第15話 忍び寄る凶兆 #1

シーズン1 第15話 忍び寄る凶兆 #1


[1]-《緑の国》 城 ミレーネ姫の部屋 夜


女官長ジェイン 「姫様、お疲れになっていらっしゃいませんか?」


ミレーネ「ええ、少し。目が良くなったことが、とても嬉しいのですもの。つい色々なことをしてしまうの」


女官長ジェイン「くれぐれもご無理をせずに。少しずつ、なさって下さいね。今夜、ぐっすり眠れるようお茶をご用意致しましょうか?」


ミレーネ「そうね、お願いするわ」


〈他の女官がお茶の用意をするために出ていく。〉


女官長ジェイン「〈窓のカーテンを閉めに行き、思わず〉あら?」


ミレーネ「どうしたのです?〈そばへ行く〉」


女官長ジェイン「お庭にサイモン王子様がいらっしゃるようです」


ミレーネ「暗くて遠いので、まだ私の目では分かりませんわ。おひとり?何をしていらっしゃるの?」


女官長ジェイン「従者と護衛の方は少し離れて待っていらっしゃいます。サイモン王子様は……、ああ、星空をご覧になっていらっしゃるのですね。空に向かって手をのばしているお姿が見えます」


ミレーネ「まあ。今夜、星は綺麗かしら?」


女官長ジェイン「〈窓から夜空を見上げて〉はい。ここからでも、かなり見えますが、森の方へ行かれたら、もっと素晴らしい星空でしょうね」



[2]ー城下町 ナタリーの雑貨店 夜


〈まだ物思いにふけっているナタリー。〉



[3]ー【ナタリーの回想:十七年前 民政大臣の家】 


〔ずぶぬれになって帰って来た民政大臣。〕


ナタリー『あなた、カノンは?カノンは見つかったの?』


〔悲しそうに首を振る民政大臣。民政大臣にすがりついて泣くナタリー。〕



[4]ー城下町 ナタリーの雑貨店 続き


ナタリー「あの人が知ったら、どんなに喜ぶか……。辛い痛みを胸にしまい込んでカノンの話を避けて来たのですもの。ぬか喜びはさせられない。何とかして会わせてあげたいわ。でも、このまま見つけられなかったら……。いいえ、町にいるなら、私が必ず探し出すわ!神様、もう一度だけ……。〈祈り、はっと顔を上げ〉カノン、今は青年の格好をしていたわ。もう大丈夫なのかしら?」              



[5]-城下町 画廊マリオ


〈外事大臣が入って来る。〉


マリオ「いらっしゃいませ」


外事大臣「お薦めのものを」


〈窓際に座り、隣の店を見る。明かりがついた店の中にナタリーの姿。グラスを片手に見ている外事大臣。〉



[6]ー城下町 画廊マリオの店の外


〈武官アリと友達三人が来る。〉


友 その1「ちょっと飲もうなんて、試験前でもアリは余裕だな」


友 その2「そりゃあ、気晴らしも必要だろう。なあ、アリ?」


武官アリ「ぱあっと騒いで、また集中するさ」


〈店に入りかけて、中にいる外事大臣を見つける。さらに、その視線の先        

 にいる隣りの店のナタリーにも気づく。入口のところで足が止まるアリ。〉


友 その3「〈前にいるアリが急に止まったので〉どうした?あれ、親父さんか?」


武官アリ「〈急いで外へ出て〉悪い!今日は、別の店にしよう」


〈父である外事大臣がナタリーを見つめていた姿にショックを受け、頭に来ているアリ。〉



[7]ー城 マーシーの部屋の前 夜


〈ノエルが訪れている。ノックするが返事はない。〉


ノエル「眠ってしまったのか、まだ仕事中なのかしら?マーシーに何も話せないまま部屋も替わってしまったし……。それに……」 

 

【ノエルの回想:城の中  数時間前

武官アリ「理由を聞いている。姫に危害があってはならぬからな」】


ノエル「何か言いたそうな口ぶりだった。私のことを知っているのはウォーレスさんとマーシーだけのはずなのに……」


        

[8]-城 厨房


〈山積みにされた汚れた食器の横で、目に涙を浮かべて夕食を一人で食べるマーシー。〉

           

 

[9]-城 ミレーネ姫の部屋 夜中


〈幸せそうに眠っている姫の姿。〉

 


[10]ー【姫の夢の中:森 夜】


〔サイモン王子が一人、満天の星に手をのばして目を閉じている。そこへ歩み寄り、隣に並び、姫も手を伸ばす。〕

             

ミレーネ『宇宙からの波動を感じますね』


サイモン王子『〔目を開け、隣りに立つ姫を見て〕ミレーネ姫も分かりますか?こうして波長を合わせ、遥か彼方からのインスピレーションを感じ、絵のアイデアを受け取るのです』

               

〔流星が流れる。〕


サイモン王子『あっ、流星!あんな大きなものは初めて見ました』


ミレーネ『私の眼でも分かりましたわ!』


〔微笑みあう二人。誰もいない、二人だけの森。〕



[11]-城 ミリアムの部屋 夜中


〈うなされているミリアム王子。〉


ミリアム付きの侍女「ミリアム様!ミリアム様!〈揺り起こす〉」


ミリアム「うわあああ!〈起きて、ハアハア言う〉」


ミリアム付きの侍女「大丈夫ですか?また怖い夢を見られたのですね」


〈うんうん頷くミリアム。〉


ミリアム付きの侍女「ただの夢ですよ。さあ、こうして手をつないで、そばにいますから。安心してお休み下さい」


ミリアム「……はい」


〈不安そうに目を閉じる。〉



[12]-《白の国》 城 女王の部屋


従者「〈扉の外から小声で〉女王様、まだお休みになっていらっしゃいませんか?」


女王「どうしました?入りなさい」


従者「ただ今、緑の国より薬師が戻りました。時間が遅いのでこちらへは明日、ご報告に上がるそうです。王子様も緑の国にてお元気でお過ごしのご様子。私も安堵いたしました。まだ女王様が起きていらっしゃれば、そのことだけでもお伝え致したく、失礼を承知でこんな時間に伺いました」


女王「いいのですよ。この頃は本当に寝つきが悪くて。私も年を取りましたね。それより、嬉しい知らせが聞けました。この日をどんなに待ちわびていたことか。薬師は今どこに?」


従者「今夜は城内の客室に泊まるようです」



[13]-《白の国》 城 客室


〈一息ついている魔王グレラント薬師ゴーシャの所へ、白の国の大臣達が夜中というのに、こっそりやって来る。〉


国務大臣、財務大臣「「お疲れ様でございました」」


魔王グレラント「二人揃って夜更けにお出ましとは。詳しい話はここでは出来ぬぞ」


国務大臣「承知致しております。とにかくご挨拶だけでもと」


財務大臣「グレラント様のお顔だけ拝見いたしましたら、すぐ失礼を致します」


魔王グレラント「また、そのような名をこの場所で」


財務大臣「すみません」


魔王グレラント「〈ニヤリと笑って〉まあ、良い。あちらでは、ずっとゴーシャという変な名で呼ばれ、高飛車な大臣の相手もせねばならず、少々嫌気がさしておったわ。お前たちの御蔭で、我が家に帰った気分を味わえたというもの。どれ、二人に手土産でも」


国務大臣、財務大臣「「そんなお気遣いなど――」」


魔王グレラント「緑の国の王がたんまり謝礼をくれたのでな。ほれ」


〈それぞれにたくさん貨幣の入った繻子しゅすの袋を渡す。〉



[14]ー白の国の城 廊下 深夜


〈女王が護衛と従者を連れ、従者は小さな灯りを一つ持つ。〉


従者「薬師殿は驚かれることでしょうね。まさか女王様自ら突然、夜更けの訪問をされるとは……」


女王「ほほほ。もう少し詳しく薬師から話を聞かなくては、今夜は眠れそうにありません。この老婆心に免じて薬師も許してくれるでしょう。しっ、誰か先約がいるようです……」

               

薬師魔王の客室の扉が開いて、人が出て来る気配。女王と従者と護衛はいったん陰に隠れる。〉


女王「〈小声で従者に〉灯りを消しなさい」


〈薬師の客室から出て来たのは国務大臣と財務大臣。その手には膨らんだ繻子の袋。大臣達が手に明かりを持っていたので顔が分かる。二人が立ち去るまで女王一行は身を潜めて待つ。〉


女王「なぜ国務大臣と財務大臣がこんな夜更けにここへ――?」


従者「もともと薬師を王様に紹介したのが財務大臣で、今回、王子様の護衛になり、緑の国へ同行した武術の達人を紹介したのが国務大臣と聞いておりますが」


【女王の回想:たった今 大臣二人が持っていた重そうな繻子の袋。】


女王「今夜はひとまず戻ります。二人とも、この件はくれぐれも内密に」



[15]ー《緑の国》 城 ミレーネ姫の部屋


〈窓からの明るい光を感じて起きる姫。〉


【姫の夢の回想:夢の中 満天の星の下、流星を一緒に眺めたミレーネ姫とサイモン王子。】


ミレーネ「楽しい夢だったわ。サイモン王子様は、本当に流星を見ることが出来たのかしら?」


 

[16]ー緑の国の城 朝 


〈皆が各持ち場で動き出した城の様子。〉



[17]ー城 ノエルの部屋


〈部屋を出ようとして、昨日拾った、ミリアム王子のガラスボタンがあることに気付く。〉


ノエル「武官のアリとかいう人に変なことを聞かれて、すっかりガラスボタンのことを忘れていたわ。また、時間を見つけて、返しに行かなくては。とりあえず……〈部屋を見回して〉ここなら忘れない」


〈窓際の棚の上に置く。外からの光を浴びるガラスボタン。〉



[18]ー城 ミレーネ姫の部屋


〈女官に髪を結いあげてもらっているミレーネ姫。〉


女官長ジェイン 「〈部屋に入ってきて〉姫様、馬の遠乗り用に、今日はその髪型ですか。素敵ですわ。ここに乗馬服を何着かお持ち致しました。どれにいたしましょうか」


ミレーネ「有難う。〈立ちあがり、見に来て〉これが、いいわ」


〈他の女官達が、『またノエルの選んだものよ』『いいわね』とひそひそ話す。〉


ミレーネ「〈その声に気が付き〉これもノエルの見立てなの?」


ノエル「はい。〈頭を下げる〉」


ミレーネ「私達、センスが似ているのかしら?これからも宜しくね」


ノエル「有難うございます」



[19]ー城 廊下


〈ポリーと厨房班マーシーが出会う。〉


ポリー「マーシー!お久しぶりね」


マーシー「ポリー様!最近はあまり厨房へいらっしゃらないのですね」


ポリー「色々忙しくて。マーシーはどう?いつもより元気ないみたいね。大丈夫?無理しないで」


マーシー「はい……」


ポリー「今から城下町に行くの。急がなきゃ。またね。ああ、〈行きかけて〉この間話した試験の件、宜しくね。ジュリアスに話したらすごく期待しているって」


〈ぽんぽんと肩をたたいて笑って走っていくポリー。〉


マーシー「あ、あの……」


〈そのままポリーの後ろ姿を見送る。〉


マーシー(心の声)「そうよね、何があっても武官試験の日まではとにかく頑張ろう。私がお役に立てるかどうかも分からないけれど、こうしてポリー様やジュリアス様が待っていて下さる。お城にいる意味がほんの一つあるだけでもいい」



[20]ー城の庭のはずれ 馬屋


〈ミレーネ姫とサイモン王子、その女官や従者、護衛が集まっている。いつもとはまた違う姫の乗馬服姿におっ!となるサイモン王子。〉

          

ミレーネ「(にこやかに)お早うございます」


サイモン王子「〈笑顔で〉お早うございます」


ミレーネ「ミリアムはまだかしら?一緒に行きたがっていたはずですのに」


女官「それが、姫様……。今日はミリアム様が睡眠をよくとれていないため、午前中はお部屋でゆっくり過ごすことにしましたと、さきほど侍女が伝えに参りました。夜中に幾度もお目覚めになったとか――」


〈そばで聞き耳を立てている、サイモン王子護衛の剣士ケイン。〉


ミレーネ「まあ、そうでしたの」


女官「体調が悪いとかではないようですので、どうぞご心配なさらず、皆様でお出かけ下さいとのことです」


ミレーネ「そう……。分かりました。では、参りましょうか?」


〈出発する一行。姫と王子の馬は並んでゆっくり進む。〉



[21]ー城 厨房


マーシー「お早うございます」


〈初春組の先輩二人が、ちらっと見るがそのまま無視している。〉


マーシー「今日も畑に行って来ます」


〈さっさとその場を離れるマーシー。そのマーシーに聞こえるように先輩達が話す。〉


初春組 先輩A「昨日、かなり匂ったわよね。臭いにおいを厨房に持ち込んで欲しくないわ」


初春組 先輩B「マーシーはよく平気よね。臭さに鈍感なのかしら。畑の手伝いって私には絶対に無理。あなた達もでしょ?〈他の夏組新入り二人に〉よく、やるわね」


〈振り返らず、畑へ走り出すマーシー。〉



[22]ー城 庭から森へ行く道


〈馬に乗り、並んで進みながら話すミレーネ姫とサイモン王子。〉


ミレーネ「昨夜は星がよく見えまして?」


サイモン王子「はい。森の近くまで来ましたら満天の星が見えました。教えて頂き有難うございました」


ミレーネ「満天の星……。あの、流れ星は?」


サイモン王子「それが……。流れ星というより、それは巨大な流星を見て驚きました」


ミレーネ「まあ」


ミレーネ(心の声)「夢で見たことと同じですわ」


サイモン王子「ただ、我が国では目立って大きな流星は凶兆とも言われるのです。すみません、変な話を」


ミレーネ「そうなのですか?ここでは、あまり聞きませんから、きっと大丈夫ですわ」


サイモン王子「それなら良いのですが。昨夜の流星の迫力に思わず不安を感じてしまいました」


ミレーネ「そうでしたの……。やはり、小さい流れ星にそっと願いを懸ける方が楽しいですわね」


サイモン王子「はい。皆の願い事を叶えるために地上へ降りて来る小さな流れ星は、天空が発信するメッセージに私には思えるのです。人々がいつまでも希望を忘れることのないように……と」


ミレーネ 「流れ星は宇宙から地上へのメッセージ……。素敵ですわね」


〈昨日から、いつになく饒舌じょうぜつなサイモン王子の様子を見て嬉しそうな従者レックス。その後ろに馬で付き添う剣士ケインは森に鋭い目を向ける。〉


剣士ケイン(心の声)「いよいよ森の謎への第一歩か……」



#2へ続く


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