第14話 悪縁が呼ぶ過去 #1
シーズン1 第14話 悪縁が呼ぶ過去 #1
[1]―《緑の国》 城 サイモン王子の客室 続き
〈サイモン王子と従者レックスが話している。〉
従者レックス「王子様、それも覚えていらっしゃらないのですか?私が宴会場を拝見しました時は、姫様を嬉しそうに踊りに誘っていらっしゃるところでした。その後は――」
サイモン王子「その後は……?」
従者レックス「私は、また控えの間に戻りましたので残念ながら存じ上げません。次に参りましたのは、サイモン王子が孔雀の間をご退出される時でございました」
〈再び頭を抱えるサイモン王子。〉
従者レックス「何かまたご心配でも?」
サイモン王子「正直、あれが夢か現実か、よく分からないのだが、かなり羽目を外した気がするのだ――」
従者レックス「ああ、サイモン王子様……」
〈肩を落としてため息をつく二人。〉
[2]―国境あたり
〈
剣士ケイン「はい。お任せを」
[3]―城 書架室
〈ミレーネ姫が本棚の前で本の表紙を見ていく。〉
ミレーネ「目が見えなくなった時、私が何かを深く学ぶことなど、もう無理だとあきらめかけていたけれど······。でも、〈首飾りを触わり〉首飾りとジュリアスの御蔭で、この本も、この本も、ええ、これも、これも随分多くの本が、いつの間にか私を支える知識となってくれているわ」
〈感慨深けなミレーネ姫。次に窓の外に目を向ける。〉
ミレーネ「これから知る新しい世界は、自分の目で発見し出会っていくことになるのね。きっと見たくないものに出会ったり、目を背けたくなったりもあるでしょう。でも、再び光を取り戻すことが出来たのですもの。どんなことにも恐れず向かっていくわ」
【ミレーネ姫の回想:昨夜 孔雀の間(宴会場) 一緒に踊った時、かなり接近したサイモン王子の端正な顔。】
ミレーネ「新しく知ったお顔……〈少し赤面する〉」
[4]-城 廊下
〈出掛けようとするポリー。見かけるミリアム王子。〉
ミリアム「ポリー、町へ行くの?ジュリアスはお仕事だし、姉様もお勉強。僕、つまんないや。一緒に行っては、だめ?」
ポリー「色々な用事があって、今日は連れて行ってあげられないの。分かった!サイモン王子のお部屋に遊びに行ったら、どう?」
ミリアム「僕だけで?」
ポリー「じゃあ、最初だけ一緒に顔を出してあげるわね。それなら、いい?今日、サイモン王子がどんな様子か、ちょっと気になるし――」
[5]-城 厨房
〈昨日は猫の手も借りたいほどの忙しさでマーシーも次々と仕事を任せられたが、今日はいつも通り、また除け者にされてしまう。〉
マーシー「あの……」
〈じろっと見る初春組の先輩AとB。〉
マーシー「〈野菜を洗った後の汚れた水の桶を抱えて〉畑に
〈返事もしない初春組の先輩二人。マーシーがその場から離れると、顔を上げ、その後ろ姿を見送る。一緒に働いている、他の夏組新入り二人は黙々と作業している。〉
初春組 先輩A「ノエルの抜擢がしゃくにさわると、何かあの子までむかつくのよね」
初春組 先輩B「美化班が一人足りなくなったから、厨房班から一人回されることになりそうじゃない?〈夏組に〉あなた達、行きたい?」
夏組 二人「いえ。〈慌てて手を振る〉」
初春組 先輩A「そうよね。行くなら、厨房班に全くなじんでいないマーシーよね」
[6]-城 畑のそば
〈重い水の入った桶を抱えて歩いて来るマーシー。少し一休みする。〉
【マーシーの回想:昨夜 自分の部屋
〔仕事を終えて、疲れて帰ってくると、部屋はがらんとした様子。ノエルの姿はなく、ノエルの荷物もすでに運び出された後だった。〕】
マーシー「ノエルは夢の階段を着実に一歩一歩上っている。それに比べて、私は何だか階段を下りて行っているみたい……。〈頭をブンブンと振って〉だめだめ、弱気になっちゃ――」
【マーシーの回想:数日前 夜の厨房
ポリー『あの夜、刺客を間近で見ていたマーシーが試験を見に来てくれるなら、より心強いわ。当日、ぜひ一緒に協力してね』】
マーシー「ポリー様と一緒に大役を果たしたら、私もこの状況から抜け出せるかしら?でも、逆に間違った答えを言ってしまったら、ジュリアス様やポリー様の足を引っ張ることになってしまう。ノエルは勇気があるわね。何だか気が重いわ。ふう~」
サアムおじさん「何だ、若いもんが、朝からそんな大きなため息などついて」
マーシー「サアムおじさん!」
[7]ー城 サイモン王子の客室
〈ノックの音に扉を開ける従者レックス。〉
ミリアム「こんにちは」
従者レックス「これは、これは、ミリアム王子様。ポリー様もご一緒で」
ポリー「こんにちは。今、お忙しくありませんか?ミリアム王子にサイモン王子様のご機嫌伺いに行きたいとねだられて、連れてきてしまいました。お邪魔じゃありませんか?」
従者レックス「〈部屋の奥に向かって〉サイモン王子、ミリアム王子様がいらっしゃいましたよ」
サイモン王子「〈ソファに横たわりながら〉入ってもらって構わないよ」
ミリアム「わーい。こんにちは。〈嬉しそうに中に入る〉」
ポリー「〈扉のところからサイモン王子の様子を見ながら〉お加減が悪いわけではないですよね」
従者レックス「ええ。宴の余韻がまだちょっと残っていらっしゃるようで」
ポリー「ああ。そうなのですね〈くすっと笑う〉」
従者レックス「どうぞ、ポリー様もお入りください」
ポリー「いえ。私はこれから城下町に用事がありまして……。ミリアム王子の侍女に後ほど、こちらへ迎えに参るよう伝えます。宜しくお願い致します」
〈会釈して退くポリー。部屋の中ではミリアムが、サイモン王子の描いた絵を見つける。従者レックスは少し
ミリアム「〈キャンバスを指し〉これは、僕だよ!」
サイモン王子「すぐ分かったかい?〈ソファから立ち上がり、キャンバスの前に来て〉ミリアム王子の明るい笑顔を描きたくてね。では、最後の仕上げをするので、ここに座ってもらってもいいかな?」
ミリアム「はい。〈嬉しそうにモデルになり〉こんな上手に描けるサイモン王子様、凄いなあ。〈目をキラキラさせる〉」
サイモン王子「いやあ、それほどでも――」
〈ミリアムの言葉に照れながら絵筆を進めていくサイモン王子の姿。〉
[7]ーサイモン王子の客室前 廊下
〈廊下でポリーを追いかけるレックス。〉
従者レックス「ポリー様、ポリー様!」
ポリー「どうかされましたか?ミリアム王子一人を残すのは困りますか?」
従者レックス「いえ。今、王子様同士お二人で楽しく語らっていらっしゃいますので、そのことは大丈夫です」
ポリー「では――?」
従者レックス「あの、昨日の宴でのことが気になっておりまして。ポリー様なら、教えて頂けるかもと……」
[8]ー城の畑
〈畑に運んできた水を撒くマーシー。そばで作業をしているサアムおじさん。〉
サアムおじさん「〈畑の野菜を一つ採って〉どれ、この野菜を食べてみるといい」
マーシー「頂きます。〈感嘆して〉美味しい!」
サアムおじさん「じゃろう?ここまで水を運んだ甲斐があったな」
マーシー「今まで食べた中で一番美味しいです」
サアムおじさん「ははは。
マーシー「何てみずみずしい味!それでいて、ほのかな甘みもあって……。何か特別なことをされているのですか?」
サアムおじさん「知りたいか?」
マーシー「はい」
サアムおじさん「土じゃ」
マーシー「土ですか?」
サアムおじさん「野菜も人間と同じで根っこが大事だ。その根っこを支える土、つまり土に含まれる養分が、まあ、わしの特製肥料じゃ。それには手間暇かけておる」
マーシー「自家製の肥料ですか?」
サアムおじさん「特別に見せてやろう。一緒についてこい」
[9]ー城 サイモン王子の客室
〈スケッチブックと羽根ペンを貸してもらうミリアム王子。サイモン王子はミリアム王子の絵の仕上げに入り、ミリアム王子はサイモン王子の絵を描いてみる。〉
ミリアム「出来ました。サイモン王子様みたいに、まだ上手ではないですけれど……」
〈いかにも子どもらしい、あどけない絵を見せる。〉
従者レックス「いや、これは中々、特徴をとらえていますよ。サイモン王子様、いかがですか?」
サイモン王子「(頷き)これは良い記念になりました。王子を描いた絵は、お祖母様に手紙と共に届けたいので差し上げられないが······。代わりに何か渡すものがないだろうか。そうだ、レックス、ガラスボタンの箱を取ってくれ」
〈持ってくる従者レックス。蓋を開け、ミリアムに見せる。〉
ミリアム「わあ、凄い!綺麗ですね!」
サイモン王子「好きなものをどれでもどうぞ」
ミリアム「有難うございます。どうしようかな?迷っちゃう!」
〈楽しそうに選ぶミリアムを見て、微笑むサイモン王子とレックス。〉
[10]ー城 畑の方 サアムの家の裏
〈肥料の
サアムおじさん「どうだ?〈甕の蓋を取る〉」
マーシー「これは、かなり強烈な臭いです」
サアムおじさん「いい具合に発酵されておるじゃろう」
マーシー「この世話を一生懸命にされているのですね」
サアムおじさん「そうじゃ。子や孫のように慈しんでな。ははは。世話をしていると愛着が湧いてくるものよ。どれどれ、今日も元気にしておるのう」
[11]ー城 書架室
〈本を積み上げ静かに読書しているミレーネ姫。ドア越しにその様子を確認して、邪魔しないようにそっと離れるジュリアス。〉
[12]ー城下町 画廊マリオの裏庭
〈武術の練習に励むポリーとマリオの妹セナ。〉
セナ「今日は調子が良さそうですこと」
ポリー「はい!ミレーネ姫の目が良くなり、とても気分がいいんです!」
セナ「その時々の感情に武術が左右されるようでは、まだまだよ!」
ポリー「師匠、肝に銘じます!」
〈一段と激しく戦いの練習をする二人。〉
[13]-城の廊下
〈歩きながら楽しそうに話すサイモン王子とミリアム王子の姿。一緒に、従者レックス、ミリアム付きの侍女もいる。剣士ケインがまだ戻らぬので近衛副隊長ウォーレスも少し離れてついている。〉
サイモン王子(心の声)「〈城のあちらこちらに飾られている絵画を見ながら〉光だ……。光が窓からどう射すかを計算して、どの額縁も飾られている。あふれる光などない白の国では思いもよらぬが――。一枚一枚の絵に、適格な明るさと空間が与えられて絵がいっそう生き生きと輝きを放っている。何と素晴らしい……」
〈そこへミレーネ姫の一行が偶然、通りかかる。お付きの女官、ノエル、護衛が一緒にいる。サイモン王子側にいたウォーレスがノエルに気づく。〉
近衛副隊長ウォーレス(心の声)「ノエル……」
〈視線に気づき、目で会釈するノエル。〉
ミレーネ「サイモン王子様とミリアムが一緒にどちらへ?」
ミリアム「僕がお城の中を案内して、サイモン王子様に〈壁の絵を指し〉絵を見せてあげているところだよ。姉様、サイモン王子様はとっても絵が上手なんだ」
ミレーネ「そうですの?サイモン王子様、ミリアムはご案内がしっかり出来ていますかしら?」
〈姫の前で急に恥ずかしそうに戸惑い、口ごもってしまうサイモン王子。急いで横から従者レックスが助け舟を出す。〉
従者レックス「ミリアム王子様は、まだ、お小さいのに、有名な絵の場所をよく知っておられるので、先ほどから感心しています」
ミリアム付きの侍女「ミリアム様が絵を選ばれますと、次にサイモン王子様が一つ一つの絵について色々とお話をして下さいます。それがとても楽しくて、ミリアム様がとても喜んでいらっしゃいます」
ミレーネ「まあ、そうですの?ぜひ私も伺いたいわ」
サイモン王子「いえ、たいした話では……。〈また、口ごもる〉」
従者レックス「〈耳元で他には聞かれないように〉王子様、昨夜のことは
サイモン王子「〈小声で〉何?本当に心配ないのか?」
ミレーネ「どうかされましたか?」
サイモン王子「あっ、いえ――。〈安堵して微笑んで〉では、この絵につきまして、宜しければ、まず姫様からご存知のことをお話し頂けますか」
[14]-城下町 画廊マリオの裏庭
〈セナから武術の秘技を習っているポリー。〉
セナ「だいぶ形になってきたわ。本当に覚えが早いわね」
ポリー「〈少し激しく息をはーはー言いながら〉有難うございます」
ポリー(心の声)「これならばジュリアスも
[15]-城の中
〈壁の高いところに大きな絵が掲げられている。その下に皆が集まって見上げている。〉
ミレーネ「こちらは、画家の故郷の風景を描いたものです。この画家は、海沿いの街をこよなく愛し、何度も同じ場所を題材として選んでいます。淡い色使いも、彼の特徴と言えます」
従者レックス「〈サイモン王子の耳元で他には聞こえぬように〉姫様は昨日まで目を患っていたとは思えぬほど、絵に詳しい解説ですね」
サイモン王子「〈小声で〉確かに」
ミレーネ「白い灯台が故郷の風景画には必ずあり、彼の絵の象徴的な役割をし、また、そこに必ず画家のサインを入れることで知られています。〈絵を指差し〉あちらにも描かれています。後に、要望を受け、本物の灯台にも彼がサインをしたと聞いておりますわ」
〈皆が顔を見合わせ、ほおっと感嘆している様子。でも、ミリアム王子はちょっとつまらなそう。〉
ミリアム「今度はサイモン王子様の番ですよ!早く聞きたいな」
サイモン王子「有難う、ミリアム王子。私の話はちょっとした推測のお遊びなのですが……」
[16]-城下町 はずれ
〈馬で一人戻って来た剣士ケイン。〉
【ケインの回想:数日前
マリオの店で聞いた、なぜか心をざわつかせる‟カノンに捧ぐ”という曲。
従者レックス『隣がまたポリーさんのお母さんのお店とは……』】
剣士ケイン(心の声)「ポリーという娘や、その母が弾く曲に、なぜ、これほどまで心が乱れるのだ……。それに、あの『カノン』と呼ぶ声は……?」
〈少し考え込む剣士ケイン。〉
剣士ケイン「そう言えば、あの店は確かこの近く······」
#2へ続く
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