第15話 忍び寄る凶兆 #2
第15話 続き #2
[22]-《緑の国》城 森へ行く道
〈ミレーネ姫やサイモン王子の一行が馬で森に入って行く。すると、森の木々がザワザワと揺れ出す。何か異常を感じたように騒ぎ始める鳥たち。森に射す温かった光が、冷たい何かへと急激に変わる。ミレーネ姫が、いち早くいつもと違う森の様子を感じ、回りを見渡す。〉
ミレーネ「どうしたのかしら?〈馬を止め、下りる〉」
サイモン王子「どうされました?〈同じく馬から下りる〉」
ミレーネ「森の様子がいつもと違って感じられますの。天気が変わる前触れかも知れませんわ」
サイモン王子「さきほどまでは陽が照って暑いほどでしたが」
ミレーネ(心の声)「森に行く手を拒まれているように感じる。こんなことは初めてだわ」
従者レックス「〈不審げな姫を見て〉姫様、大丈夫ですか?」
ミレーネ「ええ……。〈大丈夫と言いながら、まだ心配している様子〉」
〈ギャアギャアと変な声で泣き叫ぶ鳥。それに合わせるかのように風が、ごおーっと地鳴りのように強さを増す。〉
サイモン王子「この先が湖ですよね。とても色が綺麗だとミリアム王子が教えてくれました」
ミレーネ「はい。〈空の様子を眺めて〉そこまで行って、急いで戻りましょうか?」
〈二人が再び馬に乗ろうとすると、今度は突風のような風が吹いてくる。驚く馬。馬は足を蹴りあげ暴れ、乗ることが出来ない。二人はまず必死で馬の手綱を引く。他のお付きの馬たちも同様に暴れる。〉
ミレーネ「きゃあ~~」
サイモン王子「うわああ」
女官や従者「〈自分の馬の手綱を引きながら叫ぶように〉大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
ミレーネ「大丈夫です。サイモン王子様も?」
サイモン王子「はい。〈そこでまた突風が吹く。〉うわあ。本当にひどい風だ。今日はもう、ここで戻った方が良さそうですね」
〈何か怖いものでも見るように森の中を見る馬。別の馬は、はーはーと荒く息を吐き、森の中に入りたくないように足を踏ん張る。〉
ミレーネ「〈その様子に気づき、そっと自分の馬に手をやり〉怖がらないで。落ちついて。もう帰るから安心して頂戴」
〈森から向きを変えると落ち着く馬。再度、馬に乗ろうとするミレーネ姫とサイモン王子。今度は馬が嫌がらなかったので乗ることが出来る。〉
ミレーネ「では、戻りましょう」
〈森から遠ざかる一行。馬に乗ったまま森を振り返り、じっとその奥の方を睨みつける剣士ケイン。〉
[23]ー城下町 ナタリーの雑貨店
〈マリオの妹セナが店番をしているところにポリーが入って来る。〉
ポリー「マリオさんからセナ師匠が店番をしていると聞いて……。母はどうしたのですか?」
セナ「店の前でお会いしたら、少し出かけたいからと留守番を頼まれたの」
ポリー「そうですか。母が急用なんて珍しいですね。残念ですが今日の練習はお休みさせて下さい。すみません。後は私が――」
セナ「でも……」
[24]ー【セナの回想:さきほど ナタリーの店の前 】
ナタリー『昨日の若い男の人を覚えている?』
セナ『前髪で隠れていたので顔ははっきりしませんが、長髪を束ね、体つきは細身の人でしたよね』
ナタリー『〔頷き〕私が留守の間に、もし彼がここに来たら引き留めるか、居場所を絶対に聞いておいて欲しいの』
セナ『〔不思議に思いながらも〕はい……』
ナタリー『あ……。昔、知っていた子によく似ていて。でも、人違いかも知れないから、まだポリーや皆には内緒ね』
[25]ーナタリーの雑貨店 続き
セナ「おば様が帰るまで、店番をして欲しいって頼まれたから、やっぱり私も一緒にいるわ」
ポリー「いいんですか?」
セナ「ジュリアスさんの武官試験必勝の作戦会議をして待っていましょう。ジュリアスさんに新しい技を伝授してみたのよね?感触はどうだった?」
[26]ー城下町 宿屋
宿屋の主人「肩ほどの長髪を束ね、前髪で顔が隠れた、若い男ねえ。いやあ、ここには泊まっていないな」
ナタリー「そうですか……。有難うございます」
〈宿屋を出るナタリー。城下町を歩きながら、似たような後ろ姿を見かけ、思わず走り寄るが、人違いだった。
ナタリー「すみません」
〈また別の宿屋を見つけ、聞き込みに入っていくナタリーの姿。〉
*****白の国
[27]ー《白の国》 石造りの城 謁見の間
〈白の国の王と女王が座っている。大臣達が並んでいる。皆の前で
白の国の王「そうか。それは何よりだった。財務大臣、薬師殿への謝礼の用意は出来ておるな」
財務大臣「はい。こちらに〈王に貨幣が積み上げられたトレイを見せ、薬師に渡す〉」
【女王の回想:昨晩の夜更け 白の国の城 薬師の客室 膨らんだ繻子の袋を持って出て来た国務大臣と財務大臣。】
〈大臣や薬師の様子をじっと見つめる女王。〉
白の国の王「薬師はしばらく、ゆっくりするがいい。ああ、余のいつもの薬だけ、また調合を頼むぞ」
白の国の王「また、時々城にも顔を出してくれ」
白の国の王「それは楽しみじゃ。ますます気楽に美酒を味わえそうだ」
[28]ー石造りの城 裏門
〈
[29]ー【昨晩の出来事:石造りの城 女王の部屋 】
女王『薬師が帰る時に誰かに後を付けさせ、しばらく見張りを続けなさい』
女王お付きの従者『適任者が一人おります。ずばぬけた聴覚、暗闇での視覚、その、すばしっこさでコウモリと呼ばれる隠密です』】
[30]ー白の国 城からの道
〈気付かれぬように、
[31]ー《白の国》 町の市場
〈
町の民 その1「緑の国の姫の目を、我が国の薬師が薬で治したらしいなあ」
〈
町の民 その2「そのご縁で王子と姫の結婚話が進んでいるらしいぞ」
町の民 その3「それは、めでたい!白の国にも運が向いて来たな」
〈少し心配そうな
[32]ー石造りの城 白の国の女王の部屋
女王お付きの従者「女王様、ただ今、緑の国から早馬が着きまして、王子様より絵とお手紙が届きました」
女王「〈受け取った絵を見て〉これが王子により描かれたものとは……。ここにいた時と色使いが全く違うではありませんか。気持ちの明るさが絵に表れている」
〈サイモン王子からの手紙を読み、涙ぐむ女王。〉
女王お付きの従者「女王様?」
女王「歳を取ると涙腺が弱くなるものです。薬師から大まかな話は聞きましたが、これで本当に信じることが出来ました。王子を緑の国に行かせたのは正解だったようです。後は我が国、国内の問題と向き合わねばなりません」
女王(心の声)「薬師と大臣達はただの間柄ではないはず。王や私の預かり知らぬ所で何かが動き始めているなら、早いうちに手を打たなくては……」
*****緑の国
[33]ー《緑の国》 城 サイモン王子の客室
従者レックス 「〈窓の外を見ながら〉あの、嵐のきざしは何だったのでしょうね。すっかり風も止み、また、陽が射しています」
サイモン王子「森へは行けなかったが、少しでも馬に乗れて良かったよ」
従者レックス「そうですね。ミレーネ姫とのお話も弾んでいらっしゃったし、お二人は中々お似合いでございます」
サイモン王子「〈慌てて〉レックス、急に何を……」
従者レックス「王子様、ここにいらっしゃった目的を、お忘れではありませんよね。私が見る限り、お姫様は嫌なことを進んでするような方ではありません。ご自分の意志で、王子様との時間を積極的に過ごされていらっしゃるとお見受けいたします」
サイモン王子「本当にそう思うか?」
従者レックス「勇気をお出し下さい。王子様」
サイモン王子「しかし……。国賓の私を、ただ公務の一環として一生懸命にもてなして下さっているだけかも知れぬ」
従者レックス「思い切って一度、絵のモデルになって頂くよう、頼んでみてはいかがですか?」
サイモン王子「そんなことを、お願して良いのだろうか?」
従者レックス「ミレーネ姫のお気持ちがはっきり分かると思います」
[34]ー城 ミリアム王子の部屋
〈乗馬から帰ったミレーネ姫が部屋を訪れている。〉
ミリアム付きの侍女「あれから、午前中も少し眠られて、今はすっかりお元気になられました」
〈別の女官を相手に楽しそうにボードゲームで遊んでいるミリアム王子。〉
ミレーネ「怖い夢ってどんな夢かしら?」
ミリアム付きの侍女「それが――朝になってお聞きしても忘れたとしか、おっしゃらなくて。とにかく何か怖い夢としか分かりません」
ミレーネ「そう……。〈遊んでいる王子に向かって〉ミリアム、どこか痛いとか辛いとか今はないのね?」
〈ボードゲームを止めてミレーネ姫の近くに来るミリアム王子。〉
ミリアム「うん、大丈夫!〈姫の胸元の首飾りをじっと見て〉ねえ、姉様の首飾りって本当は僕のものなの?僕が欲しいって言ったらくれる?」
ミリアム付きの侍女「まあ、まあ、ミリアム様、突然どうされたのですか?姫様の大切な物でございますよ」
ミレーネ「〈そっと侍女を手で制し〉ミリアム、どうして急にそう思ったの?」
ミリアム「〈首飾りを食い入るように見て〉とっても綺麗だよね」
ミレーネ(心の声)「そう。いつか、あなたが皆のために、この首飾りを使うようになる日が来るはず。何か惹かれるものを感じるのかしら?」
ミレーネ「〈ミリアムの頭を撫でながら〉ええ。いつかミリアムにあげるつもりよ。でも、もう少し大きくなってからね。それまでは私が大事に守っておきますわ」
ミリアム「約束だよ。〈急にまた、いつものミリアムの様子で〉じゃあ、姉様も一緒に遊ぼう!」
ミレーネ「今日はこれから書架室でお勉強なの。ミリアムも一緒にどうかしら?」
ミリアム「えー、どうしようかな。じゃあ、このゲームが終わってから、行ってもいい?」
ミレーネ「分かったわ。後でね」
[35]ー城 サアムおじさんの畑
〈サアムおじさんとマーシーが働いている。〉
サアムおじさん「どれ、少し休むとしよう」
〈畑の隅に座る二人。無意識に自分の服の臭いをかぐマーシー。〉
サアムおじさん「臭うか?〈はっとするマーシーを見ながら〉確かに若い娘には似合わぬ仕事じゃな。無理にしろとは言わん。もう、止めておくか?」
マーシー「〈首を振り〉臭いが気にならないと言えば嘘になります。でも、私、だんだん、ここの仕事が面白くなってきました。堆肥や土の御蔭で野菜がこんなに美味しく元気に育つなんて、今まで気が付かなかったのです」
サアムおじさん「根っこが大事と言ったじゃろうが」
マーシー「はい。こうして根っこや土に触れていると落ち込んでいる気持ちも少しは紛れます。料理も大好きですが、美味しい素材があるからこそ料理が生きてくるって思えてきました」
サアムおじさん「よく言ったぞ!マーシー。さすが、エレナの娘。わしが見込んだだけあるな。よし!それなら、臭いにもめげず頑張れるか?今日はもっと堆肥のことを教えてやろう」
[36]ー城下町 ナタリーの雑貨店
〈がっくりと肩を落として帰って来るナタリー。〉
ナタリー(心の声)「宿屋にいないということは、もう、カノンはこの町を発ったのかしら……。いいえ、宿以外に泊まっていることだってあり得るわ。ここであきらめてはいけない」
〈店に入るナタリー。〉
ポリー「お帰りなさい。母様、急用は何だったの?」
ナタリー「あっ、ええ、ちょっと……。セナさん、有難う。どうだった?」
〈セナはポリーをちらっと見て気にしながら、ただ首を振る。〉
ナタリー「そう。引き留めてしまって御免なさい」
セナ「おば様、また、いつでもお手伝いしますから。ポリーさん、また」
ポリー「有難うございました」
〈店を出ていくセナ。〉
ポリー「母様、どうしたの?何かあったのなら話して」
ナタリー「昔のことなのよ。でも、どうしても、ちょっと気になって……。はっきり分かったらポリーにも必ず話すわ。それまでは待って頂戴。父様やジュリアスにも黙っていてね」
ナタリー(心の声)「もう一度、あの子がここへ来る可能性に懸けてみるわ」
[37]ー城 書架室 廊下
〈少し手前から様子を窺うサイモン王子と従者レックス。〉
従者レックス「姫様の女官と護衛が扉の前にいますから、姫様は書架室にいらっしゃいます。お尋ねする、絶好の良い機会です」
サイモン王子「いや、やっぱり……〈帰ろうとする〉」
従者レックス「〈引き留めて〉王子様、ここが最大の頑張りどころです」
サイモン王子「レックス、代わりに聞いてきてくれ」
従者レックス「私が代わりにですか?」
サイモン王子「頼む」
従者レックス「王子様……。今回、一度限りですよ」
〈頷き、レックスを書架室の方へ押しやるサイモン王子。〉
[38]ー城 書架室
従者レックス「失礼致します。姫様は中にいらっしゃいますか?」
〈女官と共にレックスが中に入る。遠くから様子を見守るサイモン王子。〉
[39]ー城 書架室
ミレーネ「まあ、サイモン王子様が私の絵を?」
〈ミレーネ付きの女官も微妙に驚く。〉
従者レックス「姫様のおもてなしの御心遣いに感謝の意を表したいと申されて……。いかがですか?」
ミレーネ「ミリアムも描いて頂いたとか。でも、私など……」
従者レックス「ご無理は申しません。花や風景など、姫様がその方が良ければ、何でもおっしゃって下さい。ただ……サイモン王子はぜひ、ミレーネ姫のお姿を絵に残したいと望んでおられます」
※第15話 終わり
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