第19話 哀しき再会 #1

シーズン1 第19話 哀しき再会 #1


[1]ー《緑の国》 城下町 画廊マリオの店内 続き


〈震える手で、引き出しを開け、一枚だけ残した白杖の女の子の似顔絵を出し、たった今、描いたケインのスケッチと比べる。〉


マリオ(心の声)「100%とは言えないが確かに似ている。それならば、男として白の国の王子の護衛をしているのは、なぜだ?双子なのだろうか?何にしても王妃様殺しの犯人、あるいは何か関わりのある者が、城に入り込んでいるならば大変なことになる!!」


ミレーネ「馬車が来ましたわ」


〈はっとするマリオ。二枚の紙を引き出しにしまう。〉


皆「〈マリオに〉有難うございました。〈店を出ようとする〉」


マリオ「〈慌てて姫に近づき、小声で〉すみません、ミレーネ姫様。ジュリアスに伝言を。明日、試験が終わったら、すぐに必ず店に来て欲しいと」


ミレーネ「分かりましたわ」


〈皆が店から出て行き、馬車に乗り込む。マリオは見送るために店の前にいる。〉


従者レックス「あっ、ポリーさんの荷物!〈馬車の窓から〉すみません、マリオさん」


〈マリオが店の中から荷物を取ってくる。最後に乗り込もうとしていたケインが待っていて受け取る。〉


マリオ「〈顔を見ずに〉どうぞ」


〈かすかにマリオの手が震えている。それに気付くケイン。〉


ミレーネ「〈馬車の中から〉マリオさん、ジュリアスに必ず伝えますわね!」


〈皆が窓から手を振り、去っていく馬車。マリオも手を振り見送るが、笑顔はない。〉



[2]ー城下町 進みだした馬車の中


サイモン王子「マリオさんはジュリアス殿に何の伝言が?」


ミレーネ「明日、試験の後に絶対にお店に来て欲しいのですって」


〈かすかに反応するケイン。皆は、もちろんケインの様子に気付かない。〉


従者レックス「今日はジュリアス様抜きで申し訳なかったですね」


ミレーネ「試験の前ですもの。仕方ありませんわ。その分も明日は皆で応援しましょう」


サイモン王子「緑の国が誇る武官たちの武術試験となれば、かなり見物みものなのでしょうね。楽しみです」



[3]ー城下町 画廊マリオ


〈馬車を見送り、店の中へ入り、マリオはもう一度引き出しから似顔絵とスケッチを出し、じっと眺める。そこへ店の扉が開き、中を覗く常連客。〉


客「今日は貸切なのかい?」


マリオ「あっ、もう大丈夫です。どうぞ」


〈2枚の絵を引き出しにしまう。カウンターから出て外に行き、“貸切”のボードをはずす。〉



[4]ー緑の国 城の森 夕方


〈森の開けた場所で稽古をするポリーとジュリアス。〉


ポリー「セナ師匠の御蔭ね。多分、この二つの技はアリ達も知らないはず」


ジュリアス「何とか、せめて目くらまし程度にでもなれば良いのだが……」

               

〈急に昼間、横で戦った剣士ケインのことを思い出したポリー。〉

               

【ポリーの回想:今日の午後 城下町の外れ 

ケインはそばで戦っていたが、まだ本領は発揮していない様子であり、ポリー自身、その技を見極める余裕もなかった。】


ジュリアス「隙あり!」


ポリー「待って!〈と言いながら受ける〉」


ジュリアス「この期に及んで待ったはなしだぞ」


ポリー「一ついい考えが浮かんだから。ねえ、試験で一位になった人は、最後にもう一度武術の模範演技を披露するのよね。その相手は誰が選ぶの?」



[5]ー城 畑のそば サアムおじさんの家


〈マーシーの料理を試食しているサアムおじさん。〉


サアムおじさん「旨い!明日もこれなら負けはせんじゃろう」


マーシー「本当ですか?」


サアムおじさん「それに……。実はさっき、女官長がわしに試験官に加わって欲しいと言ってきた」


マーシー「わあ。そうなんですか?」


サアムおじさん「これで、お前は確実に1票取れることになる」


マーシー「不正のようで気まずいです」


サアムおじさん「ははは。あと、2票は実力だからな。まずければ落ちるさ。心配するな。〈笑いあう二人〉」


サアムおじさん「お前に笑顔が戻って何よりじゃ。このスープは?」


マーシー「さっき話した友達に届けようと思っています」


サアムおじさん「試験前でも感心だ。やっぱりマーシーの料理には愛がある。それが一番大切なことじゃ。」



[6]-緑の国 城の森 暗くなる頃


〈練習を終えて城に戻りかけるポリーとジュリアス。〉


ジュリアス「今日は皆、十分、楽しめたのか?」


ポリー「私が頑張って根回しをしたのだから当然よ!最後はマリオさんの似顔絵で盛り上がったのじゃないかな?」


〈その時、ポリーが誰か人影が森の奥へ入っていくのを見る。〉


ポリー「今、誰か森の奥へ入って行かなかった?」


ジュリアス「もう暗くなってきているのに?見間違えじゃないか?」


ポリー「ううん、確かに人間ひとの動きと思ったけれど……まさかマーシーじゃないわよね?」

                   

ジュリアス「厨房に残れるかどうかの問題は解決したのだろう?」


ポリー「そのはずなんだけど。実技で公平に決めるって聞いたから。でも、念のためマーシーさんを急いで探してみるわ。ジュリアスは心配無用よ!とにかく明日に集中して」


〈ポリーは一人走ってお城に向かう。〉



[7]ー城 馬舎の前


〈馬車から下りてくる姫達一行。オロオロして待っていた女官長ジェイン。〉


女官長ジェイン「ああ、姫様、ご無事で!お顔を見るまでは安心出来ませんでした」


ミレーネ「ごめんなさい、ジェイン。サイモン王子様のお誕生日のお祝いをして参りましたの」


女官長ジェイン「ええ、ええ。さきほどポリー様に聞きましたよ。でも、そういうことでしたら護衛や女官と一緒にお出掛け下さいませ。王様がお許しにならなかったら、近衛隊を城下町に向かわせるところでした」


従者レックス「やはり近衛隊の話まで出たのですね。ご迷惑をお掛けいたしました〈頭を下げる〉」


サイモン王子「申し訳ない」


ミレーネ「では、お父様もこの件はご存知なのですね?」


女官長ジェイン「ええ。王様は本当に寛大なお方でいらっしゃいます。さあ、サイモン王子様、ささやかながら、お城でも内輪の祝宴をご準備致しております。どうぞ、こちらへ。姫様は一度お召し替え致しましょう」


〈皆がお城へ移動する。ポリーの荷物を持っている剣士ケイン。〉


剣士ケイン「〈レックスに〉これを置いてくる」


〈従者レックスは頷き、そのままサイモン王子の後を追う。〉



[8]ー城 ノエルの部屋の前 


〈スープを持ってきたマーシー。〉


マーシー「ノエル、ノエル!」


〈ノックをするが返事がない。〉


マーシー「寝ているのかしら?」


マーシー(心の声)」「あんなことがあった後だもの。私と顔を合わせるのが恥ずかしいのかも」


マーシー「〈中に向かって声を掛け〉ここにスープを置いておくから温かいうちに飲んでね」


〈扉の前にスープの入ったポットを置く。〉



[9]ー城 森の奥 不帰かえらずの森へ


〈フラフラ泣きながら歩いているノエル。〉


【ノエルの回想:数時間前 城の塔付近の納戸 にやにや笑う卑怯なアリ。自分の恥ずかしい姿。親切だったマーシー。ウォーレスの怒りの姿。】


ノエル「マーシーも森の奥へ入りそうだったとウォーレスさんが言っていたわね。こんなにつらい気持ちだったの?そうよね。皆に臭い匂いとまで言われて……。それを私は心配もせず自分のことばかりで、気にも留めなかった……。傲慢ごうまんだったわ……」


【ノエルの回想:昨日 給湯室 ウォーレスに言い放つノエル。

ノエル『私ならどんな場所でも何をされても平気よ。お城でやっていくと決めたもの。頑張れないなら、それまでということじゃない?』 】


ノエル「結局、自分がこんな目に合うなんて……。はずかしめを受けてまで私は何をしているのかしら?あの卑怯者はきっとまた、何度でも私達を脅してくる。もし本気でウォーレスさんが怒って、アリを殺しでもしたら……」


【ノエルの回想:アイラの笑顔。】


ノエル「会いたい……。アイラ姉さん、ごめんね。疲れちゃった……」


不帰かえらずの森へとそのままフラフラ歩いて行く。〉



[10]ー城 ミレーネ姫の部屋


ミレーネ「ノエルはいないのですか?」


女官長ジェイン「今日は体調が悪く部屋で休んでおります。ノエルの見立てがなく、がっかりでございましょう」


ミレーネ「ジェイン。一日心配させたからって意地悪はなしですわ」


〈他の女官も笑う。また、一段と可愛く着飾ってもらうミレーネ姫。〉



[11]ー城 マーシーの部屋のあたり


〈ウロウロしているポリーを女官が見かける。〉


女官「ポリー様、サイモン王子様の宴会が始まりますよ」


ポリー「あっ、はい。あの……。今年の夏組のマーシーさんを探しているのです。見かけませんでしたか?」


女官「マーシーさんですか?」


〈そこへちょうど厨房班の初春組と夏組の四人が通りかかる。〉


女官「あなた達、今年入った厨房班よね。マーシーさんは今どこにいるかしら?」


ポリー(心の声)「この人達がマーシーをいじめた陰険な仲間ね」


初春組 先輩A「さっき、厨房で見かけました」


初春組 先輩B「洗い物をしていますけれど」


ポリー「〈急に〉あなた達!また、マーシーだけに洗い物をさせているの?まだ懲りないつもり!?」


女官「まあ、ポリー様……」


初春組 先輩A「〈ポリーの剣幕に圧倒されながら〉今日はマーシーの当番なんです」


初春組 先輩B「本当です」


〈たじろぐ二人。同じく、怖そうにしている夏組新入り二人。〉



[12]―城 お客様用の食事室


〈エトランディ王とサイモン王子が歓談している。外事大臣や民政大臣も席に着いている。そこへミレーネ姫が入って来る。〉


王様「おお、ミレーネ」


ミレーネ「お父様!」


〈王様の所へ行き抱きつくミレーネ姫。〉


王様「〈耳元で〉どうだ、冒険は楽しかったか?」


ミレーネ「ええ、とっても。〈離れて〉お父様、黙って見守って下さったこと、感謝しています」


王様「〈席を手で示して〉王子の隣に座っておいで」


ミレーネ「はい」


〈サイモン王子が席から立ち、姫の手を取り、エスコートして自分の隣の席に座らせる。並び順としては王、サイモン王子、姫。〉


王のお付きの侍従「本当にお似合いのお二人でございます」


〈満足そうに頷く王。〉



[13]ー城 厨房


ポリー「マーシー!良かった、ここにいたのね!」


マーシー「〈手を止めて〉ポリー様!白の国の王子様の宴会があると聞きましたが、こんな所へ来ていて大丈夫ですか?」


ポリー「大丈夫、今から行くから。また洗い物の当番なの?誰かにやらされているのでは、ないわよね?」


マーシー「いつもお気遣い頂いてすみません。今日は本当に当番です。明日の試験に向けて料理の練習もしっかり出来ました。あとは明日当日、頑張ります」


ポリー「その調子よ!実技の前になるけれど、予定通り、武官試験を見学できる?」


マーシー「はい。ポリー様とのお約束ですから。明日、料理の実技試験を受ける者は日中、準備の時間をもらえるのです。早めに済ませて必ず行きます。皆様のお役に立てるのでしたら!」


ポリー「じゃあ、武官試験の会場で!私を探してね」



[14]ー城 お客様用の食事室


〈皆で楽しく歓談している様子。そこへ遅れてコソコソ入っていくポリー。席に着き、幸せそうなサイモン王子とミレーネ姫を見る。〉


サイモン王子「今宵は無礼講だ!レックスとケインもここに。ケイン、お前も緑の国の護衛に任せて、今夜は少し羽目をはずすがいい」


〈二人にもお酒の入ったグラスが用意される。〉


従者レックス「王子様、おめでとうございます。〈飲む〉」


剣士ケイン「おめでとうございます」


〈ケインは飲むと見せかけて、飲むふりだけをする。〉


サイモン王子「美酒であろう。今日は二人とも大儀であったな。御蔭でいい一日となった。心より礼を言う」


従者レックス「ありがたいお言葉です。王子様」

                

〈頭を下げるケイン。〉



[15]ー城 ミリアム王子の部屋


〈ベッドで上掛けを頭から被っているミリアム王子。〉


ミリアム付きの侍女「ミリアム様、サイモン王子様達が待っていらっしゃいますよ。本当に行かなくて宜しいのですか?」


ミリアム「〈上掛けを被ったまま〉行かない!サイモン王子様は姉様と遊んでいる方が楽しいんだ。みんな、僕のことなんて、どうでもいいんだよ!」



[16]ー緑の国 森の奥 不帰かえらずの森


〈暗い森の中をフラフラ歩いているノエル。急に響き渡る声。〉


アリ(笑い声)「はははははは!」

                

ノエル「いやあ!」


アリ(声のみ)「ばらされたくないんだろ!ははは!」


ノエル「助けて!誰か!」

                

〈走り出すノエル。どこからか、かすかに聞こえる声。ぼおっとした人のような姿が数人、木々の間に浮かんで見える。〉


誰かの声「いらっしゃい。こっちよ」


別の誰かの声「楽になれるわ。怖がらずにこちらへ」


別の誰かの声「あなたを待っていたのよ。さあ」


〈木々が枝葉を広げて、手招きして誘うように、そして静かに声を掛けるかのようにザワザワと揺れている。〉


ノエル「精霊が私を呼んでいる……」


〈暗い中、誘われるかのように、どんどん奥へ入って行くノエル。〉



[17]ー城 鍛錬場


〈夜遅くまで最後の練習をしているジュリアス。他の武官も仕上げに余念がない。アリもかなり気合いを入れてやっている。〉



[18]ー城 お客様用の食事室


〈宴が終わり、皆が片づけをしている様子。〉



[19]ー城 サイモン王子の部屋


〈お酒をたっぷり飲み爆睡しているサイモン王子と従者レックスの姿。〉



[20]ー城下町 民政大臣の家 夜


〈台所で片付けをしていたナタリー。ガシャンとカップを床に落とす。〉


ナタリー「良かった、割れなくて……」


〈しゃがみこみ、拾おうとした時、また、先日の店での出来事を思い出す。〉


【ナタリーの回想1:数日前 ナタリーの雑貨店 しゃがみこんで近づいたケインカノンとナタリー。その時のケインの服。


ナタリーの回想2:今日の夕方 画廊マリオ  店に入っていった護衛の姿。その服。】


ナタリー「同じ格好だわ!」


〈はっと驚くナタリー。〉


ナタリー「もしカノンが白の国の護衛だったら、急にこの城下町に現れたことも、いくら宿屋や盛り場を探したのに見つからなかったことも、納得がいくわ!ああ、ジュリアスやポリー、そしてあの人のそんな近くにいたなんて!あの人ったら、まさか自分が連れて来た子がカノンだと知ったら、どんなに喜ぶことか!これが縁というものなのね」


〈大切そうに首飾りの石を触る。〉


ナタリー「石が光らなければ、このまま気付かないままだったわ。本当に有難う」


〈時計を見る。〉


ナタリー「まだ、マリオさんはお店にいるかも知れない。マリオさんなら、今日お店に来たあの子の顔もしっかり覚えているでしょう。ああ、いても立ってもいられないわ」



[21]ー城下町 画廊マリオ


〈片づけをしているマリオ。カウンターの上に並べてあるケインを描いたスケッチと白杖の若い女の似顔絵。ドアがきいっと開く。〉


マリオ「すみません、今日はもう終わりなので……」


〈カウンターを拭きながら振り返り、凍りつくマリオ。そこに町娘の服を着てかつらをかぶり女装したケインが立っている。白杖の若い女の似顔絵にそっくりな姿。手には包みを持っている。〉


マリオ「あ……」


〈マリオの心臓がドクドク早打ちしてくる。〉



#2へ続く

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