第18話 真心の贈り物 #1

シーズ ン1 第18話 真心の贈り物 #1


******緑の国


[1]-《緑の国》城 王の部屋


ミレーネ「お父様、お呼びですか?」


王様「姫。今日は一人でここへ来たのか?」


ミレーネ「お父様、嫌ですわ。目が良くなる前もこうして誰の手も借りず、私一人でお伺いしていましたのよ」


王様「おお、そうじゃった。しかし、歩くことが出来るのは、やはり違うじゃろう」


ミレーネ「ええ。今までは歩くことが出来ても、どこかに不安がありましたの。でも、もう何も怖くありませんわ。お城の外にも行き、でもしたい気分です。今まで直接、見ることができなかったものを、たくさん見てみたいのです」


王様「そうか。冒険か······。それは頼もしいのう」


王様(心の声)「それならば、このまま白の国の王子との縁談を進めても大丈夫じゃな?賢い姫ゆえ、しっかり二つの国の懸け橋になってくれるだろう」


ミレーネ「お父様?」


王様「サイモン王子とは話が弾んでおると聞く。心のこもったおもてなしを続けておくれ。両国のために」


ミレーネ「〈恥ずかしそうに〉そんな……話が弾むだなんて······」


王様(心の声)「姫は恋をしているのか?」



[2]-緑の国 城の廊下


〈お茶のトレイを持って歩いているノエル。ポリーとぶつかりそうになる。〉


ノエル「あっ、すみません。ポリー様」


ポリー「あら、ノエルさん。ミレーネ姫の所へ?」


ノエル「はい。今、お茶をお持ちするところです」


ポリー「持っていかなくても大丈夫よ。〈小声で〉今日、これから姫はお忍びで出掛けるから。あなたも、この後、少し暇になるはず。〈笑って手を振りながら去る〉」


〈向きを変えて引き返そうとするノエル。誰かが急に前に立つ。〉


ノエル「すみません、あ!」

               

〈にやにやして立ちはだかる武官アリ。〉


武官アリ「暇になるらしいから、少し付き合ってもらおうか。アイラの妹さんよ。〈驚くノエルに〉ちょっと話そうぜ。〈お茶のトレイを指して〉それを持ったままでいいから」



[3]-城 ミリアム王子の部屋


ミレーネ「では、昨晩はよく眠れたのですね」


〈そばでニコニコしているミリアム王子。〉


ミリアム付きの侍女「はい。今までのことが嘘のようにぐっすりとお休みになられました。ミリアム様、姫様にサイモン王子様から頂いたの絵をお見せしたら、いかがですか?」


ミレーネ「何か頂いたのですか?」


ミリアム「秘密なんだ。サイモン王子様が他の人に見せるとから見せちゃだめだって」


ミレーネ「まあ」


ミリアム付きの侍女「ミリアム様、姫様だけには宜しいのではないでしょうか?」


ミリアム「ダメだよ。誰にも見せないってサイモン王子様と約束したから!」


〈そこへノックの音がする。〉


ポリー「ミレーネはここなの?〈ドアを開け〉ああ、やっぱり、ここにいた!」


ミリアム付きの侍女「〈コホンと咳払いし〉ポリー様、お言葉が······」


ポリー「御免なさい。ミレーネ姫、ちょっと来て下さい」


〈廊下にでるミレーネ姫。耳打ちするポリー。〉


ミレーネ「サイモン王子様とこれから?」


ポリー「しっ。〈指で内緒の合図〉」


〈ドアを開け、中から顔を出すミリアム。〉


ミリアム「姉様、今、って言ったでしょ?」


ポリー「ミリアム王子!これは、大人同士の話なの。今日はお利口でお留守番してね」


ミレーネ「ごめんなさい、ミリアム。〈泣きそうなミリアムの様子を見て、ポリーに小声で〉ミリアムも一緒にどうかしら?」


〈慌てて首を振るポリー。〉


ミリアム「昨日、サイモン王子は僕と遊ぶって約束したんだ。みんな、ひどいよ!いつも僕だけ置いてきぼりで!」


ミリアム付きの侍女「〈廊下の声に気付き、部屋から出て来て〉ミリアム様、ボードゲームで試合をしましょう?勝ったら焼き菓子がもらえるというのは、いかがですか?さあ、さあ、お部屋へ」


〈侍女が、姫とポリーに、目でどうぞと合図する。ミリアム王子は仕方なく侍女に連れられて部屋の中へ入る。〉


ミリアム「〈扉が閉まる前に恨めしそうに振り返って〉約束したのに!」


〈扉の向こうからミリアム王子のぐずる声が聞こえる。〉


ミレーネ「〈ポリーに〉何だか可哀そうよ」


ポリー「〈扉越しに〉ミリアム、ごめんね。今日は特別だから。色々準備もあるし」


ミレーネ「特別って?準備とは何ですの?」


ポリー「後でのお楽しみ!さあ、サイモン王子が待っているわ。急いで行きましょう」



[4]ー城下町 画廊マリオ


セナ「分かったわ。ポリー殿は姫様と王子様のために一役買うのね」


マリオ「師匠に申し訳ないとすごく謝っていたよ」


セナ「とりあえず、明日の武官試験に関しては、もう相談済みよ。問題ないわ。後でもう一度、ポリー殿はお店に来るのよね?私も試験の見物に行くからと伝えておいて。ジュリアス様を応援しなくちゃ!」



******白の国


[5]ー《白の国》名家ヨーム公の館


〈応接間にいるクレアの父ヨーム公、クレアの母、クレア。まず一人で入って来る白の国の女王。〉


女王「私の独断で子どもを他人の手に長い間、預けておりましたことをお許し下さい」


ヨーム公「色々ありましたが、今後はどうか娘を宜しく頼みます」


ヨーム公の妻「クレアの子が無事に成長していると聞き、ほっと致しました」


女王「はい。とても利発で元気な可愛い男の子です。ヨハン、入りなさい」


タラタティアナに付き添われ、ヨハンが入って来る。〉


女王「この子がクレアとサイモン王子の子どものヨハンです」


〈そばに来るクレア。まだ事情がよく分かっていないヨハンは不安そうにタラタティアナを見る。〉


クレア「どんなに、会いたかったことか……。訳あって今まで離れていましたが……。私があなたの本当の母です」


ヨハン「えっ!僕のお母さん……?」


クレア「ええ、おいで。〈手をのばす〉」


〈泣きそうな顔で、隣にいるタラタティアナを見るヨハン。〉


タラタティアナ「大丈夫です。これからも私達はそばにいますから。でも、もうママやおばあちゃんと呼んではなりません。私の本当の名前はゾラ、ママはサーシャ。これからは、そう呼ぶのですよ。さあ、ヨハン坊ちゃま。お母様の所へ。〈そっとクレアの方へ押し出す〉」


クレア「ああ、私の息子!〈抱きしめる〉」


固唾かたずを飲んで見守っていた周りの人達は安堵する。クレアに抱かれながら、目にいっぱいに涙を浮かべ、困った顔のヨハンの姿。〉



******緑の国


[6]ー城 馬舎の前            


〈馬車が用意されている。ミレーネ姫、サイモン王子、従者レックス、剣士ケイン、ポリーが来る。〉


ポリー「〈後ろを気にしながら〉ばれないうちに早く!」


〈皆が急いで馬車に乗り込む。お城の方から走ってくる女官長ジェインと女官達。〉


女官長ジェイン「お待ちください!姫様!」


ポリー「わっ、見つかった!」


ミレーネ「どうしますの?」


ポリー「大丈夫。この御者のおじいさんは耳が遠いから、女官長の叫びには気付いていないはずよ。〈窓から乗り出して、御者の耳元に〉城下町にある画廊マリオまでお願いね」


〈馬車が出る。窓から女官長たちに手を振るポリー。〉


サイモン王子「〈振り返りながら〉このまま出かけていいのでしょうか?」


ミレーネ「近衛隊が追いかけてくるかも知れないわ」


ポリー「その頃には、街中に私達は紛れ込んでいるはず。変装してね。〈楽しそうに〉究極の追いかけっこよ!」


従者レックス「それは面白そうです!ポリー様、中々やりますね」


サイモン王子「後から問題にならないだろうか?」


ミレーネ「私は無理やり連れて来られたのではありません。皆で謝れば許してもらえるでしょう。こんな経験は滅多に出来ませんもの。楽しみたいですわ!」


ポリー「さすが、ミレーネ!そう来なくっちゃ!」


〈皆が笑う中、一人だけ仏頂面の剣士ケイン。〉

            



[7]ー城 馬舎の前


〈ハーハーと息を吐き、立ち尽くす女官長ジェイン。一緒に追いかけてきた女官二人を問い詰める。〉


女官長ジェイン「どういうことですか?女官も護衛も付けず、姫様がお出掛けなさるとは!」


女官 その1「姫様が『白の国の王子様と一緒にお出掛けするので特別にお忍びで行きます』とおっしゃられましたので、そのままご準備させて頂きました〈うつむく〉」


女官 その2「すみません。女官長もご存知のことと思ったのです」


女官 その1「白の国の護衛の方が同行されましたので、それで宜しいのかと。申し訳ございません」


女官長ジェイン「すぐ近衛隊を城下町に向かわせて見つけなければ!ああ、もう、困ったわ……」


〈王の一行が庭に散歩に出て来ていて、馬舎の方へ歩いて来る。〉


王様「女官長、何事だね?」


女官長ジェイン「王様!」




[8]ー城 ミリアム王子の部屋


〈部屋の窓から馬車が出ていくのをじっと見送るミリアム王子。今にも泣き出ししそうな表情。ベッドの所に行くと枕の下からサイモンが描いてくれた絵を取り出し、ビリビリに破り声を上げて泣く。〉


ミリアム付きの侍女「〈駆け寄り〉まあ、何てことを……。ミリアム様……」


〈侍女がなだめるため背中をさすろうとするが、ミリアム王子に手を払いのけられる。〉



******白の国


[9]ー《白の国》 魔王の洞窟


魔王グレラント「〈目を閉じ〉ほおお」


手下 その1「どうされましたか?」


魔王グレラント「ミリアムの怒りの波動がここまで感じられる。かなり強い怒りだ。いいぞ。もっと怒れ。心の闇が深くなればなるほど、我ら闇の世界と共鳴しやすくなるのじゃ。これならば一挙にいけるかも知れん!!」


〈そこへ影の隠密が入って来る。〉


隠密「ご報告致します。女王が王子に帰国を命じる旨の早馬を出したそうです!」


魔王グレラント「何!?あと一歩の所で……。帰国させる理由は?」


隠密「それが大臣達もまだはっきり掴めないらしく申し訳ありません。それから···…関係あるかどうか分かりませんが。城外から連れて来られた、子どもを含む三人の家族が、ただ今、城に逗留しているそうです」


魔王グレラント「怪しいことは全て探れ!あの、ばばあ!!早く亡き者にすべきじゃった!早馬はいつ緑の国へ着くのじゃ?」


隠密「明日の午後かと推測されます」


魔王グレラント「そうなると、我々に残された機会は今夜と明日の夜の、あと二回か?しばらくミリアムを操れなくなっていたのが、まずかったな。間に合うか……?」



******緑の国


[10]ー《緑の国》 城 馬舎の前


王様「姫が、そのようなことを?」


女官長ジェイン「申し訳ございません。すぐ近衛隊出動のご命令を」


〈笑いだす王。〉


女官長ジェイン「王様??」


【王の回想:今朝 王の部屋


ミレーネ『でも、もう何も怖くありませんわ。お城の外にも行き、でもしたい気分です。今まで直接、見ることができなかったものを、たくさん見てみたいのです』】


王様(心の声)「白の国に行く前に、緑の国で楽しい思い出を多く作っておくがいい。姫にとっては初めての経験ではないか……」


王様「白の国の護衛、従者、それにポリーが一緒なら心配ない。とがめだてせぬから安心しなさい」


女官長ジェイン「王様、御心広きお言葉。有難うございます〈深々と頭を下げる〉」



[11]ー城下町 画廊マリオの前


ポリー「さあ、着いたわ。まず、中で着替えるわよ!」


サイモン王子「本当に変装するのですか?」


ポリー「入って、入って。〈ケインに〉ここで見張っていて下さいね」

                

〈店の前で待つケイン。隣りのナタリーの雑貨店を見る。まだ今日は開店していない。〉




[12]ー画廊マリオ


〈楽しそうに変装しているミレーネ姫とポリー。〉




[13]ー城下町 民政大臣の家


〈ベッドに寝ているナタリー。うなされている。〉


【ナタリーの夢の中:寂しそうな若者ケインの姿。『カノン!』と手を差し伸べるが、消えてしまう。】


ナタリー「カノン!〈飛び起きる〉」


〈枕元の時計を見る。〉


ナタリー「もう、こんな時間……。〈二日酔いで痛む頭を押さえ〉あ、痛い。昔を思い出して、かなり外事大臣と話し込んでしまったわ。大臣も月日が経てば変わるのね。以前は気性が激しい上に、私への思いが強過ぎて怖かったけれど、昨晩はとても親切に接して下さった……」




[14]ー城下町 民政大臣の家 台所


女中ステラ「奥様、お加減がお悪いのですか?」


ナタリー「大丈夫よ。それより、何か酔い覚ましになるものを作ってくれるかしら?」


女中ステラ「まあ、奥様。昨晩、お酒を召し上がられたのですね」


ナタリー「ええ。昔の知り合いに久しぶりに会ったものだから」


女中ステラ「今日、お店は休まれますか?」


ナタリー「いいえ。遅くなってしまったけれど、これから行くわ」




[15]ー城 城の塔付近 納戸の中


〈武官アリに連れ込まれているノエル。おびえた表情。お茶の用意をしたトレイは床の上に置かれている。〉


ノエル「こんなことをして……。それでも武官なの?」


武官アリ「どうとでも言うがいい。秘密を皆に知られたくなければ、お前は言う通りにするんだな」


ノエル「明日は武官試験でしょう。こんな馬鹿なことは止めて、さっさと練習しなさいよ」


武官アリ「練習に全く身が入らないから、こうして俺のやる気に火を点けているのさ。いくらでも怒るがいい。怒った美人を眺めて気持ちを高ぶらせたいね」


ノエル「〈睨みつけ〉私に何をさせる気?」


武官アリ「まあ、ゆっくり語ろうぜ。まずは持って来た熱いお茶を飲めよ」




[16]ー城 城の塔付近 納戸の外 廊下


〈マーシーがキョロキョロしながら、塔の細い階段を上がって来る。〉


マーシー(心の声)「ノエルがお盆にお茶を持ったまま、男の人とこっちへ来たようだったけど?こんな所にお茶を運ぶなんて変よ……」


〈かすかに声がする納戸を見つけ近づく。扉の外から立ち聞きしてブルブル震えだすマーシー。そっと、その場を離れ、階段を急いで駆け下りる。〉


マーシー(心の声)「大変!ノエルが危ない!助けを呼ばなくては!」




******白の国


[17]ー《白の国》 石造りの城 タティアナ達が閉じ込められている部屋


〈戻ってくるタティアナゾラとヨハン。憔悴しきった様子で待っていたアイラサーシャ。〉


ヨハン「ただいま」


アイラサーシャ「ヨハン!〈抱きしめる〉」


〈抱きしめられても、何処かぎこちない様子のヨハン。不思議に思ったアイラはヨハンの顔を見る。〉


ヨハン「ママは……本当のママじゃないんでしょ?」


アイラサーシャ「えっ?」


ヨハン「僕を預かって、今まで育ててくれたって。僕、本当はこのお城の王子様の子どもなんだって。さっき、本当のママが教えてくれた」




#2へ続く

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