第18話 真心の贈り物 #2
第18話 #2 続き
[17]ー《白の国》 石造りの城 タティアナ達の部屋 続き
〈ヨハンの言葉に驚き
ヨハン「本当?今、行ってもいい?あのお部屋にあるものは、どれも面白いんだ」
〈お付きの従者や護衛と一緒に出て行くヨハン。ヨハンが部屋を出た途端に、
タティアナ「生き延びる道はこれしかないのですよ。ヨハンだって、どんなに辛いか……。クレア様に本当はダンという名前だと言われましたが、『どうしても今の名前がいい、ヨハンがいい』と頑として譲りませんでした。皆もこれ以上、あの子を混乱させては可哀そうだと名前はヨハンのままになったのです。あの子なりに、ヨハンとして生きてきた暮らしや家族を捨てたくないと考えているはずです」
[18]白の国 石造りの城 舶来の間
〈最初は、色々と飾られている品々を興味深げに見ていたが、急に涙が込みあげてきて、服の袖でふくヨハン。〉
******緑の国
[19]ー《緑の国》 城 ミレーネ姫の部屋の近く
〈ミレーネ姫付きの女官を見つけるマーシー。〉
マーシー「あの!ポリーさんはどこですか?」
姫付きの女官「今、姫様とお忍びで城下町に行ってらっしゃいます」
マーシー「〈がっくりして〉そうですか……」
姫付きの女官「あなたは……確か、今年の夏組ですよね。女官になったノエルを知っているでしょう?どこかで見かけなかったかしら?」
マーシー(心の声)「ここで事情を話せば、すぐに助けられる。でもノエルの秘密がばれてしまう。秘密を守るのと早く助けるのと、どっちがいいの??でもノエルは逃げるより、ばれることを恐れてあの場所から動けないでいるのよ……」
マーシー「知りません!ごめんなさい!〈走っていく〉」
[20]ー城下町
〈町娘や町人に変装したミレーネ姫、サイモン王子、従者レックス、ポリー。剣士ケインは普段通りの姿のまま。ミレーネ姫は日傘、サイモン王子は帽子のようなものをかぶっている。皆があちらこちらの店を見ながら、散策を楽しむ様子。道端に屋台があり、そこで千代紙を使い鶴を器用に折っている紙師のおじさん。その前には人だかりが出来ている。〉
紙師「はるか遠き国で有名な遊び。さあ、まず一度ご覧あれ」
〈手際良く鶴を折る姿に、見ている皆はおーっと歓声をあげる。次に千代紙を一枚ずつ見ている人に配る紙師。〉
紙師「しかし、見ただけでは難しい」
〈見ている皆も一緒に折ろうとするが簡単に出来ない。〉
紙師「そこで、この手本を見れば誰でも折れるようになる。さあ、どうだい?買った!買った!千代紙20枚付けるよ!」
ポリー「わあ、面白そう!ねえ、ミレーネ、ミリアムのお土産にしようか?〈横を見て、ミレーネの手元に目をやり〉ん?ミレーネ、出来たの?」
〈ミレーネ姫は日傘を脇に持ち、出来た折鶴を手に、嬉しそうな笑顔。〉
サイモン王子「すごいですね。折り方を知っているのですか?」
見物人「こっちの美人のお姉ちゃんが折り方を知ってるってさ」
見物の子ども達「ねえ、教えて。教えて」
サイモン王子「日傘を預かっておきますよ。〈姫が日傘を王子に渡す〉」
ミレーネ「これはね、こうすると……」
〈教えかけようとしたら、わあっと皆に取り囲まれて大変な事態になる。〉
サイモン王子 「困ったことになりましたね。ここはいったん逃げましょう。〈ポリーにも〉いいですね?」
〈とりあえず走る三人。千代紙を手にヒラヒラ持って追いかけて来る見物人達。〉
見物人達 「待って!教えてよ!」
ポリー「〈振り返りながら〉こっち、こっち!」
〈先導するポリーをサイモン王子とミレーネ姫が追いかけて行く。少し走りにくそうにしているミレーネ姫の様子に気付くサイモン王子。〉
サイモン王子「大丈夫ですか?」
ミレーネ「まだ目が完全に治った訳ではありませんから、周りがはっきり見えなくて。それに、今まで町へ来ることがなく、道を走ることに慣れていませんの」
サイモン王子「では、私と一緒に」
〈ミレーネ姫の手を取り、走るサイモン王子。ドキドキしながら、手を引っ張ってもらうミレーネ姫。〉
[21]ー城 城の塔近く 納戸
〈狭い納戸で熱いお茶を飲まされ、少しぼおっとしているノエル。それをちょっと離れた所からジロジロ見る武官アリ。〉
武官アリ(心の声)「俺でさえ暑くなってきた。この部屋は窓もないからな」
〈上着を脱ぎ、上半身だけ裸になるアリ。顔を
武官アリ「お前も暑いだろう?無理するなよ」
〈衣服の前を固く閉じるように、ぎゅうと持つノエル。〉
武官アリ「心配するな。お前に手は触れない。俺だって重罪になるような真似はしないさ。体がしんどかったお前をここで休ませていたら、部屋が暑くなっただけの話。さあ、言われた通りにもっと、お茶を飲むんだな。ほら、熱が上がってきた気がするだろ?本当に気分が悪くなる前に、さっさと服を脱げ」
ノエル「嫌です!〈睨む〉」
武官アリ「〈笑い〉まだ自分の立場が分からんのか?大馬鹿者だな。俺は秘密を守ってやる親切な人だぞ。ちょっと見せるぐらいが何だ!?ばらされたくないんだろ?
[22]ー城下町 路地裏
〈何とか逃げ切ったミレーネ姫達。ぜーぜーと息をつく。手をつないでいたサイモン王子とミレーネ姫は手を離す。ポリーは二人の仲に気づかぬふりをしたまま、後ろを確かめる。〉
ポリー「もう大丈夫そうね」
サイモン王子「レックスやケインとはぐれてしまったが」
ミレーネ「こちらはポリーがいるので警護の面では心配ありませんが、どうしましょう?」
サイモン王子「ポリーさんは、そんなに強いのですか?」
ポリー「〈笑いながら〉後で二人とはマリオさんの店で合流出来るはず。それまで、せっかくだから、もう少し街歩きを楽しみましょう」
ミレーネ「〈王子と顔を見合わせて〉ええ、そうですわね」
サイモン王子「行きますか?」
[23]ー城の中
〈巡回中の近衛副隊長ウォーレスを見つけるマーシー。〉
マーシー「近衛副隊長!〈必死で手招きする〉」
〈他の近衛から離れて、マーシーの所へ駆け寄る近衛副隊長ウォーレス。〉
近衛副隊長ウォーレス「マーシーさん、どうしましたか?」
〈マーシーが耳打ちする。〉
近衛副隊長ウォーレス「〈顔色が変わり〉何だって?」
マーシー「〈泣きそうに〉早くしないと危険だと思います」
近衛副隊長ウォーレス「分かった!〈他の近衛に〉巡回から私は一旦、はずれる」
近衛「副隊長、何かあったのですか?一緒に行きますか?」
近衛副隊長ウォーレス「いや、とりあえず私だけで……。〈マーシーに〉行こう!」
[24]ー城下町 店が並んでいる繁華街から少し離れた、人通りの少ない道
〈楽しげに歩いているミレーネ姫、サイモン王子、ポリー。急に声がして、ハッとする三人。〉
紙師「これは、これは、さっきのお嬢さんじゃないかい?」
〈姫を守る体勢を取るポリーとサイモン王子。紙師は今度はガラの悪い男二人を連れている。〉
弟分 その1「兄貴、このべっぴんさんですか?仕事の邪魔をしたってえのは」
弟分 その2「客が皆、このお嬢さんを追いかけていなくなり、結局、手本は一冊も売れぬとはひどい話っすよ」
紙師「配った千代紙の代金分も全く回収出来ず、損させられた訳よ」
ミレーネ「すみません。私、まさか商売のお邪魔になってしまったなんて」
弟分 その1「お邪魔もお邪魔!どこで折り方を覚えたか知らねえが、変に物を知ってたのが
サイモン王子「〈小声で〉金で済むなら、金で解決しよう」
ポリー「しっ!」
弟分 その2「今、金と言ったね?」
ポリー「言ってないわよ!〈小声で〉少しのお金で済むような
紙師「生きのいい姉ちゃんじゃないか。痛い目にあいたいらしいな」
ミレーネ「どうしたらいいの?大声で助けを呼びましょうか?」
ポリー「〈姫の日傘を手に取り〉壊してしまったら許して。ここは私が何とかするから。〈サイモン王子に
ミレーネ「ポリー、相手は三人もいるわ」
ポリー「私の実力を知っているでしょ?さあ、1,2,3!」
〈サイモン王子、ミレーネ姫の手を取り、走る。〉
紙師「逃げたぞ!」
ポリー「私が相手よ」
弟分 その1「何だ、このアマ!ふざけやがって!」
〈ポリーが三人を相手に日傘を振りまわし闘う。そこへ走って来る従者レックスと剣士ケイン。〉
従者レックス「ポリー様!」
〈ポリーの横に並ぶレックスとケイン。〉
従者レックス「大丈夫ですか?」
ポリー「これで三対三!楽勝よ!」
〈道の先の方で振り返り、ポリーの所にレックスとケインが
弟分 その2「やっちまおうぜ!」
〈戦う3人対3人。〉
[25]ー城 城の塔付近 納戸の中
〈下着姿のノエル。悔しくて泣いている。〉
武官アリ「さっきまでの強気はどこへやら。じらされるのも面白くなってきた。どれ、じっくり眺めさせてもらおうか」
〈ノエルは切羽詰まった状況の上、狭い中に閉じ込められ汗をかいている。〉
武官アリ「ほら。〈ハンカチのようなものを投げ〉汗をふいたら、どうだ。まだ、暑いなら、もう少し脱がなくっちゃな。さあ、肩紐に手をかけて、ゆっくり下ろすんだ、そう、そおっと。いいねえ。泣いて
ノエル「本当に約束は守るんでしょうね。誰にも言わないで!」
武官アリ「当たり前だろ。お前がここまでやったんだから、それは俺だって答えるというものさ」
武官アリ(心の声)「馬鹿な奴め。また、何度でもこうして楽しませてもらうからな。それまで秘密は黙っておいてやる」
〈目をつむり、意を決したように下着の肩紐に手を掛け従おうとするノエル。〉
[26]ー城 城の塔付近 納戸の前
〈塔の階段を駆け上がって来る近衛副隊長ウォーレスとマーシー。〉
マーシー「ここです!」
〈納戸に飛び込むウォーレスとマーシー。扉を開けて飛び込んで来たウォーレスとマーシーの姿にはっとなるノエルとアリ。〉
マーシー「〈片紐に手をかけた下着姿のノエルを見て〉きゃあーー。ノエル!」
〈ノエル、慌てて服で隠す。アリも慌てて上着を着る。〉
近衛副隊長ウォーレス「〈アリにつかみかかり〉貴様!!」
武官アリ「待った!待った!何ですか、急に。俺はあの人に指一本触れていませんよ。今も見ませんでしたか?自分から脱ごうとしていたじゃないですか」
マーシー「ノエル、大丈夫?本当に何も触られたりしていないのね?さあ、早く服を着てここを出ましょう」
〈マーシーがノエルが服を着るのを手伝う。ノエルは恥ずかしさで真っ赤になっている。〉
近衛副隊長ウォーレス「自分からだと!?では、なぜ、こんな納戸に連れ込んでいる?説明しろ!」
武官アリ「さっき、偶然、廊下であったんですよ。この人が気分が悪そうなので、休むのにちょうどいい所があると案内したまでです」
近衛副隊長ウォーレス「何が案内したまでだ!〈怒りに震え、まだ手をゆるめない〉」
マーシー「〈横から必死で〉ノエルに『言う通りにしろ』と言っていたじゃないですか!」
武官アリ「しんどいのに仕事に戻ろうとするので、俺の言うことを聞いて休んだ方がいいと言ったまでですよ。姫は出掛けているそうですから、その間だけでもここにいればと助言したのです。まあ、自分も今日は非番で、ちょっと心配だから一緒にいたんですけどね。そうしたら、部屋が暑くて、二人ともこんな格好に……」
近衛副隊長ウォーレス「そんなバカげた話を信じろというのか?何て卑怯な奴だ!」
武官アリ「副隊長、信じないなら本人に聞いて下さいよ」
近衛副隊長ウォーレス「〈振り返り〉ノエル!!脅されたのだろう?答えろ!!」
ノエル「〈ウォーレスの顔を見ずに小声で〉さっきの話の通りよ。その人は何も悪くない」
武官アリ「ほらね」
ノエル「〈目をそらしたまま〉気分が悪いの。もう部屋に行くわ。何でもなかったのだから、これ以上、事を大きくしないで」
〈立ち上がり、トレイを持とうとするが手が震えているノエル。マーシーがトレイを持ち、ノエルを支える。〉
武官アリ「副隊長、誤解が解けたなら、その手を離してもらえますか?」
〈まだアリの胸ぐらを掴んだままだったウォーレスはやっと手を離す。ノエルとマーシーが二人の横を通り、部屋を出ようとする。アリがノエルに一言、声をかける。〉
武官アリ「〈しらじらしく〉お大事に!休めて良かっただろ。〈にやりと笑う〉」
〈無視して出て行くノエルとマーシー。〉
近衛副隊長ウォーレス「ノエルに今度何かしたら命はないと思え」
〈近衛副隊長ウォーレスも部屋を出る。一人残るアリ。〉
武官アリ(心の声)「俺を殺せば殺人罪になり副隊長だって命はないですよ。謀反をおこし死罪になった元恋人の妹の為に、そこまで出来ますか……?〈ふてぶてしい表情〉」
[27]ー城下町 人通りの少ない道
〈紙師と弟分の二人を相手に、ポリーと従者レックスと剣士ケインが3対3で戦っている。ポリーは剣士ケインの動きが気になるが、横に気を取られると危ないので、とりあえず目の前の相手に集中する。剣士ケインはまだ体をほぐす程度にしか動いていない。ポリーはかなり相手にダメージを与える。従者レックスも健闘している。ケインが本気を出す前に、逃げていく紙師と弟分二人。〉
従者レックス「ポリー様、お見事でした」
ポリー「レックスさん達も助けに来てくれて良かったわ」
〈剣士ケインと目が合うポリー。会釈し合う二人。〉
従者レックス「王子と姫様がご無事でいらっしゃることを祈るばかりです。早く、マリオさんの画廊で合流しましょう」
#3へ続く
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