第16話 流れ星にかける願い #2
第16話 #2 続き
[22]ー《緑の国》 城 ミリアム王子の部屋 続き
〈恐いおじいさんの悪夢に悩まされている様子のミリアム王子。心配したサイモン王子が部屋を訪ねている。絵を描きながら話をするサイモン王子は
サイモン王子「この人なのですね?私も嫌いだ!」
〈絵の中で、剣士の姿のミリアム王子。サイモン王子は
ミリアム「あっ!!〈初めは驚くが、サイモン王子を見て〉やっつけたよ!」
サイモン王子「〈頭をなで〉薬師がここにいた間に、何か怖い思いをしたことがあったのですか?」
ミリアム「〈頷き〉姉様の目を直してくれたし、王子様と一緒に来た人でしょ?だから言っちゃいけないと思って。でも、何度も夢に出て来て意地悪なことばかり言うんだよ。王子様も嫌いなの?怖いの?」
サイモン王子「そうだよ。ミリアム王子、やっつけてくれて有難う!」
ミリアム「わーい!」
〈絵を手に掲げて部屋の中を走り回るミリアム王子の姿。〉
サイモン王子「かしてごらん。〈絵をベッドの枕の下に入れて〉寝る時にはこうすればいい。もう、今日から怖い夢とはサヨナラだ」
******白の国
[23]ー《白の国》 石造りの城 女王の部屋
〈苦悩している女王の姿。〉
【女王の回想:数時間前 女王の部屋
隠密コウモリ 『薬師一味は大臣達と手を組み、緑の国を手に入れることが目的のようです。それさえ達成出来れば、王も王子も、この白の国も用無しの捨て駒と密談をしておりました』 】
女王(心の声)「緑の国を乗っ取るために、白の国を踏み台にするとは。王が骨抜きにされ、大臣達が実権を握り、あの曲者の一味を一挙に捕える挙兵すら私や王が出来ぬ今……。共倒れにならぬためにも緑の国との関わりを避け、我が国は我が国で王子に大臣達を上回る力をつけさせてやらなければならない。その為にはやはり、あの名家に頼るしか方法はないでしょう」
〈サイモン王子が送ってきた絵と手紙がテーブルに乗っている。それらに、そっと触れる女王。〉
女王「せっかく王子が幸せな場所を見つけたというのに、辛い決断をさせねばならぬとは」
[24]ー《白の国》 アーシャとタラの家
白の国の従者や近衛達「「「いたぞ」」」
〈家に踏み込む従者と近衛達。
〈
白の国の女王の従者「危害を加えるつもりはありません。どうぞ一緒にいらして下さい。白の国の女王がお待ちです」
[25]ー白の国 石造りの城
〈廊下をキョロキョロしながら歩く三人。前には従者、後ろには近衛がいる。〉
ヨハン「ここは、あの石のお城の中なの?」
〈不安そうにヨハンの手を握りしめている
白の国の女王の従者「〈ドアをノックして〉お連れしました」
女王(声のみ)「お入りなさい」
[26]ー白の国 女王の間
女王「名前は?」
女王「この国の者ではないのですね」
女王「どこから来たとか、なぜは不問にします。今の生活はどうしているのです?」
女王「その者の名前は?」
〈不穏なものを感じて口ごもる
ヨハン「ジョゼフおじさんだよ!」
女王「はっきりしていて、よい子だこと。こちらへ」
〈
女王「そのおじさんは、よく来るのですか?」
ヨハン「今日も来るって言っていたよ」
女王「そう。他の人が家に来ることは?」
〈首を振るヨハン。〉
女王「よく分かっていて偉いわね」
〈従者に女王が何事か耳打ちして、従者は部屋を出て行く。心配そうに様子を見ている
女王「ヨハンと言ったわね。歳は幾つ?夢は何でしょう?」
ヨハン「五歳です。もうすぐ六歳になります。夢は……えっと、絵を描く人か、船乗りです」
******緑の国
[27]ー《緑の国》 城 書架室
女官長ジェイン「姫様。ガラス工芸の専門師がいらっしゃいました」
ミレーネ「そうだわ。今日はその予定でしたわね。白の国からの贈り物のガラスボタンコレクションを見て頂き、戸棚に収めましょう」
ミレーネ(心の声)「〈何かを一生懸命に書いていた紙をたたみ〉これも出来上がったわ」
女官長ジェイン「サイモン王子様もご一緒されますか?」
ミレーネ「そうね。お声を掛けてみましょう」
[28]ー城 ミリアムの部屋
〈安心して眠っているミリアム王子。部屋を訪れたサイモン王子。ミリアム付きの侍女と話している。〉
ミリアム付きの侍女「こんなに朝遅くまでぐっすりと、お眠りになるのは久しぶりのことです」
サイモン王子「悪夢に悩まされてずっと眠れなかったのですね」
ミリアム付きの侍女「はい、毎晩、続いておりまして。本当にどうしようかと思い、一度、医官に診て頂くべきか迷っていたほどでした。有難うございます。本当に気持ち良さそうにお休みですね」
サイモン王子「多分もう大丈夫でしょう。これからは落ち着かれるのではないかと思います」
******白の国
[29]ー《白の国》
〈荒涼とした景色の中、海沿いにポツンとあるあばら家。魚を入れた袋を持って歩いて来るジョゼフおじさん。〉
ジョゼフおじさん「こんにちは。あれ、誰もいないか?〈ドアが開いている。中に入り〉おーい、変じゃな?」
〈描きかけた絵や、作りかけの手芸などが机の上にそのまま出しっぱなしの様子。〉
ジョゼフおじさん「ボウズは大丈夫か!?皆、どこへ……?」
〈背後の気配に振り返ると、見知らぬ大男の姿。〉
大男「ジョゼフか?」
ジョゼフおじさん「そうだが……。誰じゃ、お前は?」
〈大男は隠し持っていた棍棒でガンとジョゼフおじさんを殴る。床に倒れたおじさんをそのままに、家の中に油をまき火をつけ逃げる大男。〉
******緑の国
[30]ー城 ミリアム王子の部屋の前 廊下
〈女官長ジェインがサイモン王子を探しにやって来る。少し開いていた扉から覗き、中にサイモン王子の姿を見つけ声を掛ける。〉
女官長ジェイン「サイモン王子様、こちらでしたか?」
〈部屋の中からサイモン王子が出て来る。〉
サイモン王子「どうされました?」
女官長ジェイン「姫様が今からご一緒に、王宝の間でガラス工芸品をご覧になりませんかとおっしゃっておいでです」
[31]ー城 王宝の間へ向かう廊下
〈ガラス工芸の専門師と歓談して歩くミレーネ姫やサイモン王子の一行。後ろから歩くノエル。〉
ノエル(心の声)「きっと、この専門師があの事件のガラス瓶を調べた人に違いないわ。王妃を殺し、アイラ姉さん達を死罪に追いやった、呪われた飲み物の瓶……。やっと、少し近づけそうね」
******白の国
[32]ー《白の国》 石造りの城 女王の間 続き
〈女王の前にいたヨハンの手を引っ張り、そばに引き寄せる
女王「この子は中々利発な子ですね。育て方もうまかったのでしょう」
女王(心の声)「探し当てた子が、この子どもで良かったこと……。よその国から流れて来て、その存在を知る者もほとんどいないのも好都合というもの」
女王「いえ。今日から、あなた方はここに住むのです。ヨハンには、この国にとって重要な役目をこれから担ってもらいます」
女王「今のそなた達の境遇から考えれば悪い話ではないはずです。必要なのはヨハンだけで良いのですが、三人一緒にと少しは温情をかけたつもりですよ」
〈女王の従者が入ってきて女王に耳打ちする。〉
女王「残念ながら選択の余地はないと思いなさい。すでに一度、名前を変え昔の暮らしを捨てたようですが、もう一度同じようにしてもらうだけのこと。今まで暮らしていた、あの家は――ジョゼフさんと言いましたか?お気の毒に、その人が火を点け、中で焼身自殺を図ったそうです。もうこれで帰る場所はなくなりましたね」
ヨハン「ママ、何があったの?どうしたの?」
〈
女王「〈平然と〉この国の未来が掛かっているのです。こちらも苦渋の選択を強いられました。断るならば、あなたたち三人にも同じ目に合ってもらうまでのこと。宜しいですね」
******緑の国
[33]ー《緑の国》 城 王宝の間
〈国宝のガラスコレクションに目を見張るサイモン王子。専門師はテーブルの上で白の国から贈られたガラスボタンの箱を開ける。少し離れて控えているノエルは落ち着かなくあたりを見回す様子。〉
ガラス工芸の専門師「ほお。これは、また素晴らしい。〈手袋をつけ鑑定しながら〉サイモン王子様の国では市場でも似たようなものが多く売られていて、私も以前、御国を旅しました時に買い求めました。幾つか持っていますが、さすがに、このコレクションは質が違う。いくらデザインを似せていてもガラスの透明度が高いですね」
サイモン王子「有難うございます」
〈笑顔のまま、周りの棚に目をやり、おやっと不思議そうな表情に変わるサイモン王子。〉
サイモン王子「〈飾られている壺を指差し〉あのガラスの壺と、色も形も大きさも全く同じものが白の国の城に置いてあります」
ガラス工芸の専門師「いつの時代にも
ミレーネ「〈棚のガラス壺の前に行き〉この精巧な形や飾りを真似出来る職人は、かなりの腕前のはずですわ。本物か偽物かを見極めるのは専門の方でも難しいでしょうね」
〈それまで黙って話を聞いていたノエルが突然、口を開く。〉
ノエル「もしかすると強度の違いだけはあるかも知れません」
〈皆、一斉にノエルを振り向く。〉
ノエル「すみません。私などが口をはさみまして……」
ガラス工芸の専門師「この人は?」
ミレーネ「私の新しい女官です。ノエル、ガラス工芸についてあなたは少し詳しかったわね。いいのですよ。あなたの知っていることも述べてみて」
ノエル「はい。我が国や近隣諸国と異なり白の国は資源が限られているため、ガラス工芸品は全て再生ガラスが使われ、さらに氷藻が加えられていると書物で学びました。そういう工程で作られたガラスは日光に弱いのですが、日照の少ない白の国では、その心配もありませんので」
サイモン王子「〈従者レックスに〉そうなのか?」
従者レックス「私もそこまでガラスに詳しくなく存じませんでした」
ガラス工芸の専門師「強度の違いですか。確かに、強度は実際に落としたり、割ったりするなど傷つけないと分かりませんから。こうして大切に保存されている限り、その違いを確認することは不可能に近いと申し上げて良いかと」
サイモン王子「なるほど」
〈皆も頷いて聞いている。〉
ガラス工芸の専門師「〈ノエルに〉どこでガラスのことを学んだのかね?」
ノエル「独学です」
ガラス工芸の専門師「ほお」
〈何度も頷きノエルをじっと見た後、サイモン王子が贈ったガラスボタンのコレクションを棚に飾る作業に戻る専門師。〉
ガラス工芸の専門師(心の声)「再生ガラスの強度――そこは、六年前の調査の時、盲点だったかも知れぬ……」
******白の国
[34]ー《白の国》 石造りの城 ある部屋の前 廊下
女王「私が帰るまで三人が部屋から出ないように見張るのです」
護衛「はっ」
〈廊下を歩き外へ向かう女王と、女王付きの従者と護衛一人。別の従者が、女王の従者のところに指示を仰ぎに来る。〉
女王付きの従者「女王様は今からお忍びでお出掛けされる。散歩と見せかけ、途中から馬車に乗るので、急ぎ馬車の準備をして先回りをしてくれ。一本目の橋のあたりで待機を頼む」
別の従者「はい」
女王付きの従者「誰かに後を付けられては困る。コウモリに見張りをするよう伝えてくれ」
[35]-白の国 石造りの城 監禁された部屋の中
ヨハン「ママ、泣かないで。ねえ、お家に帰ろうよ」
〈
[36]ー白の国 街の中心地にある名家ヨーム公の館
〈館の前に女王を乗せた馬車が止まる。馬車の中から、館の内外を多くの武装した私兵が動いている様子を見る女王。〉
女王「〈つぶやくように〉相変わらず勢力は衰えていないようね。〈従者を呼び〉館に行ってクレアに、女王が二人で直接話がしたいと言っていると伝えて頂戴。女王はかなり具合が悪く、もう死ぬ間際。これが女王最後の頼みだと言うのです」
従者「女王様!」
女王「それぐらい言わなくては、あの娘は会ってはくれないはず。父親も簡単には王家の昔の仕打ちを許さないかも知れません。私が死ぬ前と言っていることは全くの嘘ではありません。老婆にはいつ何が起こってもおかしくない……。最後の力を振り絞って必死の思いでここに来ているのです。お前も自分の首を賭け、その覚悟で頼んで来なさい」
#3へ続く
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