑の国 森


〈ポリーとケインが森へ入って行こうとすると、急にあたりの空気がよどんでくる。〉


ポリー「〈空を見上げ〉いやだわ、急に雨が降りそうな気配?」


〈二人がさらに進みかけると突風が吹き、行く手を阻む。木々がゴーゴーと喚きだす。森に住む生き物たちの不気味な鳴き声が響く。〉


ポリー「何、これ?どういうこと?」


〈ケインは森の奥をじっと睨みつける。〉


剣士ケイン(心の声)「この間は偶然かと思ったが……。私を拒み続けるつもりだな」


〈ポリーは動けず立ちすくんだまま怪訝そうにケインと森を見る。〉



[3]-城 厨房


〈丁寧に実技の準備をしているマーシー。〉


マーシー「時間がいくらあっても足りないわ」


〈時計を見る。〉


マーシー「ああ、もう、行かなくっちゃ」


〈その辺りをちょっと片付けて、やりかけた準備はそのままに厨房から出る。少し離れたところで、それぞれ実技の準備をしている初春組の先輩二人と夏組新入二人が、マーシーが出て行くのを見る。〉


夏組新入り その1「マーシーはもう準備は終わったのかしら?」


夏組新入り その2「まだ途中みたいよ」


初春組 先輩A「本当に、あの子、馬鹿じゃないの。準備したものを置いたまま出るなんて」


夏組新入り 二人「「えっ?」」


〈顔を見合わせる夏組新入りの二人。不敵な笑いを浮かべて、マーシーが準備した食材に近付く、初春組の先輩二人。〉


初春組 先輩B「あなた達もあの子に負けて美化班に行きたくないでしょ?」



[4]-城 森への道


〈ミレーネ姫と近衛副隊長ウォーレスが様子を見に森へやって来る。サイモン王子には別の近衛が護衛につき、従者レックスと一足先に武官試験会場へ向かう。姫とウォーレスが森の入口あたりまで来ると、風に吹き飛ばされたような格好で飛び出てくるポリーとケイン。〉


近衛副隊長ウォーレス「あっ、あそこにポリー様とケイン殿が!」

          

ミレーネ「ポリー、大丈夫?」


ポリー「ミレーネ!変なのよ!森が怒り狂ったみたいになって、私達を中に入れてくれないの」


【ミレーネ姫の回想:数日前 サイモン王子と馬で森に来た日 初めて目にした荒れ狂った森の様子。ケインも同行していた。】


〈姫は目の前にいるケインを不思議そうに見る。姫に怪しまれているように感じ、急いで少し離れて立ち、違う方向を向く剣士ケイン。〉


ミレーネ「〈少し考えて〉私が副隊長と森へ行ってみますわ。ポリーとケイン殿は武官試験会場へ」


ポリー「ミレーネは?試験を見ないの?」


ミレーネ「実は私の目では、試験の細かい様子まで分からないから。〈小声で〉ポリーは大事な役目があるでしょ?応援が出来ないのは残念だけど、ジュリアスなら後で理由を納得してくれるはずよ」


ポリー「副隊長は試験会場に戻らなくていいのですか?」


近衛副隊長ウォーレス「準備が済んだので、後のことは他の者に頼んできました。ノエルにもし何かあったら、私は自分自身を許せません。一緒に探しに行きます」


ポリー「分かったわ。後は任せます。ケイン殿、私達は会場へ行きましょう」


                

[5]-城 鍛錬場 武官試験会場

                

〈ポリーとケインはサイモン王子たちと合流する。会場に王様が来て、すぐに試験が始まる。サイモン王子は王様の近くの良い席に座っている。少し離れた場所では順番を待つ若い武官たちが列を作って並んでいる。その中にアリやジュリアスの姿。観客も多い。人ごみをかき分けてやって来るマーシー。〉


マーシー「ポリー様!」


ポリー「マーシー、ここよ」


〈数か所で武術の試験が同時に行われる。ジュリアスもアリもそれそれに試合をして闘っている。マリオの妹でポリーの師匠であるセナも、会場に到着し、ポリーのところへ来る。〉


セナ「ジュリアス様はどんな感じ?」


ポリー「頑張って健闘中です。〈小声で〉刺客らしき奴はまだ見当たりません」



[6]-城の森


ミレーネ「さっきのポリーの話が嘘みたいですわね」


近衛副隊長ウォーレス「不思議なことがあるものです。一時的な気象条件で、突風が吹いたのでしょうか?」

                 

【ミレーネ姫の回想 (再び) :数日前に王子と馬で遠乗りした時 やはり森に拒まれた一行。その中に剣士ケインの姿。 】


ミレーネ(心の声)「ただの偶然なのかしら?」


〈少し森の中に入っていく二人。〉


近衛副隊長ウォーレス「ノエル!どこにいるんだ!聞こえたら返事をしてくれ!」


ミレーネ「ノエル!必ずあなたを守るわ。だから安心して、姿を見せて頂戴!」


近衛副隊長ウォーレス「ノエル!ノエル!」



[7]-城 鍛錬場 武官試験会場


〈次々と試合が行われている。〉


ポリー「もう一巡したわよね。マーシー、どうだった?」


マーシー「剣先に特徴がある者はまだ見当たりません」


〈試合を行うジュリアスの姿。王様や外事大臣とともに民政大臣も見ている。そこへ家から使いの者が来て耳打ちする。〉


民政大臣「ちょっと失礼致します」

                


[8]-城 鍛錬場の外


民政大臣「ナタリーがなぜ急に倒れたんだ?」


使いの者「理由は分からないそうです。とにかく、かなり容態がお悪いとのことで。ご家族皆様なるべく早くご自宅へお戻り下さいと、町の医者からの伝言です」



[9]-城 森


〈さらに奥へ進む二人。〉


近衛副隊長ウォーレス「ノエル!ノエル!……姫様、この先は“不帰かえらずの森”です」


ミレーネ「これ以上進むのは私達だけでは無理かしら?ノエル、どこにいるの?」


〈その時、ピピッと鳴くコットンキャンディーの声がする。〉


ミレーネ(心の声)「コットンキャンディー?出て来てはいけないと知っているのに、あの子が合図を送るなんて。もしかして……?」


ミレーネ「〈神秘の木の方へ向かいながら〉コットンキャンディー!ウォーレスはあなたに危害を与えないわ。出ていらっしゃい!」


〈ミレーネのもとへ飛んでくるコットンキャンディー。驚くウォーレス。〉

                           


[10]ー城 ミリアム王子の部屋


〈むくっと起き上がるミリアム王子。隣ではお付きの侍女が座ったまま寝てしまっている。パジャマ姿で、フラフラ歩いて廊下に出るミリアム王子。まだ首飾りをしたままである。〉



[11]ー城 ミリアム王子の部屋 再び


〈はっと起きるミリアム付きの侍女。ミリアム王子がいない。〉


ミリアム付きの侍女「ミリアム様!」


〈廊下に飛び出す。向こうからフラフラ戻って来るミリアム王子。〉


ミリアム付きの侍女「ミリアム様!」


〈安堵してミリアムを抱きしめる侍女。はっと覚醒するミリアム。〉


ミリアム付きの侍女「もう驚きましたよ。どこに行かれたのですか?」


ミリアム「分からない……。僕、すごくまだ眠い気がする」


ミリアム付きの侍女「そうでしょう。昨日の夜は、ほとんど眠っていらっしゃらなかったのですから。さあ、お部屋へ」


〈その時、侍女がミリアム王子の胸元に目をやり、首飾りがないことに気づく。〉


ミリアム付きの侍女「ミリアム様。姫様の首飾りはどうされたのですか!?」


ミリアム「首飾りって??」


ミリアム付きの侍女「ミリアム様、しっかりなさって下さい。姫様の大切な首飾りですよ!」



[12]-城 鍛錬場 武官試験会場


〈王の所に行き、耳打ちする民政大臣。頭を下げ、その場から去る。次にポリーの所へも同じ使いの者が来てナタリーの容態を説明する。〉


ポリー「何ですって!母様が?」


使いの者「入り口の外で民政大臣がお待ちです。」


ポリー「母様に一体、何があったの?〈ジュリアスを見て〉ああ、応援をあきらめたくないけれど、仕方ないわね!」


〈マーシーとセナに小声で事情を説明し、試験会場を出るポリー。〉




[13]-城の森 不帰かえらずの森との境 神秘の木がある場所


〈コットンキャンディーと一緒に向かうミレーネ姫と近衛副隊長ウォーレス。〉


近衛副隊長ウォーレス「ここは……?」


〈神々しい光が木々の間から差し込み、清らかな空気が漂っている。すべての草や葉がみずみずしく、やわらかな雰囲気を感じられる場所。雨が降っていないのに、キラキラとした露を宿した花があちらこちらで咲いている。その中で特別な存在感を持つ神秘の木。その幹に抱かれるように、もたれて座り、眠っているノエル。〉


近衛副隊長ウォーレス「ノエル!!」

               

〈コットンキャンディーが上手に花をくちばしで摘み、その露のしずくをノエルの口に持っていく。うーんとくちびるを舐め、動くノエル。〉


ミレーネ「そうやって水を与えていたのね。えらかったわ、コットンキャンディー」


〈ミレーネ姫の手に乗るコットンキャンディー。ミレーネ姫は、神秘の木がノエルを抱きとめていた幹の近くに触れる。〉


ミレーネ「十分、あたたかいわ。明け方もこれならば心配なかったはず。ノエルを守ってくれたのね」


近衛副隊長ウォーレス「本当に良かった……」


〈ノエルはうっすらと目を開ける。初め、ぼんやりとタティアナとアイラの姿が見えるような気がする。だんだん焦点が合ってくると、その姿はミレーネ姫とウォーレスの姿になる。〉


ノエル「〈やっと、はっきり気がつき〉どうして私はここに?」


〈言ってから、はっとして身を固くし、おびえた顔をするノエル。〉


近衛副隊長ウォーレス「姫様は全てご存知だ。その上で、ノエルを助けるために一緒にここへ来て下さっている」


〈ノエルの手を取るミレーネ姫。〉


ミレーネ「随分と辛い思いをさせてしまいましたね」


ノエル「姫様……〈涙ぐむ〉」



[14]-城 鍛錬場 武官試験会場


〈次々に試合をしている武官たち。〉


観衆 その1「やっぱり、アリとアリの仲間二人が残っているな」


観衆 その2「それに、ジュリアスか。思ったより頑張ってここまで戦ってきているぞ」

 

〈王と外事大臣、サイモン王子達が試験を見守っている。戦うジュリアスの姿。〉


【ジュリアスの回想:2,3日前 鍛錬場

                          

近衛副隊長ウォーレス『試合はある意味、情報戦です。初見の技で意表をつけば誰でも動揺する。格上の者に勝つには、新しい技に対応する猶予ゆうよを一瞬でも与えぬことです』】


ジュリアス(心の声)「試合は決勝を含め、残り二試合。目の前にいる者と、隣で行われている試合に勝った者と……」

               

〈やきもきして見ているセナ。〉


セナ「〈小声で〉秘技を封印したまま負けてはダメよ。ここは勝負に出て!ジュリアス様!〈祈る〉」


〈秘技の一つ目を繰り出すジュリアス。〉



[15]-城下町 民政大臣の家


〈民政大臣とポリーが入って来る。〉


民政大臣「どんな様子ですか?」


女中ステラ「旦那様!ポリー様!」


町の医者「目を覚ましても全く食事は受け付けず、また眠りに落ちることを繰り返し、現実から逃避なさっているようです」



[16]ー城 鍛錬場 武官試験会場


〈ジュリアスは秘技の二つ目も使い、アリの仲間のAに勝つ。もう一方の試合はアリが仲間のBに勝ち、観衆が沸く。決勝はアリとジュリアスの対決となる。〉


試験官「休憩!」


〈ジュリアスが観衆の方をちらと見る。〉


ジュリアス(心の声)「ミレーネとポリーがいない。何か、あったのだろうか」


〈アリの仲間で、今ジュリアスに負けたAが、コソコソとアリにささやいている姿が目に入る。〉


ジュリアス(心の声)「だめだ……。集中せねば。相手はアリだ。先ほどの試合を勝ち抜くために自分は秘技をすでに使ってしまった。もう一度使うにしても、アリは技について仲間から情報を得たに違いない」



[17]-城の中 廊下


〈ミリアム王子とミリアム付きの侍女が首飾りを探している。〉


ミリアム付きの女官「本当にどこに置いたか覚えていらっしゃらないのですか?」


ミリアム「僕が姉様から首飾りを預かったの?それは本当なの?」


ミリアム付きの侍女「ご自分でお願いされたじゃないですか?」


〈泣き出すミリアム。〉


ミリアム付きの侍女「ミリアム様。落ち着いて。ゆっくり考えたら思い出すかも知れません。もう一度、気を静めてから探しましょう」



[18]-城 鍛錬場 武官試験会場


〈ジュリアスとアリの試合が始まっている。アリがかなり優勢に仕掛けてくる。何とか、かわしているが苦しいジュリアス。息をのんで見ている観衆。その中にセナとマーシーの姿。〉


セナ(心の声)「今回はかなり厳しいわね」


〈ジュリアスは秘技の一つを試みるが、上手くかわすアリ。〉


武官アリ(心の声)「これか。さっき聞いた珍しい技とは」


ジュリアス(心の声)「やはり、もう読まれてしまっている……」


〈ジュリアスはもう一つの秘技も試みるが、またアリにかわされる。〉


武官アリ(心の声)「ジュリアス、もう、これでお前の技は終わりか?闘い甲斐がいが無さすぎるぜ。さっさと終わらせるか?」


【ジュリアスの回想:2,3日前の鍛錬場


近衛副隊長ウォーレス『最後のとりではジュリアス様の得意とされる頭脳戦です』 】


〈今度は攻めに回ったアリ。かわすジュリアス。攻めるアリ。かわすジュリアス。〉


ジュリアス(心の声)「攻めて倒すことが出来なくても、相手の攻撃を読むことは出来る。一秒でも早く!」

               

〈攻めるアリ。かわすジュリアス。攻めるアリ。かわすジュリアス。徐々にあせってくるアリ。〉


セナ(心の声)「そうよ。ジュリアス様、我慢し続けて。絶対に相手は疲れてくるし、嫌になってくる。どこかで必ず隙が出来るはず……」


〈攻めるアリ。かわすジュリアス。攻めるアリ。かわすジュリアス。〉


観衆 その1「早く勝負しろよ!」


観衆 その2「どっちでもいいから、さっさとかたをつけろ!」


〈観衆の声にいらっとしたアリ。ジュリアスに向かって剣を交えると見せかけた、その刹那せつなに、ひょいと剣をひき、そのままジュリアスの足を狙う。よけようとバランスを崩したジュリアスの脇腹に、今度は剣のさやを叩きつける。〉


武官アリ「隙あり!」


〈崩れ落ち座り込むジュリアス。一瞬、静まりかえる試験会場。その後、湧き上がる歓声。口々に叫ぶ観衆。〉


観衆 その1「勝ちは勝ちだ!」


観衆 その2「あれも技だな!」


観衆 その3「卑怯だぞ!そんな手を使うのか!」


セナ「何て奴!武術の精神に反すると思わないの!?」


〈マーシーも心配そうに顔を曇らせ、状況を見つめている。〉


近衛隊長「王様、いかがなされますか?」


王様「ふむ……」


観衆 半数「勝利!勝利!」


観衆 残りの半数「再試合!再試合!」


〈ふんぞり反って皆の歓声を聞いているアリ。痛みをこらえて、立ち上がるジュリアス。〉


アリ(心の声)「〈横目でちらとジュリアスを見て〉あの様子じゃ再試合になっても、こっちの勝ちだな」


ミレーネ「お待ちください!」


〈皆が声のする方を見る。試験会場の入り口に立つ姫、ウォーレス、ノエルの姿。〉


#2へ続く

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