第19話 哀しき再会 #2

第19話 続き #2


[21]ー《緑の国》 城下町 画廊マリオ 続き


〈ゆっくりカウンターに近づいてくるケイン。動けないマリオ。〉


ケイン「少し飲ませてもらえるかしら?」

                

〈女装していて、言葉つきも女性だが、声は低い。じっとマリオを見つめる。カウンターの上の絵に気付いたマリオ。慌てて隠そうとするが、ケインの手が早い。似顔絵とスケッチの紙を取り上げる。〉


ケイン「やっぱり気付いちゃったのね。困ったわ」


マリオ「〈震える声で〉何のことでしょう?」


ケイン「〈じっとマリオを見て〉ワインを頂くわ。一緒に飲みません?あなたとは、じっくりお話ししなくては……」


〈カウンター近くのテーブルに座るケイン。包みをテーブルの上に置く。震えながら、カウンターの中に入り酒のグラスを用意するマリオ。〉



[22]ー城下町 画廊マリオ 外の道


ナタリー「良かった!まだ、マリオさんのお店に灯りがついているわ」

               

〈窓ごしに店の中の様子を見るナタリー。テーブルに後ろ向きに座った女性の姿。カウンターの中で下を向き、マリオはお酒を用意している。〉


ナタリー「あら、珍しい!こんな時間に女のお客さん?お邪魔したら悪いわ。少し待った方が良さそうね」

               

〈そっと鍵を開け、自分の店に入り、うす暗い中、灯りをつけようとした手が止まる。暗いまま、隣の店を眺めるため、そっと窓の近くへ行くナタリー。〉


ナタリー「何だか親密な感じだこと。マリオさんだって、そろそろ誰かいてもいい年頃だもの」


〈興味深げにそっと様子をうかがっているナタリー。〉



[23]ー画廊マリオ


〈グラスの乗ったお盆を持つ手を震わせながら、マリオがカウンターの中から出てくる。マリオは咄嗟にテーブルとドアとの距離を測る。〉


マリオ(心の声)「ドアを開けておくべきだった……。神様、どうか一瞬、逃げる時間をお与え下さい。一瞬だけ!」



[24]ーナタリーの雑貨店


〈暗い中で窓から隣りの様子を見ているナタリー。〉


ナタリー「まだ、これから一緒に飲むようね」



[25]ー画廊マリオ


〈座っているケインの隣に立ち、グラスを置くと見せかけ、一挙にお盆ごとワインの入ったグラスをケインの顔にぶつけ、逃げようとするマリオ。瞬時によけながらマリオをつかみ引き寄せ、懐にあった短刀でマリオの腹を刺すケイン。目にも止まらぬ早業はやわざ。グラスの割れる音と、どさっとマリオが倒れる音。ケインは立ち上がり、床に倒れたマリオを見下ろす。少し顔にかかったワインを手で払い、濡れたかつらを取り、窓の方へ振り向いたその顔!〉



[26]ーナタリーの店


〈口を押え、咄嗟に壁際に隠れるナタリー。ブルブル震えている。そおっと目だけをのぞかせカーテンの陰からもう一度だけ見る。窓へ近づいて来たのは女装しているが、間違いなく、先日、店に来た若者ケインの顔。慌てて隠れるナタリー。腰が抜け、しゃがみこむ。声を出さないよう、口を押さえて嗚咽しながら吐きそうになる。〉


ナタリー(心の声)「あの子がマリオさんを!ああ、どうしたら……。神様、あまりに……。あまりに残酷過ぎます!!」



[27]ー画廊マリオ


〈ナタリーの店側の窓まで来てカーテンを閉めるケイン。店内を歩きながら他の窓も全部カーテンを閉める。まだ、床でうめき苦しんでいるマリオの所に行く。言葉つきも男に変わるケイン。〉


ケイン「あんたも運が悪い人だったな。才能が命取りになるとは」


〈ポケットから丸薬の小瓶を取り出す。〉


【ケインの回想:ゴーシャの部屋 数日前 姫の投薬の後

薬師ゴーシャ魔王グレラント 『使方の薬だ。お前が持っているがいい。見つかるでないぞ』】


〈マリオの口に丸薬を押し込む。〉



[28]ー城 ノエルの部屋の前


〈厨房で洗い物を終え、ノエルの様子を見に来たマーシー。スープのポットがそのまま扉の前にある。〉


マーシー「ノエル!ノエル!」


〈扉を叩くが返事がない。思い切って開けるが、部屋には誰もいない。〉


隣の部屋の女官「どうしたの?うるさいわね」


マーシー「〈顔を出して〉すみません。ノエルが部屋にいないのです」


隣の部屋の女官「調子が悪くて寝ていたのでしょう?用足しにでも行ったのでは?」


マーシー「そうでしょうか?」


隣の部屋の女官「もう遅い時間だから静かに……ね」


マーシー「はい、すみません」


〈ノエルの部屋に入り、待つしかなく座りこむマーシー。〉



[29]ー城 ミリアム王子の部屋


〈激しくうなされているミリアム王子。〉


【ミリアムの夢の中:大きく迫る薬師ゴーシャ魔王グレラントの顔。

薬師ゴーシャ魔王グレラント『早くお前の首飾りを手に入れろ!!!そうすれば怖い夢を見なくて済む!さあ、早く返してもらえ!!』】



[30]ー画廊マリオ


〈女装から普段の格好に着替えて後片付けをしているケイン。テーブルの上には着替えを包んできた布が置いてある。流しでマッチに火を点け、まずカウンターにあった、ケインのスケッチを燃やす。次に自分が昼間もらった似顔絵。最後に白杖の女の子の似顔絵。〉


ケイン「まさか一枚残していたとは……。〈燃やそうとした手が止まり〉なぜ、青いピアス?私のものは白いはずだが?〈首をかしげたまま、燃やす〉」


〈少し汚れてしまったかつらもワインを拭き取り乾かしている。脱いだ町娘の服と鬘を持ってきた布で包み、カウンターの引き出しから鍵を取り出す。〉


ケイン「これか?」

                

〈店の灯りを全て消し、外に出て鍵を閉める。ちらっと、真っ暗な隣りのナタリーの店に視線を送り歩き出すケイン。〉



[31]ーナタリーの店


〈暗い店の中で、放心状態で座り込んでいるナタリー。〉


【ナタリーの脳裏:“カノンに捧ぐ”の調べが聞こえている。可愛かった笑顔のカノン。】


ナタリー(心の声)「ああ、私のカノン……」


〈ナタリーの頬を涙がとめどもなく流れている。マリオの店のドアが閉まる音がして、びくっとするナタリー。窓からそっと外を見る。出て行く人影。はっとなりふらつきながら立ち上がるナタリー。〉



[32]ー城下町 川べり

 

〈歩きながら、鍵を川にぽいっと捨てるケイン。〉



[33]ー画廊マリオの前


ナタリー「マリオさん!マリオさん!!」

                 

〈扉をガンガン叩き、ノブをがちゃがちゃ回すナタリー。狂ったように窓の方へも走り、窓も叩く。カーテンが引かれ、灯りも消され、中の様子は何も分からない。〉


ナタリー「ああ、マリオさん!!」


〈その場に座り込む。〉



[34]-緑の国の城 門


〈椅子に座ったまま、ぐっすり眠っている門番。門番の手には酒の瓶。〉


【ケインの回想:2時間ほど前 門 

ケイン『〔門番に酒瓶を渡しながら〕今日は白の国の王子の誕生日で、内輪のお祝いがありました。おひとつ、どうぞ。王子よりお裾分けです』】


〈すっと難なく中に入り、城に戻るケイン。〉               


               

[35]ー城 サイモン王子の客室


〈お酒をよく飲んで爆睡したままのサイモン王子と従者レックス。何事もなかったかのように戻る剣士ケイン。〉



[36]ー城下町 民政大臣の家 夜中


〈フラフラで帰って来て、玄関で倒れるナタリー。半分寝ぼけて起きてきた女中ステラが、ナタリーの姿を見て目が覚める。〉


女中ステラ「奥様!しっかりして下さい。奥様!」

                


[37]ー城 ノエルの部屋 朝


〈座ったまま、ノエルを待っているうちに眠ってしまったマーシー。目覚めるが、部屋にはノエルの姿はない。〉


マーシー「ノエル!どうしよう……」



[38]ー城の中 朝


〈女官長ジェインを見つけたマーシーが走って来る。〉


マーシー「女官長!大変です。ノエルさんが一晩中、部屋に戻らず、今も行方がわかりません。帰りを待っていたのですが、私もいつの間にか眠ってしまって。すみません」


女官長ジェイン「ノエルは昨日、体調が悪かったのですね?医務室の方は?」


マーシー「あっ、確認しませんでした。医務室かも知れません。とにかく見つかれば安心なのですが」


女官長ジェイン「医務室に行く途中で気分が悪くなって、どこかで倒れたことも考えられます。とにかく、今日は大事な武官試験の日。あまり騒ぎ立てず、探しましょう」


マーシー「はい。お願いします」


女官長ジェイン「マーシー、あなたは実技の準備に行きなさい。せっかく姫様が下さった機会を無駄にしないように」


マーシー「有難うございます」


〈厨房へ向かおうとするが足を止めるマーシー。〉


マーシー(心の声)「副隊長さんにだけは伝えた方がいいわよね……」




[39]ー城 鍛錬場


〈着々と武官試験のための会場準備が進められ、近衛副隊長ウォーレスが指揮を執っている。困った顔でキョロキョロしているマーシーを、その場に居合わせたポリーが見つける。〉


ポリー「マーシー、どうしたの?試験はまだよ」



[40]ー城 鍛錬場の外


〈ウォーレス、ポリー、マーシーが話している。〉


ポリー「ノエルがそんなひどい目に?それで、まだ見つかっていないの?昨日、暗くなる前に森の奥に入っていく人影を見た気がしたわ。まさかと思うけれど」


マーシー「本当ですか?ノエルだったら、どうしよう……。夜の森には精霊がいるのですよね?」


ポリー「ただの伝説よ。でも、“不帰かえらずの森”に入り込んだら、迷って出られなくなる可能性はあるわね」


近衛副隊長ウォーレス「ああ、姫様はノエルの正体を知って受け入れて下さったというのに!ノエルが何か迷惑をかけるようなことを言いださないか心配で、姫様がご存知だとは言わずにいたのだが……。秘密を隠そうとするあまり、こんなことになるなら、ノエルに伝えておくべきだった!」


ポリー「それにしてもアリの奴、何て卑劣なの!!武官にしておくべきじゃない。あんな人でなし!これは犯罪よ。れっきとした犯罪!!」


近衛副隊長ウォーレス「しかし、被害者であるノエルがアリの脅しを認めず、恥ずかしい事実を公表されたくないと願っている以上、アリを裁くことは難しいだろう」


ポリー 「ああ!女の敵ね!ひどすぎる!!どう懲らしめるかは、後でじっくり考えなくては。とにかく今は副隊長は武官試験の準備へ。マーシーは実技の準備をした方がいい。私は女官長と一緒にノエルを探すわ」

 


 

[41]ー城下町 民政大臣の家


〈ベッドに寝ているナタリー。〉


町の医者「一体、何があったのですか?心労がひどすぎる。衰弱して臓腑にまでかなり負担がかかっています」


女中ステラ「私も訳が分からないのです。昨日の夜、私が部屋に下がるまでは普段通りでした。ええ、いつも以上にお元気そうで。それが夜遅くに、突然一人でお出かけになられたようです。私は寝ていて、出る時は気付かなかったのですが。遅くに帰って来た途端、玄関でいきなり倒れ、私はその音で目が覚めました」


町の医者「ふむ……。とにかく、当分は絶対安静ですな」




[42]ー城 ミリアム王子の部屋


〈ミレーネ姫が訪れている。憔悴しょうすいしきって、げっそりした様子のミリアム王子。〉


ミレーネ「せっかく最近はよく眠れるようになっていましたのに」


ミリアム付きの侍女「〈小声で姫に〉昨日おまじないの絵を捨ててしまわれたのです」


ミレーネ「まあ、サイモン王子様の絵を?〈ミリアムの方を見て〉ミリアム、またサイモン王子様に絵を描いて頂きましょう。そうしたら、すぐに怖い夢は見なくなるわ」


ミリアム「イラナイ。ソレヨリ、クビカザリヲ、カエシテ」


〈魔王グレラントに操られ、おかしくなっているミリアム王子。もちろん姫や侍女は気付いていない。〉


ミリアム付きの侍女「まあ、ミリアム様。また、そのようなことを……」


ミレーネ「〈首飾りを触って〉この首飾りがあれば眠れそうなの?」


〈どこか遠い目をしたまま、頷くミリアム王子。〉


ミレーネ「いいわ。〈首飾りをはずし、ミリアムの首にかけ〉これで怖い夢を見なくなるのなら。さあ、安心してもう少しお眠りなさい」


ミレーネ(心の声)「私は、今はもう首飾りの力がなくても自分で歩くことが出来ますわ。それに……」


【姫の回想:昨日 城下町  手をつないで笑いながら走ったミレーネ姫とサイモン王子。】


ミレーネ(心の声)「私の手を取って、道標みちしるべになって下さる人がいるのですもの……」




******白の国


[43]ー《白の国》 魔王グレラントの隠れ家 洞窟


〈魔王グレラントの顔が大写しで迫り、洞窟内に響き渡る声。〉


魔王グレラント「でかしたぞ!ミリアム!」




******緑の国


[44]ー《緑の国》 城の中 


〈ポリーが女官長ジェインに駆け寄る。〉


ポリー「女官長、ノエルは見つかりましたか?」


女官長ジェイン「〈首を振って〉医務室にも行っていませんね。城内を、もう少し探しましょう」


ポリー「もしかすると、“不帰かえらずの森”の方へ行ったかも知れません」


女官長ジェイン「なぜ、そんな所に?」


ポリー「理由は本人が帰って来たら、話を聞いてあげて下さい」


女官長ジェイン「何かポリー様はご存知なのですか?」


ポリー「ノエルの了解なく言えることではなくて。すみません」


女官長ジェイン「でも、困りましたね。不帰かえらずの森は、探しに行った者も迷う危険性のある場所です。武官試験が終わるのを待ってから王様にお願いし、近衛隊を動かして頂きましょう」


ポリー「お願いします。今はとりあえず私が行ける範囲で森を見てきます」


女官長ジェイン「ポリー様、絶対、奥へは一人で行かないとお約束下さい」



[45]ー城の庭


〈散歩しているサイモン王子一行。そこへ森へ行こうとするポリーが通りかかる。〉


従者レックス「ポリー様!ポリー様!」


ポリー「あっ、皆様、お早うございます」


サイモン王子「武官試験まで、まだ時間がありますよね?どちらへ?」



[46]ー城 ミリアム王子の部屋


ミレーネ「良かったわ。安心して眠っている」


〈首からかけた姫の首飾りをぎゅうっと握りしめ、眠るミリアム王子。〉


ミリアム付きの侍女「昨晩は本当にどうなるかと思いました。お眠りになったかと思うと、すぐ、また泣き叫ばれて……」


ミレーネ「一晩中、大変でしたのね。御免なさい」


ミリアム付きの侍女「そんな……。姫様のせいでは、ございませんから。姫様に謝って頂くと恐縮します」


ミレーネ「いいえ。ミリアムに寂しい思いをさせてしまったのよ。〈眠っているミリアムの頭をなでて〉そうでなければ、おまじないの絵を破ることもなかったでしょう……」



[47]ー城 森へ行く道


〈ポリーは後ろを気にしながら歩いている。少し離れて後ろから付いてくる剣士ケイン。〉


               

[48]ー【ポリーの回想:今つい先ほど 城の庭


サイモン王子『そういうことでしたら、ケインを護衛に連れて行って下さい』


ポリー『すぐ戻りますから、大丈夫です!本当に、本当に大丈夫ですから!』


従者レックス『いや、御遠慮なく!ポリー様の強さは知っておりますが、森の中を一人で動くのは危険です。大事なポリー様に何かあってはなりません』


サイモン王子『私の護衛は、代わりをすぐ呼びますから。ケイン、頼むよ』】



[49]ー城の庭 続き


〈後ろをチラッと振り返るポリー。無表情で歩いている剣士ケイン。〉


ポリー(心の声)「ケインと二人きりなんて、落ち着かない気分!」



※ 第19話 終わり

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