第18話 真心の贈り物 #3

第18話 #3 続き


[28]-《緑の国》城下町はずれの河原


〈手をつないで走ってきたミレーネ姫とサイモン王子。一息ついて手を離す。〉


サイモン王子「もう追っては来ないでしょう。ミレーネ姫、大丈夫ですか?」


ミレーネ「人生でこんなに走ったことは初めてですわ」


サイモン王子「それは凄いことをしましたね」


〈顔を見合わせて笑う二人。〉


ミレーネ「川を渡ってくる風はこんなに気持ちがいいのですね」


〈河原の風に吹かれて立つミレーネ姫の姿を見つめるサイモン王子。〉


サイモン王子「あの木陰に少し座りませんか?走り通しだったから、しばらく休みましょう」


〈二人、木陰に座る。周りには誰もいなく、木陰に座る二人の姿は道からも見えない。広い大空と川のみ。帽子を取る王子。姫は手に持っていた千代紙の鶴に気付く。〉


ミレーネ「握ったまま、走っていました。〈折鶴の形を整え、空気を入れ膨らませ〉遠き国では幸せを運んでくる鳥と言われているそうです」


〈折り鶴をサイモン王子に渡すミレーネ姫。〉


サイモン王子「〈受け取り〉姫様はどなたに折り方を習ったのですか?」


ミレーネ「昔、そばにいてずっと世話をしてくれた女官です。若い頃に、遠き国に修行に行った時に覚えてきたとか。それを小さかった私に見せてくれて、何度も何度もせがんでは折ってもらいました。もう、その女官は亡くなってしまったのですけれど、本当の祖母のように私を可愛がってくれた人でしたの。何も恩返しが出来ないまま、お別れすることになって……」


サイモン王子「そうですか。私も母を早く亡くしてからこの数年、祖母に見守られて来たようなものです。祖母も、もういい歳です。そろそろ恩返しを考えなくてはいけませんね。〈二人、微笑む〉」




[29]ー城 サアムおじさんの家


サアムおじさん「一体、どうしたんだ?料理をやりかけて、ほっぽり出すなんて、お前らしくないぞ」


マーシー「ごめんなさい。料理の手順を再確認しようとレシピ帳を取りに部屋に戻ったら……」


【マーシーの回想:さきほど 城の塔へ行く階段 武官アリと登っていくノエル。そして下着姿で納戸にいたノエル。】


マーシー「……友達が体調を崩して、大変なことになっていたのです」


サアムおじさん「何?そうだったのか。もう大丈夫なのか?」


マーシー「私はもう少しそばに付いていると言ったのですけれど一人で大丈夫と言われて。ここに戻りました」


サアムおじさん「そうか。明日も大事だが友達も大事じゃからな」




[30]ー【マーシーの回想:さきほど ノエルの部屋 】


〔ベッドに横たわるノエル。〕


マーシー『女官があなたを探していたの。体調が悪くて部屋で休んでいますと伝えて、また来るわ』


ノエル『いいの。伝えてくれたら、マーシーも仕事に戻って。〔背を向ける〕』


マーシー『でも。ノエルをほおっておけない』


ノエル『〔少し強く〕一人にして欲しいの!』


マーシー『分かった。じゃあ、行くね。ゆっくり休んで』


ノエル『〔背を向けたまま〕マーシー、今日見たことは忘れて頂戴』


マーシー『そうするから心配しないで。何か困ったらサアムおじさんの所に私はいるから』

                       

〔マーシーが部屋から出た途端、大泣きするノエル。〕




[31]-城下町 マリオ画廊の前


〈ポリー、マリオ、隣りの店にいたナタリーまで出て来て外にいる。ポリーはもう町娘の格好から着替え終わっている。〉


ポリー「やっぱり二人だけにしたのは、まずかったかしら?」


マリオ「道に迷ったのかも知れませんね」


ナタリー「ミレーネ姫も城下町に慣れていないし、白の国の王子様は当然、この辺りのことは不案内でしょうから」


ポリー「レックスさんとケインさんが助けに来てくれた時、どちらか一人にミレーネたちを追いかけさせるべきだったわ!ああ、一生の不覚!」


ナタリー「その二人の方たちは今どこなの?」


マリオ「姫様達が僕の店にまだ着いてないと知り、手分けして城下町の中を探しています」


ポリー「ちょうど上手く出会えて、連れて帰ってきてくれますように!!本当にどうしよう……」




[32]ー城下町はずれ 河原


サイモン王子「今日は緑の国で良い思い出が出来ました。実は、私の誕生日なのです」


ミレーネ「まあ、そうでしたの?それで、ポリーが色々頑張っていたのですね」


サイモン王子「はい。どうもレックスが頼んだようです。すみません、ご迷惑をかけていないでしょうか?」


ミレーネ「そんなご迷惑だなんて……。私もとても楽しかったですわ。でも、何も贈り物を用意していません。どうしましょう?」


サイモン王子「〈鶴を見せ〉これを頂いたじゃありませんか?」


ミレーネ「そのような小さなものでは……」


サイモン王子「この間、素敵な詩も頂きましたよ。『夜空高く星がさざめき待っている 会えぬまま、何億光年秘めた思いを抱いて 今、まっすぐに地球をめがけて降りてくる星……』」


ミレーネ「きゃあ、ま、待って下さい。〈思わず王子を揺さぶる〉」


〈サイモン王子は自分をつかむ姫の手を見る。真っ赤になって慌てて手を離す姫。〉


ミレーネ「……暗記されたのですか?」


サイモン王子「はい」


ミレーネ「全部ですか?」


サイモン王子「はい。とても気に入りましたので」


ミレーネ「いえ、そんな……。でも、私のつたない詩が贈り物代わりではいけませんわ……。何か良い物がないかしら?〈しどろもどろになっている〉」


サイモン王子「では、もう一つだけ、贈り物を頂いても宜しいですか?近くで私の目を見て『お誕生日おめでとう』と言って下さい」


ミレーネ「お祝いの言葉ですね……。このぐらい近くでですか?」


〈頷くサイモン王子。王子の顔が近付きはっきり見えるようになり、さらにドキドキする姫。その手をそっと握るサイモン王子。手を握りあったまま、姫がじっと目を見つめささやく。〉


ミレーネ「お誕生日おめでとうございます」 

        

サイモン王子「〈もう一方の手でそっと姫の背中に触れ〉有難う、姫。忘れられない誕生日になりました。私はどうやら、かなり欲張りのようです、貴女のそばでは……」


〈そのまま、そっと姫を抱き寄せるサイモン王子。抱きしめられている姫。一度離れ、見つめ合う二人。そのまま口づけを交わす。抱き合う二人の姿に姫の詩の言葉が降り注ぐ。〉


サイモン王子(声のみ)『ずっと会いたかったよ』


ミレーネ(声のみ)『やっと願いがかなって流れ星になれたの』


サイモン王子(声のみ)『一途な思いが昇華され熱く燃える炎となる』


ミレーネ(声のみ)『だから人は流れ星に願いをかける』


サイモン王子とミレーネ(声を合わせて)『何億光年の彼方にある宇宙とつながる、その一瞬 いつか必ずや、この思いも届きますように……と』




[33]ー城下町 画廊マリオの前


〈心配でウロウロしながら姫と王子を待っているポリー、マリオ、ナタリー。〉


ナタリー「早めにお城へ相談した方がいいのじゃないかしら?何かあってからでは大変よ」


ポリー「そうよね、怒られるのを覚悟で、お城へ伝えに行ってくる!〈走りかける〉」


マリオ「ポリーさん!あれは……〈指差す〉」


〈振り返るポリー。道の遠くの方に姫と王子が手をつなぎ仲良さそうに歩いて来る姿が見える。〉


ポリー「ああ、良かった……。〈道に座り込む〉」


〈近づいて来て、皆が店の前にいることに気づき、慌てて手を離す姫と王子。〉


ミレーネ「皆さん、外でどうしたのですか?」


ナタリー「まあ、ミレーネ姫ったら、そんな格好をしていたのね。よそで会ったら誰か全く分かりませんでしたわ」  


ミレーネ「ナタリー叔母様!お久しぶりです。この格好、お忍びにぴったりでしょう。ポリーが用意してくれたのです。ああ、お会いしたかったわ。私、随分と目が良くなりましたのよ」


ナタリー「ええ。全部聞いていますよ。本当に良かったこと。こちらがサイモン王子様かしら?ジュリアスとポリーの母です。はじめまして」


サイモン王子「はじめまして。お二人には仲良くして頂き、民政大臣にもお世話になっております」


ナタリー(心の声)「まあ……。優しそうな方。ロザリー、いいご縁よ……」


ミレーネ「ところで、ポリーはどうして道に座り込んでいますの?」


ポリー「腰が抜けたの!遅いから、すごく心配したのよ」


サイモン王子「心配をかけました。誕生日の私に免じて許して下さい。レックスとケインは?」


ポリー「王子と姫を探しに城下町を走り回っているわ。二人ともそろそろ一度、帰ってくるはず」


マリオ「さあ。宴の準備は出来ています。皆さん、どうぞ中へ」


ミレーネ「ナタリー叔母様もご一緒にいかがですか?」


ポリー「そうよ。母様もたまにはいいじゃない?ねえ、サイモン王子様、いいかしら?」


サイモン王子「もちろんですよ。ぜひ、どうぞ」


ナタリー「では、お店を閉めてから行きますわね」




[34]ー城下町 画廊マリオ


〈王子と姫も着替えを済ませている。そこへ戻って来るレックス。〉


従者レックス「王子、姫様!〈座り込み〉良かった……」


ポリー「やっぱりレックスも腰が抜けたわ」


サイモン王子「ケインはまだ戻らないのか?」




[35]-隣りのナタリーの雑貨店


〈戸締りをしているナタリー。急に店に飛び込んで来る、末娘のアン。〉


アン「母様!」


ナタリー「アン!一人で来たの?」


アン「おうちからお店までの道を覚えたの。もう、お店はおしまい?やったあ!母様、一緒に帰ろう!」


ナタリー「ここに来るってステラに言ってから来たの?」


アン「〈首を振り〉だって、聞いたらダメって言われるもん!」


ナタリー「まあ、きっと心配して探しているわ。早く帰りましょう」


〈窓から隣の店を見る。笑い合っている皆の姿が窓越しに見える。〉


ナタリー(心の声)「参加出来なくなってしまったけれど、皆、楽しそうで良かったこと」




[36]-画廊マリオの前 道


〈一言断りを告げたナタリーがアンと手をつなぎ“画廊マリオ”から出て来る。家に向かって歩き始めると女中ステラが走ってくる。〉


女中ステラ「アンお嬢ちゃま!奥様!」


ナタリー「すみません。アンが勝手に一人で店に来てしまったようなの」


アン「ごめんなさい」


女中ステラ「アンお嬢ちゃま、こんな心配は二度と嫌ですよ。さあ、私と一緒に帰りましょう。奥様、お仕事にお戻り下さい」


ナタリー「いいのよ。お隣の店に今日は姫や王子がお忍びでいらっしゃっているの。あまり、私の店にも人は出入りさせない方がいいと思って。だから、もう閉店よ」


女中ステラ「そうなのですか。あっ、御一人またマリオさんの店に入って行きます。あの人もきっとお城の関係者ですね」


〈離れたところから振り返るナタリーの目に一瞬入る剣士ケインの姿。パッと後ろ姿が目には留まったがカノンケインとは気付かないナタリー。〉


ナタリー(心の声)「さっき、話題になっていた護衛の一人ね」


アン「〈ぎゅっぎゅっと手を引っ張りながら〉母様、早くお家に帰ろうよ!」


ナタリー「〈アンに笑顔を向け〉はい、はい」


〈3人は家へ帰っていく。〉




[37]-城下町 画廊マリオの店内


〈戻って来た剣士ケイン。サイモン王子はお酒を飲んで、すでにすっかり上機嫌になっている。〉


ミレーネ「遅くまで探してもらって御免なさいね」


サイモン王子「ケイン、悪かったな。少しここで飲んでいくがいい」


剣士ケイン「いえ、私は任務中ですので……。お二人ともご無事で何よりです。では、外で見張りを。〈さっと店から出る〉」


ポリー「じゃあ、ケインさんも戻って来たし、私は先にお城に戻るわ。ジュリアスの試験準備の仕上げを手伝ってくる。お城に着いたら馬車の手配をして、ここに迎えをよこすわね」


従者レックス「ポリーさん、今日はお世話になりました」


ミレーネ「ジュリアスに応援しているって伝えて頂戴」


ポリー「分かった。着替えた衣装の荷物は後で馬車に乗せてきてね。マリオさん、色々、有難う。サイモン王子、誕生日をもうしばらく楽しんで下さいね」


〈ワインのグラスをあげるサイモン王子。〉


ポリー「あっ今日の記念にマリオさんに似顔絵を描いてもらったら、いいんじゃない?」


サイモン王子「それはいい考えだ。マリオさん、ぜひ」


〈ポリーは店から出て行く。〉




[38]-画廊マリオ


〈マリオは手早くサイモン王子とミレーネ姫の似顔絵を描き、それぞれに渡す。〉


サイモン王子「何と!もう描けたのですか?これは巧いですね」


ミレーネ「〈目を近づけ)サイモン王子様も絵がお上手ですが、マリオさんもさすがですわ」


従者レックス「特徴を瞬時に捉えるのがマリオさんは得意なのですね。その特徴を強調する描き方が、また独特で。サイモン王子、私も描いてもらいたくなりました」


サイモン王子「描いてもらえば良いではないか?」


従者レックス「お願いします!」


マリオ「喜んで」


〈また、ささっと、あっという間に描く。皆、出来上がった似顔絵をのぞきこむ。〉


サイモン王子とミレーネ姫「「似ていますね!」」


従者レックス「嬉しいような、恥ずかしいような……。ははは」


サイモン王子「〈窓から店の前にいる剣士ケインを見て〉ケインもせっかくの機会だ。描いてもらおう。レックス、呼んで来てくれ」




[39]-画廊マリオ 外


レックス「〈扉から顔を出し〉ケイン殿、王子様がお呼びですよ」


怪訝けげんな表情をうっすら浮かべる剣士ケイン。〉




[40]ー画廊マリオ 店内


〈サイモン王子の隣りの椅子に座らせられた剣士ケイン。〉


剣士ケイン「何でしょうか?」


サイモン王子「皆が記念に似顔絵を描いてもらっている。マリオさんは顔の個性を素早く上手く掴む名人のようだ」


剣士ケイン「〈はっとして〉いえ、私は……。〈急いで立ち上がろうとする〉」


サイモン王子「〈酔っているので、ぐっとケインの腕をつかみ、もう一度座らせ〉まあ、いいじゃないか。すぐ済む。あっという間だ」


従者レックス「緑の国での良い記念になりますよ」


〈マリオに顔を見られたくないケインだが、何も気付かずマリオはさっと描く。〉


マリオ「出来ました〈ケインに絵を渡す〉」


〈皆、一斉に覗き込む。〉


サイモン王子「ケインはこういう顔だったのか。〈笑いながら〉いつも前髪が顔の前にだらりとあるし、無表情で、今までよく分からなかったぞ」


ミレーネ「〈絵に目を近付け〉私もお近くで見たことがありませんもの」


〈ケインはいたたまれない感じで、さっと絵を手にして立ち上がる。〉


剣士ケイン「では、見張りに。〈外へ出る〉」


従者レックス「なるほど。普段ははっきり顔が見えない彼ですが、顔の部分部分の特徴を際立たせると、あのような感じになるのですね。面白いものです。本物のケインよりケインらしい」

                

〈皆、笑う。〉





[41]ー画廊マリオ 店内

        

〈談笑しているサイモン王子、ミレーネ姫、従者レックス。カウンターの中で、もう一度、さきほど描いたケインの顔を思い出し、スケッチしているマリオ。〉


マリオ(心の))「この顔の特徴……。どこかで、いつか、描いた覚えがある。ぱっと見ただけでは気付かなかったが、僕は絶対にケインさんを知っている……。でも、なぜ?どこでだろう??」

            

〈もう一度、窓の外に立つケインの姿が目に入る。〉


【マリオの脳裏:走馬灯のように今まで描いた様々な人々の顔が巡る。】


〈急にマリオの表情が固まり、恐怖で目が見開かれる。〉


マリオ(心の声)「まさか、そんなことが……」





※第18話 終わり

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