第16話 流れ星にかける願い #1

シーズン1 第16話 流れ星にかける願い #1


[1]ー《緑の国》城 書架室 続き


〈ミレーネ姫にサイモン王子の申し出を伝えた従者レックスが返事を待っている。〉


ミレーネ「〈考えて〉あの……。本当に、私を描いて下さるのですか?」


従者レックス「はい。もちろんでございます、姫様!宜しいのですね?今からすぐ参りましょう。廊下でお待ち致しております」



[2]ー城 書架室前の廊下


〈一礼して部屋から出て、待っているサイモン王子の所へ走りよる従者レックス。小さくガッツポーズをする。それを見てサイモン王子も小さくガッポーズ。少し離れて立つ剣士ケインの視線を感じ、慌てて平静を装おう二人。〉



[3]ー城の廊下


〈客用のラウンジに移動するミレーネ姫とサイモン王子の一行。その後を追いかけてくるミリアム王子とお付きの侍女。ミレーネ姫の女官だけが後ろの様子に気づき、ミリアム王子の所に来る。姫と王子はミリアムに気付かず、そのまま話しながら歩いている。〉


ミリアム「姉様はサイモン王子様とどこへ行くの?」


ミレーネ姫付きの女官「これからラウンジで王子様が姫様の絵を描かれることになりましたのよ。お勉強は、またの機会に」


ミリアム王子付きの女官「それではお邪魔してはいけませんね。ミリアム様、お部屋に戻ってボードゲームでも致しましょう」


〈寂しそうに、二人の後ろ姿を見送るミリアム王子。〉



******白の国


[4]ー《白の国》 魔王グレラントの洞窟 入り口付近 夜


〈見張っている女王の隠密コウモリ。そこへ夜陰やいんに乗じて国務大臣と財務大臣がやってくる。辺りを見回してから中へ入る。隠密も少し遅れて後へ続く。洞窟の中は入り組んでいる暗い通路。かすかな足音の響きを聞き分けては印をつけて進むコウモリ。やっと声が聞こえるところに辿りつき、そこにしばしの間、潜む。話の内容に顔つきが変わる隠密コウモリ。〉



[5]ー洞窟


〈印を消しながら、後ろを気にしつつ、外へ出る隠密コウモリ。〉



******緑の国


[6]ー《緑の国》 城 書架室 夜


〈書架室を覗くジュリアス。ミレーネ姫はいない。〉



[7]ー城の庭 夜


〈庭から客用のラウンジに明かりが見え、そっと様子を窺うジュリアス。デッサンをしているサイモン王子。笑って座っているミレーネ姫の姿。〉



[8]ー城 西門近く ノエルの部屋


〈仕事を終え、部屋に戻ったノエル。窓際に置いたガラスボタンを見ると、真っ二つに割れている。〉


ノエル「大変、こんなことになってしまって……」


【ノエルの回想:朝 ノエルの部屋の窓際 太陽の光が当たっていたガラスボタン。】


ノエル「こんなに光に弱いということは……。もしかすると再生ガラス?〈棚の本に手をやり、確認する。〉やっぱり白の国は通常、再生ガラスを使って、そこに氷藻(注:ひょうも_白の国でしか採れない植物で、煮汁は無色透明、凝固作用がある。素材となるガラスの量を減らすために使われるが、見た目の変化は起こらない)を加えているのね。日光に弱く割れやすくても白の国の気候なら適していると言えるわ」


〈真っ二つになったガラスボタンを手に取り、じっと見つめるノエル。〉


ノエル「白の国……。あの薬師はどうも胡散うさん臭かったのに、早々に帰ってしまった。近頃は残った王子と姫が仲良くなるばかり。姫のそばにいれば姉さんに繋がる昔の情報が手に入るかと期待したけれども、それも全くなし。こうなると長期戦を覚悟しなくては……」



[9]-城 鍛錬場


〈ジュリアスが遅くに武術を練習している。〉


【ジュリアスの回想:先ほど 客用のラウンジ 笑っているサイモン王子とミレーネ姫。】


〈その光景を振り払うように練習するジュリアス。近衛副隊長ウォーレスが見かける。〉


近衛副隊長ウォーレス「ジュリアス様、遅くまで頑張っていらっしゃいますね」


ジュリアス「副隊長!試験も近いのに中々集中出来ず困っています」


近衛副隊長ウォーレス「珍しいですね、ジュリアス様から、そのような言葉が出るとは……」


ジュリアス「自分でも、こんな落ち着かない気持ちになるとは意外でした。武術はやはり向いていないのかも知れません」


近衛副隊長ウォーレス「正直に申し上げて、ジュリアス様が文官から武官になられた時は驚きました。しかし、ここまで来られたということは、それだけ十分努力をなさったということです。武術の道は元々の素質も大事ですが、その後はいかに日々鍛錬するかに掛かっています。それに相手への戦法攻略という点は、明晰な頭脳をお持ちのジュリアス様ですから得意分野ではありませんか?」


ジュリアス「いえいえ、明晰な頭脳などお恥ずかしい話ですが――。そう言って頂けると少し自信が出てきました。感謝します、副隊長」


近衛副隊長ウォーレス「姫様を誰より近くでお守り出来るのはジュリアス様をおいて他にいらっしゃらないでしょう。頑張って下さい」


ジュリアス「あの、今、少し練習の相手になって頂けますか?」


近衛副隊長ウォーレス「いいですよ。本気の相手がいた方が集中出来ますからね」



******白の国


[10]ー《白の国》 城 女王の部屋


〈隠密コウモリから報告を聞く女王。〉


女王「何と!そんな恐ろしいことが我が国に起こっていたとは……!〈倒れそうになる〉」


女王付きの従者「女王様!〈駆け寄ろうとする〉」


女王「〈制して〉私は大丈夫です。とにかく早く王子を呼び戻しましょう。ああ、どうしたら、いいのか……。〈考え〉すぐに四、五歳の子どもを探して来るのです。出来れば、この国によそから移り住んできたような家庭の子どもを。一刻も早く!」



[11]ー《白の国》 アーシャとタラの家


 〈ひっそりと暮らしているアーシャアイラタラタティアナ、ヨハンの姿。〉



******緑の国

         

[12]―《緑の国》 城 ミレーネ姫の部屋


〈一度はベッドに入ったが、目を開いているミレーネ姫。灯を明かるくし、ベッドに座り直し、今日の出来事を思い返す。〉


ミレーネ「流れ星は宇宙から地上への希望のメッセージ……」


【姫の回想:数時間前 城 客用のラウンジ 一生懸命に姫をデッサンしていたサイモン王子の姿。】


ミレーネ「私がお返し出来るのは、これぐらいのことしかないわ……」


〈羽根ペンで何かを紙に書く姫。〉


ミレーネ「〈書いたものを眺めて〉ずっと文字を書いていなかったから、少し練習が必要ね」

               


[13]ー城 ミリアムの部屋 夜


〈ベッドに座っているミリアム王子。〉


ミリアム付きの侍女「ミリアム様、お休みの時間ですよ」


ミリアム「嫌だ、また怖い夢を見るもの」


ミリアム付きの侍女「お話し下さい。どんな夢なのですか?」


ミリアム「〈首を振り〉思い出すのは怖いよ。思い出したら、また夢に出てくるんだ」


ミリアム付きの侍女「絵本を読みましょう。きっと、夢には絵本の楽しいお話が出てきますわ。さあ、ミリアム様のお好きなものを」


ミリアム「嫌だよ、朝になるまで僕は眠らない!お部屋は暗くしないで!」



[14]ー城 サイモン王子の客室 夜


〈キャンバスの前で絵筆を走らせているサイモン王子。そばで眠ってしまった従者レックスがはっと起きる。慌てて居住まいを正す。〉


サイモン王子「〈その様子を見て〉レックス、自分のベッドで寝て来ればいい。私はもう少し描きたいから」


従者レックス「〈眠そうに〉そうですか。では、お先に休ませて頂きます。王子様もなるべく早くお休み下さい」


〈お付き用の部屋に退く従者ジュリアス。サイモン王子は再度、キャンバスに向かう。絵の中で微笑むミレーネ姫。満足そうなサイモン王子。〉



******白の国


[15]ー《白の国》 魔王の洞窟


手下 その1「緑の国から忍びの報告です。白の国の王子と緑の国の姫が、お互いに気に入り仲良くなってきているということです」


魔王グレラント「ほおお。あの王子には、あまり期待していなかったが、中々やるのう。首飾りを手に入れ、ここへ姫を連れてきてしまえば、幽閉も人格破壊も何でもござれ。姫はここで幸せに暮らしていると緑の国の王に信じ込ませるのは簡単よ。後は、緑の国をわしの思い通りに動かせるじゃろう。邪魔な姫の始末さえ上手くいけばいいのじゃ」


手下 その2「白の国の王子に、こんな使い道があるとは誠に良い誤算」


手下 その1「緑の国の小さい王子は悪夢によって、うまくグレラント様に操られ始めているのでございますか?」


魔王グレラント「うむ。そっちも、あと一息じゃよ」



******緑の国


[16]ー《緑の国》 城 ミリアム王子の部屋


〈明かりがついたまま、絵本も幾つかベッドに開きっぱなしの様子。ミリアム王子が眠っている側でミリアム付きの侍女も座ったまま眠ってしまっている。〉


【ミリアムの夢:薬師ゴーシャ魔王グレラントの恐ろしい顔

     

『ミレーネ姫の首飾りは、お前の物じゃ。ほら、それがあれば何も怖くないぞ。姫がお前から取っていったのだ。返してもらえ。返してもらえ~~』 】


ミリアム「〈悪夢にうなされて〉うわああああ!」


〈はっとなり、飛び起きるミリアム付きの侍女。〉


ミリアム付きの侍女「大丈夫、夢、夢でございますよ」


〈侍女にしがみつき泣くミリアム王子。〉



[17]ー城 サイモン王子の客室 深夜


〈まだ絵を描いていたサイモン王子は、窓の外から風に乗って聞こえてくる泣き声に気付く。〉


サイモン王子「ミリアム王子?」



[18]ー城 書架室 朝


〈一生懸命に何かを書いているミレーネ姫。ノックして入って来るジュリアス。〉


ジュリアス「ミレーネ、勉強ですか?」

                

〈手元の紙を慌てて隠す姫。ん?という顔のジュリアス。〉


ミレーネ「ジュリアス!何だか久しぶりに会う気がするわ。ポリーはもう練習に出掛けて?」


ジュリアス「今朝も張り切って行ったよ」


ミレーネ「ジュリアスは私に何かお話でもありますの?」


ジュリアス「ああ。実は……。子どもの頃時々、王妃様と一緒にミレーネが我が家の様子を見ていたと言っていましたよね」


ミレーネ「ええ。お母様とこっそり――」


ジュリアス「その時に、王妃様から何か話を聞いたことはなかったかと思ったので――もう一人、女の子がいたとか……」

                

【ジュリアスの回想:十七年前 民政大臣 可愛いカノンの笑顔。】


ミレーネ「もう一人の女の子?〈首飾りに触れながら記憶を辿り〉いいえ、それは誰のことですの?昔の話ですからアンでもありませんわね。ポリーの他にも妹がいたのですか?」


ジュリアス「我が家ではその子の話が禁句でね。父や母からは直接詳しいことは聞けなくて、もしミレーネが何か知っていればと思ったのです。ポリーと近い歳の子で、家族として我が家で暮らしていたのに、行方不明になってしまった。ポリーは幼な過ぎて何も覚えていないようだが」


ミレーネ 「そんな大変なことがありましたの?でも今になって、どうして急にその話を?」


ジュリアス「ポリーが宴で弾いた“カノンに捧ぐ”は、実は母がその子のために作った曲なのです」


ミレーネ「まあ。あっ!だから、ナタリー叔母様の首飾りの石。ほら、近づくと青く光ると言う……。その数は八個なのよ」


ジュリアス「えっ?首飾りの石って、これですよね?〈紐に繫げた一つの石を見せる〉」


ミレーネ「ええ。前にポリーから聞いて不思議でしたの。叔母様が一つ、ジュリアスも一つ、そしてポリーとアンが二つずつ。合計六個。ポリーはそう覚えていたわ。でも、私はお母様から、“八個の”石と聞いて記憶していたから……。きっと、その女の子が残りの二つを持っているに違いありませんわ」



[19]ー城下町 ナタリーの雑貨店


〈店の扉が開く度にはっとその方向を見るナタリー。〉


ナタリー「〈お客に〉いらっしゃいませ」



[20]ー城 サイモン王子の客室


〈部屋の中で少し離れて警護している剣士ケイン。ソファに座って従者レックスは待機している。ふうっとため息をつき、絵筆を置くサイモン王子。〉


従者レックス「〈キャンバスを見に来て〉今回は出来上がりが早いですね」


サイモン王子「夜中も頑張って描いてしまったからな〈笑う〉。後は仕上げにもう一度、姫にモデルとして来て頂こう」


従者レックス「お呼びして参りましょうか?」


サイモン王子「いや、私が自分で行くよ」


従者レックス「おお、その調子です、王子様!」


サイモン王子「〈照れ笑いして〉レックス……。根を詰めて描いていたから、散歩がてらだ」


従者レックス「〈仰せの通りという感じで〉はい、体を動かすことも大切ですから。さあ、さあ、参りましょう」



[21]ー城の廊下


〈何となくだるそうに歩いているミリアム王子。お付きの侍女と護衛も一緒である。〉


サイモン王子「ミリアム王子様」


ミリアム「あっ、サイモン王子様」


サイモン王子「どちらへ行かれるのですか?」


ミリアム付きの侍女「それが……。この頃、あまりよく、お眠りにならないものですから、お散歩にお連れしたのですけれど。お疲れの様子で、もうお部屋に戻りたいと申されまして」

               

〈顔色が悪そうなミリアム王子。〉


サイモン王子「どうして夜、眠れなくなったのでしょう?」


ミリアム「〈侍女に〉皆の前で言わないで!」


【サイモン王子の回想:昨夜 夜中 窓の外から聞こえたミリアムの泣き声。】


ミリアム付きの侍女「ミリアム王子様」


ミリアム「今は平気だから、その話はしないで欲しいんだ」


サイモン王子「じゃあ、今から私と少しお部屋で遊びましょうか?」


ミリアム「やった!」


従者レックス「では、姫様の所には後ほど伺いますか?」

               

〈レックスに頷き、ミリアム王子と一緒に歩いていくサイモン王子。〉



[22]ー城 ミリアム王子の部屋


サイモン王子「少し二人きりで話してもいいですか?」

               

〈ミリアム付きの侍女、従者レックス、護衛、剣士ケインは皆、廊下に出る。〉


ミリアム「〈スケッチブックと羽根ペンを持ってきて〉また絵を描いて下さい」


サイモン王子「いいですよ。どんな絵がいい?」


ミリアム「僕がものすごく強くて、どんな敵でも倒せる剣士の絵!」


サイモン王子「こんな風かな?〈描く〉」


ミリアム「すごい!とっても強そう」


サイモン王子「強いよ!何でもやっつける」


〈嬉しそうなミリアム王子。〉


サイモン王子「何をやっつけようか?」


ミリアム「いっぱいの蛇」


サイモン王子「よし!さあ、やっつけたぞ。〈蛇がやっつけられた絵を描く〉」


ミリアム「〈急いで〉恐いおじいさんも!」


サイモン王子「恐いおじいさん?」


〈あっと口を押えるミリアム王子。〉


サイモン王子「いいのですよ、ミリアム王子。絵の中では、誰でもどんなものでもやっつけていいのだから」


ミリアム「でも……。〈泣きそうな顔になる〉」


〈サイモン王子、絵を描き始める。〉


サイモン王子「〈絵を見せて〉こんな感じの恐い人かな。〈首を振るミリアム王子。〉じゃあ、こんなおじいさん?」


〈困った顔をして首を振るミリアム王子。〉


サイモン王子(心の声)「まさか薬師ゴーシャのような?」


〈急いで描いて、薬師ゴーシャの似顔絵を見せる。その絵を固まったように見つめるミリアム王子。〉



#2へ続く

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